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第4章 温泉街の昼と夜
 作業は昼、急ピッチで進められ、夜はそれぞれ生徒たちは温泉街を楽しんでいた。
 護衛組、設置組とは別行動をとって、レインについて周り宿屋業務、主に力仕事を手伝っていたセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は、夜は温泉で疲れを取り、その後ダブルスの卓球大会を開催していた。彼のスマッシュはすさまじく、挑戦者をはねのけてきたのだ。
 セオボルトは、家庭能力が低いので主に、掃除、学生達の泊まる部屋を掃除したり、風呂の清掃に当たっていた。
「レイン、綺麗な宿屋にしてお父さんを喜ばせてあげたいものですな」
 それが彼のここでの口癖だった。最近では自分から積極的にレインにアドバイスを貰い、村人たちや仲居に混じって、炊き出しにも参加するようになっていた。
「セオボルトくん! いくぞ!」
 シェイクの二刀流で必殺スマッシュを用いて、多次元回転殺法で勝負を挑むのは、桐生 円(きりゅう・まどか)。パラ実に襲われてた時に、道中騒ぎを聞きつけ「ドラゴンとはいかようなものか」と、そのまま一行に加わった百合園女学院の生徒だ。昼はゴスな服を着ていたが、今は宿に備え付けの浴衣を着用しているのだが、それがなかなかギャップがあってセクシーだ。
「いいぞー! 円−! 色っぽいぜー!」
 観衆から一段と大きな声援があがるなか、カッコーン! と鋭い音がして彼女のスマッシュが炸裂する。パートナーは色無 美影(いろなし・みかげ)。どじっ娘キャラで、昼は温泉の仲居業にいそしんでいるが、その手に持っているのはラケットではなくスリッパ。
「頑張るんだもん!」
「はは! 『ゴス・プレイヤーとドジっ娘仲居のちぐはぐコンビ』には負けるわけにはいきませんな! 怨霊、悪霊、幽霊、亡霊……。これらと比べれば、このような玉遊びなど、生温い! くらえ! ドリブン・レクイエム<翔け到る鎮魂歌>!
 セオボルトとコンビを組むのは親墨 羊(おやすみ・よう)。これまたスリッパをラケット代わりにしている。
「俺は携帯電話の資料作成作りで、寝ていません〜へとへとです〜」
 と言いながらも、飛んできた球をぴしっと跳ね返す。
「おお! スリッパ同士でラリーってできるんだな!」
「セオボルトいけー!」
 そんな熱戦に観衆たちも大いに沸いた。毎夜、卓球大会に生徒たちは昼の疲れも忘れて熱中した。
「いいぞ〜夏! 熱血パワーだ!」
「舞香のリボン卓球すげえ!」
「ベア・ヘルロットさん、かっこいい〜!!」
「リネンのスマッシュ、決まった!」


「あーあ、ケン兄ちゃんと混浴したかったなあ」
 湯けむりの中、桜間 さやかはコンフリー村の露天風呂に入り、その質の良い湯を楽しんでいた。
 がらっと脱衣場の扉が開く音がするので、さやかは振り返ってびっくりする。と言うのも底にいたのは白衣の美男子…のはずの、島村 幸だったのだ。
「幸さん!? なんで女湯に!? お、男湯はあっちですよ!」
 幸は一瞬、むっとした顔をしたがさすがに相手が女の子、と言うこともあり、何もせずにかけ湯をして体を洗い始める。
「さやかさん、私、女なんですよ。みなさん、男と勘違いされるのですけれど、正真正銘の女なんです」
「ええ!? うそぉ!」
 さやかは湯けむりの向こうにいる、幸の体をちらちらと盗み見た。たしかに、出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいるようだ。だが、見た目も声も、まるきり男性、しかもとても『素敵な年上のお兄様』のようにみえていたため、さやかはいまだに戸惑いを隠せずにいる。
「でも、さやかさんのお兄さん、剣児さんは気がついていたみたいですよ。さやかさんが、私と仲良くして、剣児さんに焼き餅を焼かせる作戦もね」
「え〜いやだ〜! 幸さんもケン兄ちゃんもひどーい!!」
 さやかはそういうと、お湯の中にたぷん! とお湯の火照りだけではなく真っ赤になった顔をつけてしまった。


「桃源郷(女湯)最高!」
 そんな女湯を覗いているのは、弥涼 総司。念願叶ってローグのエドワード・ショウや、作業員として紛れ込んでいたパラ実のナガン ウェルロッドと仲良くなり、女湯を覗く事が出来た弥涼 総司はつい、大声を上げてしまう。
「やっぱり! こういうことだったのね、総司くん! あやしいと思って後を付いてきたら…」
 恐ろしい顔をしたアズミラが背後から急に現れた。
「うわあ! アズミラ!? こ、これにはわけが…」
「どういう訳があるって言うの!?」
 最初は「美しいお嬢さん! 二人が出会えた奇跡を祝し…」と呑気にアズミラを口説こうとしていたエドワード・ショウもさすがに身の危険を感じ、さっさとその場を立ち去ってしまい、ナガン ウェルロッドも「チョリィース、オツカレシタァ」とするするっと、いなくなってしまっていた。さすがはローグ。逃げ足は速く、総司は取り残されてアズミラにこっぴどくとっちめられた。

 見た目が女の子にしか見えない男子生徒、イルミンスール魔法学園の緋桜 ケイは、レインの宿を手伝っていた。
「レイン、何か手伝えることはあるか?」
「ケイくん、ムリしないで。朝からずっと、働きづめよ? たまにはゆっくりしてね」
「そうですとも、『夜桜お七』。自分も、色無 美影もこの宿のお手伝いしておりますからな」
 勝手にあだ名をつけてしまう、セオボルトがふたりの会話に入ってくる。
「セオボルト、あんたのあだ名の付け方、どうにかならないか? 「サクラ」しか、俺の名前と被っていないぜ」
「その美貌と魔法使いと言う組み合わせ。なんとも神秘的ではないですかな。だから『夜桜お七』と名付けたのですな」
「わかったよ。…レイン、なんかあったらすぐに呼んでくれよ」
「ありがとう、ケイくん!」

 蒼空寺 路々奈は作業に疲れた人たちを、ギターでの即興演奏で慰めていた。
「路々奈ちゃ〜ん! 渋いのを一曲お願いできるかい?」
「はあい、それじゃあ、懐かしの歌謡曲をお楽しみ下さい」
 ぽろろろろん…と路々奈がギターの弦をつま弾き、長い足を組んだ状態で歌い始めると人々はその声に聞き惚れた。その歌声は一部の熱狂的なファンをも生み出し、「路々奈節」と親しまれた。
 ポニーテールがかわいい色無 美影はドジっ娘キャラを発揮して、仲居業に取り組んでいた。不器用なところがありなにかと失敗も多かったが料理は得意だったこともあり、厨房を借りて賄いをアレンジしたところ、それが料理長の目にとまり、今は厨房で料理の手伝いもしている。
「なかなか、良いセンスだな、美影!」
 厳しい料理長も、余った材料で創作料理を作りだす美影のセンスを認めているようだった。
「えへ。今度はあたしの得意料理、半熟オムライスをメニューに加えて下さいね!」
「半熟オムライス、ありゃあ、うまかったなあ〜ぜひ、頼むよ!」
「はぁい!」