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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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第二章 初陣

 義勇隊の生徒たちはその後数日間を、壕掘りとバリケードの強化をしながら、ぴりぴりとした緊張の中で過ごした。
 その間に教導団側では、遺跡の再探索が開始された。遺跡内とは無線が通じにくいので詳細は不明だが、弾薬などの補給に行く生徒からの報告では、時間がかかってはいるものの大きな損害は出しておらず、探索を続けているとのことだった。
 また、哨戒や物資の輸送に当たっている生徒たちが、鏖殺寺院と思われる黒装束の人影に操られた蛮族の集団と交戦する事件も起きた。「蛮族の集団」と言っても、せいぜい十匹程度の小さな集団で、怪我人は出たものの物資には被害はなかった。しかし、面倒なことになった、と林は言った。
 「敵は小さな隊に分かれて、こっちの哨戒をかいくぐって浸透するつもりなんだろう。その黒い奴らは、おそらく二人ともレベルの高いローグの技能を身につけてる。こちらの動きを見ながら、洗脳した蛮族に指笛で指示を出して誘導してるんだろう。こういう見通しの悪い地形で部隊を小さく割られて潜伏されると、全容の把握が出来ん。作戦は立てにくいは、掃討が完了したかどうかの判断は難しいは、こちらが不利になる材料ばかりだ。防衛しなければならないポイントに戦力を集めていれば、とりあえず負けることはないだろうが……」
 現状の戦力では、樹海の全域をローラー作戦で索敵掃討することは不可能だと林は判断し、拠点の防衛と補給部隊の護衛に戦力を集中する作戦を変えることはなかった。

 そして、数日後の明け方、ついに鏖殺寺院の遺跡への攻勢が始まった。口火を切ったのは、何とか完成した防御陣地の向こうの樹海から投擲される火炎瓶だった。
 「敵襲ーッ!!」
 見張り台から響く声を聞いた、あるいは叩き起こされた義勇隊員たちと義勇隊付きの生徒たちは、装備を整え、遺跡の前へ向かった。
 「遠隔攻撃が出来る者は前へ! 火炎瓶がこちらに届く前に撃ち落とせ! それ以外の者はバリケード内で待機!」
 自らドラゴンアーツによる遠当てで火炎瓶を撃ち落しながら、林が指示する。義勇隊員たちはバリケードの中央部分で配置につき、その後ろにずらりと義勇隊付きの生徒たちが並ぶ。そんな中、個人的な研究用に蛮族の標本や生体を手に入れるために義勇隊に参加したエリス・カイパーベルト(えりす・かいぱーべると)は、パートナーの魔女アリス・ファムアルフート(ありす・ふぁむあるふーと)に指揮所になっている大型テントから折り畳みの椅子を運ばせ、それに座って本を読み始めた。
 「貴様ァ!!」
 義勇隊付きの松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、つかつかとエリスに歩み寄り、襟首を掴んで引き上げる。
 「な、何をするのじゃ」
 「エリス!」
 苦痛に顔を歪めてうろたえるエリスを助けようと、アリスが岩造の腕に手をかける。が、岩造のパートナーフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が、アリスに大剣型の光条兵器をつきつけた。
 「大人しくして下さいませ」
 アリスは息を飲んで動きを止める。
 「『何をするのじゃ』だと!? ここは戦場、戦う意思が無いことは、すなわち敵に味方することだ!!」
 岩造は容赦なく襟首を締め上げながら、エリスを怒鳴りつける。
 「あ、あの……」
 アリスは助けを求めて他の生徒たちを見回したが、軍規以前の二人の行動に、迎撃を始めた他の他校生たちの視線も冷たい。
 「さあ、戦え! そっちの魔女、お前もだ!」
 岩造はエリスを無理やりバリケードの上に押し上げた。
 「さっさとなさい、既に敵の攻撃は始まっているのですよ!」
 ジュリエット・デスリンクも、仕込み竹箒を抜いてアリスを脅す。
 「あの、あまり乱暴なことは……」
 ジュリエットのパートナー、シャンバラ人のジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)がジュリエットを止めようとするが、ジュリエットはジュスティーヌの頬をぴしゃりと平手で打った。
 「このようなふざけた恥知らず、このくらいの扱いでちょうど良いのですわ! 口を出すなら、あなたも軍規違反に問いますわよ!」
 「ジュリエット……」
 ジュスティーヌは涙を浮かべて頬を押さえ、引き下がる。実は、この二人のやりとりは、反乱を企む他校生が居れば、ジュスティーヌに対する同情を抱かせ、警戒を解かせる目的の芝居だったのだが、それを知っているのは、本人たちと妲己、そして水原ゆかりだけだった。
 「さっさとせんかぁっ!!」
 「死にたくなければ戦え! 戦わぬ者は、鏖殺寺院に殺される前に我らが殺す!」
 一方、岩造に怒鳴りつけられ、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)にも脅されて、エリスとアリスは半泣きになりながら、迎撃された火炎瓶から飛び散る炎を避けることも許されず、樹海に向かって火術を打ち込み始めた。