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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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リアクション


【4】 GURDIAN【3】


 前回の戦闘経験は、ガーディアンを進化させた。
 第一段階から第二段階へ進んだガーディアンは、形状に変化が見られた。
 白く発光する巨躯と背中の大きな翼、目も鼻も無い巨大な口だけの異貌。ここまでは同じだが、全身が鎧のようなものに覆われている。さながら甲冑を纏った騎士のように。
 そして何よりも大きな変化は、意識の混濁が解消された事だ。
『マグスより伝令。神聖なる教団の地下が暴かれた。侵略者は天御柱学院の使いだそうだ』
『計画変更。これより天御柱学院の排除を行う。理想の敵に相応しき祝福を』
「そんなことはゆるさないよ!」
 虚無の影を斬り裂いて、まばゆき閃光が空間に走った。
「絢爛登場! 突撃魔法少女リリカルあおい!」
 リリカルあおいこと秋月 葵(あきづき・あおい)は、ブルーの魔法少女コスチュームを翻し決めポーズ。
 空飛ぶ魔法↑↑で海京上空をパトロールしていた彼女は、ガーディアンの出現とともに、拡大されたシャドウレイヤーに飲み込まれ、彼らを発見する事に成功したのだった。
「人々の笑顔を奪うことは許せない! この海上都市の平和はリリカルあおいが守るんだから!」
 人差し指を掲げ、ガーディアンを見下ろした。
「いっくよー! シューティ……は止めといてっと、威力調整難しいからね♪」
 前回、周辺施設に被害を出してしまった事を考え、あおいはシューティングスターを封印した。何せ、真下は学院、下手を打ったら大事件となってしまう。
「代わりに……みんな纏めて夢の世界へご招待だよ♪」
 ガーディアンの鼻先に迫って、ヒュプノシスを放った。
 しかし、状態・精神異常に比類なき耐性を持つクルセイダー同様、その発展形であるガーディアンにもそれは通用しない。
「……あ、あれ?」
『神の前に、脆弱な人間の力などそよぐ風』
「わわわ!!」
 大口を開けての噛み付き攻撃を、間一髪、あおいはひらりと躱した。
「そ、それなら……モードチェンジ! リリカルグラップルモード!」
 きらきら光に包まれながら、くるんとターンを決めた。
 すると、コスチュームのひらひら部分がタイトになり、より動き易い、格闘戦に特化した衣装に進化した。
「寝ない悪い子は、寝かしつけ方も乱暴になっちゃうよ!」
 古代シャンバラ式杖術による渾身の一撃を、ガーディアンの額(……らしき箇所)に叩き込んだ。
 けれども、ガーディアンは微動だにしなかった。
「う、うそでしょぉ〜〜??」
 それはイコンを素手で殴る行為に等しい。現行の第2世代イコン以上のスペックを持つガーディアンなら尚更だ。
『神の偉大なる力の前に、人間の無力さを知るがいい』

「目標捕捉! 敵をガーディアンと確認!」
 ジェファルコンの策敵機能が、前方に出現したガーディアンを捕まえた。
 メインパイロットのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は、すぐさまコンソールパネルの上に置いた仮契約書のペンを走らせた。
「黒革の煌めきに包まれ、ビシバシ一閃、今日も悪をこらしめる! お仕置き委員長・サディスティックレイナ!!」
 黒革のハイレグレオタードに、同素材の長手袋&ハイヒールのブーツ。そして深紅の裏地が鮮やかな黒マント。
 コクピットに閉じ込めておくのが勿体ないほどのセクシーコスチュームで、照れながらも小さく決めポーズをしてみせた。
 一方、サブパイロットを務める閃崎 静麻(せんざき・しずま)もマスコットに変身した。
 前回は”しずエモン”なる未来型ロボットに変身した彼だったが、ガーディアンと第一次遭遇を経て心境の変化があったのか、今回は未来型は未来型でもしずエモンよりずっと未来のマスコットロボになっていた。
 側面に開閉式の蓋のある球形の物体。我々はこの物体を知っている。
「……なんですか、それ?」「”八口(やぐち)”だ」
「それもダメなやつでしょ!」
「ダイジョウブ、漢字ダカラ、ダイジョウブ」
「その喋り方、絶対ダメでしょ!」
 目の前の敵と戦いながら、著作権とも戦う、それが静麻なりの戦闘スタイル。
「Gハッケン。Gハッケン」
 レーダーに表示された機数は”7”。メインカメラを拡大して、ガーディアンの姿を確認する。
「しかも強化型が来たか。前回は3体でも手を焼かされたのに、今度は倍以上とはな」
「それでも対応出来るように、前回はデータ収集に力を入れたのでしょう?」
「ああ、役に立ってくれるといいがな」
 静麻はガーディアンに関する戦闘データを、友軍機との間で共有した。
「それから、目標をG(ガーディアン)1、G2、G3……飛んでG7と仮称しておくぜ。各機、情報連結頼む」
 各機との連絡もそこそこに、ジェファルコンは戦闘に入った。
 目標はG3と仮称した一体。腕をゴムのように伸縮させ、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
「来る!」
 レイナはソードを二刀流に構えた。行動予測に頼らず、目視で敵の動作を読む。イコンを身体の延長と捉え、肌で戦闘の感覚を掴めるよう五感を研ぎ澄ました。
「……そこ!」
 軌道の読めない腕の動きを紙一重で回避。そのままG3に向かって加速する。
 前回の戦闘経験を踏まえ、ジェファルコンには改造が施してあった。脚部前面と爪先部分に、分解したシールドを追加装甲のように増設してある。その分、重量が増え機体バランスのパフォーマンスが下がったが、それでも両腕が開放される利点は捨てがたい。
 続けて繰り出されたもう一本の腕を、脚部シールドで受け流し、腕にこすりつけながら滑るように間合いを詰めた。
『賢しい真似をする……』
 大きく開けた口の奥が、真っ赤に灼熱し、こちらを狙う。
『神より賜りし聖なる火”メギドファイア”、我等が敵に浄化の炎を……!』
「目標顎部の熱量上昇。例の熱線砲が来る。前回のデータから、発射予測時間まであと10秒。避けるか、突っ込むか、早目に決めてくれ」
「答えるまでもないでしょう!」
 ジェファルコンは右手の剣で、G3の頭から顎にかけて串刺しにし、無理矢理口を閉じさせた。
『ウグゥ!?』
 高熱を有する口から、炎が噴き上がった。
 そして、素早く左手の剣を胸に突き刺した。
『グフッ!』
「このまま……!!」
『グオオオオオオッッ!!』
 しばらく悶えていたが、急速にG3の身体から力が抜けた。
「生体反応の停止を確認。中心部の熱量が増幅してる。爆発が来るぞ」
「了解です」
 離脱し、目標の爆散を見届ける。
「まず1機……」
 その瞬間、機体の背部に衝撃が走った。
「な、何事です!?」
「G4だ! バックパックを掴まれた!」
 凄まじい力で振り回され、機体は制御不能に陥った。上空に放り投げられたジェファルコンに、四方から飢えた猛禽類が如くガーディアンが迫る。
「しまった……!」
 すれ違い様に強靭な顎で噛み付き、ガーディアンは装甲を食い破った。「右肩部、左腕部、左脚部、背面部……続々と装甲剥離が起こってる。なんとか姿勢をコントロールしろ」
「わかっています……!」
 スラスターを噴射し、姿勢を正しく戻した。
 とそこに、暇を与えずG4が突っ込んできた。
「正面!」
 素早く敵の横っ面を斬り払う。
 ところが、G4は硬化した掌で刃を受け、こちらの攻撃を押さえ込んだ。
「こ、このパワーは……!」
「こいつは完全に第2世代機以上だ……!」
 スラスターを出力を全開にして、押し返そうとするが、G4のパワーはそれを上回り、逆にジェファルコンは後方に押しやられた。
「このままでは……!」

 境界を越えると、一気に視界が灰色に染まった。
 シャドウレイヤーは外界との通信を遮断してしまうため、飲み込まれてしまうと位置情報を外部に送れず孤立してしまうが、おたがいの位置情報さえ報告しあっていれば、この問題は回避出来る。
 海京上空を哨戒していたゾフィエルは、信号を捕捉出来なくなったレイナの機体から、ここの位置を特定した。
「未確認機を前方に捕捉。遊軍機と情報連結……連結終了。未確認機はガーディアンと特定されました」
 副座席のカタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)はコンソールパネルに指を滑らせた。
「ありがとうございます。それでは、邪悪な異教徒の皆さんにご挨拶いたしましょうか」
 主座席に座るフランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)は、コクピットを出て、ゾフィエルの頭に登った。
 超能力科の講義で見た魔法少女アニメから彼女が学んだこと、それは魔法少女の8割りは変身シーンにかかっていると言うことだった。
「主よ! 私に敵を断罪する力を! ホーリーチャージ!」
 穢れなき光を纏ったフランは、マジカルステージで変身する。
「この世の魔性は全て断罪! 魔法聖女フラン、華麗に降臨! ヤハウェに代わってお仕置きですわ!」
 シスター服を基にした魔法少女コスチュームに変身して、しゃきーんと決めポーズ。
 ガーディアン達は怪訝な様子で、閃光に包まれたフランを見つめていた。
「神の守護者? 笑わせますわ。この私が、神の使いを騙る愚か者に裁きを下して差し上げます。この、真の十字軍の名を持つ神の代行者で!」
 ビシィと指を突き付けた。
『うぉーい! そんなことしてないでこっちを助けろ!』
「あら、閃崎様。御機嫌よう」
 モニターに開いた小さなウィンドウに静麻。カタリナは必死感溢れる彼に微笑んだ。
「心配ご無用。ただいま参ります」
 コクピットに戻ったフランはジェファルコンと交戦中のG4を目標に定める。
 だがその前に、G5、G6が立ちはだかった。
「このゾフィエルの前に立つとは不運な方々……。いいでしょう、神の裁きを与えて差し上げますわ」
「教団調査班の報告では、先ほど教団とクルセイダーの関係を示す証拠を発見したそうですよ、フラン様」
「本当ですか?」
「ええ、もっとも、私は最初から疑っていましたけれども。所詮は、異端の神を崇拝する異教徒ですから」
 カタリナはとても嬉しそうだ。
「これで大手を振って連中を弾圧することが出来ますね。さぁこの機に邪悪な異教徒の頭数を減らしておきましょう」
「それは神もお喜びになりますわ……!」
 フランも恍惚とした表情で、スロットルを握りしめた。
 G5、G6の発射するメギドファイアに対抗し、ゾフィエルはウィンドシールドを展開すると、大きく余裕を持って熱線を回避した。超高熱の熱線の巻き起こす熱波を、シールドで散らし機体を守る。
「直撃したら、ひとたまりもないですわね」
「……三時の方角より熱線の発射を確認! G7がこちらを指向しています!」
「くっ!」
 スラスターの急速噴射で、熱線の射線から退く。
「また来ます。今度は12時の方向からG2がこちらを狙っています」
「か、囲まれてる……!?」
「再びG5、G6に高エネルギー反応! 熱線砲が来ます!」
「異教徒め、味な真似をしてくれますわ……!」
 その時、戦場を飛び回っていたあおいがG2の鼻先に杖術を叩き込んだ。
「あなた達の相手はここにもいるんだからねーっ!」
『!?』
 無論、ダメージは通らなかったが、眼前を鬱陶しく飛び回る事で、G2の気を惹く事には成功した。
『浄化の炎にその身を清めよ!』
「わわわっ!!」
 大気を震撼させる熱線を、小回りを活かして全力で避けた。
 イコンですら蒸発してしまう威力では、触れなくとも周囲の熱波に当たるだけで生身の人間は即死してしまう。
「くぅおおおおおおおーっ! いっけぇーーっ!!」
 あおいは急旋回し、熱線を引き剥がそうとするが、G2はそれを追って、横一文字に薙ぎ払う。
 ところが、それは彼女の仕掛けたフェイントだった。旋回した直後、急上昇し熱線を避ける。薙ぎ払った先には、G4が居た。
『グオオオオオオオオオオッ!!』
 メギドファイアの高火力と長射程が仇となった。
 ジェファルコンとの戦闘で、遠くの戦闘にまで意識が向いていなかったG4は、背後から迫る閃光に気付かなかった。即座に限界温度に達し、G4は大爆発を引き起こした。
「やったぁ! 計算通り!」
 あおいは小さくガッツポーズ。
「助かりました……!」
 ジェファルコンのコックピットで、レイナはモニターに映るあおいに親指を立てた。
 そして同時に、この誤射はG2に動揺を生んだ。
『敵の策にかかるとは……!』
 その不意を突き、ゾフィエルが間合いに飛び込んだ。
『!?』
「お可哀想に。大切な隣人を自分の手で消し去ってしまうなんて、堪え難い苦痛でしょう」
 ブレイドランスの乱れ突きを放った。
 G2は硬化させた腕で攻撃を払うが、ゾフィエルを間合いに入れ過ぎてしまった所為か、思うように捌ききれなかった。
「でも、心配いりませんわ。すぐにまた会えますから」
 ブレイドランスが瞬いたその刹那、目にも留まらぬ速度で放たれた斬撃が、G2の首を斬り落とした。
 頭脳を失った守護者は紫炎を噴き上げて爆散した。
「”土は土に、灰は灰に、塵は塵に”……!」