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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話)
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●番外編

 場面変わって……。
 ここは某所の地下、静謐なる大聖堂である。
「……ノックもせずにマナーのなってない奴だ、私の城だぞ」
 坂上 来栖(さかがみ・くるす)は訪問者と話している。相手の声は聞こえない。
「なに? 最近女の血を吸ったか? クハハ、たとえば生娘か?」
 来栖が笑うと、その声は大聖堂じゅうにこだました。
「知ってるぞ、ちょっと前噂だった失踪事件だな。
 ……最近血を吸ったかどうかについては黙秘だ、血を吸わない吸血鬼などいないがな」
 だが、と来栖は言う。
「今度の事件については私は知らん、確かに穢れない女の血は美味とされるが、私の場合その対象がマホロバ人である必要がない。それにもし私ならあんな……いや、私の話はいい、とりあえず今回私は関係ない、とっとと帰れババァ」
 話しながら来栖の表情はくるくると変化する。喜怒哀楽からマイナス哀の三種類が基本といったところか。
「なんだ、まだ納得できないか。少しでも疑わしき部分がある以上、無実、潔白の証明をする必要がある、そういうことか?
 クク……本当にお前らメイガスという奴は、何もない所から火を出すのが得意だな、そんな事だから魔女狩りなど起きるんだ」
 ぐいと身を起こし、来栖は相手を指さす。
「そしてお前は言うんだろうな。『ここにもマホロバ人の生徒は居る、被害がここまで完全に広がる前に、事件が下火になっている内に終わらせねばならぬ』とな。
 お前の生徒がどうなろうと知らんし、潔白の証明などどうでもいい…………と言いたいところだが」
 油断できない、と言いたげな目をして来栖は続けた。
「いつまでも『いわれのある』疑いをかけられるのもうっとおしい。というわけで……実は既に手はうってある。
 それでよかろう? アーデルハイト・ワルプルギスよ」
 もやもやもや……と、漫画でいうところの『想像』のフキダシが頭の上にあると思ってほしい。
「……とか、ドヤ顔で言ってやがるんでしょうねえ。今ごろ」
 ナナ・シエルス(なな・しえるす)は肩をすくめ、両手のひらを上に向けた。実はここまでは、すべてナナの想像の話である。
「まあ、ありえる話ではあるな」
 スキピオ・アフリカヌス(すきぴお・あふりかぬす)も、そこには同感のようだ。
 なお本日ナナとスキピオは、囮となるべくツァンダの街を徘徊しているのだった。これは来栖の命令である。
「囮っていっても私らはマホロバ人じゃねぇでしょうに、ベジタリアンの前にステーキ出してどうしようってんですかね」
 ますますもって肩をすくめるナナなのだが、それを聞いてスキピオは呵々大笑した。
「わはは〜! 心配は御無用であるぞナナ殿。これを見るがよいである」
 ぺかぺかぺかー! と効果音を付与したい。
 スキピオが威勢良く取り出したるは……カチューシャであった。鬼のような角が二本ついている。
「おーにーのーつーのーカチューシャ〜! である」
「なんですそれ? それでマホロバ人に変装のつもりですか?」
「うむ、これでもうどっからどう見てもマホロバ人である」
「いやそれは……」
 ナナの肩はすとんと落ちて、今度は力なく腕をぷらぷら揺らすことになったわけだが、スキピオはまるで意に介していないようで、腕組みして言うのである。
「しかし不安なのは僕のどうしてもにじみだしてしまう、男気というかダンディズムというか……少女のふりというのは難しかろうなあ……である」
「あ、その点は微塵も気にしねぇで大丈夫です、にじみ出すぎてもう空っぽみたいですから」
「そうかそれは僥倖……って、なんだか褒められた気がしないのだがどういうことであるか?」
 さらりと聞き流してナナは言った。
「にしても噂によればターゲットにされるには、その……生娘である必要があるらしいですがどう表現するんでしょう? ……見ただけで生娘って分かる犯人もなんか気持ち悪ぃですね」
「キムスメ? その言葉が何なのかは僕にはわからないが。木製の娘ということか」
「ああ、そうそう、それでいいです。木(キ)ムスメってことで。イエース、ウドゥンガール」
「そうか、それでこの看板が木製であるわけが判ったのである」
 ひょいとスキピオが取り出した手持ち看板(確かに木製)を見て、ナナの目はなにやら黄金色に輝いた。
 ――あ、あのバカヤロウ真面目な顔して解決する気なんてねぇですね、ふざける気満々だ……。
 看板には来栖の字で『はぐれマホロバ純情派』と書かれていたのでる。