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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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リアクション

(使い魔?)
 小型飛空艇に乗って、警備をしていた関谷 未憂(せきや・みゆう)は、ログハウス付近を飛ぶ使い魔のフクロウの姿に眉を顰めた。
「ネズミもいたよ。警備の人のじゃないよね。やっつける?」
 空飛ぶ箒に乗ってログハウス周辺をぐるぐる回っていたパートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)が未憂に尋ねる。
「いえ、報告に行ってくれる? 私は下りて周辺を探ってみるから」
「うん、気をつけてね」
 リンは箒を操って、ログハウスの方へと下りていく。
(使い魔は主とは離れたがらないはず。近くに主がいる可能性が高いわ)
 未憂は、地上に降りると空からは見えなかった場所――人が忍び込めそうな場所を探っていく。

「前より色々調べられそうね」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、魔女リーアの家の近くにある大木の中に潜んでいた。
 この辺りのことは百合園生より知っている。住んでいた場所だから。
 放ったネズミとフクロウも、主が側にいることからこの間よりも情報を掴んでくるだろう。
「そう、まだ機ではないわ。もう少し辛抱いたしましょう」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、メニエスの側でそう囁きかける。
 メニエスは黙って、頷いた。
 そこに、使い魔のネズミが戻ってくる。
「……特に決まってはいないみたいね。ガードは堅そうだけど。向うも警戒している状態では、私達だけじゃ厳しいわね」
 使い魔から報告を受けたメニエスがそう言い、ミストラルが静かに答える。
「機を窺えば、チャンスは訪れます」
「ここで何をしているのですか」
 直後、木の中に少女の声が響く。慎重に周囲を見回っていた未憂だ。
「有名な占い師さんに会いにきたのだけれど、先客がいるみたいだから順番を待っているだけよ」
 メニエスは咄嗟にそう答えた。
「……すみません、今日は私達とお約束がありますので、手が空くことはないと思います」
「そう、それは残念だわ」
 行って、メニエスはミストラルと共に、木の中から出る。
「それじゃ、出直すわ」
 何の感情も見せることもなく、メニエスは未憂に背を向ける。
 張り詰める緊張感。
 互いに、互いを強く警戒していたが、どちらも手を出すことはなく。
 メニエスはミストラルと共に、その場から離れていった。
 未憂は陽動の可能性も考え、追うことはしなかった。急いで、桜谷鈴子に報告をするためにログハウスへと戻る。

「分かりました。報告ありがとうございます。使い魔にそう細かな調査は無理とはいえ、カーテンは閉めておきましょうか。不審者との接触は危険ですから、引き続き十分注意してくださいね」
 ログハウスの中で、未憂とリンから報告を受けた鈴子はそう答えた。
「あと、分校の先輩や、分校長にも報告を入れたいのですが、どなたか行かれる方はいますか?」
「後ほど団員数人が向う予定です。この件についても連絡しておきますね」
「はい。よろしくお願いします」
 未憂は鈴子の返答に返事をして頭を下げた。
「それじゃ、次の子、どうぞ」
 魔女リーアが過去を聞きに訪れた、ニーナに声をかける。
「よろしくお願いいたします。何かお役に立てることを知っていれば良いのですが」
 ニーナは少し緊張しつつ、リーアに近づく。
 覚えているのは、自分は離宮にいたということ。
 鏖殺寺院と戦ったこと。6人の騎士の顔くらいはおぼろげに記憶にある。
 近づいたニーナの額に、リーアはそっと手を当てた。
「……あなたは、死亡したわけではなく、封印されていたのね」
「はい」
「女王直属の騎士ではなかったけれど、女王に仕えていた剣の花嫁ね。6人の騎士達のことはとても尊敬していたようよ。そして……カルロのことが好きだったみたい。でも、カルロはソフィアと恋仲だったから、あなたはとても苦しい思いをしていたのね」
「……はい」
 ニーナの中に、忘れていた記憶、感情が湧いていく。
「でも、恋をしていたというわけじゃなく……」
 ニーナの呟きに、リーアが頷く。
「純粋に憧れて、慕っていたのよね。上司だった彼を。そしてあなたは彼の元で6人の騎士達の関係を把握していた」
「はい……。ソフィア様とカルロ様が不仲になっていきました。マリザ様は元々ソフィア様と犬猿の仲で……。ファビオ様は危なっかしいお方で、だけれど私達にもとても優しくて誰からも好かれていました。ジュリオ様は6人の中で一番年上で、リーダーともいえる方でした」
 リーアに導かれるようにニーナが語っていく。
「私は?」
 と、その場にいたマリルが尋ねる。
「……予知能力をお持ちでした。離宮が制圧される未来を見たと仰られたのはマリル様です」
「私の過去を見る力ほどじゃない、曖昧な力だけど本当のことよ」
 ニーナそれからリーアの言葉に、マリルは少し驚きながら首を縦に振った。
「それから……ん……」
 ニーナが顔をしかめる。
「これ以上一気に思い出すと混乱してしまいそうね。ここまでにしましょう」
 リーアの言葉に従って、ニーナは礼を言い後方へと下がった。
 続いて、小さな女の子の姿をしたユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)と、ハーフフェアリーの男の子マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)が、リーアの元に向う。
「初めまして、リーア様、ユニコルノ・ディセッテと申します。眠っている間に消失したデータの中に有用な情報がないかと思い、お力をお借りしたく参りました」
 ユニコルノはリーアに深く頭を下げる。
「マユ、リーア様にご挨拶を」
 そして、隣に立つマユにも挨拶を促す。
「は、はじめまして……マユ、です。よ、よろしくおねがいします……」
 緊張した面持ちで、マユは挨拶をして頭を下げた。
「ん、よろしくね。2人共いい子だね。それじゃ年上の女の子の方から見ようか」
「はい、お願いいたします」
 ユニコルノが前に出る。
「ふむ……」
 リーアはユニコルノの額に手を当てて、記憶を探っていく。
「守護天使……プリーストの姿が見えるわ。一緒に戦場や各地を渡り歩いていたようね」
「そうですか……あ」
 一瞬、頭の中に綺麗な羽を生やした女性の姿が浮かび上がった。
 誰だろう、知らない――。だけど、知っている。遠い昔、知っていた人。
「あなたが守っていたその人は、沢山の人の命を救ったのよ。そして、あなたはその人の命を救ったの」
「は、い……」
 そこまではユニコルノの頭に浮かんではこない。
 ただ、なんだか理解しにくい、胸が締め付けられるような感覚を受けていた。
「それじゃ、次にマユちゃんだっけ、いらっしゃい」
「はい……」
 緊張してロボットのようになりながら、マユがリーアに近づく。
 リーアは手をマユの小さな額に当てて。
 記憶を探り、目を細めた。
「ここと同じくらいとても綺麗な村で、お友達と一緒に楽しく暮らしていたのね。ちょっと寂しがりやさんだったかな?」
「は、はい……」
「かくれんぼとっても得意だったよね。皆より高い所まで飛んで木の中によく隠れてた」
 リーアの言葉で楽しかった思い出が、マユの中に戻っていく。
「……カッコいいお兄ちゃんがいたようよ」
 しかし、この言葉を聞いた途端、マユの顔が曇る。
「おぼえて、います……」
 言った途端、マユの目から一筋、涙が落ちた。
「あ、ごめんごめん。でも、大好きな人のこと、忘れていたくないでしょ?」
 こくん、とマユは頷いた。
 マユの兄は鏖殺寺院の襲撃を受けた際、自分や他の子供達を逃がすために、犠牲となってしまった。
 兄達の死を直接見たわけではないけれど、兄と両親達が戻らなかったこで、もう会えなくなってしまったのだと、マユも理解していた。
「ありがとう……ごさいました」
 ちゃんと挨拶をして、頭を下げるとマユは急いで外に向っていく。
「お世話様でした」
 ユニコルノも礼を言い、マユの後を追うのだった。

 マユはログハウスから外に出ると、外でそれとなく警備をしていた呼雪を見つけ出し、駆け寄った。
「マユ?」
 走って、ぎゅっと呼雪の足にしがみ付く。
「もどりました」
 呼雪は姿は兄とは似ていないけれど、兄の面影を感じる大切な保護者だ。
「終わりました」
 ユニコルノも歩みより、呼雪に報告をする。
 そっと、呼雪はマユの頭を撫でた。
 呼雪は2人を池には行かせない。
 2人の過去が辛いものであった場合、思い出すことは彼等にとって必ずしも良いとは限らないから。
 自分自身にも辛い思い出があるからそう思えた。
「そろそろ、ごはんだそうです」
 マユは呼雪から離れると、淡い微笑みを見せた。
 2人の元気な姿に、リーアに任せたことは間違いではなかったと、呼雪はほっと息をついた。

「さーて、皆もご飯にしよ!」
 ミルディアが、ログハウスのキッチンを借りて作った作りたてのサンドイッチを持って、皆の集まる部屋へ現れた。
「紅茶は池の水を使って淹れたよ。頭すっきりしたくない人は、こっちの井戸水をどうぞ。この水も冷たくて美味しいよ」
 まずは家主のリーアに、続いて校長の桜井静香、白百合団団長の桜谷鈴子、子供達、協力者、百合園生に白百合団員にと配っていく。
「ありがと、いただくわね」
「ありがとう、ミルディアさん」
「いただきます。皆のお弁当のこと考えていなかったから助かります」
 リーア、静香、鈴子の礼の言葉にミルディアは笑顔で「うん」と返事をする。
 ミルディアが作ったのは、ハムとチーズとレタスのサンドイッチだ。
 シンプルだけど無農薬の有機野菜、安全で最高級の素材を選んだ。
「警備に出ている人の分がまだだから、まだまだ足りないね。材料沢山持ってきてよかった。残りは小分けして配るね」
「よろしくお願いします」
 ミルディアの言葉に、鈴子が軽く頭を下げる。
「うん、任せておいて下さい」
 部屋の中の人々にサンドイッチと飲み物を配り終えると、ミルディアは警備の人達の分を作るためにキッチンへと戻っていく。
「こちらも完成どす」
 キッチンでは時間をかけて料理を作っていた清良川 エリス(きよらかわ・えりす)が満足気な笑みを浮かべていた。
「お部屋の人達、サンドイッチだけじゃ足りないと思うからよろしくね」
「任せておくれやすー」
 エリスはパートナー達と共に、重箱を持って皆が集まっている部屋の方へと向っていく。
 ミルディアはキッチンに1人になった。
 外から百合園生達の声が響いてくるけれど、不安を感じずにはいられない。
「危険な組織かぁ……ちょっとだけ、怖いかも」
 今まで起きたこと、早河綾のことなどが脳裏を掠めて、軽くミルディアは身震いした。
 配り終えたら早く皆のところに戻って、皆と一緒にいようと思う。
 勿論、配りながら友人達にも無茶しないようにって言っておかないと、と。