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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』

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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』
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 同じ頃、イコンで“灼陽”へやって来た契約者たちを、“紫電”と“大河”が案内していた。
「あのオリュンポスなんたらってのもすげえけどよ、伊勢、だっけか? あれもすげえな。向こうの世界にはあんなのを乗り回してるのがたくさんいンのかよ」
「自分ほどの巨体を持っているのはそう多くないと思うのであります。20メートルまでの大きさのイコンであればかなり多くの人が持っていると……むぐぐ」
 “紫電”から質問され、答えていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の口をコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が塞ぎ、壁際に寄せて小声で忠告の言葉を口にする。
「ちょっと吹雪、まだ相手の事よく分かってない内からホイホイとこっちの事喋らない方がいいわよ」
「けれども、互いの事を話し合わないことには理解も得られないであります。考え方の違いを早く理解しないといけないであります」
「はぁ……あなたがそんな調子だから、ワタシが苦労するって少しは分かってよね……」
 盛大に溜息をついて、コルセアが吹雪と共に合流する。こうなれば徹底的に“灼陽”、鉄族の事を理解してやろうとばかりに、船体の隅々に目線を運ぶ。外装ははパラミタで見るどの材料の特徴とも異なっているようだったし、そもそも鉄族の動力源も分からない。
「ヘンな質問かもしれないけど、あなた達は何で出来ているの? 少なくともワタシの知っている物じゃないと思うのだけど」
「あーっと、なんだっけねーちゃん」
「えっ、言っちゃっていいの、しーくん?」
「構わねーだろ、言った所で作れるわけねーんだし」
「うーん……しーくんが言うなら……。
 えっとね、機体は『オーバルアゾニウム合金』で出来てるの。わたしも詳しい原理は分からないんだけど、機体として作られた時から“生まれて”、生き物みたいに成長・老化を辿る素材なんだって。素材そのものが生物としての情報を持っていて、それを『テトラフルポリキシ素材』で出来た人型に入力したのが、わたし。わたしが例えば怪我をしても機体の方は大丈夫だけど、機体が破壊されるとわたしは死んじゃう、ってところかな?」
「…………、む、難しいであります」
 ふんふん、と納得した様子のコルセアの隣で、吹雪が頭を抱えて唸っていた。
「素材そのものが生命としての情報を持っている、ですか。私とも異なる生まれ方をしているようですね」
「おめーもよくわかんねーやつだな。ギフト、っつったっけ? どーやって動いてんだよ、それにどーやって武器に変形すンだよ」
 “紫電”がアイゼン・ヴィントシュトース(あいぜん・う゛ぃんとしゅとーす)の砲身をツンツン、とつつきながら問いかける。
「私は私の事を、機晶生命体、だとしか。生物が自身の事を完璧に理解している方が稀ではないでしょうか?」
「ま、そりゃそうなンだけどよ。……大丈夫かよ“灼陽”サマ、こんなわけわかんねー奴ら片っ端から連れ込ンでさ……

 “灼陽”から出た一行は、鉄族の本体とも言うべき機体が格納されている場所へ案内される。
「前はね、よーちゃんに全部収まってたんだけど、段々手狭になってきちゃってたの。それによーちゃんがあんな風になっちゃったし、今はこうして別にわたしたちのお家を作ってるの」
 お家、と言うには随分とシンプルで無骨な建物を見上げ、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が何かを探すようにあちこちに視線を彷徨わせる。
「なあ、高速型は何処に居るんだ? 是非とも戦闘データを参考にさせてもらいたいんだ。
 俺はイコンで世界最速を目指しているんだ。頼む、教えてくれないか」
 自身のイコン、屠龍を強化したい一心で鉄族に接触を図った恭也の言葉に、“紫電”がへぇ、と呟いて口を開く。
「そういやぁオマエの機体、速そうだよな。やっぱ戦いは速さだよな!
 ねーちゃんなんかゴテゴテ積み込んでっから、おっそいのなんの」
「むー、しーくん、何か言った? そんな事言うと、今度から助けてあげないんだからっ」
 プイッ、とそっぽを向いて機嫌を悪くしてしまう“大河”。ちなみに彼女の外見は上から『ぼんっ』『きゅっ』『ぼんっ』なのだが、これは機体が『超戦術爆撃機』で色々と満載だからということらしい。何故『きゅっ』が『きゅっ』なのかはまあ、永遠の謎である。
「ああぁ、わ、悪かったってねーちゃん」
「……本当に反省してる?」
「してますしてます。このとーり」
 地にひれ伏さんばかりに頭を下げる“紫電”。彼は戦場で幾度と無く“大河”に助けられているため、事実頭が上がらない。
「……うん、ならよし。
 あのぉ、よければデータを見ていきます? 大したものではないかもしれませんけど」
「おおっ、ホントか! いやぁありがたい、是非お願いしたい」
 “大河”の申し出を恭也は有りがたく受け取り、一行は建物の中へ入っていく。

「……ほうほう、これがこうしてこうなって……よしよし、これは役に立ちそうだ。
 ありがとう、これで世界最速に一歩近付いたぜ」
「そうですか、それはよかったです〜」
 戦闘記録のデータを受け取り、恭也が早速『屠龍』にデータを入力、より最適な機動の確立に取り組む。
「……さて、と。なぁ、そこのパイロット」
「ん? 俺のことか?」
 “紫電”に呼ばれ、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が自分を指差して言う。
「あぁ、そうだ。オマエの機体は見たところバランスが取れていて、高性能でまとまっているように見える。一目見て分かる、こいつは強ぇ、ってな。
 どうだ、オレといっちょ、手合わせしねぇか? オマエはオレの事が知れる、オレはオマエの事が知れる。悪ぃ話じゃねぇだろ?」
 話を振られ、真司はヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)と意見を交わす。
「受けてもいいんじゃないかしら〜。彼の言う通りでもあるし。真司も鉄族に興味があってここに来たんでしょ?」
「確かに、それはそうだが……。ヴェルリアは、いいのか?」
「いいか悪いかと言われると……危険な真似はしないでほしい、と思います。
 ですが、鉄族との戦闘データを採取出来る機会でもあります。戦うのであれば、私が真司をサポートします」
 確かな意志を感じさせる言葉を耳にして、真司も心を固め、“紫電”に振り返る。
「分かった。手合わせ、よろしく頼む」
「ヘッ、そう来なくっちゃな!」
 子供のような笑みを浮かべる“紫電”、そしてそれぞれが機体へ乗り込み、準備を始める――。

『システム、オールグリーン。ゴスホーク、出撃可能です』
「よし……ゴスホーク、起動!」
 ゴスホークに命が宿り、そして目の前に立つ自機とほぼ同じ背丈の人型の機体と対峙する。
『あー言っとくけど、オレらはオマエみたいに、この格好で空飛べねぇから。出力足んねぇんだわ。ま、代わりに飛行形態があンだけどな。
 見てろよー、オレの変形シークエンスを確認できたら誉めてやるぜ』
『しーくんの変形は速いよね〜。それくらいはわたしも見習いたいかも』
 “紫電”、そして審判役を買って出た“大河”の通信が相次いで飛び込んでくる。
「わざわざ教えてくるとは、余裕だな」
『ま、来る時に見さしてもらったかンな。これでおあいこだ。……それじゃあ、いっくぜぇ!』
 直後、“紫電”が脚部に装着されていたビームガンを両手に持ち、発射する。『ゴスホーク』は左腕のビームシールドを展開しつつ、ガンの動きから次に放たれるであろうビームの軌道を読み、最小限の動きで回避しつつ、一発だけビームをわざとシールドに当て、威力を確認する。
『レーザーマシンガンクラスの性能と判断されます』
「単体ではこちらのプラズマライフルが上回るが、二丁使いか。射程も向こうの方が長いと見た。距離を保ちつつ、ライフルモードで応戦する」
『了解しました。レーザービットの準備はどうしますか?』
「……そこまで見せる必要に駆られたなら、かな。まずはお手並み拝見、だ』
 方針を決定した真司が、『ゴスホーク』を“紫電”と適度な距離を保ちつつ、ライフルモードに移行したプラズマライフルを放つ。一発目は捻るような動作で、足元を狙った二発目を跳んで避けたのを見た真司は、着地の隙を予測して三発目を見舞う。
(予測通りなら、左腕を吹き飛ばせるはず――!?)
 真司の思惑は、しかし“紫電”が戦闘機に変形したことで外れる。脚部が機首、腕が主翼の戦闘機は、跳んだだけの僅かな高さで推力を得、三発目のライフルを避けるとお返しとばかりにビームを見舞う。
「いくら飛行形態とはいえ、物理法則を無視し過ぎじゃないか?」
 思わず文句を口にしつつ、ビームシールドでビームを防ぎつつ“紫電”とすれ違い、振り返ってライフルで応戦する。飛行形態の“紫電”は、重力や慣性の法則から完全に解き放たれていた。
『イヤッホゥー!』
 ご機嫌で変態機動を披露する“紫電”。“大河”が「しーくん、あんまり遊んじゃ失礼だよっ』と言っても聞く耳を持たない。
『あらあら。……でも実際、あの機動は敵に回したら厄介なんじゃない?』
 パイロットスーツの代わりに装着されているリーラの言葉に、真司が同意の呟きを漏らす。
「あぁ、出来れば敵にしたくない相手だな。……ん? この区域に新たな機影だと?」
 レーダーに新たなイコンの反応をキャッチしたと同時、“大河”も接近に気付いたようで、“紫電”に呼びかける。
『しーくん、別のイコンさんが接近中だよっ』
「あぁん!? 折角の戦いに水を差しやがって! あったま来た、ちょっとオレが行ってくるわ』
『ああっ、勝手な行動はダメだよっ、しーくん』
 “大河”の静止も聞かず、“紫電”が反応のあった場所へと急行する――。