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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

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第三章 学園祭は踊る


 時は暫し遡る。

 変熊の手から【シリウスの心】を盗み出したルークであったが、しかし、薔薇学生徒たちの捜索に、持ち出すことは諦めた。一旦、短剣は学内の隅にある、林の奥へと隠したのである。ルーク自身は、警備にあたっていた南臣光一郎に取り押さえられたが、再び短剣の行方はわからなくなってしまった。
 それを次に見つけ出したのは、単なる偶然という運命の悪戯であった。
「持ち物検査があるなんて、聞いてないわぁ〜」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は、そうぼやいた。
 彼女は、このところなにかと物騒だしと、ジェイダスとラドゥへ、手作りの短剣を護身用にプレゼントに来たのだ。
 一応男装はしているが、仕草もしゃべり方もまるきりいつも通りではある。
 ……しかしながら、入り口の荷物検査にひっかかり、短剣は二本とも没収されてしまったのだ。一応、高価なものであるし、帰る際に再び校門で返却されることになっているが……。
「せっかく、我ながら良い出来だわぁ、って思ってたのに……」
 ジェイダスには漆黒に美しい黒曜石の短刀、柄には瞳の色と同じガーネットを嵌め込んで刃と同じルーン文字の模様を加工細工した。一方ラドゥには魔力を高めるエリクシル原石の短刀、勿論柄には髪の色に似たアメシストをあしらった、美しいものだったのだ。
 見てくれさえすれば、絶対に気に入ってくれたはず! という自信があった分、アスカの落胆は並ではなかった。
「ったく、そこまであの校長様に渡したかったのかよ。理解できねえ…恩人っていうだけでそんな大切なのか?」
 蒼灯 鴉(そうひ・からす)が、やれやれと首を横に振る。
「また機会はあるさ」
 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、そう言って彼女を慰めるが、アスカは首を横に振ると、ポケットの中からガーネットの小さな輝石を取りだした。ジェイダスにあげる予定の短剣に使ったものと、ほぼ同じものだ。
「ね、ジェイダス様の瞳の色と、そっくりでしょう? さしあげたらきっと、喜んでくれたわぁ。……頭撫でてもらってお褒めの言葉を頂けたらもう嬉しすぎる〜!『美しい、さすがだなアスカ』とか言われちゃって! なんて、もうやだ私ったら〜〜〜!」
 つい想像(妄想?)が先走り、興奮にアスカは両手を振り回す。が。
「アスカ!そんなに振り回したらっ」
 その拍子に、手にしていたガーネットは見事な放物線を描いて飛んでいってしまった。
「あ、あー!」
「…あ〜言わんこっちゃない、しかし見事な飛距離だな」
 ルーツはそう言うと、飛んでいってしまった林の方角を見つめた。とくに催し物はないのか、そちらの方向には人影はない。アスカは顔色を変えて、そちらに走り出した。
「急いで探そう!」
「ハア…やっぱ探すのかよ」
 ルーツと鴉も、それについて行く。……しかしそこで彼らが見つけたのは、布にくるまれたまま隠されていた、本物の【シリウスの心】だったのである。
「わぁ……。柄とかは古くて汚いけど、すっごくお宝だって感じるんですけど」
 興奮を抑えきれずに、アスカは言う。
 こうなったら作戦変更だ。没収された短剣の代わりに、これをジェイダスのもとに持って行こう! 彼女はそう決意し、早速動こうとした……が。
「見つけたアルよー!!」
 三人の元に飛び込んで来たのは、ニヒルな笑みを浮かべた白茶のパンダ(もどき)の着ぐるみだ。
「烏龍様の啓示はいつも正しいアルよ。お宝は、こっちに寄越すアル!」
「どけ、マルクス! 此処は何としても御影殿に手柄を立てて頂かねば!」
 にやりと笑うマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)と、さらにその後にかけつけた豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)に、アスカは「な、なに??」と困惑しきっている。……まぁ、怪しいパンダもどきと、やる気に満ちあふれたどうみても猿という組み合わせは、なかなかのインパクトだ。
「さぁ、こちらに寄越すのじゃ」
 しかし、つい女好きの性が出て、秀吉は一瞬アスカに飛びかかるのを怯む。だが、マルクスはそうではない。この場合、彼が【シリウスの心】を見つけ出したのは、お宝に対する執着がぬきんでいたからとも言えなくもなく、そして、見つけたからには彼は当然自分の懐にちゃっかりいただくつもり満々であった。
「マルクス、待て!」
 マルクスを止めるために声をあげたのは、彼らの契約者である北条 御影(ほうじょう・みかげ)だ。
 彼としては、今回の事件を早急に収束させるために、短剣探しを続けていた。他校生を巻き込むことや、今後のタシガンとの関係に禍根を残すようなことはあってはならない。が、とりあえずなによりも今御影がしなければならないのは、自分の契約者たちの暴走を止め、それでいてかつ、アスカたちから【シリウスの心】を取り戻すことだった。
(殺すか…?はっ、この二人の前では無理か…仕方ねぇ逃げるか!)
 鴉はそう思い、アスカの手をとった。アスカも逃げることに異論は無いらしい。
「ちょ、そっちも待て!」
 話をきけ! と御影は怒鳴りたくなる。まったくどっちもこっちも!
「そうはいかないアルよ!」
「ここは拙者が!」
 マルクスと秀吉が、同時に飛びかかる。しかし。
「学園祭で騒ぎは起こしたくないな……一時の眠りに堕ちろ…【ヒプノシス】!」
 ルーツがそう言うなり、二匹……ではなく二人は、こみあげてきた睡魔にぐらりと身体を揺らし、そのままどうと地面に倒れてしまった。
「こんなことをして、動物愛護協会が黙ってねーアルよ〜……」
「む、無念……」
「待て!」
 距離があったせいもあり、御影は催眠にかかることはなかった。秀吉とマルクスを容赦なく踏み越えて、三人の後を追った。
「ハニー、頑張るねぇ」
 そんな様子に、高見の見物を決め込んで、フォンス・ノスフェラトゥ(ふぉんす・のすふぇらとぅ)は微笑んだ。
 一応は同行していたものの、学園祭にも盗難品にも興味が無いので、捜索に加わる気は皆無だ。ただ、先ほどからの悶着は、なかなかおもしろい。
 それにしても、とフォンスは思う。
 幾ら慌しいからといって、そうも簡単に校長室から物を持ち出せるとは思えないのだけれど。内通者がいたか、あるいは狂言ならばともかく……。
(お陰で退屈凌ぎには困らないけれどねぇ)
 フォンスはそう思いながら、とりあえず御影の後を追った。

 ……学園祭の校庭を、派手に走り回るという失策にかろうじてならずに済んだのは、薔薇学生たちの連携のたまものだった。
 黎や光一郎や凜といった、校内を見回りしていた生徒たちと、そして御影で包囲すると、「今日の演劇の小道具を返してくれ。校長の命令だ」と、彼らはアスカたちを説得した。勿論、抵抗を許さぬ空気ではあったが。
 もともとジェイダスへあげようと思っていたアスカだ。鴉はかなり不満げではあったが、説得に応じ、【シリウスの心】はようやく生徒たちの手に戻ってきた。


 しかし、問題は全て解決したわけではない。
 内通者はどこかにおり、そして、おそらくは舞台中に、その仲間が【シリウスの心】を狙ってくるであろうことには、変わりなかったのだ。