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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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第16章 蘇る馬賊

「畜生……なんだこの塀はよ……ここはパラ実だぜ。何が起きても文句は言えねぇよな?」
 暑さでイライラしていたカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)は、会場を覆う塀にいよいよ我慢ならなくなった。
「塀が邪魔なら壊せば良いだけだろ」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)がしれっとした顔で言う。
「パラ実のパラ実によるパラ実のための美衣弛馬鈴を実現するですの!」
 戦闘態勢を整えたキャンティだ。
「ヒャッハァ〜! ここからが本番、水着狩りだぜェー!!」
 南 鮪が奇声を上げる。
 不良揃いのパラ実でも、とくに凶悪なメンツが終結したのである。
「それじゃあさっそく、土木工学の実技演習だ!」
 武尊がスイッチを入れると、派手な爆音とともに塀の一部が吹き飛ばされる。黒煙を抜けて会場に突入してくるパラ実最凶メンバーの姿は、乗り物はバイクといえども、まさしく現代の馬賊であった。さらにその後を追って、有象無象の蛮族たちも会場に侵入してくる。

 ナナ・ノルデンらイルミンスールの生徒は魔法の箒で空に飛んで危機を脱するが、逃げるに逃げられない参加者も大勢いる。ペネローペ・桜城は学友を守ろうと、暴漢どもの前に立ちふさがる。
「同じ学校の学生を護るのは僕の務めだ」
 手元に武器はないが、退くわけにはいかない。雑魚をふたりほど殴り倒したあたりで強敵に出くわした。死角から迫ってきた鮪が、素早くペネロ―ペの水着をひっつかんで剥ぎ取る。顔を真っ赤にして一瞬動きを止めると、
「……いやぁぁあ!! み、見るなぁぁっっ!」
叫びながら鮪を叩こうとするが、すでにバイクで逃走したあとだ。

「うふふ、すてきすてき! 思ったとおりだわ! ほらみて、あの子ったらもう水着を取られて泣きそうな顔! うふふ」
 朗らかに笑う珠代。
「こんな所から眺めるようじゃまだまだですね……!
 ふふ、私はこれだけ絶景ポイントを見つけましたよ……!」
 ここまで奇跡的に生き延びてきた珠輝が、地上からでも見られるのぞきポイントのメモを自慢げに見せびらかした。

 鮪が水着を振り回している。カーシュは運営本部の連中を倒すつもりでやってきたのだが、それより女の子を追い掛け回すほうが楽しいことに気づいてしまった。
 キャンティは頭に血が上っていて、止めに来た警備員を返り討ちにしている。聖はやれやれ、という表情で見守るばかりだ。
 突然の惨事に驚き逃げ惑う参加者が大部分だが、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)のようにこの状況を楽しんでいるものもいた。
「この会場に乗り込んでくるなんで、根性のあるじゃない☆」
 ターラは試合に参加せず、むしろこの瞬間を待っていたのだ。近寄ってきたカーシュと少し言葉を交わすと、そのままカーシュのバイクの後ろに乗って、二人で走り出す。
 鮪はその後も彼なりの『美衣弛馬鈴』に耽っていたが、ひときわ目立つ美女を見つけてそちらに走り出す。さあ今だ、と思ったところで体が動かなくなった。女の手に光条兵器の鞭が握られているのが見える。
「ちょうどそろそろね、それっぽい犬が欲しかったのよ」
 そう言うと、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は次の獲物を物色しはじめた。


第17章 古代剣術

「ド畜生! やっていい事と悪い事があるだろうがっ!」
 大鋸は怒りに震えた。彼の実家は林業を営んでおり、小さいころから安全には注意するよう教えられて育った。そんな大鋸にとって、武尊の無責任な爆破は許しがたいのだ。
 そこにようやく試合を抜け出した小鳥遊 美羽とベアトリーチェ・アイブリンガーが到着した。美羽は大鋸を見つけ出すと駆け寄りながら言う。
「すごーい! ダーくん(大鋸のこと)、もう大会本部をやっつけちゃったの?」
「残念だが俺様ひとりでやったんじゃねえ。ここにいる連中がやったのさ。それよりあいつをなんとかしねえと……あとダーくんて呼ぶな」
 大鋸は武尊に向かって叫ぶ。
「武尊ッ! テメーそんだけの腕があるのに、いい加減な爆破しやがって!」
「ああン!? オレは女の子達の水着姿が見れれば問題ないぜ。君こそ、そのチェーンソーで塀をぶったぎればよかっただろうが。オレたちはここで女の子と楽しくやってるから、君らはそこで見てればいいぜ」
 それを聞いて、屋上にいる男衆の一部は動揺した。そうだ、俺たちは水着姿を見に来たんじゃないか。こんなところにいる場合ではないのだ。

「ここで留まるわけにはいかぬ! 女性のビキニ姿をこの目に刻むまでは!! 進まねばならぬのだ!」
 絶叫して赤月 速人が走り出し、そのまま屋上から飛び出した。弧を描いて落ちていく速人。目の前に迫ってくる水着の女の子と蛮族。そのまま蛮族数人を巻き込んで砂浜に激突。
 幼女の水着姿を見るために、あとを追って飛んでいくエミリオ。やはり蛮族を巻き込んで地面に。薄れゆく意識のなか、誰かが近づいてくるのがわかる。影からすると小柄なようだ。
「大丈夫カ?」
 シー・イーであった。残念ながら、エミリオの恋愛対象と呼ぶには若すぎた。

 ふたりの特攻を見て大鋸も飛び降りることを考えるが、武尊までは距離が足りそうにない。判断に迷っていると、美羽からの提案があった。
「私がダーくんをジャイアントスイングで投げるよ! 本当は投げないでいたいけど」
 飛距離を稼ぐ手立てはほかにない。美羽は大鋸の両足をつかんで高速回転、そこから勢いよく投げ飛ばす。
 武尊はそのへんにバイクを停めて、女の子の逃げ惑う様子を堪能していた。頭上から妙な轟音が聞こえ、気になってそちらに目を向けると、とんでもない形相の大鋸がチェーンソーを握りしめて飛んでくるではないか。避ける間もなく衝突。

「まさか波羅蜜多把履剣があのような形で使われるとはな」
「知っているのかベアトリーチェ!?」

波羅蜜多把履剣(パラミタハリケーン)とは、古代シャンバラ王国の騎士たちが編み出したとされる、究極の戦闘術である。
一人が仲間の両足を持って振り回し、振り回された騎士が手にした武器で千人の敵をなぎ払ったことから、この技を恐れた蛮族たちによって波羅蜜多把履剣と名付けられたが、振り回される騎士から「頭に血が上って死にそうになる」という声が上がったことにより使い手が激減。
現代において『幻の奥義』と呼ばれるようになったことは、あまりにも有名である。
波羅蜜多書房刊(不公平な連携プレー)より

「……というわけで本来は足をつかんだまま敵陣に切り込む技なのだ。今回は相手を遠くに投げてしまったので、ただのジャイアントスイングになってしまったが」
 いつもと違う口調で説明するベアトリーチェであった。

 首謀格が軒並み倒されたため、士気をくじかれた蛮族たちは
「覚えてやがれ! 今度はその水着をひっぺがしてやるからな!!」
などと捨て台詞を吐いて逃げていく。さらに手下を集めようと、すでに捕獲した男たちを連れて追いかけていく亜璃珠。

 大鋸は遠くなる意識のなか、必死でこらえていた。このままビキニギャルのひとりも口説かずに気絶してなるものか。近寄ってくる小さな影。このパターンは……たぶんシー・イーだ! そこで大鋸の意識は遠くなった。
「大丈夫ですかぁ、ワンちゃん!?」
 駆け寄ってきたのは晃月 蒼だったが、気絶した大鋸にはわからない。