波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【四州島記 完結編 二】真の災厄

リアクション公開中!

【四州島記 完結編 二】真の災厄

リアクション


第四章  封印の謎

 一方その頃――。
 広城の、とある一室。
 ほぼ江戸時代な城内の造りとは、およそ似つかわしくない機材やPCが所狭しと並び、配線ケーブルが床を蜘蛛の巣のように走る、即席の研究室。
 その研究室には多くの契約者達が集い、大テーブルに拡げられた1枚の地図を取り囲んでいる。
 彼等は皆、氷神『白峰輝姫(しらみねのてるひめ)』の力によって、再び『炎の魔神』を封じるべく、調査と分析を重ねてきたのである。

「俺が北嶺(ほくれい)藩で調査した所によると――」

 最初に口火を切ったのは、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)である。

「北嶺山脈の白峰の山頂に始まり、8合目・5合目・3合目・麓の4ヶ所に、白峰輝姫を祀る社が建っている。この内、何者かによって荒らされたのは3合目と5合目の2ヶ所。いずれも、磐座(いわくら)が除かれ、その下に埋められていた機晶石が破壊・あるいは持ち去られるという方法で荒らされていた。それで、この社の並びを見て欲しいんだが――」

 小次郎は、地図の上に社を示すマーカーを一つ一つ置いていく。

「山頂から3合目までは、全て北嶺山脈の尾根沿いに、南西に向かって並んでいる。このそして、この四つの社を結ぶ線にそって山脈は東野へと続き、北嶺山地になる訳だ」
「北嶺山地には、ご主人様達が行った白女輝岩(はくじょきがん)があります!」
「ほくれー山ちの地下には、きしょー石とそせーのよくにたこうぶつのそうが、かくにんされてるれしゅ!」
「その通りだ」

 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)緒方 コタロー(おがた・こたろう)の言葉に、小次郎は強く頷く。

「フム。ちなみに、この北嶺山脈から白女輝岩を経る直線をさらに伸ばしていくと――」

 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、大型の定規を地図に当てる。

「東野の平地を横切って、太湖のほとりへと行き着く訳なんだが、そこには――」
水分(みくまり)神社があるの!」
「水分神社も、やっぱり磐座が動かされていました」

 今度は、及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が声を上げる番だった。

「そう。そして、この直線上には、同じ様に何者かによって荒らされた社や祠が点々と存在している」
「でもでも、他にも襲われた神社や祠はいっぱいあるよ?」

 徳永 瑠璃(とくなが・るり)が、地図上に無数にある点を指差す。
 確かに東野には、直線上にはにもかかわらず、荒らされている場所は多い。

「それはきっとアレですよ、瑠璃〜。怨霊を喚(よ)び出す為に壊されたお社、という事ですよぉ〜」
「恐らく、スノゥの言う通りだろうな。怨霊は喚べるし、俺達へのミスディレクションにもなるしで、景継にとっては一石二鳥だった訳だ」

 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)の推測を、小次郎が肯定する。

「さて、水分神社についた所で、及川くん?」
「ハイ!私達は、東野でお知り合いになった水の精霊の陽菜(ひな)さんにお願いして、太湖の底を調べて来てもらったの!」
「で、それ結果なんですけれど――」

 翠の言葉を受け、ミリアがスクリーンに幾つかの映像を映し出す。

「これは、太湖の底で発見した磐座です」
「磐座?ただの大きな岩ではないのですね?」

 クリストファーが、念を押す。

「はい。太湖に棲まう水神様に、確認して頂きました」
「水神様?水神に、会ったのか?」

 驚く小次郎。

「はい〜。それはもう、とてもとても大きな水の精霊様でしたわ〜」
「太湖の水が、いきなり山みたいに盛り上がったかと思ったら、それが水の精霊様だったんですっ!」

 スノゥと瑠璃が、身振り手振りを交えて、太湖の水神の大きさを強調する。

「陽菜さんが、紹介してくれたの!」
「太湖の水の精霊様は、精霊というかもう地祇レベルの方だったんですけれど……とにかく、その方のお話によると、太湖の底にはこうした磐座が点々とあって、そのまま川を通って南濘の大沼沢地まで続いているそうなんです」
「でねでね、この磐座の下には、まだちゃんと機晶石が残ってるんだって!太湖の精霊様が言ってたの!!」

 翠が嬉しそうに言う。

「地祇様は、その機晶石の事を『要石』と仰っておられました」
「わかりました。有難うございます、皆さん。これは、大収穫です」
「ワーイ、褒められたの〜!!」

 褒められてはしゃぐ翠。

「みんな、ここまで話を聞いてもらえばもうおおよその見当はついてると思うが――」

 もう一度、口を開く小次郎。

「要するに四州島には、白峰から南濘の大沼沢地までを繋ぐ、魔力の『道』が通っている。機晶石と似た組成を持つ岩石層が、魔力の流れる電線のような役割をしている訳だ」
「そして、所々に埋められた『要石』は、魔力がちゃんと魔神を封印している所まで届くよう、方向を制御しているのではないかと思われます」
「僕も、その推測で合ってると思います」

 小次郎とクリストファーの仮説に、ポチの助が頷く。
 今度はダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、スクリーンにとある映像を映しだした。

「コレは、俺とポチの助が、この間北嶺山脈から持ち帰った機晶石――要石、というんだったな――を、分析した時の映像だ」

 皆が一斉に、スクリーンを見つめる。
 映像の中央に映っている大きな機晶石が、北嶺山脈から持ち帰ったという要石だろう。

「この要石なんだが、主な特性が3つある」
「3つ?」
「ああ。まず1つ目だが、この石は、氷結属性の魔力以外を受け付けない」

 石に向かって、様々な魔法が注がれるが、皆石の周囲で消えてしまう。

「今度は、《氷術》を掛けます。よく見ていて下さい」
「あっ!通ったの!石の向こう側に、氷術が出てきたの!!」
「それだけじゃありません!曲がりましたよ!」
「それに、威力が強くなってるような……?」
「よしみんな、合格だ。よく見ているな」
「ダリルさん、まるで先生みたいですぅ〜」

 翠たちのコメントに、まるで先生のようなコトをいうダリル。

「この石の残り2つの特性の内1つが、魔力を特定の方向に曲げる力。そして最後の1つが、魔力を増幅する力です」
「成る程。テレビアンテナのブースターみたいな能力もあったのか」
「それは、気付きませんでしたね。でも言われてみれば、機晶石と機晶石と組成の似た鉱物とでは、魔力の減衰率も違うはずですよね」

 しきりに感心する小次郎とクリストファー。
  
「さて、話をまとめよう」

 ダリルの言葉に、皆が注目する。

「まず、昨年から続く四州島各地の異常気象は全て、この『要石』が破壊され、白峰から魔神の封印地まで続く、白峰輝姫の力の流れが断ち切られたのが原因だ。要石の破壊は最初東野で行われ、そのため東野には白峰輝姫の氷の魔力が溢れていった。その事が東野の気温を下げ、降雨量の記録的な増加を引き起こし、そして大洪水になった。今年になって、北嶺で猛吹雪が吹き荒れているのは、この間の白峰へ薬草を取りに行った時に、一行の中に紛れ込んだ敵が、白峰の3合目と5合目の要石を破壊したためだ」
「その敵っていうのが、例の由比 景継(ゆい・かげつぐ)なんでしょ!悪いヤツなの!!」

 憤慨する翠。

「魔神の復活については、直接の原因はドクター・ハデス(どくたー・はです)が封印を破壊したためですが、ハデスさんが破壊しなくても、遅かれ早かれ封印は解けていたのではないかと思われます」
「だからと言って、あのバカが無罪になった訳じゃないがな」

 ダリルは、あくまで辛辣だ。

「それはともかく、ではどうやってこの魔力の流れを元通りにするかだが……正直な所、なかなか難しい」
「まず『道』の方ですが、これは恐らくほぼ無傷なのでは無いかと思われます。地面を大規模にほじくり返したような後もありませんし、要石さえ取り除けば良い訳ですから、そもそもムリに壊そうとする必要がありません」
「それでは、難しいのは要石の方ですか?」

 クリストファーが訊ねる。

「そうだ。要石を今の技術で造り出す事は不可能じゃないが、俺やポチの助クラスの技術者でも、せいぜい一日に一人一個作るのがやっとって所だ」
「一日一人一個か……。魔神の復活前ならともかく、事ここに至っては全く現実的じゃないな」

 小次郎が頭を抱える。

「北嶺藩の古文書なども調べましたが、要石の作り方のようなモノは見つかりませんでしたしね……」

 クリストファーのため息が、長くを尾を引く。

「さっき俺が、『あのバカは無罪じゃない』って言ったのは、そういう訳だ」

 吐き捨てるように言うダリル。
 場が、重い空気に包まれた、その時。

「ねぇねぇ、ちょっと聞いて欲しいの!」
「どうした、翠?」

 見れば、翠が手を上げている。

「翠、難しいコトはよくわかんないんだけど――」
「なんでも構わん。言ってみてくれ」
「さっき、『要石はテレビアンテナのブースターみたいなものだ』って言ってたの!なら、ちっちゃいのをいっぱい作るんじゃなくて、おっきいのを作ればいいと思うの!」
「……つまり、大きくて出力の高い要石を作れば、数を沢山作らなくてもいいってコトか?」
「そうそう!よくわかんないけど、そんなカンジなの!!」

 小次郎の通訳に、首をブンブン縦に振って肯定する翠。

「しかし、大きい要石を作るのはその分大変なんじゃないんですか?」

 クリストファーが、もっともな疑問を口にする。

「それは、確かにそうなんですけど……ちょっと待って下さい――……?」
「どうした、ポチの助?」

 目の前の図面を、食い入るように見つめるポチの助に、ダリルが声を掛ける。

「いえ。今ちょっと要石の構造図を見てて気づいたんですが……。ダリルさん。この構造、何かに似てません?」
「ん――?何かって……。左から入ったモノを、右から増幅して出す。しかも、指向性を持たせて――……って、ああ!!」
「わかりました!機しょーえんじんれすね!」

 コタローが、ピョン、と飛び上がって言う。

「そうだ!属性の選択特性こそ無いが、それ以外は、機晶エンジンに使う機晶石にそっくりだ!!」
「そ、そうなのか!?」

 思わず身を乗り出す小次郎。
 その隣で、クリストファーも半信半疑と言った顔をしている。

「そうれす!まちがいないれす!!」
「確かに、機晶エンジンに使われている機晶石を使えば、大型の要石を短時間に作るコトが出来る!」
「機晶エンジンなら、イコンやら大型飛空艇やらが、今この島にはゴマンといるぞ!!」
「確かに、大破した飛空艇から使える機晶エンジンを提供してもらえば――」
「『道』の再生は、不可能じゃない!!」
「えっ!それじゃ、魔神を封印できるの!?」
「そうだ、翠!キミのアイディアのお陰だ!今日のキミは、満点だよ翠!!」
「ワーイワーイ!翠、満点なの!!」
「よかったですね〜、みどり〜♪」

 飛び上がって喜ぶ翠に、その翠を褒めるスノゥ。 
 実現可能なプランの登場に、研究室は、にわかに活気づくのだった。