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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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「ああ、この先にオベリスクがある」
 緋桜ケイは、そう答えた。
 オプシディアンたちがイルミンスールの森で狙う物、そして、わざわざそれにこの霧を使ったということから、緋桜ケイたちは七不思議での撲殺魔のことを思い出したのだった。
 その正体は、意識を持った武器の幽霊のような物が、単純に挨拶として人を叩いていただけであったのだが、意識が形を持つというところで、この霧と奇妙な共通点を感じる。まあ、本体とは別個体の存在を有するということでは、『地底迷宮』ミファのような魔道書も似たような存在なのかもしれないが。あるいは、フラワシとも繋がりがあるのかもしれないし、ないのかもしれない。いずれにしろ、そのときに現れたメイちゃんランちゃんコンちゃんたちの本体は、どうもこの先にあるオベリスクにあると緋桜ケイたちは睨んでいた。
 イコン博覧会でイコンたちを強奪したオプシディアンたちが、このイルミンスールの森に現れたとするのならば、今度はメイちゃんたちを狙ってではないかと推測できる。少なくとも、そうでないのであればそうではないという確証だけでもつかまないと、敵の意図は分からないままだ。
 イルミンスールの森を北東に進んだ場所に、そのオベリスクは建っていた。高さは二十メートルほど。全体が、茨の蔓に被われていて、ちょっと見ただけではただの巨木に見えなくもない。巨木の多いイルミンスールの森では、木々に隠れてしまってほとんど目立たないだろう。黒い金属のような物で作られた水晶型のその塔は、同じ物質をタイル状に敷き詰められた地面から静かにそびえ立っていた。
「うーん、今のところ変化もないし、誰もいないみたいだけれど……」
 深い霧の中につつまれたオベリスクに軽く手で触れながら、緋桜ケイがつぶやいた。オベリスクの表面は、霧で冷やされたのか、表面が微かに濡れていてひんやりと冷たい。
「この霧では、誰もいないとするのは早計だぞ。もっとよく周囲を探した方がよかろう」
 簡単に結論を出すものではないと、悠久ノカナタが注意した。
「少し、霧を焼き払いましょうか?」
 『地底迷宮』ミファが、二人に言った。
「誰?」
 そんな緋桜ケイたちの会話を耳にしたのか、霧の中から六つの人影が現れた。
「あなたたちこそ、誰ですか?」
 『地底迷宮』ミファに問われて、声の主が完全に霧の中から姿を現した。それは、三人の少女と古風な鎧を着けた騎士然とした男女であった。
「ここは聖地だ。用がないのであれば、立ち去るがいい」
 騎士の一人が、凜とした声で言った。その腰近くには、少女がピッタリとくっついている。
「あんたたちは誰だ。俺たちは、このオベリスクを調べに来たんだ。もしかすると、ここが狙われているかもしれないと思ってな。あるいは、メイちゃんたちが狙われているのかもしれないが……」
「私が?」
 緋桜ケイの言葉に、少女の一人が自分のことを指さして聞き返した。
「えっ、そなたがメイちゃんだと申すのか!?」
 ちょっと驚いたように悠久ノカナタが言った。こくりと少女がうなずく。
 だが、緋桜ケイたちが知っているメイちゃんたちは、メイスとランスと棍の姿をした意識ある武器だったはずだ。
「ええと、なんだか、いつの間にこんな姿になれるようになっちゃったんだけど……。霧のせいなのかなあ。ずいぶん吸い込んじゃったみたいだし。でも、マスターが戻ってきてくれたから、問題なしだよ」
 ちょっと戸惑いながら、ランちゃんが説明してくれた。
「そうだ、忘れてた」
 突然思い出したかのように言うと、コンちゃんがちょこまかと前に出てきた。
「初めまして」
 『地底迷宮』ミファに挨拶とともにお辞儀をして、そのまま頭突きをする。
「はうあ」
 いきなりのことで訳が分からないまま、よろよろとよろけた『地底迷宮』ミファが緋桜ケイの腕の中に倒れ込んで気を失った。
「ううむ、確かに本人のようだの」
 メイちゃんたち流の御挨拶に、悠久ノカナタが変に納得する。しかし、人間体でなかったら、今ごろ『地底迷宮』ミファは流血の大惨事であっただろう。
「この間も、御挨拶したんだけど、壊れちゃったんだよ。人じゃなかったみたい」
 てへっと、悪びれることもなくコンちゃんが言った。
「こら、いったい、どこでそんなことを覚えたんだ。すみません、うちの子たちが……」
 あわてて、騎士たちが緋桜ケイたちに謝る。
「いや、もう慣れたんで。それよりも、あなたたちは……」
 誰だと、緋桜ケイが聞きかけたとき、突然一条の光が走った。オベリスクの表面で、その光が弾けて小爆発が起きる。
「何だ!?」
 緋桜ケイたちが、即座に攻撃してきた相手を探した。
 空中に、幼女型の機晶姫が複数、ふわふわと浮かんでいるのが霧の垣間に見える。
「またか、しつこいことだ。来い!」
「はい!」
 騎士の一人が叫ぶと、メイちゃんの身体を複数の帯のような物が足許からすっぽりとつつみ込み、まるで中に何も入っていないかのように絞りあげて一本のメイスに変化させた。それが、スーッと空中を飛んで騎士の手の中に飛び込む。同様にして、ランちゃんとコンちゃんも、ランスと棍に姿を変え、それぞれのマスターの手に渡った。
 先の騎士が、間髪を入れず、メイスをふるって轟雷閃を放つ。
 宙を走った雷光が、狙い違わず空中の小型機晶姫を直撃して、爆散させた。飛び散った破片は、空中で霧に戻って消えた。
「何が襲ってきたのだ。オプシディアンの手の者か?」
 見たこともない機晶姫に、悠久ノカナタが戦闘態勢を取りつつ困惑した。仮にオプシディアンの手下、例えばメカ小ババ様のような物だとしても、なぜいきなり攻撃してきたのだろうか。用意周到な彼らにしては、タイミングが唐突すぎる。
 いや、それ以前に、襲ってきた敵は、霧でできた者たちだ。
 メイちゃんたちのマスターたちは、全員が敵を迎撃するために霧の中に飛び込んで姿を消してしまった。だが、ちゃんと戦い続けていることを証明するかのように、戦闘の音だけは霧の中から聞こえてくる。
 もしかすると、今繰り広げられた戦い自体が、過去に行われた戦いなのだろうか。だとしたら、何と何が戦っているのだろう。そして、その記憶の持ち主は誰なのか。メイちゃんたちだというのは、安直であろうか。
「ここまでアステロイドセルがやってくるということは、やはり、すべてはまだ生きているということかな」
 唐突に霧の中から声がして、緋桜ケイたちがそちらを振りむいた。
 地面に転がっていた大きな石の上に、青年が腰をおろしてくつろいでいた。戦いが始まっているというのに、なんとも場違いなことだ。
「ストゥ伯爵! やっぱり生きていたのか!」
 緋桜ケイが、青年を見て叫んだ。