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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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●ジャタの森

「悪徳こそが戦場の美徳、ってな。
 ……ま、このままイルミンスールの失態が続きゃ、その内自治権剥奪だの、何らかの事態を引き起こせる。そうすりゃ恐竜騎士団が混乱に乗じてイルミンスールに手を伸ばし、極光の琥珀を取り返せるって話だ!」
 『イカロス』に跨り、如月 和馬(きさらぎ・かずま)がザナドゥの悪魔と共に、契約者を待ち構える。自身を中心に、周りに十数の自分と同じ背丈の、翼を持つ魔族を従え、小隊を編成していた。

「いいか、敵は個々の能力で劣っている分、徒党を組んで各個撃破を狙ってくる。
 これに対抗するには、こっちも隊を組むんだ。一体の巨大魔族の下に十数の魔族を付けた隊をいくつも用意して、敵と戦え。
 バラバラな戦い方では孤立させられ、撃破される。敵と同じ対策を取れば、個々の能力で勝ってるこっちが負けることはねぇ」

 事前に、和馬が組織戦による対抗を提案した結果、イコンほどの大きさを誇る巨大魔族1に対し、人と同じ大きさの魔族十数(200/15=13から14)が付く、小隊が完成していた。魔族も契約者を脅威として認識していたこと、アルコリアのような協力者がいたことが、魔族にそのような対応を取らせる結果に至った。
 また和馬は、アルコリアが教えた対イコン戦術について、さらに補足を行った。巨大魔族は大岩や巨木を利用した攻撃を行うこと、魔術に長けた魔族は魔弾による攻撃よりは相手の動きを封じる攻撃を行うことの有用性を説く。
(さぁて、アーシラトが上手く話を付けてくっかだな。オレはここで、ヤツらと戦うだけだぜ)
 和馬が、ジャタの森の一部を見下げ、そして契約者と相対する――。

「皆さんも見てきましたでしょう? ジャタの森は今、危機に瀕しています。
 このまま何もせずにいれば、契約者と魔族との戦いで森が壊滅的な被害を受けるのは必至。そうなる前に対策を取るのは至極当然な話。
 ザナドゥに協力すると約束してくだされば、わたくしの方から四魔将の方々に報告差し上げ、今までと変わらぬ生活を送れるよう取り計らいます故」

 その頃、アーシラト・シュメール(あーしらと・しゅめーる)はジャタ族に接触を図り、ザナドゥに対し便宜を図るよう説得を行う。ジャタ族と一口に言っても様々であり、生活様式から物の考え方まで異なる。故に、シャンバラ寄りの態度を取る族も居れば、条件次第でザナドゥ寄りの態度を取る族もいるであろうと踏んだアーシラトの行動であったのだが――。

「見つけたぞ! おまえだな、悪いことを企んでいるのは!
 俺様の正義レーダーが火を噴いた! おまえは……ブッ倒す!!」

 森の中から木崎 光(きさき・こう)が飛び出し、振るった杖から雷を見舞う。雷はジャタ族を避け、死線を向けたアーシラトを直撃する。
「ああっ!!」
 雷に貫かれ、アーシラトが膝を折り、地面に伏せる。起き上がってこないのを確認して、ふぅ、と光が息を吐く。
「光! あれほど一人で先走るなと言っていただろう!
 それに確認もせず攻撃して! もしも人違いだったらどうするんだい?」
 そこへ、光に遅れる形になったラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)がやって来て、光に強い調子で尋ねる。いつもは光に振り回されがちなラデルのそんな姿に、光は見た目いつも通りに答える。
「俺様の中の正義が叫んだんだ、「あいつをやれ」ってな!」
「……またそれなのかい。そんな調子ではいつか取り返しの付かないことになるぞ。
 ここではいつ何が起こるか分からないんだからな」
 そう言いつつも、ラデルは光がそう易々とは聞き入れないであろうこと、もし『取り返しの付かないこと』が起きそうになったとしても、その時は自分が身を呈してでも光を守ることを思っていた。
 何故か。それは、彼が騎士で、男で、大人だから。
「……森が、教えてくれたんだよ。イルミンスールに害を与える存在が森に入り込んでる、ってな」
 そこに、ぽつり、と光の言葉が降りる。
 自分とザナドゥの魔族、どちらに味方するのか、森に尋ねたこと。イルミンスールとクリフォト、どちらの恵みを受けたいのか、森に問うたこと。
 その結果として、目の前の悪魔の存在を教えられ、自分はそれに従って攻撃したこと。
「……なるほど、確固たる理由はあったということか。
 では何故、正義などと口にしたんだ?」
 言葉を受けたラデルの発言に、光は不機嫌そうにそっぽを向いて答える。
「だって、俺様らしくないじゃん」
「……ふっ、そうか。確かに言われてみれば、光らしくないな」
 言いながら、ポンポン、とラデルが光の頭を軽く叩く。
「なっ、何しやがる!」
「そうそう、その調子だ。光はいつも通り、正義に従って行動すればいい」
「へっ、いちいち言われなくても、そうするつもりだぜ!
 正義レーダーの反応が多過ぎて、じっとしてられるかって!」
 上空を見据え、光が地を蹴って跳び、目標を定めやすい位置に陣取る。空を舞う魔族に向けて雷術を見舞う準備をする光を見上げ、ラデルが箒を取り出し跨り、宙に浮かぶ。
(……君は僕が守る。無論、二人無事に帰ることを諦めているわけじゃない。
 森も力を貸してくれているんだ、出来るはずさ)
 木々を突き抜け、空中へ飛び出したラデルの視界の先で、天空から生じた雷に魔族が撃たれる。一瞬姿勢を崩したものの直ぐに立ち直り、視界に入ったラデルを標的に定め、向かってくる。
(敵も隊を組んでいるなら、一体一体引き剥がすまで!)
 出来る限り派手な軌道を飛び、ラデルは魔族を孤立させ、仲間が迎撃しやすいようにしていく――。


(……俺達は、一度は敗れた。だが、まだ終わっていない)
 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が地に立つ。身体は決して万全ではない彼を奮い立たせているのは、彼の内で燃え盛る魂。
(絶望? まさか。こんな時だからこそ、笑うんだよ。
 負け惜しみ? 違うな。俺達が耐えたことに、意味はあった)

『――――!!』

 遥か上空から、アメイア・アマイアと数名の契約者を乗せたニーズヘッグの咆哮が反響する。
 先に飛び立っていったイコン部隊を追いかけて飛び去っていく一行を見届け、ヴァルが感謝の言葉を口にする。
「ニーズヘッグ、アメイア、よく来てくれた。この帝王、イルミンスールを代表して礼を言わせてもらおう」

『――――!!』

 ヴァルに応えようとの思いか、ニーズヘッグがもう一度咆哮を吐いて、そして小さくなっていく。
(俺もお前も、共に同じイルミンスールの仲間だ。
 行こう。俺達はまだ生きている。この魂が歩むことを止めない限り、俺達は負けない!)

 ヴァルの背中を見つめて、キリカ・キリルク(きりか・きりるく)がグッ、と手にした槍を握り締める。
(……もう、倒れた帝王を見るのは嫌だ。あの時やはり、傍を離れるべきではなかった。
 けれど、誰かの何かを守ろうと、結局己の身を傷つけて突き進むのが帝王。そんな帝王だから僕は……)
 ぶんぶん、と首を振って、その後に続く思いを打ち消す。
(今度は僕が、帝王の背中を守る)
 決意を新たにするキリカの横で、シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が銃の調整を終え、ホルダーに仕舞う。
 イグゼーベンもまた、ヴァル同様に傷ついてはいたが、武器の方は問題なかったし、本人もサバサバとしていた。
(確かに、負けは負けッス。負けていい戦いなんて、一つも無いのは分かってるッス。だけど、負けた事を引きずるくらいなら、するべきことをするッスよ。
 さぁ、皆無事に帰って、イルミンスールの食堂で祝勝会ッス!)

 それぞれなりに決意を固めた二人の背後で、神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)が視線をイルミンスールがある方角へ向け、心に呟く。
(我らが帝王は、この大変な時期に自らイルミンスールへ戻って来た。“責任”を教わり、そして責任を果たすという覚悟を抱いて。
 ……世界樹イルミンスールよ、お前も出来れば力を貸してやってくれ。あの未だ幼き子達に……)
 首を捻り視線を戻すと、笑みを浮かべたヴァルの顔が映った。その彼は振り返り、まるで森中に響かんばかりの声を発して契約者を鼓舞する。

「人は、負け続けるようには出来ていない。敗北を経験することで、人は必ず勝利を掴み取る事が出来る!
 ……だが、その為には一人一人の力を合わせる必要がある。この森で戦っている皆の力が必要なのだ。
 人だけではない、生きとし生ける全てのもの……それらが手を取り合うことで絆が生まれ、それは世界を変える大きな力になる!

 皆よ、今ある全ての力を使い……今度こそ、勝つぞ!」



 ヴァルの演説は、戦いを続ける契約者に再び戦う力を与える。
 その一方で、これまで死力を尽くして戦ってきた契約者の中には、このタイミングで現れる援軍に嫌悪感を抱く者もいた。

(あっちも何やら込み入っていたようだし、事情があって動けなかった奴はまあ、いいだろう。
 だがそれ以外の奴ら……あのデカブツと元龍騎士もそうだ、敵兵力が激減した所で今更援軍なんて、ハッキリ言って舐めてるとしか思えないよ)

 上空で響く咆哮、そして聞こえてくる戦闘音を耳にしながら、八神 誠一(やがみ・せいいち)が心に呟く。
 自分達は寡兵を以て、魔族の大軍と戦った。その結果魔族に森の突破を許した。この結果自体は認める他ない、だが寡兵で戦わなければならなかったのは自分達のせいか?
 答え(答えられる者がいればの話だが)は、ノーである。寡兵であることは彼らの責任ではない。軍組織であれば、危機感の欠如していた上層部ということになるだろう。イルミンスールは軍組織でない(生徒に命令を下して事を実行させる組織でない)以上、責任の所在が曖昧になるが、それでも問うとするならば、イルミンスールの校長であるエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)と、イルミンスールの生徒(の内、前線での戦いに参加しなかった者)ということになるだろう(あくまで可能性であり、明確に決定することはこの上なく困難であろうが)。
 その、本来ならば責められてもおかしくないはずの者たちが、まるで窮地の自分達を救う救世主のように振る舞っていること、しかもこれまで前線で戦っていた者たちがそれを認めている節があることが、誠一を不機嫌にさせていた。
 正直、ああいう連中と一緒に戦うのかと思うと、この上なく白ける。あいつら、最初から死に物狂いで前線で戦ってた人間を舐めてないか?

(……まぁ、いいさ。奴らにはせいぜい、囮になってもらうよ。
 こっちはこっちで、やることやるだけだ)

 こんなんじゃ先行きは暗いと思うが、所詮は他校の話と切り捨て、誠一は出撃の準備を進める。
 後方で頭抱えて震えてた連中なんかより、自分の傍には死地を共にした者たちがいる。彼らの方がずっと、作戦を行うに辺り確実性がある。
 その作戦は、前回とだいたい同じ。出現したクリフォトの分身を、今度は内部から破壊する。潰してダメなら燃やしてみろ、である。