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声が、聞きたい

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声が、聞きたい

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再会

 さて、こちらはルズと一緒にいるルカルカ・ルー。

 自慢の軍用バイクで出発したものの、途中道に迷い、他の生徒たちよりもだいぶ遅れて湖畔に到着したのだ。

「ったく、おせえんだよ」

 キリエ・フェンリスは、舌打ちをしながらルズに文句を言った。

 キリエには、ミリルをこれ以上待たせては可哀想という気持ちあり、彼女の気持ちを代弁したのだ。といっても、ミリルはもう既に5千年間待っているのだが・・・・・・。

「悪い悪い、遅くなっちゃって・・・・・・さあ、ルズ、誓いの湖に着いたよ! 今、どんな気持ちかな?」

「うん、ルー・・・・・・すごいドキドキしてるよ」

「とりあえずは鷹村さんが来るまで待ちましょう。よかったら、それまでルズの記憶について話してくれない?」

「わかったよ・・・」

 話し始めたルズは、徐々に落ち着きを取り戻した。

『ルズの気持ち。それが一番大事だもん』

 ルーのサポートスキル、なかなかのものである。


 やがて、鷹村 真一郎が追っ付けやってきた。

「お、鷹村さんが来たね。じゃあ、ミリルのところに行こうか」

「あ、うん」

 とは言ったものの、ルズはなかなか決断がつかない。

 泉 椿(いずみ・つばき)は、もじもじしているルズの背中を押した。

「ルズ、この湖にはおまえをずっと待っている人がいるんだ。会ってやれよ・・・・・・ミリルはもう目が見えないんだ。手を握って、声をかけてやってくれ。
 キアリだってもうわかってくれているからさ、今後だってたまに会いに行くくらいできるだろ・・・・・・せっかく会えるんだから、無理に別れることないじゃねえか」


 一方、愛川 みちるは、キアリと一緒に誓いの湖まで来ていた。

「ここがミリルのいるところだよ。キアリ、あなたにもミリルとルズの再会を見届けて欲しいと思っているの。きちんと向き合って、お互いをもっと知って仲良くなって欲しいからね」

 キアリは、神妙な面持ちで、黙ってルズを見守っていた。


 東雲 いちる(しののめ・いちる)も泉 椿と一緒にルズをミリルの近くまでつれていきつつ、パートナーのギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)のことを考えていた。

「ミリルは5千年前待っていたんですね。だから、ルズを会わせてあげたい。せめて声だけでも・・・・・・私だったら、5千年も待てるかな? 思いが通じたら誓いあった愛があるのなら、待てるのかな? うん、だって私、ギルさん以外を好きになるなんてできないもの。会わせられなくても。せめて声だけでも。泉の近くまでルズさんを連れて行ければきっと。悲しい結末でも。どうか暖かい言葉がミリルさんに届きますように」

 いちるは、ミリルとルズの関係に自分達の思いを重ねてつぶやいた。

 ギルベルトのほうも、これを聞いて優しい気持ちになっている。

「5千年・・・・・・俺は待てるだろうか? かつての俺ならばくだらないと一蹴しただろうな。愛や恋など結局は子孫を増やすための幻想だと。女を求めるのもただ快楽のため。
 だが、今なら分かる。どうしようもなく愛おしいという気持ちはある。いちるに出会って知った。思いも伝えていないのに子供みたいな独占欲で傷つけて。それでも近寄ってきてくれるいちるがなお愛おしくて。今の俺なら・・・・・・きっと待てるだろう。待っていろ。ミリル、今会わせてやる。必ずな」

 この一件を通じて、いちるたちの絆も深まったのであった。

 ただ、ルズはといえば、ミリルのすぐそばまで来ているというのに、極度の緊張で、これ以上足が動かない。

 遠野 歌菜は、つっとルズのそばに近寄ると「話がある」と手招きした。

「私のパートナーも守護天使なんだ。 ルズは過去の記憶、あるの?」

「うん・・・・・・ぼんやりとだけどね」

 壁一枚を隔てた向こうにいたミリルは、この声を聞くと、ハッとして思った。

『この声は・・・・・・もしや?』

 直接の再会は、強烈すぎる。だから、ラズに覚えている昔の話をさせ、その声だけをミリルに聞かせたい。これが歌菜のはからいだった。

 むろん、道を選ぶときも、ルズにミリルの姿が見えないよう細心の注意を払うことは忘れなかった。

そして、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)は、ルズの背中をポンと叩くとニッコリと笑った。

「さあルズ。キアリはんと仲直りする為にサプライズで歌のプレゼントをせんかー?」

「あ・・・・・・うん」

「ルズはんは、ここで歌えばええ。今のミリルはんの姿を見て、ルズはんが記憶を戻さへんかったとゆうだけでもきっとミリルはんには辛なるやろしルズはんにも辛いやろからな」

 ルズは、近くにいるけど、直接姿が見えないミリルに、気持ちを込めて歌い始めたのだ。

 すると、藍澤 黎(あいざわ・れい)がルズの歌に合わせてヴァイオリンを奏ではじめた。

 ルズは、黎の伴奏に勇気付けられ、高らかに歌う。

 黎も、いっそう心を込めてヴァイオリンを弾く。

『・・・・・・!!』

 ルズの歌声を聴いたミリルに、あきらかな変化が見られた。彼女の目から、一筋の涙がこぼれだしたのだ。

『彼はちゃんと帰ってきた。声が聞けた!』

 ミリルは、感極まっていた・・・・・・5千年という、気の遠くなるような時間を待ち続けていたのだ。

 うれしいとか、感動したとか、そういった言葉では表現しつくせない思いが、彼女の全身を駆け巡っている。

 あえていえば、感動することすら、とうの昔に忘れ去ってしまった感覚に思える。

 一同は、しばらくの間、無言で見守っていたが、泉 椿が小声でささやいた。

「みんな、ルズとミリルをふたりきりにしてやろうぜ」

 それを聞いたギャラリーたちは、静かにその場を退場していった。

 シルバ・フォードと雨宮 夏希も目を見合わせる。

「後は本人次第だし、ひっそりと見守ろう」

 でも、当の泉 椿はといえば、彼らが心配なので、陰からこっそり見守っていた。

 支倉 遥も、いつのまにかこの湖にまで来ており、付近に潜んで虎視眈々と時を待っていた。

 遥の目的は、決定的瞬間をデジカメに納めること。それはどうやら達成されたみたいだ。

 しかしもちろん、主役たちを邪魔してはいけない。遥は、シャッター音を立てないよう、湖のさざめきに合わせてシャッターを切ったのであった。

 フェリークス・モルスはといえば、感動の再会を果たしているふたりを守ろうと、湖の近くの少々高い見晴らしのいい位置に陣取っていた。

 最高のシーンを邪魔する者がいたら隠密裏に除いてやろうという、モルスならではの陰ながらの支援策なのだ。


 閃崎 静麻はといえば、結末を最後まで見ずに立ち去った。

『死んでなお再会できる時点で十二分な幸運で、俺にはそんな幸運は無いのが分かっているからな』

 でも、パートナーのレイナ・ライトフィードは静麻とは逆だった。

「静麻はすぐに立ち去ったけど、私はルズさんとミリルさんの再会を最後まで見届けましょう。静麻は、見届けたくても見届けるには心が邪魔をしているようですから・・・・・・彼の代わりにどんな結末が待っていようとも最後まで見届けます」

 こうパートナーを気遣うレイナだった。


 ひとり、伊那 武士だけは、違う行動をとっていた。

 彼は、湖に向かうと、胸に手を当てて目を閉じた。

『誓いの湖にかけて、自分は、権力の頂点に立つことを誓う!』

 彼がこういう謎な行動をとっているのも、理由がある。

 武士は、ある書物で誓いの湖の文字を見つけた。そこに書いてある詳しい内容はわからなかった。

 が、きっとここで誓いを立てれば願いが叶うに違いない!

 そう勘違いしての単独行動であった・・・・・・。