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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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「お守りを出せや、ハルカ」
 事ここに至り、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が最初にしたことは、ハルカのお守りに”禁猟区”を施すことだった。
 今がハルカの最大の危機とも言えたが、更に振りかかる危険があるなら、絶対に阻止する。
 そして、ここに来るまでに積み重ねてきた沢山の記憶を、ハルカに思い出して欲しかった。
 死を自覚したことで存在が揺らいでいるのなら、再びそれを忘れるくらい、もしくは、それを乗り越えられるほどの思いを抱くことができれば、再び存在を取り戻すことができるのではと考えたのだ。

 ヴァルキリー達を模った邪霊達は数が多く、ハルカ達にも迫ろうとしている。
 かけたばかりの”禁猟区”が発動して、目に見えない何かが翔一朗の頭を殴った。
「上等じゃあ! ハルカには触らせないけえ!」
 ハルカを護る、最終防衛ラインとして、翔一朗は一歩もそこを引かない構えだった。


 ハルカは実は、とても危ういバランスの上で、存在していたのだろう。
 死を自覚したことで、そのバランスが崩れ、今、消えてしまおうとしている。
 そんな状態のハルカを抱き締めて、高務 野々(たかつかさ・のの)ができることは、決まっていた。
「ハルカさん! あなたは今ここに、ちゃんと存在しているじゃないですか。
 約束のマスコットだって、まだ造っていないのですよ?」
 ハルカが自分を取り戻すまでずっと、話しかけ続けること。
 ハルカを護る。戦いによってではなく。



 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、ジェイダイトを元に戻し、ハルカの元に返してやれると信じていた。
 その為にもまずは、ジェイダイトの身柄の確保だ。
 じゃん、と小声で効果音を上げながら、側に来たパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)に気付き、
「今日は味方か敵か?」
と訊ねた。リリィはにっこりと笑う。
「んー、そうね、今日は味方な気分♪」

 一方で、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)ゲー・オルコット(げー・おるこっと)影野 陽太(かげの・ようた)は、ジェイダイト自身はともかくとして、彼の持つ”核”を奪取することを大前提と考えた。
 あれは、ハルカの命を使って創られたものだ。
 だからあれがハルカに戻れば、ハルカは助かるのではないか、と考えたのだ。
「……ハルカ。君のお祖父さんを倒してしまうかもしれません。
 俺を恨んでくれてもいいです。
 でも、勝手に消えては駄目ですよ」
 陽太は、呆然とするハルカに、そう言い残して、ジェイダイトに向かって行く。
 自身の存在感の曖昧さからか、不安からか、目の前に広がる光景からか、いつも笑顔でいたハルカの困惑した表情が頼りなく、陽太の胸を締め付けた。
 ジェイダイトは倒さなくてはいけないと思う。
 けれど、可能性に賭けたいと思う人がいるのなら、それは間違ってはいないと思うから、できれば、最後の手段としたいと思いながら、スナイパーライフルを握りしめた。

 次々と地面から吸い出され、ヴァルキリーの形に固まって行く邪霊達を前に、ソアは困り果てた。
 呑気に立っているジェイダイト自身に、戦闘能力はないように思えた。
 しかし、そこに到達するまでに、こんな障害が立ち塞がるなんて。
「近づけねえぜ、ご主人!」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、手詰まって、姿を隠していた光学迷彩を解く。
 ソアが邪霊達に光術を放ったが、邪霊達には視覚が無いのか、全く目くらましの効果にはならず、隙をつくことができなかった。
 けれど、諦めることは絶対にしたくない。
 ハルカを助ける為に、全力を尽くすのだ。
 ジェイダイトとハルカ。互いをとても好きだったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
 しかし悲しんでいる場合ではない。
 ジェイダイトの代わりに、自分がハルカをイルミンスールに連れていくのだと、そう決めた。
「私は約束したんです。ハルカさんに、イルミンスールを案内するって……!」


 同様に、ゲーもまた、敵からも味方からも姿を隠して、身を潜めて隙を覗っていた。
 しかし、どうやら邪霊達は、目や耳で敵の居場所を感じとっているわけではないようで、身動きが取れない。
 ソアの光術が効かなかったのも、そのせいだろう。
「こっちも手詰まりか……。
 だが、チャンスは必ずあるはず」
 ずっと彼を追いかけて、ここまで来た。
 思いがけず話が大きく、そして意外な展開になったが、世界をどうこうというのは、居合わせている他の面々に任せる。
 自分の目的は、ジェイダイトに追い付くこと。
 彼の持つ”核”を奪ったことで、彼に追い付いたことになると自分で決めた。
 ゲーは身を潜めたまま、じっとチャンスを待った。


 ハルカを護る為に葉月 アクア(はづき・あくあ)が使用したディテクトエビルには、反応がありすぎてあまり役には立たなかった。
 サルファだけでなく、邪霊達がハルカ達に襲いかかろうとする。
 ハルカだけに狙いを定めるサルファとは違い、邪霊達の方は、ジェイダイトのところへ行かそうとするのを阻むのが基本ではあるらしいが、無差別に近い。
 ”アケイシアの種”を奪おうと来るサルファから護る為に、葉月 ショウ(はづき・しょう)はハルカの側に留まる。

「ハルカちゃん」
 死を認めかけ、消えかけているハルカを留まらせる為に、神代 正義(かみしろ・まさよし)はハルカに言った。
「この戦いが終わったらすぐにヒーロー談議だからな! そこでヒーローである俺の活躍を見てろよ!」
 そう、まだハルカをヒーローにもしていない。
 彼女が、自分もなりたいと憧れるような、かっこいいヒーロー像を、見せてやらなくては。
 びし! と親指を立てて笑いかけると、正義は変身ポーズを取ってお面を被った。

「瞬着! パラミタ刑事・シャンバラン!」

 大神 愛(おおかみ・あい)は、サルファに向かって走り出すシャンバランについて行く前に、ハルカの頭を撫でた。
「大丈夫です。
 あなたの大好きな人達を、信じてあげてください。
 きっと、何とかしてくれますから……」


「レベッカ」
と、パラミアントに変身した五条 武(ごじょう・たける)が、ふと足を止めてレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)に言った。
「ハルカを頼むぜ。君なら良い姉貴分になれる」
「急にどうしたネ?」
 レベッカは顔を向け、不思議そうに問い返す。
 それには答えず、ふ、とパラミアントは笑った。
「……なあ、キマクに戻ったら、ハルカを連れてツーリングでもしねーか?
 ハルカの歓迎会でよ」
 そう言うと、レベッカの答えを待たず、パラミアントは走り出す。
 その背を見送って、ふん、とレベッカは笑った。
「それはいい考えネ!」


 サルファは、向かってくるシャンバランに気付いて対峙すると、いきなり蹴りを入れてきた。
「!!」
 警戒して受け流そうとしていたのに、防御が間に合わない。
 シャンバランはまともにくらって吹っ飛ばされた。
(踏み込みが早え!)
「正義さん!」
 愛が施そうとしていたパワーブレスも間に合わなかった。
 だが、それくらいのことで戦闘不能になるほどの負傷をしたりはしない。
 シャンバランはすかさず立ち上がる。

「正義なんてモンは分からねえ……だが、悪が何かはわかるッ!」
 その攻撃に紛れて死角をつき、パラミアントがドラゴンアーツでサルファの懐に飛び込んだ。
 ギラリと鬼眼でサルファを見据え、ブラインドナイブズによる、強烈な一撃をサルファの腹部に食らわす。
 サルファは、受けた衝撃に前屈するように揺れたが、吹き飛ばすには至らなかった。
「何っ!?」
 身を起こすより先に振り払った腕に、パラミアントは払い飛ばされる。
 脳を揺らすほどの一撃で、一瞬意識が飛んだ。
「何だ、あいつの体! 頑丈すぎるぜ!」
 殴った手応えが、まるで感じられなかった。
「接近戦は、不利です」
 パートナーのイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)がトミーガンを構える。
 あえて外す射撃をして、サルファの動きをとめようとした。

「こっちの邪魔者は引き受けるヨ!」
 レベッカは、サルファより先にこちらに向かう邪霊達を、アリシアから受け取った光条兵器の銃によるスプレーショットで一掃する。
「数が多いです……」
 負傷した仲間達をすぐさま回復すべく、レベッカの傍らで敵からの攻撃を避けつつ事態を見守る、パートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)の不安げな言葉に、
「この位、問題ないヨ!」
と言い放った。
 明智 ミツ子(あけち・みつこ)は、主に回復役のアリシアを中心とした、仲間達の回復に重点をおきつつ、レベッカの援護射撃をする。
 オーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)は、大量の敵に紛れて予測外の攻撃を受けないよう、常に周囲を警戒した。
「……ハルカはすごくかわいくテ、本当にいい子だヨ。
 絶対、幸せにしてみせるヨ。
 誰にも、誰にも邪魔はさせないヨ!」
 それが例え、実の祖父でも。
 ハルカを守り、”アケイシアの種”を守り抜く。
 レベッカは、決意と共に引き金を引いた。



 ハルカの側に留まっていた樹月 刀真(きづき・とうま)が歩み出そうとして、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が引き止めようとした。
「刀真待って。皆何とかしようとしてるから。だからまだ」
「もう充分待ちました」
 殺気立っている刀真に気付いて、月夜はよくない予感がし、引き止めたが、それもここまでだった。
 敵が多すぎて埒があかない。
 自分も、ジェイダイトに向かうべきと判断したのだ。
「ハルカ、あのおじいさんは偽者のようです。
 ちょっと追い払ってきますから、また一緒におじいさんを捜しましょう」
 ハルカは馬鹿ではない。こんな言葉でごまかされるとも思えなかったが、ハルカには辛いことになるかもしれなかったから、騙されてくれるといいと思った。
「そうじゃな。孫を嫌いなじじいなどおらんぞ」
 年老いた容貌の太上 老君(たいじょう・ろうくん)も、頷いて言う。
「偽者か……悪の怪人に操られているのじゃろう。
 心配せんでも、正義の味方が助けてくれよう。
 じいちゃんに会う為にも、死んではならんぞ」
 ハルカを力づけようと、励まして言った。
 刀真は、困惑したままのハルカに
「ここは危険なので、勝手にいなくなってはいけません。分かりましたね?」
 と言って頭を撫でる。
 まだ、撫でられる。
 間に合う内に、ジェイダイトの持つ”核”を奪ってこなくてはならなかった。
 太上老君はああ言っていたが、彼を救うなんて、生易しいことなど言っていられない。
 そんなことをして、手遅れになってしまっては元も子もない。
 この一瞬後に、ハルカは消えていなくなってしまうかもしれないのだ。
 ジェイダイトよりも、ハルカを助けることの方が、刀真にとっては遥かに大切だった。
「月夜、剣を」
 言われて、月夜は光条兵器の黒い剣を取り出して渡す。
「野々、翔一郎、月夜、ハルカを頼みます」
 言って、刀真も邪霊の群れに斬り込んだ。