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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

リアクション

 
 
 マシュ・ペトファイアは、石化して崩れて行く蛇を、呆然と見ていた。
「……何てこった……」
 まさか、剣ごと石化してしまうとは。
 石化の能力を有するものを探し続けて、やっと見付けた剣だったのに。
「…………参ったねえ」
 こんなことなら、先に奪っておくべきだったと思っても、後の祭りだ。
 もはや彼等に関わる理由は何ひとつなく、
「……仕方ない。撤収しますかねえ」
 マシュはじっと目を閉じて宙を仰いだ後、そう呟いた。
 次の機会には、必ず。そう心の中で付け足して。


 石化して砕けたモルダヴァイトの体内から、ウィング・ヴォルフリートが転がり出てきた。
「ウィング!!」
 ファティ達、パートナーの3人が走り寄り、抱き起こす。
「しっかり、しっかりして!!」
 アニムスとファティがヒールとキュアポイゾンを掛け続けると、やがてうっすら、ウィングの目が開いた。
「大丈夫か!? 悪魔になってねえか?」
「…………なっていませんよ…………」
 アンブレスの言葉に、何とかね、とウィングは呟く。
「ああ……でも……」
 失っていた記憶を取り戻しました、と、弱々しく呟いた。
 闇の力の影響を受けて、記憶が戻るなんて、どういう理屈なのだろうと思ったが、ひょっとしたら単に脳に衝撃を与えられたからなのかもしれないし、もっと別の事象が作用したのかもしれない。
「まだ少し、黙ってて。疲れたでしょ、少し眠った方がいいわ。
 あとはアンブレスが担いで行くから大丈夫。
とにかく、無事でよかった!」
 ファティの心底安心したような笑みに、心配かけました、と、ウィングは苦笑した。


「…………終わったねえ」
 ハルカの祖父、ジェイダイトが倒れ、彼に付き従っていたサルファが倒れ、『カゼ』も消滅して、モルダヴァイトも滅びた。
 悲しいものしかもたらさない戦いだった。
 どこかで捻じ曲げられた、運命の歯車。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、ふう、と息をついて、空を見上げる。
 何処で見ても空は、空だけは、同じようにきれいだ。
 違う生まれ方をしていたら、『カゼ』は『ヒ』達仲間と、皆と仲良くしたかっただろう。
 彼等を召喚したネフライトは、恨みの念だけを抱えていたけれど、きっとずっと、とても寂しかったのだ。
 彼の心を、癒してやりたかった。
「……来世では皆、仲良くね。
 この空をまた見られたらいいのに」
 ぽんぽん、と頭を優しく叩かれて、視線を下ろして振り返ると、パートナーの仁科 響(にしな・ひびき)が立っていた。
「響、怪我はないかい?」
 弥十郎が訊ねると、ありませんと答えて、響は
「無理をしなくていいですよ」
と言った。
「え?」
「今は泣いていいと言っているんです。僕の背中を貸してあげます」
 その人の前ではかっこつけていたい相手は今、ここには居ないのだから。
 そう言うと、弥十郎は驚いたように響を見つめた後、
「ありがとねえ」
と、苦笑するように礼を言って、表情を歪めた。



 ギシィ! と、足元を揺るがすような、貫くような音が響いた。
 遠く地鳴りが響き、地響きが伝わってくる。
「この島、砕けるんじゃないか!?」
 モルダヴァイトが、島の生命力のようなものを吸い上げて、島は島の命を失いつつあるのではないだろうか。
 直感でしかなかったが、危機感を抱いて、閃崎静麻は、
「皆、急いで飛空艇へ行け!」
と、仲間達へ避難を促した。
 こうなる可能性も考えなかったわけではなかった。
 一刻も早く、この島を脱出した方がいい。
 この場合、敵対していた相手だろうが味方だろうが関係はなかった。

 だが、飛空艇まで戻ってきて、静麻は重要な問題を思い出した。
「動力を失っただって!?」
 ヨハンセンの叫びにはっとする。
「しまった……」
 この飛空艇は、コハクの持つ”光珠”によって動いていたのだ。
 同じ”核”であるハルカの”アケイシアの種”もジェイダイトの持つ”核”も、全て失われ、今やこの飛空艇を動かす動力は存在しない。
「蓄積分じゃ、空京まではもたねえぞ!?」
「帰れない、のですか……?」
 レイナ・ライトフィードが青ざめる。
 ここで、セレスタインと運命を共にすることになるのだろうか?

「――大丈夫! ボクに任せて!」
 その時、カレン・クレスティアが叫んだ。
 飛空艇の脱出を見届け、もし逃げ遅れた人がいたら、その人を連れて帰ろうと思っていたカレンは、飛空艇がなくても、”渡し”のシステムで空京に戻ることができるのだ。
「皆、ボクかボクに掴まってる人に掴まって!」
 来る時は、あの装置に乗る人数しか一度に送れなかったが、帰りならそんなことは関係ない。
 何人だろうが戻った後装置から溢れようが、無理矢理戻ってしまえばいいのだ。
「大丈夫だよね? じゃあ、行くよ!」
 カレンは全員の手が繋がったことを確認して、額に手を触れた。



「……これは、驚いたね」
 場にそぐわないんじゃないかと突っ込みたくなる口調で、オリヴィエ博士は、眼前に広がる光景に、そう言った。
 ブルーズが、黒崎天音と博士を抱えて逃げられたことは、ほとんど奇跡と言ってよかった。
 半ば弾き飛ばされたと言ってもよかったかもしれないが。
 彼等の前、博士の家があったそこには、飛空艇が鎮座している。
 カレンは全員を”渡し”で転移させたのだが、誰かの手が飛空艇に触れていたのか、飛空艇ごと戻ってきたのだ。
 実際戻ってきた方も、自分達が飛空艇を持参してきたことを知って、無茶苦茶な話だと思ったが、迎えた方もたまったものではなかった。
「……折角掃除をしたのに」
 ブルーズが、潰された家を見て呟く。
「ご愁傷さま」
 まあ、皆無事に戻ってこれたみたいだし、よかったんじゃない。
 天音の言葉に、ブルーズは諦観の溜め息をついた。