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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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●百や二百の軍勢が何!? こっちには無限の想いがあるんだから!

「我らが王!」
   「我らが王!」
      「我らが王!」

 百の声が、大講堂に響き渡る。
 『黄昏の瞳』、そして『魔王』に身も心も捧げ、僕と成り果てた彼らに、個々の意思は存在しない。

「復活のため!」
   「復活のため!」
      「復活のため!」

 黒衣で身を覆い、表情をうかがい知ることのできない『黄昏の瞳』の忠実な信者。
 彼らに願いが、望みがあるとすれば、それはただ一つのみ。

「その者共を、糧にせん!」
   「その者共を、糧にせん!」
      「その者共を、糧にせん!」

 『魔王』の復活こそが、彼らの唯一の望みであり、願い。
 
 信者が発していた声が途切れる。
 訪れる静寂もつかの間、信者が懐に忍ばせていた守刀を抜く。鞘が地面に叩きつけられる音の中、信者は自らの手首に守刀を当て、ためらいもなく引く。
 それは彼らにとり、神聖なる儀式。身体を奮い起こさせ、同時に精神をひとところに落ち着かせ、ただ一つの目的のために邁進する。そんな力を持った紅い液体が、守刀を濡らしそして地面に滴り落ちる。
 
 今や彼らに、臆する敵はない。
 手にした守刀が紅で染まり、そして己の肉体が朽ち果てるまで、彼らは殺戮を続けるだろう――。

「おーおーおー、大量にいらっしゃいませ? こーりゃ俺達の人数でお相手すんの大変だわぁ〜♪」
 信者の様子を、腰に手を当てつつ眺めていたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、口の端を歪ませ不敵な笑みを浮かべる。そこには、数の不利を感じつつも、存分に力を振るえることへの期待、そして、俺たちならやれるという確信も込められているようであった。
 それは、ウィルネストが視線を向けた者たち、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)モップス・ベアー(もっぷす・べあー)セリシアサティナカヤノレライアにも共通して言えることであった。
 不安はある、しかし絶望はない。
 力に限りはあるかもしれないが、私たちが精霊を救い、事件を解決するんだという想いは無限大。
 ……そう告げているかのような瞳を、全員がたたえていた。
「ま、大変だけど不可能じゃないってな! つうわけで、とっとと片付けて学校戻って、祭を再開するぞ!」
 発した言葉にヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)シルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)が頷いたのを確認して、ウィルネストがカヤノに呼びかける。
「なぁ、カヤノ? ちこっとでいいんだけど力貸してくんね?」
「今度は何するつもり? ……ふーん、面白そうじゃない」
 ウィルネストに作戦を耳打ちされたカヤノが、同様に不敵な笑みを浮かべる。
「アレだけ俺らを煩わしてくれた氷結の精霊カヤノ様が、まさかもうヘバったなんて生温い事言わねーよな?」
「当たり前でしょ!? それに、ちょっとなんて言わせないわよ。……レラ!」
「ええ、カヤノ。制御はわたしに任せて」
 カヤノに呼びかけられたレライアが頷き、『アイシクルリング』の力を解放する。その魔力をカヤノが受け取れば、背丈が頭一つ分伸び、髪飾りが消え、代わりに背中に六対の氷輝く羽が浮かび上がる。
「あたしの本気で、あんたの作戦に乗ってあげるわ。で、まさか準備してないなんて生温いこと言わないわよね?」
「へっ、真似すんなっての! シルヴィ、準備オーケィ?」
「はいはーい、ずっと出番待ってましたですよー!」
 シルヴィットの賑やかな声が届く。
「じゃ行くわよ。……あんたたちなんて、せいぜいここで這いつくばってなさい!」
 ゆっくりと歩み寄る信者に吐き捨てて、カヤノが掌から氷種を生み出す。上空に運ばれると同時に魔力を注がれた氷種は、人の何倍もの氷塊に成長して信者に影を落とす。それをカヤノが打ち出すのと、シルヴィットの詠唱が紡がれるのはほぼ同時のこと。

「赤く赤く赤く 黄昏・夕闇・満月 満ちる魔の力借りて
 ……我が手に宿れ、猛き紅蓮! ファイアストーム!!」


 信者の先頭へ落ちようとする氷塊に炎の嵐が纏わりつき、無数のヒビを入れていく。
 間を置かず、ウィルネストの詠唱が響く。

「閃け紫電、轟け雷晄!
 疾く駆けその無慈悲な流れ持って、眼前の敵を打ち倒さん!
  いっくぜぇ、サンダーブラストぉ!!」


 ウィルネストの掌から駆け抜けた雷光が氷塊を貫き、氷塊は無数の炎を纏った氷片となって、大講堂全体に降り注いでいく。シルヴィットの炎熱魔法とウィルネストの電撃魔法で超々広範囲に拡張された氷の雨が、信者にダメージを与えていく。
 響く氷が壁にぶつかる音が戦闘開始の合図を告げる音色であるかのように、冒険者と信者が戦端を開いていく。

「綾乃、右だ、気をつけろ!」
 ヨヤの警告に志方 綾乃(しかた・あやの)が注意を向ければ、信者の一人が守刀に闇の気を纏わせ、詠唱のために隙を晒す魔法使いを撃ち抜かんとしていた。
「やらせませんよっ!」
 即座に綾乃が改良を施したトミーガンを構え、引き金を引く。ドラム弾倉から送り込まれた弾丸が火薬の力を受けて放たれ、信者を逆に撃ち抜く。地面に倒れ伏せる信者は、しかし再びゆらりと起き上がり近づいてくる。
 生物は、痛みを受け続けていればその内動けなくなる。精神が『死の恐怖』に怯え、動こうとしなくなる。
 逆に、精神が『死の恐怖』を克服し続ければ、肉体が組織として機能しなくなる限り動き続けられるとも言える。
 彼らの動きを止めるには、精神を断つほかない。ドラム弾倉を放棄し、箱型弾倉に切り替えた綾乃が、信者の頭部を狙ってトミーガンの引き金を引く。
「そんなに簡単に俺の前を通り抜けられると思うな……?」
 綾乃の前ではヨヤが、闘気のこもった拳を信者にぶつける。拳が当たった箇所から体温を奪われながらも、信者は動きを止めることなく守刀で応戦し、時に闇の気を放ってくる。
 新しい弾倉を装填した綾乃が、背後に一瞬だけ視線を向ける。地上に続く階段を背にしている一行は、全包囲される危険性はない。階段から別の敵が降りてくれば全包囲されることになるが、今のところその気配はない。
 そして、信者一人一人は、お世辞にも強いとは言えない。今の状態が続く限り、負ける、ということはない。
 ただ、倒した、と実感を与えさせない敵との戦いは、確実に一行の精神を摩耗させていく。相手はただ一つの目的のため、命すら惜しまない。対して冒険者は生物、疲労や怪我で容易に戦闘力を喪失する。
(……私には彼らの大切なものが理解出来ない。だけど彼らの思いは理解出来る。大切なもののためなら命を賭して戦える……)
 引き金を引き続ける綾乃にも、疲れは確実に来ている。闇の気を撃ち抜いた時の余波が身体を傷つけ、節々が痛みを訴えている。
(……でも、それがどうしたの? そんなの、私だって同じだから……)
 それでも綾乃は、引き金を引く手の力を緩めない。
 ――彼らには、負けない。

 信者が振り上げた守刀が、伸びてきた棒状のものに弾かれる。二撃目を胸元に受け、信者が地面に崩れ落ちる。
『セリシア、左から来るぞ!』
「はい、お姉様!」
 呼びかけるサティナの声に反応して、セリシアが元の長さに戻した松明を――周囲に木の枝や根などがなかったことから、せめてもの代わりに使っていた――振り向ける。松明を中心に巻き起こった風が、飛び込んできた信者を吹き飛ばす。
『やれやれ、こうも多くては骨が折れるの。……ま、我に骨などないのだがな』
「……お姉様、どこから指摘したものか困りますわ」
 一瞬だけ微笑みを浮かべて、セリシアが松明を操り、襲い来る信者を留めていく。だが、所詮は用途が異なる物、四度目の攻撃の後に戻した松明がぱきっ、と折れてしまう。
「あっ……」
 地面に落ちる松明が立てる音と、信者の一人が地面を蹴ってセリシアに斬りかかるのはほぼ同時のこと。魔法使いを背にしているセリシアは、片腕を斬撃の線に掲げ、折れた松明の欠片に風を集める。守刀がセリシアの腕を貫き、セリシアは腕を刺された痛みと、風で信者を吹き飛ばした時に抜けた守刀の痛みとを受ける。
『セリシア!』
「……お姉様の焦りになった声、いつ以来でしたかしら」
 無視出来ない痛覚を、それでも表情に出さずにセリシアが呟く。直後、温かな感覚が腕を包み、痛みが引いていくのをセリシアは感じる。
「セリシアさん、大丈夫ですか!?」
 ワンドを掲げて癒しの力を行使したルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)が、セリシアの身を案じる。
「セリシアちゃんにケガさせたの、あれだね!? これはお返しだよっ!」
 セリア・リンクス(せりあ・りんくす)の掲げたロッドに炎が集まり、それは体勢を整えかけていた信者を撃ち、再び行動不能にさせる。
「ええ、あなたのおかげで楽になったわ、ルーナさん。セリアさんもありがとう」
 二人に礼を述べたセリシアが、その二人が持つ魔法の杖を見て思い浮かんだような顔を浮かべる。次に言い淀むような仕草を見せて、最後に改まって口を開く。
「ルーナさん、セリアさん、少々よろしいですか?」
「? セリシアさん、何を――」
 ルーナの言葉が終わらない内に、セリシアが二つの杖に片方ずつの手で触れる。瞬間、『シルフィーリング』の輝きが強まり、同時に杖を包むように淡い緑色の光が現れる。
「わ、すごーい! セリシアちゃん、どうしたの?」
「私の力で、お二人の杖にリングの魔力を込めさせていただきました。……済みません、お二人を戦いに巻き込んでしまうかと思うと躊躇われたのですが――」
 申し訳なさそうに呟くセリシアを、ルーナとセリアが制する。
「いえ、ここまで来たからには、最後までセリシアさん達と一緒に戦うって決めてましたし。セリシアさんが私にくれた力、皆のために使わせてもらいますね」
「そうそう、皆で戻って、精霊祭の続きしよっ!」
「……ええ、そうですね」
 今度はちゃんとした笑顔を浮かべて、セリシアが頷く。

(よくよく考えたら、『黄昏の瞳』の人たちも同じ『人』なんだよね。多分この人たちにも信じて譲れないものがあるわけで、そのこと自体は悪いことじゃないわけで、でも確かに信仰は大切だけど、それを理由に他の人を傷付けるのは良くないわけだし……ぅあぁぁんっ。難しいことわかんないよっ)
 知り得た事実に悶々としていた立川 るる(たちかわ・るる)の頭上を通り越して、攻撃を受けて吹き飛ばされてきた信者が階段にもたれかかる。そのまま動かないのを確認して、るるが恐る恐る近づいていく。
「るるちゃん、どうするの? その人のことも助けるの?」
 傍についていたラピス・ラズリ(らぴす・らずり)に、るるが戸惑いながら言葉を発する。
「うーん、助けるっていうか、そりゃ、先にヒドイことしてきたのは向こうだけど、それで同じようにお返ししただけじゃ、先に進めないんじゃないかなって、ふと思っただけ」
 るるの癒しの力が、信者を包み込む。規則的に上下する胸を確認して、るるが一息つく。
「るるちゃんがいいと思うならそれでいいと思うよ。僕はるるちゃんを信じる」
 ラピスの言葉にうん、と頷いて、あ、でも、と続けてるるが言う。
「もしこの人が恩知らずにも襲ってきたりしたら、絶対るるのこと助けてね? さっきキメラから助けてあげたんだから」
「あ、うん。もちろん、何かあったら助けるけど……そこはちゃんとしてるんだね」
 ラピスが苦笑を浮かべて、るるを守るように周囲に警戒の視線を向ける。ちょうど階段を抑える形になったるるの目には、あちこちで激しい戦いが繰り広げられているのが一望できた。
(みんな、ケガしないでね)
 その『みんな』がどこまでを指すのか、本人にもよく分からないまま、るるが今は見えない、まだこの時間なら夜空に煌めいているであろう星に願うように、癒しの力を行使していく。

「あれ? モップス、どこー? もー、勝手にいなくなっちゃうなんてヒドイよー!」
 敵味方入り乱れての戦いの最中、モップスの姿を見失ったリンネが愚痴をこぼす。エリザベートやアーデルハイトほどの魔法使いならまだしも、まだまだ未熟なリンネ一人では、魔法を行使する前に制圧されてしまうだろう。現に、幾人かの信者が群がるように、リンネに守刀を向けていた。
「え、えっと……リンネちゃん先に行きたいんだけど……通してくれると嬉しいかな、あはは……」
 乾いた笑みを貼り付けるリンネに、信者の一人が手の代わりに守刀を差し出すのではなく振り上げる――。

「失せな。お前らみたいな物騒な連中じゃ、レディのエスコートは無理だ」

 直後、リンネと信者との間に影が潜り込んだかと思うと、次の瞬間には信者が炎に包まれながら吹き飛ばされる。
「大丈夫か? リンネちゃん」
 拳の一撃を見舞った出雲 竜牙(いずも・りょうが)が、振り返ってリンネを気遣う。
「た、助かったよ〜。ありがと、竜牙ちゃん!」
「ちゃ、ちゃんはないんじゃないか? やれやれ、調子が狂うな」
 ちゃん付けで呼ばれて反応に困る竜牙を、別の信者が狙いをつけて闇の気を放たんとする。しかし次の瞬間、滑り込むように現れたモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)の銃撃を受けて地面に崩れ落ちる。
「そっちは任せるぜ、モニカ。リンネちゃんには指一本触れさせないぜ!」
 言い放ち、竜牙が数を減らした信者の相手をする。一対多数は格闘主体の竜牙に分が悪くとも、一対一、二程度なら竜牙に分があった。拳を腹に受けて守刀を取り落とした信者が、強化を受けた蹴りをまともに食らって吹っ飛び、意識を失う。無謀にも飛び込んだ信者は、炎たぎる竜牙の蹴りで撃ち落とされ、炎に包まれながらやがて地面に崩折れる。
(遮蔽物のないこの空間は、銃使いには割と不利なのよね。……ま、盾ならここにあるんだけど)
 次々と飛び荒ぶ闇の気を避け、モニカが弾幕を張って信者をその場に足止めせんとする。臆さない信者は歩みを止めず、そのまま脚を撃ち抜かれて崩れ落ちるため、結果として同じことであった。
 だが、倒れ込んだ姿勢からなおも、信者は闇の気を放ち続ける。それをモニカは、腹を踏みつけて意識のないのを確認して、倒れる別の信者を蹴り上げ、闇の気の射線に飛び込ませる。身体で闇の気を受け止めた信者が、直撃を受けた箇所を焼けただれさせてピクリとも動かなくなっても、動じることなくモニカは射撃を続ける。
「ワラワラと湧いてきやがって! まとめて吹き飛んじまえ!」
「吹っ飛んじゃえー!」
 リンネから向かって右側で竜牙とモニカが行動する中、左側ではエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、それぞれバスタードソードと金砕棒を振り回して、近づいてくる信者を次々と打ち上げていた。
「エヴァルトもロートラウト殿も、豪快だが隙の多い一撃を……我がこうして援護しなければどうなっていたことか」
 一撃と一撃の合間に生じる隙に付け込もうとする信者は、デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)の電撃に阻まれ懐に飛び込むことが出来ない。
 そして、エヴァルトと信者との間に距離が空き、信者が闇の気による一斉攻撃を行おうとした矢先――。

「ダァーイ!」

 飛んできた『バスタードソード』に信者が吹き飛ばされ、剣は激しい音を立てて地面に突き刺さる。
 そして、剣を投げた当人であるエヴァルトが、ガッツポーズのまま高らかに宣言する――。

「狂気に抗し得るは、それ以上の狂気のみ!
 ならば俺は……バカになる!
  パラミタの闘うバカ代表として!!」


「うーん……言っていることは分かるんだけど、何か最近『冷静』って言葉がエヴァルトから抜け落ちてるような……ってもういない!?」
 エヴァルトの宣言に苦笑していたロートラウトは、隣にいたはずのエヴァルトが既にいないことに驚きの声をあげる。慌てて前方に視線を向ければ、信者の一人にジャイアントスイングを見舞っているエヴァルトがいた。

「人間ファイアストーム!! ダァーイ!」

 脚のロックを解除する際に爆炎で燃やした信者を、エヴァルトが信者の集団へ放る。それは例えるなら、ボウリングのピンに珠をノーバウンドでぶつけたように、信者がなぎ倒されていく。
「まだまだぁ! 俺の外道っぷりに涙しろ!!」
 倒され、起き上がろうとする信者の胸元を掴んで、エヴァルトが全身に強化を施し、信者を空中に放り投げる。次いで自らも飛び、空中で信者をキャッチし、逃れられないように身体をロックする。

「落涙落雷スパーク!! ダァーイ!」

 地面とエヴァルトの全身の板挟みを受けた信者が、身体を半分地面にめり込ませたまま動かなくなる。そして周りにいた信者は、エヴァルトと信者から発せられた電撃に身を震わせていた。
「……『イルミン主体なのに、こんなに武闘派なのはダメかい?』と言ってるのだが、どうだろうか?」
「あ〜、えっと、うん、いいと思うな。みんな頼りになるね! それに比べてモップスと来たら――」
「リンネ、ここにいたんだな。一人にしてごめんなんだな」
 皆のおかげで窮地を脱したリンネのところに、野球バットを手にしたモップスが戻ってくる。バットからは淡い緑色の光が浮かび上がっていた。
「モップス、どこに行ってたのー!」
「セリシアに、ボクのバットを強化してもらったんだな。これで敵の飛び道具も打ち返せるはずなんだな」
 モップスが言った矢先、まさに試してみるかとばかりに、信者の一人がモップスに狙いを定め、闇の気を放つ。
「そんな弾、ホームランにしてやるんだな!」
 モップスの瞳がキラリと輝き、そしてバットが唸りを上げて闇の気を捉え、『自らもろとも』飛んでいく。
「あー! ボクのバットがー!」
「……一瞬でも期待しちゃったリンネちゃんがバカだったよ〜」
 頭を抱えるモップスに溜息をついて、リンネが気を取り直して戦場を見渡す。
(早く行きたいところだけど、今無理してもダメなんだよね……ガマンだよガマン、リンネちゃん……! 大丈夫、何とかしたいって想いがあれば、きっと何とかなるんだよ!)
 一進一退の攻防が続けられる中、リンネたちの心に決して絶えない想いが燃え続けていた――。