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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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 先ほどまで激しい戦闘が展開されていた場所、今は人もキメラも別の場所に移動して静かになったその場所に、二つの人影がやってきた。
(キメラの死体を採取しようと思って付いてきたけど、アレじゃ採取のしようがないねえ。どこかに毛とかくっついてたりしないものかね)
 シルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)が、辺りの様子をうかがいながら思案する。合成によって生み出された生物の特徴なのか、死んだキメラの身体はすぐに腐敗してしまうため、満足な採取が行えずにいた。
「フンフン……あの窪地がニオウネ! 行ってみるネ!」
 同じく辺りを散策していたエルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)が、何かを嗅ぎつけたような様子でシルエットに助言する。言われたとおりに向かったそこで二人は、土壁に残っていた毛らしきモノを見つけることができた。
「おっ、あったあった。エルゴ、成分解析できるかい?」
「お任せクダサーイ!」
 エルゴにピンセットでつまんだ毛を渡して、シルエットも採取を続ける。土壁には毛のほかにも、何かで引っ掻いたような跡が残されていた。
(この跡からすると、脚力は相当のものだね。引っかかれたら痛そうだ)
「終わりマシター! この毛は、この地方に生息するトラ、チキュウのとは違う種類のデスが、それであるようデース! 混じりッ気なしの100パーセント純粋デース!」
 エルゴの報告を耳にして、シルエットが思案に耽る。
(純粋ということは、それぞれの部位は独立してるってことになるのかね。だとすると繁殖ではなく、合成によるものだろうね。……まあ、あんなのが繁殖できるようになったら、大変なことになりそうだけど)
 窪地から出て、遠くで今も戦闘を続けている様を見遣りながら、シルエットがエルゴに告げる。
「さ、ボクたちはひとまずここを後にして、試料の細かな分析に入ろうか。それを元にレポートが作成できればなおよしだ」
「了解デース!」

 巨大キメラとの戦闘が開始されてから数時間、護衛するキメラのほとんどが姿を消し、残すは数体のキメラと、一体の巨大キメラのみとなった。
 それでも、巨大キメラの攻撃は一撃が甚大な被害をもたらし、苦戦な状態は未だ続いていた。
「シェイド、あの人たちを援護するよ!」
「分かりました、ミレイユ。あなたに続いて攻撃します」
 炎弾による熱波と豪風を受けて崩れかかっている集団を援護するべく、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が魔法の詠唱に入る。数瞬後放たれた火弾と雷撃が巨大キメラを撃ち、攻撃が一瞬止む。
「これであの人たちは大丈夫だよね。次は――」
「……! ミレイユ、危ない!」
 動きが止まったかに見えた巨大キメラだが、実際は攻撃の準備を整えていた。振り向いた直後に見舞った炎弾が、ミレイユたちが陣取っていた場所を焼け野原に変える。多少は前衛の者たちが受け止めるが、余波が後衛を含め全体を襲う。
「あっつ……凄い熱だね、シェイド――」
「…………」
 ミレイユの言葉に、シェイドは言葉を返すことができない。そこでミレイユは、自分がシェイドにかばわれていること、そしてシェイドの背中から白い煙が立ち上っていることに気がつく。
「シェイド! ワタシをかばって、怪我を――」
「……大丈夫です。この程度、なんとも……ううっ!」
 気勢を張るシェイドだが、巨大キメラが起こした振動に身体が震えた瞬間、呻き声をあげる。
「ダメだよ無理しちゃ! ほら、一度下がって治療してもらおう?」
「……はい、分かりました、ミレイユ……って、何を?」
 言ったシェイドは、自らの背中に回ったミレイユに首を傾げる。
「応急処置くらいしておこうと思って。した方がきっといいと思うから」
「ミレイユ……すみません、私が――」
「助けてもらったんだから、これくらい当然だよ。ちょっと痛いけど、我慢してね」
 処置を受けながら、シェイドが未だ戦闘の続く戦場の方角を見据える。

(こいつら、どうやって遺跡の場所を察知しているんだ? ……確かこいつら、魔法によって作り出されたとか言ってたな。とすると、遺跡にも魔術的な何かがあって、それに惹かれているとかなのか?)
 剣を振るいながら、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が生まれた疑問と格闘をしていた。まず四肢を狙い、その後胴体を狙うという、事前に検討した戦法は有効に機能していたが、疑問の方は簡単には答えが出ないように思われた。
「ええい、考えても仕方ない! まずは目の前の敵を倒す!」
 一匹のキメラが、多数の攻撃を受けて息絶える。残る敵は巨大キメラただ一匹。最後の力を振り絞って向かった一行は、キメラの炎弾に焦がされ、起こした振動に吹き飛ばされていく。
 シルバも一撃を見舞うが吹き飛ばされ、十数メートル後方で片膝をつく。
「くそっ、どんだけ硬いんだよ、アイツは! ……夏希、すまないがヒールを頼む」
「はい、分かりました。……癒しの力よ!」
 雨宮 夏希(あまみや・なつき)の掌から行使される癒しの力が、シルバに再び立ち向かう力を与える。他の者たちも同様に回復と支援を受け、再び立ち向かう準備を整えていく。
「っしゃ、行くぜー!」
 シルバが駆け出し、そして一行も駆け出す。そこにはウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)の姿もあった。
(フェリシアから受け取ったこの剣で、なんとしても止める!)
 光り輝く武器は、後方で彼を心配するフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)から引き抜いた代物。それを手に、ウェイルは炎をかいくぐり、巨大キメラの足元へ握りしめた武器を突き刺す。キメラが悲鳴をあげ、振り解こうと脚を激しく動かす。
「うおっ!? うおおおっ!?」
 振り落とされそうになりつつも、それでもウェイルは、武器を握った手を離そうとせず、より深く切っ先を突き入れる。
「おりゃあー! そこだーっ!」
 シルバがキメラの脚の付け根へ剣をつき立てれば、まるで空気が抜けていくように脚がだらりと下がり、ウェイルが地面に叩き付けられる。一本の脚を失った巨大キメラが体勢を崩し、二人の方へ倒れこむ。
「うおっ、危ねえ!!」
 慌てて飛び下がるシルバ、立ち上がったウェイルを、顔ほどもある巨大キメラの瞳が憎悪をむき出しにして見つめる。
「うおおおおーーー!!」
 その悪意を振り払って、渾身の力を込めて、ウェイルが武器を突き出す。それは巨大キメラの瞳を貫いて止まり、そして辺りは大きな振動と、盛大に巻き上がる砂埃に支配される。
「ウェイル! ウェイル!!」
 フェリシアの声が響くが、それでも返事は返ってこない。まさかと思ったその瞬間、砂埃の向こうからボロボロの姿ながら、足取りしっかりとしたウェイルが歩いてくる。
「ウェイル……! よかった、無事で……!」
 駆け寄ってきたフェリシアの温もりと香りを感じながら、ウェイルが振り返ったそこには、今まさに瞳を閉じ命絶えようとしている巨大キメラの姿があった。やがて急速に風化し、その姿が森に消えていくのを確認して、一行の間から歓声が湧き起こる。
「いよっしゃー! 俺たち、キメラから遺跡を護りきったぜー!」
「シルバ、お疲れさまです」
 喜びに打ち震えるシルバを、夏希が労う。その他様々な種族の者たちが、無事を確認し合い、喜びを分かち合っていた。
 
 しかし、その時は長くは続かなかった。
 大きな爆音が、そして振動が、遺跡の方から響いてきたのだ。
 
「うおっ!? な、何だ一体――」
「シルバ、あれを!」
 慌てふためくシルバへ、夏希が指差しで促す。次々と上空へと視線を向けた一行が捉えたのは、遥か彼方へ飛んでいく一つの影であった――。