リアクション
* * * 「早苗、今回はいつもと少しやり方を変えるわよ」 「了解です〜」 レイヴンTYPE―Cに搭乗している葛葉 杏は、実弾式の長距離射程スナイパーライフルを構える。 普段コームラントで戦闘する際には、弾をばら撒いたり、ワイヤーを使って戦っている。だが、反シャンバラ勢力であるF.R.A.Gがいる以上、あまり手の内を晒したくははない。 杏はあまりF.R.A.Gに好意的な印象は持っていない。そのため、今後敵対してしまう可能性も視野に入れている。 それ以上に、スナイパーライフルを使っているのは他の者達と同じく、流れ弾がF.R.A.Gに当たらないようにするためだ。 (杏さん、移動しますよ〜) 敵の数が多い。そのため、前線から距離をとる。 BMIのシンクロ率は20%を維持。レーダーの情報から、最も狙いやすい敵へとシステムを介して照準を合わせる。 「狙い……撃つ!」 サイコキネシスを上乗せし、弾丸を放つ。コックピットを狙い、確実に撃墜していく。実弾であることに加え、敵機の数が多いため無駄には出来ない。 (20%には身体も慣れてきたみたいね) 公開試運転のときに比べ機体に慣れ、情報に飲まれそうになることはない。杏の場合は元から大丈夫だったが、早苗は最初自分を見失いかけていた。 今は彼女も大丈夫である。早苗は早苗で、杏に知られないようにパイロットスーツの中に思い出の写真を入れておいた。 その存在は自分しか知らないため、それを元に自己を認識している。機体に慣れているとはいえ、そのときの精神状態が操縦に直接影響するため、二人とも決して油断はしない。 (自分は自分、イコンはイコン。境界を定め、同じ風を手を繋いで乗りこなすイメージで) 【ホークウィンド】の天司 御空は出撃前に白滝 奏音に言われたように、レイヴンとのシンクロ率を極力抑えるようにする。 (射線を合わせます……ロック) 捕捉するまではBMIによる感知に頼り、敵をロックするのは自分の感覚で行う。【ポーラスター】同様に、長距離射程スナイパーライフルを構え、トリガーを引いた。 (これは俺の戦争だ。俺が決めた戦いだ。依存しない、預けない。守りたいものがあるから、俺は俺の指で引鉄を引く!) 自分の戦う理由。それをしっかりと噛み締める。 それこそ、やろうと思えばイメージするだけで【ホークウィンド】は照準を合わせ、敵を撃ち抜いてくれるだろう。 だが、決してそうはしない。機体に「支配」されないように自分の意思をしっかりと持つ。 寺院のシュメッターリンクを狙い、一発一発慎重に狙いを定め、狙撃していく。 同じく、【ウィッチ】の茅野 茉莉も実弾式スナイパーライフルで遠距離射撃を行う。ただし、こちらは後衛の二機とは違い、固まっている敵機へ向かって乱射していた。 当然、そんなことをすればすぐに弾切れとなる。すると、スナイパーライフルを投げ捨て、急加速。 そのまま敵陣へと突っ込んでいき、実弾式機関銃で弾幕を張る。 一見すれば、敵を撹乱するために動いているようであるが、この時点で少し様子がおかしかった。 同じく、烏丸 勇輝のレイヴンTYPE―Eも、積極的に敵へと斬り込んでいった。赤い光を放つレイヴンのビームサーベルで敵機を薙いでいく。 速度は落とさず、敵機とすれ違い様に斬撃を繰り出している。 だが、本来勇輝と早紀にそこまでの錬度はない。いくら訓練を積んでいるとはいえ、海京決戦の時点で前線部隊には加われなかったくらいだ。 BMIのシンクロ率を他の機体より上げているからこそ反応速度が上がっている。 だからこそ、敵機関銃の射程に入っていても、ギリギリのところで回避することが出来ているのである。 前衛では、【コキュートス】が機動力を生かし、同じように敵陣を掻き乱している。 (シンクロ率10%。この状態なら問題なく操れますね) 公開試運転以降、シフ・リンクスクロウはBMIの訓練プログラムを受けてきた。 それだけでなく、より超能力を使いこなすために、超能力科の特義も受けている。 (いきますよ、ミネシア) 超能力がどの程度まで機体に反映出来るか、試してみる。 シュバルツ・フリーゲからの銃撃を回避する際、サイコキネシスで補助して一時的に速度を上げる。 急制動に関しては問題なし。 そこから今度はミラージュで機体を覆えるかやってみる。 さすがに、10%では機体の幻影を作り出せないようだ。 (少しずつ上げていきますよ) 15%に引き上げる。 機体操縦を行うミネシアの補助をサイコキネシスで行いながら、ビームライフルを放つ。そこへ後衛のTYPE―Cが狙撃し、敵機を撃墜していく。 敵が【コキュートス】を囲い込もうとしているのが、レーダーの反応から直接伝わってくる。 (一番近くの敵は……) 優先順位を決める。 そして、最優先の敵に向かってワイヤーを射出した。 それを避けようとするシュメッターリンクに対し、ワイヤーを操って敵機に巻きつける。そして、そこにサンダークラップによる電撃を乗せ、機体の制御系統を麻痺させた。 そのまま、敵機を振り回し、周囲のシュメッターリンクを薙ぎ払う。 (20%!) リミッターのかかっている20%まで引き上げる。 敵の機関銃からの銃撃を、シールドを展開することで軽減する。それだけではなく、先ほどのサンダークラップを上乗せし、磁場を発生させた。 金属を使用した実体弾であれば、シールドの手前で止まり無効化出来る。 さすがにその間、ワイヤーに電撃を流したり、サイコキネシスでブースターの加速補助を同時に行うことは出来ないが、やり方次第では覚醒を使わなくても十分に戦えることが判明した。 だが、そんな中で異変が起こった。 (烏丸さん、TYPE―Cの支援範囲から出過ぎています。もう少し小隊での連携を考えないと……って、烏丸さん、聞いてますか!?) テレパシーを行うが、応答がない。 耳障りなノイズのような音が聞こえた後、勇輝ではなく早紀の消え入りそうな声が伝わってきた。 (……は……なれ……て) |
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