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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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 五機編成へと変わった【アルマイン隊】を横目に、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)を迎え、四人乗りとなったことで本来の力を取り戻したリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)モップス・ベアー(もっぷす・べあー)の乗機、『魔王』も駆けつけてくれたイコンの旗頭となるべく、出撃の準備を進められていた。
(……この子も、アルマインもそうだけど、詳しいことを私たちは知らない。
 この子は私たちが魔族と戦うことを、どう思っているのかな……?)
 そう思ったリンネが、水晶に触れる。けれど『魔王』は、何も言葉を返さない。
「リンネさん、ここにいましたか」
 背後からの博季の声に、リンネが振り返って答える。
「博季くん。……ありがとうね、私と一緒に乗ってくれて」
「いえ、お礼はぜひ、僕を認めてくれたこの子に言ってあげて下さい。
 僕がリンネさんのために頑張るのは、当然のことですから」
「うん……でも、やっぱり私のためにしてくれることは嬉しいし、ありがとう、って思うから。
 博季くん、もう一度、一緒に頑張ろうね!」
「リンネさん……はいっ!」
 博季が返事をしたところで、モップスと幽綺子も乗り込んでくる。
「出撃準備が完了したんだな。いつでも出られるんだな」
「お義兄様とマリアベルちゃんの方は、引き続き私に任せて。
 リンネちゃんとモップスくんは、目の前の戦闘に集中して頂戴」
 それぞれが配置につき、水晶に手が触れられると、まるで目覚めるように『魔王』が起動し、前方の視界が映し出される。
(さぁ、魔王……僕の力でよければ、いくらでもくれてやる。
 だから、リンネさんの……彼女の力になってやってくれ。森を、動物たちを、彼らやイナテミスを守るために。
 ……僕らの望む、未来を掴むために)
(ふふ、調子はいいみたい。これなら大丈夫、心配いらないわね。
 可愛い義弟と義妹のため……私の魔力でよければ、いくらでも使いなさい)
(二人がいてくれて、良かったんだな。ボクも安心して、リンネを任せられるんだな)
 博季、幽綺子、モップス、三人の思いが篭った魔力が、魔王に力を満たしていく。

「リンネちゃん、いっくよー!」

 今やイコン基地として機能を拡充させていた『飛空艇発着場』を最後に飛び立った『魔王』は、再び戦場へと向かっていく――。


「ふははははー! 慣れてきた、慣れてきたぞー!
 今のわらわならこやつを……うむ! 7割くらいの出力で動かせるぞ?」
 『ベリアドール』の操縦桿を握るマリアベル・ネクロノミコン(まりあべる・ねくろのみこん)がどうだ、と言わんばかりに胸を張り――。
「ええいうるさいうるさい! それだけピーキーな調整になっておったんじゃ!
 この短時間でここまで慣れたのも、ひとえにわらわの力があってこそ――」
「ええいじゃかあしいわい! 何をぴーぴー騒いどるかっ、少しは落ち着け!」
 何かに必死に言い訳するように喚くマリアベルを、コード・エクイテス(こーど・えくいてす)が宥め、そして言葉をかける。
「いいか! リンネも博季も幽綺子も、あっちで必死に戦ってる!
 俺様たちはサポートだけでもせにゃならん! そのためにゃ、お前の力がいる!
 俺様たちで、あいつらを助けてやらにゃならんのだ!」
 言葉をかけられたマリアベルは、うぅむ、と唸り声を残して沈黙する。
「……そう、じゃな。博季とその嫁……ついでに幽綺子も……護衛してやらねばな」
 ぽつり、と言葉を漏らして、マリアベルが表情を引き締め、再び操縦桿を握る。
「先に言っとくがの、獅子奮迅の活躍を期待されても困るぞ!」
「安心しろ、そこまで期待はしていない」
「むむー! おぬしにそう言われると無性に腹立たしいのぅ!」
「どっちなんだよ! ……はぁ、一体何をしに来たんだろうな、俺様は……」

(あらあら……随分と大変そうだけど、でも……動きはいいわね)
 二人の会話を耳に留めた幽綺子が、近くを飛ぶベリアドールの状態を確認する。出力が抑えられたことで安定した軌道、戦闘時間の延長を獲得し、元々の機動力を生かした一撃離脱戦法で、戦闘に貢献していた。

「ファイア・イクス・アロー!!」

 そして『魔王』も、炎の矢『ファイア・イクス・アロー』と炎の剣『ファイア・イクス・ソード』を使い分け、距離を問わない戦いを展開していた。

(リンネさんのことは、僕が全力で護ります。
 だからリンネさんは、戦いに思いっきり集中して下さい!)
 リンネの背中を見つめ、博季が心に想いを込め、『魔王』に魔力を提供する。それに応えるように『魔王』の反応速度が上がり、技の速度、威力が増していく――。


 Cモードに設定されたマジックカノンを構え、峰谷 恵(みねたに・けい)の搭乗するイコン、『SAY−CE』が目前の編隊に魔弾を放つ。射程外からの攻撃に魔族側は避けることしか出来ず、しかもうかつに近付けば直撃の確率が上がるとあって、積極的な行動を取れずにいた。
「直撃しなくても、勢いを削げれば十分……。戦ってるのはボクたちだけじゃないんだ」
 敵との距離を適切に測り、突っ込み過ぎないよう、冷静な戦闘を心がけようとする。恵の言う通り、この場で、そして別の場所で、守るべきもののため、あるいは様々な理由で、戦っている仲間がいる。
(ちょっと悔しいけど……エリザベートちゃんは任せるよ、神代さん)
 校長室に今も居るであろうエリザベートのことを思いつつ、今は余計なことを考えず迎撃に当たろうと決める恵。
『汝の兄の名を受けたイコンを駆るのなら、目的を忘れるな、我が読み手。
 殺害ではない、兄を失った汝のような者が出る事態を“終わらせる”為に引鉄を引くのだ』
『グライスの通りだ、恵。目的は殺すのではなく、殺させないこと、そうだろう?』
 書として、魔鎧として恵に装備される形のグライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)レスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)が恵に忠告の意味を含んだ助言を与え、恵が殺意に振り回される状況を防ぐ。恵の、『SAY−CE』の“変化”は他のイコン乗りに『意思の力によるイコンの“進化”の可能性』を知らせることとなったが、恵の場合はデメリットが大きいこともあり、なるべく変化が起きないように努めていた。
「うん、大丈夫。……ボクに出来ることを確実にやる。今はそれだけだよ」
 二人の言葉に答えるように呟き、恵がカノンの発射を促す。『SAY−CE』は求めに応えカノンを発射し、他のイコンが攻撃を加えて手薄になっていた所に魔弾を命中させ、敵の耐久力を減じていく。
「こちら、当機はショットでの敵牽制をメインに行います。小型の魔族対応はお任せ下さい、首級はお譲りいたします」
 エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)が、同じくイコンで出撃している仲間や、それらを統括する立場に位置している『魔王』との通信を担当する。その甲斐もあって、恵の所属する小隊は四機編成(というよりは、二機ずつの編成)ながら、その四倍近くある魔族の編隊に劣ることない戦闘を繰り広げていた。
「恵、巨大魔族を中心に敵が距離を詰めてきます」
「ボクの方でも確認したよ。エーファ、中心のイコンクラスの敵にあれ、やろう」
 恵が指すあれとは、マジックソードを媒介にした天よりの電撃を降り注がせる技である。中心を行くイコンサイズの敵に上手く見舞えれば、周りの魔族にも被害を与えられる。
「了解しました。機体制御を一時的に恵から私の方へ移行します」
 エーファが機体制御を担い、そして恵はグライスの魔力増幅効果を受け、引き抜かせたソードを天に放る。
「裁け雷!」
 発せられた魔力が天に届き、そして天からソードへ、轟雷が走る。真上からの攻撃をまともに受けた巨大魔族がぐらつき、周りに散らばる電撃を魔族も受け、何体かは高度を下げる。


「革命的魔法少女レッドスター☆えりりん参上!
 この赤旗にかけて、帝国主義者の野望には屈しないわよ!」


 箒にまたがり、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が空飛ぶ魔族と相対する。『空戦の基本は敵の背後を取る』に従い、エリスが機動力を生かして魔族の背後を取ろうとする。魔族もそう簡単に背後を取らせはしないとばかりに奮闘するが、いくら人間大サイズとはいえ大型種、小回りの点ではエリスに不覚を取り、一瞬の隙を突かれて背後を取られる。
「ドッグファイトは、一瞬のチャンスをモノにした方が勝つって決まってるのよ!」
 エリスの放った電撃が魔族の翼を貫き、煙を上げながら魔族が落下していく。ふぅ、と一息吐いて、エリスは魔族が離発着を行う場所――クリフォトの分身――を一瞥する。
「樹がそのまま離発着場なんて、まとめて焼き払える分都合はいいかもしれないけど、そこに到達するまでが大変よね」
 空を飛ぶ敵を最も狙いやすいのは当然、着陸している時。戦闘機だって爆撃機だって、飛行場に足を着けている間はほぼ完全に無防備。だからこそエリスは、敵が着陸している間に爆撃――シューティングスター――を見舞おうとしていたが、その飛行場がクリフォトとあっては、実行するにも苦労がいる。言ってしまえば、敵の本拠地と飛行場が一緒のようなものだからである。
(現実世界じゃそんなこと、あり得ないわよね。
 ……世界で思い出したけど)
 消耗した肉体と精神を落ち着けている間、エリスは物思いに耽る。発端は、アーデルハイトが呟いた言葉。
(『どんな世界を望む……か。誰でも望めるわけではないというに』って、超ババ様は呟いた。
 ……違うわね。理想の世界は誰にでも望めるわ。望むだけなら、ね。もちろん、望んだ通りの世界になるかどうかは、運と実力次第だけど)
 確かに、望むだけなら人は世界の覇者にも、宇宙の支配者にもなれる。そして人は、そうした望みを叶える為に努力し、実際に望みを叶えてきたし、望みとは違うものでも、現世、後世に有用なものを生み出してきた。
(平民から大統領になって世界を動かす人だっているんだから、決して不可能ではないわ。……あの人間離れした超ババ様でさえ諦めるほどの世界って、どんな世界なのかしらね。この戦いが終わったら、改めてちゃんと聞いてみたいわね)
 その為には、この戦いに決着をつけないといけない。それも、自分たちの勝利という決着を。

「はーい☆ 頑張ってるみんなを慰問に来たわよー♪ たまには一息つくのもいーもんですよー★」
 上空ではエリスがドッグファイトを繰り広げている、その真下ではアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が戦闘で疲労した精神を癒す存在であろうとしていた。
「……ハッ! エリスちゃんからとーっても冷たい視線を感じちゃう!
 もー、「何バカなこと言ってんのよ、実年齢がバレるわよ」とか突っ込んでよ、エリスちゃんのいけずー!」
 ツッコミ不在故、アスカが一人ツッコミでその場をやり過ごす。確かに言い回しにどことなく古臭さを感じなくもないが、それでも彼女がさんぜん……おっと誰か来たようだ。
「ちくしょう、どうして俺がこんな所で留守番してなきゃなんねぇ? 俺だって箒に乗って魔法、で十分戦力になんだろが」
 ぶつぶつ、と文句を言いながらカイン・クランツ(かいん・くらんつ)が現れる。『イリス』に乗った如月 玲奈(きさらぎ・れいな)イリス・ラーヴェイン(いりす・らーう゛ぇいん)に『カインがいるとイリスが嫌がるから、離れて戦って』と言われた挙句、それでも嫌がると見るや、『地上で出来ることしてて』と言われてしまい、今に至るのであった。その玲奈は、装着したイリスと共に槍を振るい、仲間やイコンと共に魔族とよく戦っていた。
「あらあら、何だかお怒りの様子。それじゃもっと怒って、魔族に鬱憤を晴らしちゃいましょー☆」
「おおぉぉぉ……! 何だか燃えてきたぜー! 待ってろよ、俺が役立たずじゃねぇってこと、分からせてやる!」
 アスカの歌によって怒りの感情を高められたカインが、その感情を魔族へぶつけるべく前線へと飛び出していく。箒に乗り、火術を中心に時折爆炎を織り交ぜて戦う様は、彼が魔鎧職人であることを忘れるような戦いぶりであった。
「キィル、大丈夫か!?」
「ああ、このくらいどうってことないぜ! ……だけど、敵も相当のカタさだよな。オレと駿真が合わせて魔法を撃ったって、アイツらビクともしやがらねぇ」
 今度は、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)キィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)のペアが、一旦戦線を離脱して態勢を整えに降りてくる。個体差に優のある魔族は、魔法への抵抗力も相当のものであり、二人の魔法を合わせてもなかなか有効打を与えられずにいた。
「ふんふん、魔法が効き辛くて困ってるわけね。
 それじゃーアスカちゃんとっておきの歌で、魔族を魔法に弱くしてあげちゃうよっ♪」
 アスカの、恐れを感じさせる歌によって、魔族の魔法に対する抵抗力が減じられていく。魔族もやはり生物である以上、何かに対する恐怖・畏怖(歌の場合は後者に属するだろうか)は持ち合わせているのだった。
「よし、早速試してみるか! キィル、行けるか?」
「おうよ! 今度こそオレの炎で燃やし尽くしてやるぜ!」
 意気込んだキィルを後ろに乗せ、駿真は箒で飛び立つ。他の契約者を魔弾で狙おうとしていた魔族へ、駿真が光の弾を、キィルが炎の弾を放てば、先程は動じなかった魔族が悲鳴のような声を上げ、直撃を受けた箇所を痛がるような素振りを見せる。
「お、効いてるぞ!」
「駿真、この調子で行こうぜ!」
 確かな手応えを感じた二人が、空戦を続ける。
「さてと、今の内にお色直し、っと……」
 そしてアスカは、精神を回復させるルージュでお色直しをして、次のステージに備える――。