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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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第2章 裏切りのシー・イー!?

ここは美衣弛馬鈴本部前。不満を持った男たちの集う場所。
 続々と集う男たちの先頭に立って、珍しく王 大鋸(わん・だーじゅ)が演説めいたことをしている。
「そもそも運営の連中は美衣弛馬鈴について何もわかってねえんだよ! といっても俺様は難しいことはわからねえから、先生からなんかいってやってくれ」
 パラ実の(自称)教員、岡間 信一郎(おかま・しんいちろう)が演壇がわりのクーラーボックスに上がった。手には原稿らしきものをもっている。ちなみに性別は完全に男だが、口調と立ち振る舞いはなんだか女っぽい。
「まったくヒドイわ! せっかく今日のためにビキニを新調してきたのにっ! イイかしら、今日の授業は美衣弛馬鈴の歴史よッ!」

美衣弛馬鈴とは!!

「かつてシャンバラに存在した一大馬賊団。
 彼らは天女達の美しき衣の帯を強引に弛め奪い去る行為で荒稼ぎをし、やがては大国家を築いた。その際天女には聞こえない特殊な鈴を合図とした。この伝承にちなんで命名された競技である。
 各地に残る羽衣伝説の民話がここより生まれたのは余りに有名であろう。(波羅蜜多スポーツ教本『スポーツですっぽんぽん』より抜粋)」

 南 鮪(みなみ・まぐろ)がでっち上げた怪文書で、まったくのでたらめである。しかしパラ実生にとっては真実以上に真実であった。
「だって漢字的にはあってるじゃん」
誰もがそう言い切った。国語の授業ではひらがなの練習をしているパラ実生といえども、国語辞典のエロい単語に赤線を引いて覚えるくらいの努力は日々欠かしてはいないのである。
 そういう次第で、男子諸君は『本物の美衣弛馬鈴を取り戻せ!』という義憤にかられて、わめいたり叫んだりしはじめた。そこにとんでもない横やりが入る。薔薇の学舎からやってきた明智 珠輝(あけち・たまき)がこんなことを言い出したのだ。
「いいえ! よくご覧ください! この大会はもっと淫靡なものなのですよ、ふふ」
 一同、慌てて大会本部の看板を見る。するとそこにはこう書かれていた。

 美 尉 恥 罵 隷 大 会 運 営 本 部

 たしかに何か淫靡な響きである。最終的に、なんだやっぱりエロい競技じゃねえか、大会本部を打倒しようということで落ち着いた。

 さてやっと意見がまとまったと思ったら、今度は光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が大会本部前に立ちふさがった。こいつは蒼空学園の生徒でありながら、下手なパラ実生より喧嘩っぱやいという、とんでもない奴である。
「ここを通りたい奴は俺と勝負じゃ!! かかってこんかパラ実の雑魚ども!!!」
 別に大会運営を守りたいとか、そんな理由ではない。たんにパラ実生と喧嘩するのに一番てっとり早い選択をしただけの話だ。
 入り口ちかくにいた大鋸は興奮して翔一朗を殴りつける。翔一朗は避けもせずに拳を繰り出す。素早さで勝る大鋸の拳は的確に翔一朗をとらえるが、頑健さでは翔一朗に分があった。うまいこと身をかわしている大鋸だが、一発でも喰らうとまずいことになるかもしれない。
 拳の応酬の最中、不意に大鋸の動きに大きな隙ができた。不審に思った翔一朗だが、すでに繰り出した拳は止まらない。まともに喰らった大鋸は吹っ飛ばされる。直後にパラ実生がわっと押しかけ、善戦むなしく翔一朗は倒れたが、満足しきった表情を浮かべている。
 すぐに正気に返った大鋸だったが、未だに信じられぬといった顔つきである。あの一瞬、パートナーのシー・イー(しー・いー)が美衣弛馬鈴会場に入っていくのを目撃したのだ……


第3章 見ればわかる

 少しだけ時間をさかのぼる。
 シー・イーは集結している男たちを見ながら、辛抱強く大鋸の演説が終わるのを待っていた。
「ふうむ。水着の道は奥深いモノだナ……」
などと独りごちていると、(元)農業科の棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)が近づいてきた。
「のう、シー・イーは美衣弛馬鈴に出場せんのかのう?」
 ご存じない読者もおられるかもしれないが、シー・イーは女である。どのぐらい女らしいかというと、プロフィールに『外見性別:女』と書かれている程で、動物好きな亞狗理からすれば一見してわかることであった。
 となれば……シー・イーには美衣弛馬鈴を堪能させてやるべきではないのか。水着も着せてやるべきではないのか。だがしかしシー・イーはまだ4歳だ。これは保護者が同伴せねばなるまい。よし俺様が同伴者になれば解決だ。結果的に女子の水着姿が見られるがそれはあくまで結果論だ……亞狗理の脳内でそこまで計画が進展した。
 シー・イーはわりとどうでもよかったのだが、目の前で奇声を上げたり号泣している男たちの姿を見ているうちに、ふつふつと『ここまで不良たちを駆り立てる美衣弛馬鈴とはどんなものだろう?』という好奇心が湧いてきた。
「そうだナ、せっかくだからワタシも出場してみようカ」
 しっぽをふりふり、シー・イーは大会の会場へと入っていく。亞狗理も慌てて追いかけていくが、入り口を見張っていた守護天使、レイ・コンラッド(れい・こんらっど)に捕まってしまう。
「俺様はシー・イーの保護者じゃきん!!!」
「シー・イー様は王大鋸様のパートナーと伺っておりますが? 失礼ながらシー・イー様とはどのようなご関係でしょうか?」
 しばらく押し問答が続き、そうこうしているうちに警備員が集まってきて亞狗理はつまみ出された。
 ちょうどその頃、大鋸は翔一朗のパンチを喰らって伸びていた。

第4章 潜入、地下水路

 かつてシャンバラには高度な文明を有する王国があり、道路や水路も整備されていた。大都市に残された地下下水道は当時のものであるという。
 トレジャーハンターの青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)はシャンバラ大荒野の地下下水道をひとりさまよっていた。伝承によれば『アトラスの傷痕』はかつて王都のあった場所だという。となれば、付近のオアシスに地下水路が残っていても不思議はあるまい。そう思って調査したすえ、水路のひとつを発見したのであった。
 幸兔が目指していたのは美衣弛馬鈴会場の更衣室である。下世話な話だが、『ちゃんと女子トイレが整備された場所での大会に違いない』との判断によるもので、うまいこと経路は会場内に通じていた。目立たない場所から更衣室に忍び込む幸兔。
「さて、お宝はどこかいな〜」
と言いつつ物色していると、大会出場予定のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が更衣室に入ってきた。
「こういうのがいると思ったんですよね」
そういいながら幸兔に近寄っていく。相手は女だと見てとった幸兔は、下水道で捕まえた虫やネズミを投げつけた。一瞬動揺したとはいえ、ガートルードは百合園あたりのお嬢様とはモノが違う。すぐに態勢を立て直し幸兔に飛びかかった。そのままのしかかり、殴る。また殴る。さらに殴る。それで終わった。
「ここに忍び込んだのは立派です。私に協力してもらいますよ?」
 幸兔はただただ首を縦に振る。