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好きな人を試す、とは

 高潮 津波は、キアリに近寄って、彼女の怪我をいたわりながら語りかけた。

「どうしてこんなことしたの?」

「ルズを・・・・・・試したかったの」

「そう、でも、好きな人を試しちゃいけないと思うわ・・・・・・。 彼が好きだから自分が動いた、というのはやっぱり自分のためでしょ」

「・・・・・・」

「私、片想いの人がいるの。その人に協力したい、っていつも願ってしまうんだけれど、それは彼が好きだというわたしの気持ちに、素直でいたいから。これは、本当は彼のためじゃない。単に私のワガママなんだ」
「それを相手のためです、相手のせいです、って考えてしまったら、傷ついたときに自分だけじゃなくて好きなひとまで恨んでしまうの。それは自分を責めるより辛い事だと思うよ。 ルズが本当に好きなら、ルズを試さずに、ルズの気持ちをまっすぐに見てほしいの。 ルズの気がかりを一緒に探してあげれば、きっと、キアリはずっと自分がルズを好きな気持ちを誇っていられると思うわ・・・・・・」

「で、でも・・・・・・」

 と、リュース・ティアーレはツカツカとキアリに近寄ったかと思うと、いきなりびんたをくらわした! 

”バチーン”

「いたいっ!」

「痛いか。安易な気持ちで騒動を起こした罰だ」

「やめろ、リュース。相手は女の子だぞ」

 エル・ウィンドの制止にも、リュースの怒りは収まらない。

「女の子だからなんだ? 可愛ければ許されるとでもいうのか? 人の気持ちを試そうなんて、言語道断だ」

 さらに、リュースはキアリに向き直って続ける。

「キアリ、あなたは自分の気持ちさえ発散できればそれでいいでしょうね。でも、試されたルズのほうは、どう思うかって考えたことありますか?」

「・・・・・・」

 キアリは、頬を押さえながら涙ぐんでいる。

「キアリ、あなたはパートナーに向かって『信じてませんよ』ということばを浴びせかけたようなものです」

「リュース、いいからもうやめろって! とにかくキアリに謝れ」

 エル・ウィンドの再度の制止で、ようやくリュース・ティアーレは矛を収めた。

「ふむ、まあ叩いたことは謝りますが・・・・・・キアリ、オレがなぜ怒ったかということを考えてください。叩くほうだって、手だけでなく、心も痛むのですよ」

 キアリはまだ震えながら泣いていたが、エル・ウィンドは彼女の肩をそっと抱いて言葉をかけた。

「大丈夫、痛かった? もう平気だよ・・・・・・よかったら今度ゆっくり会ってもらえないかな」

 どうやらエル・ウィンドは、想像以上に可愛かったキアリに一目惚れしてしまったようだ。
 キアリをリュース・ティアーレからかばうと同時に、デートのお誘いも忘れない。


 しかし、キアリが答えないうちに、紅澄 架李亞(くずみ・かりあ)が彼らの間に割って入ってきた。

「大丈夫でしたか、キアリ様。心配でしたよ。ヒールをかけておきましたから、じきに怪我は治りますわ」

 架李亞は、治癒魔法をかけながら、キアリの身の上を自身に重ね合わせていた。

「・・・・・・キアリ様、わたくしと友達になってくださいませんか! 名前も似てるし・・・・・・あとは・・・・・・あっ・・・・・・ごめんなさい! 迷惑だったら・・・・・・」

 彼女も、親切にしてくれた親戚や友達ともお別れしてここまで来たので、キアリと似てるなと思ったのだ。

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、キアリに同情して、愚痴ともつかないつぶやきを発した。

「大切な人が、自分に振り向いてくれないかも・・・・・・自分の知らないトコロで思い人に何かがって思うと本当に嫌になるわね。私にも、邪魔者がいるかも・・・・・・」

 宇都宮 祥子には、他校に片思いの相手がいる。

 でも、彼の学校には、抱きつき癖のある女がいて彼に付きまとってる・・・・・・。

 それで彼が転ぶとは思ってないが、祥子にとっては不安で、時折焦燥感にかられるのだ。

 キアリの気持ちは、祥子にとっても身に覚えがあり、それゆえ、彼女はキアリに親近感を覚えてならない。


 さきほど、「殿」たちとともに三位一体の活躍を披露した支倉 遥も、キアリの気持ちはわかるが、やったことには感心できないでいる。

「『自分のことを見て!』だけじゃなくてさ。もっとパートナーのことを見たほうがいいんじゃない?」

 キアリは答えない。ただ、うつむいて下を見ている。

「まあいいや。私たち三人は先に帰るから、また後で会おう」

 傍らでは、ナトレア・アトレアは、何も言わず、無表情のままでこれを聞いている。