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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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ミッドナイトイーグル
 
 攻撃班を発艦させた旗艦。
「皆、頼んだぞ」
 ローザマリアのいない間の指揮を預かったウィルフレッドは、ミカヅキジマ寄りの後方へと艦を退避させる。
 また、旗艦にはマルコ・ヴィプサニオ・アグリッパ(まるこう゛ぃぷさにお・あぐりっぱ)がその補助役として残された。マルコはこれから、艦隊をエリュシオンの偵察ラインから護るため、巧みに針路を変更し所在を欺瞞し続けることになる。
 この他に、攻撃班と別働をとったのはルクレツィアであるが、ルクレツィアは軍港付近に潜伏している海の魔物を一手に引き受ける。メインの攻撃班以外の者たちも全く気を抜けない戦いである。
 
 
 エリュシオンの軍港は、コンロンの暗い内海に面しているのでその闇の影響を受けている。コンロンの月のいちばん暗い刻。勿論、このときを狙って攻撃は行われた。
 軍港が見えてくる。エリュシオンの領土……幾隻もの敵艦が港に入っている。軍港防御のための砲台も多数見受けられる。奇襲として成功させねばあれにやられるかもしれない。
 エリシュカがA小隊、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がB小隊の先頭に立ちダークビジョンによる先導を行った。高度を取り、接近していく。降下のタイミングは攻撃の直前だ……
 【C(チャーリー)小隊】指揮のローザマリア、「……今更言うべき事は何も無いわ」
 【B(ブラヴォー)小隊】指揮のジェンナーロ、「俺の曽祖父は、第二次世界大戦のタラント空襲の際に戦艦「リットリオ」に乗っていたんだ。あの時はイギリス海軍の空母が放った航空機によってタラント港内で為す術なく沈められちまったが、その意趣返しには最高の舞台じゃないか? 一隻残らず沈めちまおう!」
 【A(アルファ)小隊】指揮の霧島、「フヒヒ」
 各小隊足並み揃え海面スレスレに高度を下げる。そのときはとても静かであった。
 次の瞬間に、海面がぱぁっと明るくなる。上杉 菊(うえすぎ・きく)の用いた光術だ。敵艦は――木造船ではなく鋼鉄製の艦隊だ。一同は作戦に従い、船尾を中心に狙いを定める。なんだ、さっきの光は。そう帝国の警備兵は思っただろう。それからすぐ、彼らは港に爆発音が響くのを聴くことになる。
「反跳爆撃」。
 内海をミカヅキジマへ渡る際、海軍が訓練を積んできた攻撃法。幽霊船相手の実践ではばっちしであった。速度調整。敵艦手前。爆弾、投下……水切りの要領で水面を跳ねた爆弾は次々と、軍港に停泊する軍艦に激突した!
 フライパス。シセーラ・ジェルツァーニ(しせーら・じぇるつぁーに)機、テレジア・フェイテン(てれじあ・ふぇいてん)機は可燃物(油)の詰まった水ならぬ油風船を甲板上に投下。艦は激しく燃え上がった。
「あっ」
 砲弾。軍港の砲台が動いている。
「早いな……九十九。ハヅキ」
「よ、よし。任せて!」「リンクス……了解」
 ハヅキは六連ミサイルポッドでの応戦を試みる。砲台は破壊されていくが数は多い。九十九は囮になるような空戦軌道を描きつつ高速飛行する。砲弾が集中して撃ち込まれる。「うわぁこりゃ冗談じゃないよ……し、死ぬ」
 その他の各機は、火術、ミサイルなどのありったけの武器を撃ち込んだ。
 極めつけの武器は、
「対イコン用爆弾弓。鋼鉄製の艦であってもイコンの装甲を貫くこの一撃を受けて無事ではいられますまい。御方様」
「ええ、菊」
 ローザマリアと上杉 菊の機に備えられた対イコン用爆弾弓。これは現在のエリュシオン製の艦にも決定的な打撃を与えた。ジェンナーロは思う。「ローザ……あれほど、こういった局面で自分を顧みない奴を、俺は知らない。奴さんは己が全てと引き換えに海軍を……!」
「まだまだ燃え残っているようだなぁ……駄目出しだ。これでもトドメを、さしてやるぜ!」
 霧島はファイアストームをぶっ放そうと手のひらを大きく広げた。ワシワシ。「むっ。しまった、ついくせで。お、おお、何かあの感触が甦ってくる。フヒヒ」
「霧島ぁぁぁ」
「何。九十九? どうした」
 囮に飛んでいた九十九の機が煙を上げている。
「被弾したのか。ちっ。もう早く離脱しろ? できるか? ハヅキ、牽制に行けるか」
「リンクス……はっ」
 海面に飛沫が上がって飛び出してきた。海龍……か? 巨大な化け物だ。
 各機は迅速に各々の攻撃を終えるとフライパスし距離を取っている。霧島はトドメをくれようとして少々タイミングを外したのか。
「玖朔! エリシュカ、どうなっているの?! A小隊は……」
「ぅゅ。なんか煙に包まれて、見えない、……」
「エリシュカ!」
「ローザ。戻るのは無理だ。ここは……ぬわっ、こ、こっちにも化け物だ。ローザ、もっと高度を……」
「ジェンナーロ!」
 ジェンナーロ機が龍の吐く黒い煙のようなブレスの中に消えた。龍が三匹、四匹と海面から飛び出してくる。
 早めに高度をとったエシク、シセーラ、シンシア、ジョージ、テレジア、ローザマリア、菊らの機は龍の吐き出すもうもうとした黒煙を逃れ、脱した。
「エリシュカ! エリシュカ!」
 パートナーに呼びかけるが、応答はない。
「あっ、ジェンナーロ」
 ジェンナーロは一度黒煙に巻かれたがそれを切り抜けてきたようだ。
「無事なの!」
「うむ。しかし早く離れねば……奇襲は成功したが、やはり帝国。恐ろしい警備網だ」
「A小隊全員の姿が、見えない」
「うむ。……」
「ローザ、龍騎兵が近づいています」ダークビジョンを用いているエシクが告げる。追撃されてはまずい。生き残った全機は、急ぎ炎に包まれる軍港を離れた。
 
 
 教導団海軍は、エリュシオン軍港に駐屯する敵艦隊に大規模な損害を与えることに成功した。これにより、帝国のこの方面の艦隊は行動を取ることはできなくなり、火に見舞われた軍港も修復作業に時間を要することになる。
 このシャンバラ教導団によるエリュシオン軍港攻撃通称『ミッドナイトイーグル』は、帝国によるシャンバラへの宣戦布告後、シャンバラ側が帝国の領土に入ってもたらした初期の大きな打撃であったとし歴史に残るものとなった。
 また、エリュシオン軍港は多くの物資も集積していたため、この打撃は、コンロン内地に進めていた帝国軍にも影響をもたらすことになる。結果的には教導団にとって有利に事を運ばせることになったが……この奇襲は海軍の独断で行われたという見方もあり、処断されるか否かについても議論を呼ぶこととなるのである。(ミカヅキジマ沖に停泊した海軍が、到着した大型艦と合流後そのまま軍港を目指した際、ウィルフレッドは「心ならずも些か強引な手段を取ることになってしまった」とローザマリアに報告した際に、ローザマリアから「全責任は私が採る」との言質を得ている。)
 
 
 ウィルフレッドの指揮する艦では、マルコが攻撃を終えたパートナーのジェンナーロと連絡を取り無事帰還までを誘導し続けた。
「よくご無事で。ローザ」
「ええ。だけど」
「四機、足りませぬな」
「A小隊、全員を失ってしまうなんて。玖朔、……。九十九。ハヅキ。……エリシュカ。……いえ、だけど、あんたたちはきっと……」