波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

リアクション

(あれだけ居た魔族が一瞬にして消滅……そして、新たなクリフォトの出現……。
 これは推測でしかないけど、森に血が流れ、穢れがクリフォトを呼ぶきっかけになったとするなら、その穢れを少しでも浄められれば……)

 起きた事象を基にそのような結論を導き出した関谷 未憂(せきや・みゆう)は、リン・リーファ(りん・りーふぁ)プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)と共に、クリフォトの活動を弱める策を講じる。まずはそれぞれが身に着けていた『ブライトリング』をクリフォトを中心に、三角形の形に配置する。これは三人が一緒に行動していること、敵の地上部隊がまだ出現していないことから、比較的スムーズに進めることが出来た。
「問題はここからだよねー。さて、どこが一番危なそうかなー」
 一回り巡った記憶を頼りに、リンが思案する。未憂の考案した策、六芒星(またの名を籠目、魔除けの効果があるとされている)配置による穢れの浄化の為には、三人が三角形上にバラバラの位置につかねばならない。いつ魔族の攻撃が来るとも分からない中、危険が伴うものであった。
「今の主戦場はだいたいこの辺り……ちょうど一辺の奥側になるわね」
「じゃあ、あたしとみゆうで一辺の両端を担当かなー。プリムは残りの一点をお願いー」
「……うん。がんばる」
 プリムが、そして未憂がリンの言葉に頷き、リンがアンクレットの力を発動させ、一行が素早く動けるようにする。未憂とプリム、リンに分かれまずは飛び、途中でプリムと分かれ、未憂は目的地を目指す。
(ここだわ。……近くに魔族の気配は……ないわね)
 目的の場所に降り立ち、『白い導きの書』を手に、準備を整える。
『ついたよー。始めちゃっていいかな?』
『……うん。いつでもどうぞ』
 そして、三人がそれぞれ、『白い導きの書』『イルミンスールの杖』『ブライトリング』を媒体に、神聖の力、冷気の力で六芒星の内側を満たしていく。それは途方もなく、多大な疲労を要するであろう作業だが、三人に臆する様子はなく、ただ事をやり遂げようとする意思に満ちていた。

 ――惜しむらくは、彼女たちのような思考を持つ者が少数で、大半の者は『クリフォトを破壊する』という方向に動こうとしていることだろうか。
 無論、そう思うことが悪いのではない。全ては、魔族の侵攻がそう思わせたのだ。


(そうだ、私たちはチャンスを得たのだ。この地から魔族たちを退ける為の、たった一度の機会を。
 それを、みすみす無駄にして堪るか。私たちの力でこの地から魔族を退け、希望の光となるんだ)

 『ソーサルナイト』に搭乗し、前回同様【アルマイン隊】として(明確にはされなかったが、彼が実質隊のリーダー扱いであった)行動する涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が、心に不退転の意思を抱く。
(今は敵の地上部隊は確認できない。だがいつ出現するか分からない。その為にはなるべく早い段階で、クリフォトを叩く必要がある)
 魔族からクリフォト上空の制空権を奪還・維持することも、もちろん大切だ。しかし、その過程に時間を費やせば、敵が増援を準備する手筈を整えてしまうかもしれない。よって無理のない段階を経て、クリフォトに直接攻撃を与えられるようにしなくては、と涼介は思い至る。
「エイボン、アリア。仲間の機体、および地上部隊との連絡は任せるぞ。
 相手も対イコン戦闘の術を身につけていると報告があった。警戒は、しておく必要があるだろう」
「はい、兄さま。一機たりとも見逃しませんわ」
「任せてよ。リアルタイムでしっかりと連絡飛ばしちゃうよ」
 涼介の指示を受け、機体内部左方に位置するエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が魔道レーダーを注視し、必要に応じて指示を出せるように控える。ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)は現在の状況を的確にまとめ、必要のあった時に連絡を入れられるようにする。
「クレアは遠距離武器の管制を頼む。分かっているとは思うが、無駄打ちは控えるんだぞ」
「大丈夫だよ、おにぃちゃん。百発百中目指して頑張るよ!」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が意気込み、今回の装備であるマジックカノン、およびイコン用のまじかるステッキ管制を請け負う。
(……あの時感じたよ、ソーサルナイトの本当の力を。
 イルミンスールとジャタの森に平穏を取り戻すため、私たちが希望の光になって、照らしてあげようね)
 心に想いを抱いて、照準に収まった魔族へ、クレアが射撃を見舞う――。


(アルマイン一機増えた所で今更結果は変わらない、とか言うでしょうけど……そうね、私が考えなしだったのは認めるわ。
 でも、これで分かったことがある。自分が何をしたいのか、自分に何が出来るのか、それこそを考えるべきだったってね!)

 ギュイイィィン、とかき鳴らされるギターに応え、須藤 雷華(すとう・らいか)の搭乗する『トールマック』がCモードに設定されたマジックカノンを巨大魔族へ向けて放つ。向こうも生成した魔弾で応え、両者はちょうど真ん中辺りでぶつかって相殺される。
「カノンじゃ有効打を与えられないか……ならやっぱり、これしかないわね。
 メトゥス、機晶ビームキャノンのチャージを開始して」
「はいっ、分かりました、雷華さん」
 雷華の要請に答え、メトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)が機晶キャノンをイコン用に大型化したそれのチャージを開始する。エネルギー自体は機晶ではなくイコンからだが、制御のためには機晶姫が搭乗している必要があり、かつチャージに時間がかかるのが難点であった。
(実戦経験はありません、でも、泣き言は言ってられません。
 前線でブレイバーが動いている分、こちらは攻撃に集中できるんです。やってみせますよ!)
 持ち込んだベースで、少しでも雷華との同調を図りつつ、メトゥスはビームキャノンのエネルギー制御を担う。

(戦力の分散は、結果として愚策であった。それは受け止めよう。
 その上で、今は当面の問題を片付けるべきだ)
 飛空艇を操り、『トールマック』に随伴する歩兵として振る舞う北久慈 啓(きたくじ・けい)の視界に、人よりやや大きいサイズの魔族が、魔弾を生成して放つのが映る。
「ふっ!」
 向かってくる魔弾を避ける、その威力はたとえ直撃しなくともかなりのものだが、啓を守る聖域の効果により影響は微小に食い止められた。
「今度はこちらから行くぞ」
 回避動作から続けて接近を図った啓の、掲げた手が紅く染まった直後、先程魔弾を放った魔族が突如、炎に包まれる。もがいてもはたいても炎はしばらく消えず、魔族の耐久力をじわじわと削っていく。
 何より、火消しに気を取られる余り、啓の姿を見失ったことが、魔族にとっては痛恨であった。
「はあっ!」
 近付いた啓の、振るった得物が横合いから魔族の頭部を襲い、頭蓋骨を砕き割る。本領は壁を破壊する時に発揮されるらしいが、骨も壁と考えれば似たようなものである。

「雷華さん! エネルギーのチャージが完了しました!」
 メトゥスから報告を受け、雷華がビームキャノンを展開する。
(……私も、自分が何をしたいのか、迷っていた節があるわ。
 覚悟を決めましょう。国の為でも、学校の為でも、誰かの為でもなく、私は、私自身の為にクリフォトに挑むと。
 理解できない物を理解する為に、理解せずに曲を紡ぐと!)
 弦が切れんばかりに鳴らしたギター、そして『トールマック』がビームキャノンを発射する。巨大な力の奔流に、再び放った魔弾は掻き消され、巨大魔族は力の洗礼を受ける。下半身と翼の一部をもぎ取られ、悲鳴をあげる巨大魔族。隊長機の損害に、他の魔族が援護に向かおうとする最中、一機のアルマインが速度を全開にして、動きの鈍った敵にトドメを刺しに行く。
(……悔しいけれど、今の私にはアーデルハイト様を連れ戻す力の術もない……。
 クリフォト本体へ招待された皆を信じて、私は私の出来る事をします……!)
 『セタレ』を駆る遠野 歌菜(とおの・かな)が強い意思を胸に、マジックソードを抜き、上半身だけの巨大魔族と切り結ぶ。満身創痍ながらも抵抗した魔族は天晴と評する他ないが、歌菜の意思が勝り、巨大魔族は首を刈られ命絶える。
「歌菜、三時と六時、十時方向から敵影! マジックジャマーを展開後、八時方向に転身だ!」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)の指示に従い、歌菜がマジックジャマーを展開、魔族の感覚を鈍らせる。同時にカノンをSモードに切り替え、速度を保ちながらの射撃で撹乱し、囲まれる前に離脱を図る。
「歌菜、確かに好機だったとはいえ、今のは危険だったぞ。戦闘はまだまだ続く、歌菜の気持ちは分かるが、無茶はするな」
 敵の追撃が途絶えたのを確認して、羽純が歌菜に声をかける。最初から全力、は言わなくても理解出来たが、それで無茶が許されるわけではない。
「うん、ごめんね。でも羽純くんが護ってくれるって、信じてたから」
「……はぁ。ストレートに言ってくれるな」
 面倒そうに頭を掻く羽純、しかし気分は決して悪くない。
「……期待には答えよう。ただし、先程のような無茶は程々にしてくれ」
「うん!」
 明るい笑顔を浮かべて歌菜が振り返り、再び意識を戦場に集中させる。
 自分にはパートナーがいる。一緒に戦ってきた仲間がいる。これほど恵まれた環境下で、どうして負けることがあろうか。
(……負けない! 私たちは必ず、勝ってイルミンスールに帰るんだ!
 出し惜しみなんて、してられない!)
 増設のスモークディスチャージャーを発動、煙で自らの姿を視認させにくくした上で、歌菜はカノンをCモードに設定、魔族を狙い撃つ。