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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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第19章 汝ら、不屈の者達よ


 ”渡し”によってセレスタインへ転移してきたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)と共に、蛇が封じられていた聖地ではなく、あちこちを空飛ぶ箒で飛び回っていた。

 島は、箒や小型飛空艇を使えば、外周を一周するのに2時間もかからない。
 カレンは島中を、絵本に載っている2人の騎士の痕跡を捜し回っているのだった。
「だって2人をよろしくって博士も言ってたし」
 カレンは、送り出される時のオリヴィエ博士の言葉を思い出す。
 あれはそのままそういう意味だったのだろうかとジュレールは首を傾げたが、特に異論があるわけでは無い。
 島は黒く蠢くもので覆われていて、村があったはずの場所も把握しづらく、その場所に到達できていないのか気付けていないのか、中々見付けられなかった。
 だが、やがて
「カレン、あそこ」
 と、ジュレールが指差した場所を見ると、そこだけ、微かに白く光っている場所があった。
「向かってみる!」
と、カレンは方向転換する。

 そこにあったのは墓だった。
 2つの墓が、並んでいる。
 たどり付いてみると、遠くから見た時に見えた光は、放たれていない。
 しかし、黒く穢れてしまったこの島で、ここだけが穢れていなかった。
「ここは……あの騎士達の?」
 名前は記されていなかったが、妙に確信できた。
「魂は……ここにはもう、無いのかな……? いるなら、出てきて、お願い……!」
 そんなのは、作り話だってわかっている。
 けれど、ずっと今も、この島を護り続けてるのだと絵本には書いてあった。
 だからこそ、この墓はこうして闇に埋もれていなかったということなのでないだろうか?
 ――そしてもしも魂が今も残されているのなら、「契約」をすることによって彼等を実体化させることもできるのではないだろうか。
 真摯な祈りが通じたのか、何か、気配が墓の前にわだかまるのを感じて、はっとした2人は顔を上げた。
「――私達を呼ぶのは、誰か」
 男女2人の、年老いたヴァルキリーだった。
 生涯をこの島で暮らし、最後まで封印を護って、そして天寿をまっとうしたのだろう。
「あなたが、ハウエルと、カチエル?」
「いかにも」
と、煙のようにぼんやりとした人物像が頷く。
「お願いがあるの! あなたたちが折角封印した蛇が、封印を解かれちゃって……!
 何か、私達に力を貸して!」
 しかしその言葉に、2人の騎士は顔を曇らせた。
「……我等は既に命が尽き、我等の使命は我等に繋がる者達に後を託した。
もはや我々にできることは何もない」
 ハウエルが、申し訳なさそうにそう言い、それを引き継ぐようにカチエルが
「しかし」
と言った。
「我々が、切り離された土地と共にシャンバラを離れる時、力場を崇める民、我々と運命を共にしてくれる者が後を追ってきてくれた。
 彼等は”核”を持っていたが、我々は、それを使わなかった。
 切り札とする為、それを用いて蛇を滅ぼせるか確信がなかった為、封印は、既に成されていた為だ。
 それを使えば、あの蛇を何とかすることも、できるかもしれない」
 ああ、とジュレは表情を曇らせた。
 その”核”がまさに、蛇の封印を解いたものなのだ。

「……シャンバラは、女王は、いかがお過ごしか」
 懐かしむように目を細めた騎士達の映像が儚く揺らぐ。
 シャンバラが滅びていなかったとしても、あれから5000年以上が経った今、彼等が仕えていた女王はもはや居ないに違いなかったが、死んで長い時が過ぎたことで、2人の意識は混濁しているのだろう。
 カレンはシャンバラの滅亡を伝えることはしなかった。
「我等は、誓いを忘れてはいない……。
 もしも女王が必要とした時は、必ず……もはや我々は無理でも、我等に繋がる者がきっと、女王の為に、駆け付ける」
 誰に対する言葉なのか、独り言なのか、そう言った騎士達の姿が薄れて行く。
「ま、待って!」
 カレンは叫んだが、それが最後の力だったのか、消えた騎士はどんなに願っても、再び現れることはなかった。



「じゃあ、俺もちょっと、『カゼ』んとこ行ってくるな!
 カッコ良く決めて女の子にモテモテになったらお前にも紹介してやるから、応援しろよ!」
 コハクにそう言い残して、鈴木 周(すずき・しゅう)とパートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は『カゼ』に向かって行った。
 ただ『カゼ』を倒すのではない。
 周は、『カゼ』を救ってやりたいと思った。
 『ミズ』がアズライアに救われたように、彼を解放してやりたいと思ったのだ。
 色々と許されないことはしたのだろう。
 因縁のある相手もいるのだろう、けれど、それら全てを、あの腕輪と共に叩き斬ると、そう決めた。

 小鳥遊美羽が、バーストダッシュで『カゼ』の至近距離に飛び込む。
 『カゼ』は、錫杖を構えて身構えようとしたが、美羽が構えもっているのが光条兵器だと知ると、大きく飛び退いた。
 振り払った剣は、『カゼ』の身体を払ったが、『カゼ』に負傷はつかない。
 美羽もまた、光条兵器の設定を、『カゼ』の腕輪にしていたのだ。
「今度は、必ず勝つわよ!」
 美羽が宣言し、『カゼ』は
「俺を倒しても、蛇は大陸に行く。
 多少時間を要するだけだ」
と言い放つ。
「そんなことにはなりませんよ」
 朱黎明が返した。
「蛇も、あなたも、ここで終わりです」

「――大体、あなたには一言言っておきたかったのよ」
 皮肉にも、ガーゴイルからの攻撃を受けたことによって何とか麻痺を解いた牧杜理緒は、荒鷲に爆炎破を放つテュティリアナを視界の端に捕らえながら、『カゼ』に言う。
「目的は『絶望』ですって? まだまだよね!
 どうせなら『希望』にしなきゃ。
 それが一番の罪だってパンドラも言ってたの、知らないの?」
「知らんな」
『カゼ』はあっさり言った。
「罪だの罰だのに興味はない」

 攻撃を仕掛けてきたガーゴイルを脳天から叩き割って、クルードは息を吐いた。
 ユニのヒールを受けながら、別のガーゴイルも切り捨てる。
 見渡せば、荒鷲は周達の方へ向かっていた。
「こいつは、あたしが相手する! 周くんは『カゼ』を!」
「悪ぃ! 頼むぜ!」
 レミに任せて、一旦は『カゼ』に向かった周だが、再び荒鷲が嘶きを上げ、その直線上にいたレミや、再び理緒が衝撃派を食らって金縛りにあってしまうのを見て
「しまった!」
と踵を返す。
 動けないレミにガーゴイルが食らいついて行くのを見て、背後から追い付いて、真っ二つに斬り捨てた。
「駄目だ、まず周りの奴等何とかしないと!」
 クルードや黎明、『カゼ』の付近にいた美羽は荒鷲の衝撃派を逃れたが、そこへ『カゼ』自身が、魔法を撃ってきた。
 サンダーブラストに類した、降り注ぐ雷の魔法だ。
「きゃあああっ!」
 雷撃を受けながらも、ちら、と、『カゼ』が蛇の方を確認した瞬間を、美羽は見逃さなかった。
「こっ……の――!!」
 怪我も、限界も、そんなのは無視だ。
 無理矢理、力を絞り出して、バーストダッシュで駆ける。
 はっと美羽に気付いた『カゼ』は、咄嗟に左手を守ろうとして――そこに、大きな隙ができた。

 攻撃は、同時だった。
 封印解凍を伴ったクルードの、一閃される剣と、黎明の光条兵器による銃弾。
 それは、ほんの少しの差で、クルードの方が早かった。
 鮮血が散らばり、錫杖が、『カゼ』の手を離れてがしゃんと落ちた。
 ぱん、と、その手首の腕輪が、破裂して消える。
 たちまち、『カゼ』の肌の色が抜けていった。
 しかし受けた負傷はそのまま、がはっと『カゼ』は血を吐いて跪く。
 黎明は、落ちた錫杖を拾い上げた。
「……あなたにも、名前があるのですか?」
 『カゼ』は、黎明を見上げ、笑みを浮かべた。
「……ヴォルチ」
 答えたのを最後に、事切れる。
 倒れた『カゼ』が、一陣の風となって消滅した。
「『カゼ』っ……!」
 理緒達と協力して荒鷲を倒した周は、その結末に唇を噛む。
 助けてやれなかったことが悔しかった。




「ついに最後の敵というやつか。
 私達が負ければ世界は滅びるかもしれない。
 さあ、世界を救う方法を手に入れて、長い旅をハッピーで終わらせよう。
 パラミタの未来のために! 種が芽吹く明日のために!」

 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が、仲間達へ決起の言葉を発した。
 最後の敵上等。世界滅亡の危機上等。
 それらを全て駆逐して、未来を手に入れてみせよう。
「皆有難う。来てくれて有難う。皆がいたからここまで来れた」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、泣きそうになりながら、ソードオブバジリスクを掲げる。
 気を取り直すように、微笑んだ。
「じゃ、ちょっと世界を救ってこよう☆」
「この命と未来を。皆に預ける」
 誰一人欠けることなくこの戦いから戻れるように、と祈りながら、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がライトブレードを掲げてそれに続いた。
「帰る時は、みんな一緒に、だ」
 パートナーのエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)に着せられたナース服で、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が。
「空京で救いを求める手を取った時から、我は騎士たるべくあろうと常に考えてきた……。
 だが、騎士であることをやめてでもいい。
 信頼して託して逝かれた方の為にも、遺された彼にこの世界の価値を見せる為にも、何を引き換えにしてでも、この一戦、この盾と剣にかけて、一歩も引く気はない!」
 これまでの道のりを思い出し、藍澤 黎(あいざわ・れい)が。
「生きましょう。全員で」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が静かに微笑む。
「秩序を守護する教導の獅子として、世界を救う一助とならん!」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が、力強く吠えた。
「エイエイッオ――!」
 それぞれの武器を掲げあい、最後にカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が叫んだ。


 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、周囲に展開する仲間達を1人でも多く援護する為に、ディフェンスシフトを展開した。
「守ります……1人でも多く!」
 盾を構え、蛇の正面に出る。
 矢面に立つことで、他の人達への攻撃を抑えられたらと思ったのだ。
 この蛇を相手に、どう戦ったらいいのか、正直解らない。
 だが、解るまで待っていてはくれないのだ。
 だから誰かが糸口を掴むまで、蛇の攻撃を引き受けようと。

 蛇の鱗は異常に固く、剣も銃弾も弾いてしまう。
「これでもくらえっ!」
 鱗は無理でも、腹部ならどうか。
 様子見で、どんな能力を持っているのか解らない蛇の攻撃を受けない為に、遠距離から撃ちこんだレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の銃弾は、やはり全て弾かれてしまった。
「やっぱり、目とか鼻とか口とか、その辺を狙わないと駄目っぽい!」
 しかし、頭をもたげた蛇の目鼻は、飛ぶ手段を持たないレキでは、狙いを定められない。
 ならば魔法だが。
「毒を持って毒を制すという言葉もあるが……
 この蛇にアシッドミストは効きそうにもないしのう」
 パートナーのミア・マハ(みあ・まは)が、あとは属性魔法か、と呟く。
「ただ黙って滅びを受け入れる程、我々は甘くないぞ。
 蛇は冬眠しておれ」


「どうも氷術系の魔法だと効くようだぜ!」
 同じように属性魔法を試していたアイン・ディスガスが、叫んだ。
 ダメージを与えられる、という様子ではないのだが、蛇が嫌がる様子を見せる。
 ぐわ、と蛇が大きく口を開けた。
 開けた口を、地上へ向ける。
 口の前で、黒い霧がわだかまった。
「瘴気かっ!?」
 ラルク・クローディスがはっとした。
 ゴバッと吐き出した、黒い瘴気の塊が、正面にいたロザリンドに叩き付けられる。
「うっ……!」
 酷い毒素を持った衝撃に、ロザリンドは膝を付き、すぐさま自らにヒールをかけて持ち直す。
 しかし、それは直接的な負傷ではないようで、吐き気と頭痛が収まらず、様子を見たハンス・ティーレマンが後方に下がらせて解毒の魔法を施した。
「ちっ、瘴気を吐きやがるのか! 厄介だな」
 ラルクが苦々しく吐き捨てる。
 しかも、脅威は蛇だけではなかったのだ。

 『カゼ』が放った使い魔の邪霊が、次々に漆黒の、有翼種のヴァルキリーの姿となる。
 それは『カゼ』がジェイダイトの護りの為に放ったものだったが、数が多く、好戦的で、ジェイダイトを狙う者以外にも向かってきた。
「もう! 邪魔しないでよ!」
 レキはそう言いながら銃を撃つが、不意に、くらりと目眩がして頭を押さえた。
「う、何……気持ち悪い……」
 口元を押さえながら、ミアを見ると、ミアは完全に倒れて意識を失っている。
「しっかりして下さい!」
 回復したロザリンドが走り寄り、2人を、半ば引きずるようにしてクレア達の所へ運んだ。
「瘴気にやられてしまっているようです。
 呼吸ができない程ではないですが、それでも漂っていますから……」
 そう言うハンスも、倒れるほどではないが、顔色が悪い。
「長引いては、状況は悪くなるばかりということか」
 クレアは眉を顰めた。