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第3章 コンフリー村のドラゴン長老!?
「みなさん! コンフリー村が見えてきました!」
 パラ実たちからの襲撃を辛くも逃れ、行程を進めてきた一行の中でレインの声が響き渡った。
 レインが指さす方向には、険しい山のふもとにもくもくと湯気が上がっている、ひなびた村があった。それが視界に入ってきたとき、一行から大きな歓声が上がった。
 
 一行が村の入り口に入った途端、村から住人たちがばらばらっと駆け寄ってきた。既に迎えに出てきていた村人もおり、あちこちから生徒たちに拍手や歓待する声があがる。村人たちは一様に笑顔で、それをみた生徒や技術者たちも心が温かくなった。
 レインも村の人たちから、ねぎらいの言葉を受けている。
「よく頑張ったねえ、レインちゃん」
「レイン、よくやったぞ!」
 その側には、ルーク・クレイン(るーく・くれいん)がまるで影のように寄り添っていた。ルークが主にこの旅で、レインの面倒を見てやっていたのだ。もともとは学科の成績が悪かったため、このプロジェクトに参加したルークだったが、親思いのレインの気持ちに打たれ、襲撃に警戒しながらの道のりに疲れたレインを気遣っていたのだ。
「良かったね、レイン」
「ありがとう、ルーク。私、とても心細かったけれど、あなたのおかげでここまでこれたわ」
 初めてのこと続きで苦労していたレインも、ルークの優しさに笑顔を取り戻していた。そして村の人たちとの再会を喜び、生徒たちに頭を下げるレインにフォーク・グリーンが銀色の眼差しを向けた。
「レイン。私たちに出来るのはここまでだ。忘れるな、強き意志こそが未来を決めるのだ」
「ありがとうございます!」

 コンフリー村についてさっそく、本郷 翔(ほんごう・かける)が呟いた。
「アンテナ建設とともに、ドラゴンがぶつからないような方策を取なければなりません。アンテナを立てる前に実際にドラゴンと会って、交流してみたいものです」
 そこにエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)が「本郷 翔さんは、ドラゴンの生態を知りたいと言うのが本音なのでは?」とささやきかけてくる。
 翔は「ナンパで軽薄な英国人ジャーナリスト」のはずのエドワード・ショウの洞察力に驚いて、刮目した。
「確かに。私にとってはそれが本当の目的です」
「でしたら、本郷 翔さん、私はあなたの力になれるでしょう。私もバラミタ最強と名高いドラゴンの生態調査に興味がある。ドラゴンについて、この町の人たちに聞き込みをしにいきませんか。もちろん、夜は素晴らしい温泉と美味なる山の幸に舌鼓を打つことが、楽しみです。なにより美しい女性を口説かないのは罪です。もちろん、レディ・翔、あなたをエスコートさせていただけるのであれば、光栄ですが、いかがでしょう?」
 一瞬、翔はめんくらったような顔をしたが、真っ黒な瞳を輝かせ、ふっと口の端をあげて笑うとこう言った。
「良いでしょう。それではあなたと行動を共にさせて下さい」

 シャンバラ教導団から参加していた、カリバン・ロックウェル(かりばん・ろっくうぇる)は、先にアンテナ設置予定ポイントで待機していた。資材班たちを山頂から鏡を用いて、誘導している。
「腹減ったねぇ…」
 カリバンは資材輸送の護衛も人手は足りているし、表立って活躍するつもりもなかったため「のんびりやるさ」とつぶやき、飄々とぼさぼさの髪を掻きながら、鏡を操作していた。実家が倒産し、ホームレスを経験したことがある彼はどこか人生を達観しているようにみえた。
 村から山頂までは桜間 剣児と綺羅 瑠璃が念のため、囮を続け、村で借りた車両でニセ物資を運搬していた。瑠璃は剣児から飛空挺を借りて、ドラゴンが襲ってこないように警戒を担当する。
 山の麓に資材置き場は設置された。更にアンテナを組み立てる作業場や、ミーティングスペースのためのテントが組み立てられられる。夕方になると、そこから引き上げて各自割り振られた温泉宿に泊まることとなった。


 作業者や技術者より先に、アンテナ設置とドラゴン対策を担当する生徒たちが、レインたちとコンフリー村の北側にある山頂に登っていた。そこはとても険しく、設置は困難を極めると思われた。
「本当に、こんなところにアンテナなんて立てられるのかな? 山自体が、私たちを拒んでいるみたいな気さえするもん」
 倉田 由香(くらた・ゆか)が不安に駆られた声を出す。
「大丈夫です。私たちがアンテナ近くに、手製の簡単な小さな社の設置します。小さいけれど、とても強い霊力をもっています。そして、工事期間中に終わらせるように執り行い、完成するまではこの場で寝泊りして、山の神のご加護を賜ります。きっとうまくいきますよ」
 半霊半物質の久慈 宿儺(くじ・すくな)と神通力の持ち主のヒツナ ヒノネ(ひつな・ひのね)の言葉に、由香や他のメンバーもほっとした表情を浮かべた。
 重力に逆うツンツン頭の久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)が口を開く。
「アンテナのドラゴンよけをするべきだと思います。たとえば、ドラゴンの嫌いな物とかでデコレーションするとか、そういう工夫は必要じゃないでしょうか」
 荊原 ちいこ(いけはら・ちいこ)が次に発言する。
「賛成。ドラゴンが認知できるよう、アンテナに派手な細工をするのもいいんじゃないかな。ツァンダに行った連中に、資材を受け取る際に、警告灯とペンキも用意するよう頼んであるんだ!  もしアンテナが巨大な塔のようなものなら、目立つだけでなく、 町のシンボルになるような斬新なデザインにしてやりたいよなっ!  季節外れだけど、アンテナクリスマスツリー! なんてどうだろう♪あ、勿論てっぺんの星は私が乗せるんだからなッ。これは譲れない。アンテナの種類を問わず目立つ細工はした方がいい♪ツリー計画が無理そうなら、アンテナを蛍光レインボーに塗り上げてやるぅ!  私の時代を先取りした高いセンスに町の住民も感動することだろうな♪」
 ちいこのとんでもないアイデアに、一同は口を揃えてこう言った。
「それはどうかなあ」
「なんだ♪ 私のセンスじゃダメっていうのかよ♪」
 と、ロングウェーブの赤い髪を波立たせ、小さいからだで反論する。
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)はギター抱えて、歌うように話す。
「ドラゴンの飛行ルートを邪魔しないように、アンテナ設置を工夫すべきね。高出力アンテナで広範囲を賄うのはマクロセル方式、小出力のを複数設置してエリアをカバーするのはマイクロセル方式というらしいです。そこで資材配分を再検討してマイクロセル方式で設置できないか技術者さんに提案したいわ。そうすれば、ドラゴンにも影響を少なくて済むかもしれないし」
 続いて二十六木 大夢(とどろき・ひろむ)は、眠そうな顔をして関西弁で次のように述べた。
「アンテナを針のような形にせんと、平べったい形にしたらええんちゃうの? パラボラアンテナみたいなお椀の形でのうてそれを真っ平らに伸ばしたような、丁度 カーナビのアンテナのようなやっちゃな。それで平らな面を上空に向ければ突出した場所もあらへんし、ドラゴンも飛ぶのに苦労せえへんっちゅうわけや。 ただ、出力が弱いかもしれへんから数を置かなあかんかも知れへんな。その辺は実際に使こてみてからや。あまりにも電波が弱ければいくつか置かなあかんし、場所も限られてるさかいに、アンテナの大きさにも気ぃ付けんとな。どでかな物は置けんやろうし」
 黒いセミロングの髪の美少年、沖田 総悟(おきた・そうご)が更に続ける。
「それは、技術者たちに進言すべきですね。ただ、ドラゴンだって、わざわざアンテナにぶつかりたくはないと思います。そこにアンテナがあるって早く気がつけば、自分からよけてくれるはず。アンテナをドラゴンの嫌いな音や匂いで装飾するのはどうでしょうか。町の人はそういうことを、知らないでしょうか?」
 それに対して倉田 由香は
「ドラゴンとの意思疎通を図るのが、先よね。私のパートナー、ルーク・クライド(るーく・くらいど)はドラゴニュートだし、きっと今の状況を説明すれば、問題ないと思う」
「レインにきいたけれどドラゴンはそれほど、知能は高くないみたいだわ。でも『長老』と言われるドラゴンがいるらしいわ。そのドラゴンに会うことさえ出来れば、何とかなるかもしれない」
 ツインテールの鴻月 若菜(こうづき・わかな)がそう呟くと、また、先に魔法のほうきを利用して空を移動していた如月 陽平(きさらぎ・ようへい)も同意した。
「まずは『長老』に会って、ドラゴンにアンテナを立てることを了承してもらうべきだよ。その上で、ドラゴンがぶつからないように、ドラゴンよけのアンテナを立てるべきだ。だけど、ぼくもその『長老』にどうやったら会えるのか、そこまでは町の人から聞き出せてはいないんだ」
「それは私たちに任せてください」
 本郷 翔とエドワード・ショウが早速、情報を掴んできたらしい。エドワードがメモを読み上げる。
「ドラゴンよけの話に関してですが、ドラゴンは嫌な色と音があるそうです。そして『長老』は山頂近くのにいるようです。しかし、その『長老』に会うのは、至難の業…とか。『長老』は普通の肉や魚、くだものの供え物では満足せず、出てこようともしないそうですよ」
 おおっとどよめきがあがると、ポニーテールをゆらして、水神 樹(みなかみ・いつき)が声をあげる。
「それでしたら、私が調べてきたことがお役に立てるかもしれませんわ。私とパートナーのカノンが図書館で徹夜して調べました」
「俺は樹に脅かされて無理矢理、手伝わされたんだけどね」
 優しい目つきが特徴のカノン・コート(かのん・こーと)がぽつり、と呟く。樹にはそれは耳に入っていないようだった。更に樹が続ける。
「取り急ぎ、私たちは時間がなかったので、主立ったことを書き留めてきたものばかりなんですが、きっとこのなかのメモにあるはずです…ああ、これこれ! ドラゴンの『長老』が好む物…は、と」
 みんながその一文をのぞき込む。その瞬間に、一同が「ええ!?」と素っ頓狂な声を上げることになった。
「『クサー・ヤ・ノ・ヒモノ』!?」
「あの、パラミタ一、臭い草?」
「さ、最悪!」
 メンバーらが一斉に声を上げる。
「でも、これがないと…」
「よし、わかった。みんなで探しに行こう」
「『クサー・ヤ・ノ・ヒモノ』は、一部のイルミンスール魔法学校の生徒が魔術に使うことが多い。あれがないと、どれだけアンテナの技術に長けていても、ドラゴンのお墨付きをもらう事は出来ないだろう」
 小柄でボブカットが良く似合うリネン・エルフト(りねん・えるふと)が覚悟を決めたように呟く。残りのメンバーも冷や汗をかきながら、それを求めることに同意した。
 そんな一同の背後から、不意に声がした。
「よろしければ、『クサー・ヤ・ノ・ヒモノ』、おれが持っているのをおわけしましょう」
「君は?」
 目元のみを覆うシンプルな仮面や、マントのように羽織った制服が特徴的な二十歳くらいの男性が立っている。
「おれは、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)といいます。パラミタでは珍しく都市戦略とは無縁の土地に携帯電話の基地局を設置するというので来たのですが、我が親愛なるチビッコドラゴン、もしくはツッコミトカゲ、いえ、パートナーのマナが、どうしてもあなたたちのお役の立ちたい、としつこいものですから、はるばるこの山の上までやってきました」
 といいながら、肩に乗っているパートナーを紹介した。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ…なんてなw」
 マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が小さな声で呟く。
「これも、ドラゴニュートですから、皆さんのお役に立てると思います」
「助かります!」
「ではこれを、お渡ししておきますね」
 と、クロセル・ラインツァートが差し出した『クサー・ヤ・ノ・ヒモノ』にその場に居たものが、あまりの臭さに全員倒れてしまったのだった。