リアクション
01 開戦の燧 グレースからの提案を受けて作戦が立案されるにあたって、契約者たちの間で話し合いが行われた。もちろんそれには現地アナザーアメリカ、リバイバル・ストライプの主要人物であるハイナ、グレース及び大統領と副大統領も混ざってのお事ではあるが。 口火を切ったのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)であった。 「大樹への攻勢はサルヴァに知られてると思うの。私が敵ならこの隙にハイナを殺すし、グレースを逆に利用し此方を叩く。だから2人には安全な場所に居てほしいなって……そのためにルカルカたちのラグナロクを使ってほしいんだ。それに……声の届く場所に指揮官が居た方が良いでしょ?」 そういった上で、ハイナとグレースに、ラグナロクに乗るよう提案した。 「ちょっと待って。それだとサイコダイブはラグナロクの中で行うということなの?」 そんなふうに割り込んだのはイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)で、その言葉に対してはルカルカのパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が回答をした。 「ラグナロクならば【オリジン】の技術体系で出来上がっているぶん、そちらのやりたいことについても米軍基地で行うよりは作業しやすいはずだが、どうだろうか?」 その言葉を聞いたイーリャは少し考えこみ、たしかにそれも一理あるわね、と頷いた。 「確かに、作業はしやすいかもしれないわね。でも、ラグナロクは前線に出るんでしょ? 危険なのじゃないかしら?」 「いや、いくら前線に出るとはいえど、まさか艦船が一番前に出張って戦うということもない。ハイナが指揮をとる上でも状況を把握しやすいように、それなりに後方に位置どるつもりだ」 会話がしばらく続いて、イーリャはダリルのその言葉で納得をしたようだった。 「それならば私も……」 そう言いかけた大統領に、副大統領が待ったをかける。 「閣下、そろそろ最前線に出るのはおやめください。本部で腰を据えて全体の指揮をとっていただきたい」 その言葉にトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が賛同を示す。 「これまでの戦いで、閣下は『勇猛で強い大統領を我々はリーダーとして頂いている』という印象を確実にされたと思います。イリノイ州の空軍基地奪還の影響もあって、北米大陸各地から反ダエーヴァ勢力が続々と合流しつつある現在、閣下がこれ以上最前線に立つ必要はないと思われます」 そう、ヒューベリオンを倒しイリノイ州の空軍基地を奪還したことによって、リバイバル・ストライプは名実ともにアメリカを人類の手に取り戻すための代表的な勢力となっている。 「それに、本格的な攻勢をかけた隙に手薄になった本陣を突かれるという事態は避けたいこともあります。ぜひとも閣下は後方に残って欲しいのです」 「……しかしだな」 「大統領閣下?」 なおも反論しようとする大統領に、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が穏やかではないほほ笑みを浮かべる。 「うっ……そうだな。そうしよう」 どうやら大統領はミカエラに苦手意識を抱いているようだった。 「しかし、君とはかなり話が合うようだ。同じトマスの名前を持つよしみで、今後とも宜しくお願いしたいものだ。いくら君たちが、ずっとこちらにいる訳にはいかないとはいえ、ね……」 副大統領であるトマス・ベイカーは、自分と同じトマスの名前を持つトマス・ファーニナル大尉に対して近親感を抱いたようだった。 「こちうらこそ、よろしくお願いします」 二人のトマスはそんなふうに言葉をかわすと、互いに手を差し出して握手をする。 「さて、大尉……これでめでたく大統領は本部に控えることが決定となったわけだが、君たちは我々と大統領に何を望むのかね?」 副大統領の質問に、トマスはいくつかのことをリストアップする。 「第一に、サイコダイブをする人たちの安全確保でしたが……これはルー少佐達に任せましょう。カルカー中尉もも、ラグナロクに同乗するんだろう?」 トマスはそう言って、視線をカル・カルカー(かる・かるかー)に向けた。 「そうですね。僕は、グレースさんを守りたいですから」 カルカーはそう言って自分の思いを表明する。 グレースが強くなった手段を知ってしまったカルカーは、もはやその手段を試そうとは思わなくなっていた。それでも…… 「グレースさんが、かつて「守るべき人」のために強くなったのは理解出来ました。でも、今回の作戦でグレースさんにもしものことがあれば、その人がどう思われるのか……だから、僕はなんとしてもグレースさんを守りたいです」 「ありがとうございます……」 カルカーの暖かい言葉に、グレースは嬉しさのあまり涙を浮かべる。 「ということで、サイコダイブをする人たちの安全はカルカー中尉達に任せます。自分たちはパワードスーツを装備しつつ本部に詰めて大統領閣下の護衛も行います。そして、大統領閣下には適宜折を見てスピーチを行っていただきたい。閣下のスピーチで、部隊全体の士気の維持を保ちたいのです」 「それくらいならばお安いご用だ」 トマスの言葉に、大統領は胸を叩いて請け合った。 「第三にですが、今回の戦いの全局をまとめて観察推移を見、指示や情報整理がなされたものを【政治】や戦争の【指揮】として必要に応じて前線・各部隊に通達すること。これをお願いしたい。今回の作戦に国連・コリマを経由して能力者を集めたことは今後国連との歩調を合わせる上で良い材料になえるでしょう」 その言葉に、副大統領は頷いた。 「兵達の国連に対する不信も、今回の件が成功すれば少しは和らいでくれるだろうし、合衆国が国連に譲歩する材料として向こう暫くの間は使うことができるだろう。それに、君たち契約者の中からも国連や日本との連携を望む声が散見されている。今回の作戦をその奇貨とし国連や日本に歩み寄っていくことは、今後の反ダエーヴァの戦いの中で重要になっていくだろう。そうですね、大統領?」 そして、副大統領の言葉に、大統領も同意する。 「そうだな。個人的な不信感と政治的な思惑は分けて考えねばならんし、今回のことは兵たちに対する良い説得材料となるだろう」 そんな風に大統領の同意も得られて、国連や日本との歩み寄りに向けての方針についても作戦のあとで考えるということに決まったのだった。 このことに、【獅子の牙】の一員である董 蓮華(ただす・れんげ)とそのパートナーであるスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は喜びの表情を見せた。 蓮華たちは作戦のあとで国連や日本との繋がりを強めていくように提案するつもりでいたのだが、すでにそのことが視野に入れられているのならば、自分たちはあとは今回の作戦に全力を尽くすだけだ。そう決意したのだった。 「さて、大統領閣下。今回の作戦遂行にあたってこちらからもお願いがあります」 次の話題を出したのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だった。 「なんだね? 可能な限り便宜は図るつもりだ」 「はい。第19空軍のスタッフやシェパード空軍基地に勤務経験のある兵士た血の力を借りたいのです。現地で強行偵察を行うために、周囲の地形に詳しい人達からの聞き取りをしたいのです」 そして、それに続いて富永 佐那(とみなが・さな)も提案をする。 「同じくシェパード空軍基地に勤務経験のある兵士の方に、こちらも地形の聞き取りを行いたく思います。特に、勤務していた人間ならばこそ理解できる基地のウィークポイントなどを重点的に……」 ローザマリアと佐那の言葉に、大統領はなるほど……とつぶやく。 「よろしい。ベイカー副大統領、手配を頼む」 「はっ!」 そして、副大統領の指示によって周辺の地形を知る者達が集められたのであった。 「ありがとうございます。それと、可能であれば輸送機の操縦経験があるアルタス空軍基地に所属していた輸送機部隊の第97航空機動航空団所属パイロットを数名お貸し頂きたく思います。もしその条件に該当する人物がいれば、で結構ですが」 そして、それらも手配されるのだった。 全軍が出発する直前、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は支援攻撃に参加する米兵たちのブリーフィングルームに挨拶に向かうと、短く一言 「よろしくお願いします」 とだけ言葉をかわし、それから、出撃の最終準備に入ったのだった。 そして、戦いが始まる。 |
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