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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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第3章 機晶石の魂 1

 移動要塞ジークロード。
 その司令室の扉へと、いままさに契約者たちが迫っていた。
「あそこだ!」
 その先頭に立つ柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が叫ぶ。

 ガタンッ!

 両開きのその扉を蹴破って、契約者たちが大広間となっている司令室の中へと飛びこんでいった。
 そこに立っていたのは――クドゥル・ド・シルヴァーン――その者である。
 真司たちは彼の姿を見つけると、睨むようにその姿を見据えた。
「クドゥル! ついに見つけたぞ!」
「…………」
 その男、クドゥルは静かなる双眸で彼らを見返していた。

 グルルルルゥ……――

 その隣には、巨大な黒い竜がいる。
 クドゥルが従える騎竜ブラックドラゴンであった。
 が、さらにそれよりも信じられないものを契約者たちは見た。
「あれは……!?」
 なんとクドゥルの隣には、ベルネッサの姿があるではないか。
 だが――その様子はおかしい。
「ベルネッサ! 聞こえないのか!」
「ベルっ!」
 自由の身であるにもかかわらず、ベルネッサはまるでクドゥルには抵抗を示さず、むしろ彼の従順な部下のように立っているのである。
「まさか……!」
 契約者たちの脳裏に嫌な予感が走る。
「クドゥル……貴様……っ!」
 その予感を肯定したのは、他でもないクドゥルであった。
「その通りだ。ベルネッサの意識はもはやここにはない。彼女は私の……いや、アダム様のために戦う、一人の戦士となったのだ」
 その声に応えるように、ベルネッサはゆらりと前に進み出た。
 ライフルを構え、契約者たちと相対する。
 その目には彼女の意思と呼べるものは何もない。
 ただ漆黒の闇が湛えられているだけだった。
「せっかくの招待客だ。相手をしてやろう。……行けっ! ベルネッサよ! 奴らに絶望を味あわせてやるのだ!」
「――ッ!?」
 クドゥルの指示を受けて、ベルネッサは轟然と契約者たちへ飛びかかってきた。

● ● ●


 ズガアアアァァァンッ!

 ベルネッサは容赦なく契約者たちに襲いかかってきた。
 振り抜かれた拳が、地面を大きくぶち壊す。
 その一撃は並の人間のそれではない。原理は知らぬが、おそらく埋め込まれているという黒い機晶石のせいで、彼女のパワーは数倍にも強化されているのだろうと思われた。
「ベルッ! 僕たちがわからないのか!」
「…………」
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が必死に呼びかけるが、ベルは応じることはなかった。
 ただ無為に、無感情の瞳で、襲ってくるのみだ。
 その姿はまさに意思なき修羅であり、機晶兵のそれと同じように思えた。
「くそっ……どうしたら……!」
 凶司は彼女の心に声を届けられないふがいなさで、苦々しい表情を浮かべた。
 そこに――
「キョウジは下がってて! はっきりいって邪魔だよ!」
「エクス!?」
 パートナーのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が、凶司を守るように前に出た。

 ガイィィィンッ!

 彼女の振るった緑竜殺しの大剣が、ベルネッサがとっさに抜き放ったライフルの銃身とぶつかり合う。
 ベルネッサは躊躇なく、すかさずライフルを回転させて、エクスに銃口を向けた。
 が、
「はああああぁぁぁ!」
「!?」

 ブオオオォンッ!

 その前に現れたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が、猛然と戦乙女の槍を振るった。
 切っ先は、最前までベルネッサがいた空間を切り裂く。
 ディミーアの気配に気づいたベルネッサは、瞬時に動きを変更。
 後ろのほうへと飛び退いたのだった。
「ったく! 戦う覚悟もないんだったら、余計なことするんじゃないよ、凶司!」
「ディミーア……」
 エクスとともに前線へ出てベルネッサと交戦するディミーアの背中を、凶司は呆然とした目で見つめた。
 そこに――
「凶司、あたしたちは、別にあんたが本当に邪魔でこんなこと言ってるんじゃないよ」
 セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が、凶司の肩にそっと手を置いた。
「セラフ……」
「惚れた女を取りもどす。悪くないと思うよ、そういうのは。だけど……あんたは頭を使うのが専門でしょう? 戦いはあたしたちに任せて、さっさとベルネッサを元に戻す方法を見つけるんだよ」
「…………」
 セラフもエクスもディミーアも、凶司がベルネッサのことを気に掛けはじめていることは知っていた。
 凶司の胸は、ベルネッサを思うと高鳴るのだ。
 それはあの時、伝説の方舟の大切な力を探したときから始まった変化だった。

 トク……トク……トク……

(僕は……この思いを無駄にはしたくない……)
 凶司は自分の胸を服の上からぎゅっと握りしめた。
 焦っていても仕方ない。自分に出来ることをやることが、彼女を取りもどす最善の方法だ。
 凶司はようやくそのことに気づいたのだった。
 それを見透かしてか。セラフは彼を見てくすっと笑うと、ベルネッサが使っているものと同じモデルのライフルを構えた。
「それでこそよ、凶司。だからあたしも……無茶かもしれないけど、自分に出来る精一杯をやってみせるまでよ!」
 セラフはそう言うと、もう一方の手で藍色の融合機晶石を自分の胸に押し当てた。
 フリージングブルー。氷の力を融合者に与えてくれる機晶石は、セラフの胸の中に沈んでいく。

 ズブ……

 そして――
「行くわよっ!」
 セラフは、氷結の輝きをその身に宿し、ベルネッサへと立ち向かった。