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【借金返済への道】夢見る返済者

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【借金返済への道】夢見る返済者

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第6章


 帽子が弱点と報告が入ると宿屋では夢の中へと行く者が準備を始めた。
 エルは夢の中に入る前に、と宿屋の主人に何事かを耳打ちしていたし、魔楔 テッカ(まくさび・てっか)はまだ食べかけのバナナを口の中へと放り込む。
 入らない人には部屋を退室してもらいお香に火を点けると直ぐに夢の中へと入る事が出来た。


 夢の中では膠着状態が続いていたのだ。
 鋭くこちらを睨み続けているアルプ。
 下手に手を出すとホイップが危ないのではないかと、なかなか行動に移せないでいたからだ。
 入ってきたばかりのエルとテッカは直ぐに弱点を皆に耳打ちして知らせる。
「ホイップちゃーん! 今日の下着は黒だよねー?」
 いきなりエルが声を大にして叫ぶ。
 するとどこからともなくタライが上から降って来て、頭の上へと落ちてきた。
 ホイップの方は眉が微かに動いたようだ。
「どうやらホイップの意識はあるみたいですね」
 葉月が言う事は間違いないだろう。
 その証拠のタライだろうから。
 それを見た他のメンバーも声を出し始める。
「早く目覚めないとホイップちゃんの横で添い寝しちゃうよー?」
 このエルの発言にもタライが降ってきた。
「ホイップちゃん! 一緒にバナナを食べて欲しいんですなー!」
 テッカが呼びかけると何故かバナナが降ってきた。
「これはびっくりですな……嬉しいけど、そうじゃなくて、現実で一緒に食べたいんですなー!」
「せっかくホイップと友達になれると思っていたのに、このまま目覚めないと友達になれないよー!」
 沙幸も大声で言う。
 ホイップの指が動く。
「現実で皆と一緒に遊びに行こー!!」
「そうだよー! ボクともっと色んなところに行ってくれるんだよねー!?」
 美羽とカレンも叫ぶ。
 ホイップの足が反応する。
「ホイップーー!」
「ホイップちゃーーん!」
 メイベルとセシリアはひたすらホイップの名前を呼び続ける。
 今度はホイップの腕が動いたように見える。
 アルプもやばいと思い始めたのか低く唸り声をだし、こちらを威嚇してきた。
「あたしはあんたとは初対面だが……こんなに思ってくれる人が沢山いるんだ、そろそろ目覚めたらどうだい!?」
 思わず地で叫ぶ礼香。
 アルプが今にも襲いかかりそうになってきた。
「起きて明日の夢を見よう。ここにいる人は皆君をみゃっ……待ってる」
 英希はジゼルの考えた口説き文句を噛みながら叫んでいる。
 顔が真っ赤だ。
 その様子を見て後ろでジゼルは噴いた。
 ホイップのまつ毛が揺れた。
 3メートル以上はありそうな柵を軽々と飛び越え、とうとうアルプは柵の外の皆へと襲いかかってきた。
 音子とアルチュールが素早く戦闘態勢に入っている。
「鮎の塩焼きを食い終わるまでにホイップを放さないと、どうなるか……分かってるんだろうな!?」
 自分の手に持っている鮎の塩焼きは既にほとんど食べ終わっている状態だ。
「フランス紳士の誇りに賭けて、美しい女性を死なせはしません!!」
 そうアルチュールが叫ぶと2人で素早くアルプの前を走りまわり、注意を引き付ける。
 どちらかに向かってこようとすると音子がアサルトカービンで牽制をする。
 後方に飛んでいた英希が氷術を放つと、前足が凍る。
 その隙にいちるとアルチュールが雷術を同時に使用し、アルプの体の自由が少し奪われた。
 シルバがそれを見逃さず、カルスノウトで頭上にある帽子だけをひっかけ奪う事に成功。
 柵が消えて行く。
 帽子を取られ、大人しくなったアルプはみるみるその姿を小さくさせ、最後には手乗りが出来るほどの大きさになってしまったのだった。
「小さいですな。バナナを食べないから小さいんですな」
 テッカが言葉を発するとアルプは反応する。
「小さいって……言うなーー! 帽子返せよーー!」
 小さくなったと思ったら、耳のとんがった人型へと姿を変えた。
 こっちが本当の姿なのだろう。
 駄々をこねるように手足をばたつかせる。
 それも半泣きだ。
「なんだかこちらがいじめているみたいですね……」
 夏希が呟くと皆、心の中で同感だと相槌を打っていた。
「返して欲しかったら、ホイップの体から出て行くのです」
「うわ〜ん! ごめんなさい〜! 出て行くから返して〜!」
 葉月が告げると泣きながら謝ってきた。
 本当にいじめているみたいになってきたので、帽子を渡すと約束通り直ぐにホイップの夢の中から消えた。
 それと同時に皆も強制的に夢から追い出され、気が付くと目覚めていた。
「お前ら覚えてろよーー!」
 現実では小さい姿のアルプがホイップの胸元から出てきて捨て台詞を吐いて空京の空へと消えたのだった。