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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声

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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声
ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声 ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声

リアクション

「アキラさん、しっかりしてください!」
「……ん……」
 ヨンに答える声も、もはやうつろだ。
 この三十分間を短くまとめると、こうなる。
「あ、すみませーん。このあたりに少し休める店って……」
「きゃあ!! 男よ男!」
「汚らわしい! どっかに行って!」
「あ、あはは……」
【女悪魔たちは逃げていった! アキラは15Pの心理ダメージを受けた!】
「あの、大通りの先にある門って……」
「貴様、男か? そのような輩に、教えることはないっ!」
「坊や、悪いことはいわないから、とっととその汚いツラひっこめてお帰り!」
「………」
【女悪魔たちは罵詈雑言を吐いた! アキラは20Pの心理ダメージを受けた!】
【女悪魔たちは仲間を呼んだ! アキラは逃げ出した! しかしまわりこまれてしまった! ………】
 この、繰り返しだったのである。

「おお、アキラヨ。落ち込んでしまうとは情けナイ!」
 アリスの言葉に、アキラは返す言葉もない。
「元気だしてください。アキラさんはその……素敵です!」
 ヨンは真っ赤になって、精一杯励ますが、アキラのゼロになった精神力は簡単には回復しそうになかった。
「仕方が無い。わしらだけでも見て回って来るかの。ヨン、アキラを頼んだのじゃ」
「はい!」
 アリスは今度はルシェメイアの肩に乗り、二人は早速、再び大通りへと歩き出した。

 ルシェメイアとアリスの二人ならば、タングートの都のなかでもそれほど目立たない。
 一通り都の作りを把握してから、二人は情報を得るために、賑わっていそうな酒場へと足を踏み入れた。
 すると、そこには。
「まぁ! それは、気が合いますことね! 私も恥ずかしながら、干し首の自作をたしなんでおりますの!」
「……なんじゃ?」
 ひときわ盛り上がっているテーブルでの議題は、どうやらかなり不穏な内容らしい。その中心にいるのは、空京大学文化人類学専攻(という名の殺戮マニア)藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だった。
 優梨子も好奇心でもって、あのゲートに飛び込んだ一人だ。そうそうに都へとたどり着き、フィールドワークの一貫ということで、酒場で酒を酌み交わしながらの聞き取り調査に励んでいたらしい。
「こちらも、自作の干し首ですのよ。この大きさまで縮めますのは、少々根気がいりましたけども……」
 優梨子ははにかんだ笑みを浮かべ、手のひら大のそれをテーブルに載せる。まるで、『手作りのフェルトマスコットですのよ。この大きさで作るのは、少々根気がいりましたの』というノリだが、実際の絵面ははるかに不穏当すぎる。
 とはいえ、女悪魔たちには大ウケだ。
「よろしかったら、もらってくださいます?」
「ありがとよ、そしたらかわりに、うちらのビーズも渡さないとね」
「まぁ、なんですの!?」
 キラキラと両目を輝かせ、優梨子は懐から出された小さな粒状のものに着目する。薄汚れた、とてもビーズというにはアレな感じだ。もっとも、優梨子的にはたまらなく興味深いのだが……。
「これは……なんですの?」
「タマさ。男悪魔から引っこ抜いた、ね」
 ニヤリ、と女悪魔たちが残忍な笑みを口の端に浮かべる。
「まああ!! 素晴らしいですわ! これを、くださいますの?」
「ああ、友好の証だ。とっておきな」
「ありがとうございますわ!」
 優梨子は大喜びだが、もしもこの場にアキラがいたら、それこそ本当に失神していたかもしれない。
「ですが……それほどまでに男性を嫌う理由はございますの? ああ、もちろん、非難しているわけではございませんのよ。ただ殺したいからというのも、立派な理由ですもの!」
 立派かどうかは一般常識的にはなはだ疑問だが、優梨子にとってはそうだ。すると、盃を片手に、まわりの女悪魔はぽつりぽつりと口を開いた。
 なんでも、その昔は、このあたりはザナドゥのなかでも肥沃な土地と森林を要する地域だったらしい。そこに共工と、彼女に引き連れられた数名の女悪魔の仲間達が定住をはじめた。
 するとそこに、ハーレム目当ての男悪魔が、土地と女目当てに襲いかかってくることがたびたびあったのだという。
 それらをその都度撃退しているうちに、女悪魔たちは仲間を次第に増やし、かつ、そうして寄ってくる男悪魔を嫌悪するようになった。
 長い長い時のあいだ……森林がいつしか枯れ果て、砂地となり、その後も時を経て、このタングートの都はできたのだという。
「まぁ、今じゃ、単純に気にくわない。それだけさ」
「なるほど、明快ですわね!」
 ころころと鈴を転がすように、優梨子は笑い、それから。
「それではお姉様方、是非、このビーズの作り方を教えていただきたいのですが……できれば、その入手時の方法から」
 フィールドノートを開き、いよいよ彼女の瞳は熱っぽく輝くのだった。


「……なるほど、そういう事情じゃったか」
 ルシェメイアは密かに頷いた。とんでもないエグい話も聞かされたが、それなりに興味深いことも知り得たので、プラスマイナスゼロといったところだろうか。
「アキラの顔のせいじゃナイって、教えてあげヨウ?」
「そうじゃな」
 個人的な怨嗟などというレベルではないことは、教えたほうがよいだろう。アリスに頷き、立ち上がると、ルシェメイアはさらにエグい話題で盛り上がる店からそっと立ち去った。