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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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 ジャックは確かに恐ろしい。でも、もっと恐ろしい存在が身近にいる――人間だ。何せ、ジャックを食べてしまおうなどと考える者がいるのだから。

「ジャックでお菓子を作れば、材料費は浮くし皆も喜ぶしハロウィンも楽しめるしで一石三鳥ね!」
 尾身坂 ナツキ(おみさか・なつき)は山姥の仮装をして気合いばっちりだった。白い着物に般若のお面、布をかぶった『桃太郎侍』風の格好をし、右手には菜切り包丁、左手には鍋を抱えている。
「おやおや。言ってるそばから、あんなところにおいしそうなジャックちゃんがいるじゃないの」
 早々にジャックを見つけたナツキは、光学迷彩で忍び寄り、家に侵入される前に襲いかかる。
「お菓子作りの材料に足りないものがあるのよ。それは……お前の頭だぁぁ!」
 包丁がジャックの頭に突き立てられる。
「カボチャ狩りじゃぁぁー!!」
 ナツキはジャックの頭をバラし、次々と鍋の中に放り込んでいく。ジャックの炎がむきだしになった。
「ふふふ、バッチリ。これで焼きプリンでも作りましょう」
 ご満悦のナツキ。そこをジャックの火術が強襲する。
「わっ」
 ナツキは鍋の蓋を使い、すんでのところでこれを防いだ。
「まだ動けるの?」
 驚くナツキに、ジャックは攻撃の手を休めず次の火術を放つ。
「そうだ!」
 ナツキは咄嗟の機転を利かせ、今度は鍋の中に炎を受け止める。
「大丈夫かな? 消し炭にならないかしら。ここに砂糖、牛乳、卵などを加えてかき混ぜまして……」
 普段から炎に晒されているジャックの頭は、それなりに炎に耐性があるらしい。鍋の中からは良い具合に香ばしい匂いが漂ってきた。
「あら、大成功なんじゃない!」
 ナツキはそのままカボチャプリンを作ってしまおうとする。しかし、甘い香りに誘われてどんどんジャックが近づいてきた。
「ちょ、ちょっと、これはあげないからね。あげないってば!」
 ナツキが鍋を抱えて逃げ出し、ジャックがそれを追いかけていく。結果的に、家庭のお菓子をジャックから守るという目的は果たせたのかもしれない。

「【宵闇の帝王】マスク・ド・パピヨン! ……ちょ、ま、痛い、痛いって。俺様泣いちゃうよ!」
 執事服に黒いコート、シルクハットにパピヨンマスク、付けちょび髭と胡散臭さ満点の格好をした譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、子供に蹴られまくっている。彼はカボチャ嫌いを治してあげようと、カボチャを食べられない子供の家に来ているのだ。
「君がカボチャを食べると約束するなら、あのお化けカボチャを、この【宵闇の帝王】がどうにかしてあげよう……って、お願いだから蹴らないで」
「分かったから早くなんかやってよー」
 子供は退屈そうに大和の脛を蹴り続ける。
「その言葉、同意と受け取ったぞ。俺の力、とくと見るがいい。食らえ、パピヨン・フラッシュ!」
 大和は光量最大で光術を発動した。
「ふふ、こうして皆の目がくらんでいるうちにジャックのやつを三枚におろして……あれ?」
 ところがジャックは平然としている。大和はそれに気がつくと、パートナーのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)を小声で呼び寄せた。
(ちょっとラキシス、どういうこと? あいつ全然まぶしがってないんだけど)
(目っていってもカボチャに穴あけただけだから、きっとまぶしいもなにもないんだよ)
(なん……だと? ええい! ラキシス、作戦変更だ)
 大和はラキシスになにやら耳打ちする。
(ええー、そんな! せっかく子供のために用意したのに)
(あそこまで言ってしまったんだ、この際仕方がない。さあ早くしてくれ! 皆の視力が戻ってしまう)
 大和に言われ、ラキシスは手作りのカボチャタルトをしぶしぶ家の外に置く。これは、カボチャを食べると約束した子供にご褒美としてあげる予定だったものだ。
 タルトに引かれて外に出るジャックと入れ替わって、ラキシスが家の中に戻ってくる。ちょうどその頃、皆が視力を回復し始めた。
「はっはっは、思い知ったか、カボチャの化け物め!」
「あ〜れ〜」
 ジャックと同じ格好をしたラキシスは――顔の部分はコミカルなお面だが――大和のセリフに合わせて大げさに倒れ込む。
「これにて一件落着! 何ご両親、俺様にとってはこんな事件晩飯前ですとも。そうそう、なんか困った事があればここに連絡なさい」
 大和は子供とその両親がぽかんとしているうちにエリザベートの連絡先を置き、ラキシスを抱えて家を後にした。

「ジャックがお菓子を奪っていくと言っておったのう。なら盛大にお菓子を作って誘い込んでみるかね。しっかしジャックはどんな味がするんじゃろうな。……んふふ、興味があるのう」
 バニーガールの衣装にウサギ足という出で立ちのファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、顔の部分だけ開いたウサギの着ぐるみを着て手に『どっきりカメラ』と書かれた看板を持ったジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)、自分とお揃いのバニーガール衣装を着たファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)を率いて民家を訪ねる。事情を説明すると、部屋を借りることに成功した。
「では、早速お菓子作りを始めるとするかの」
「おかしおかしー」
 ファタとファムは、持ち込んだ材料を元に次々とお菓子を作っていく。お菓子など作れないジェーンは、ピカソ的な意味で美術センスに自身があるので、専ら盛りつけに専念する。時々つまみ食いをするのはご愛敬だ。
「ほう、ジェーン、なかなかやるではないか。どうれ、わしもどんどん積み上げるぞ」
「負けないであります!」
「あははー、ますたーもおねーちゃんもすごーい」
 段々といかに高くお菓子を積み上げるかが目的になり始める。お菓子タワーが天井まで達しようかというところまで成長したところで、ようやく本来の目的であるジャックが現れた。
「あ、ますたー。じゃっくきたー」
「おお! ジェーン、ファム、やつもお菓子タワーの材料にするのじゃ!」
 ファタが指示を出す。
「了解であります!」
「きゃははー、かにばるかにばるー♪」
 ジェーンがツインスラッシュで不意打ちするのに合わせてファムがジャックに飛びつき、頭をどんどん分解していく。
 そこに家人がやってきて、部屋に入ろうとした。
「どうしたの? 何か物音がしたわよ」
 すかさずジェーンが看板を持って、これを押しとどめる。
「どっきりであります」
「そ、そう? それならいいんだけれど……」
 ジェーンが家人を追い返すと、ジャックの頭は既に跡形もなくなっていた。しかし、それでもジャックはお菓子タワーからせっせとお菓子を集める。
「こやつ、この期に及んでお菓子を奪う気か。ええい、埋めてしまえ!」
 再びファタの指示で、ジェーンとファムがお菓子の山にジャックを埋める。酸素がなくなって炎が消え、ジャックはとうとう動かなくなった。
「ようやく大人しくなりおったか。それではこやつの顔を材料にしてお菓子を――」
 そこにまた家人がやってくる。
「なんか焦げ臭いわよ!」
 ドアに走るジェーン。
「全てどっきりであります!」
 こうしてできたお菓子は、家人や生徒たちにお裾分けされることとなった。

 ジャックを最も見事に料理したのは佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)仁科 響(にしな・ひびき)真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)の三人組だ。
「空を飛ぶとは、なんて活きがいいのだろう。きっとおいしいに違いない」
 ジャックの話を聞いた弥十郎は、いてもたってもいられなくなって薔薇学から飛んできた。彼は今ジェイソンマスクで顔を隠し、アップルパイに近寄るジャックを見守っている。お菓子をたくさん食べさせてから料理したほうがジャックも成仏するだろうと思い、腕によりをかけてアップルパイを作ってきたのだ。
「……食べませんね。あ、持っていこうとします。捕まえましょう」
 ジャックがアップルパイをマントの中にしまって持ち去ろうとする。性質を調べようとジャックを観察していた仁科 響(にしな・ひびき)は、背後から網をかけてジャックを捕まえた。
「まずはランタンを取り上げて、と。うわ、火吹いた! 仕方ありませんね。手順が逆になってしまいますが……」
 響はメイスでジャックの頭を叩き割ると、手際よく火種を取り除く。
「ふう、大人しくなりましたね。では料理に入りましょう」
 響は民家でレンジを借り、切りやすいようにカボチャをチン。待っている間は興味深そうにジャックのランタンなどを調べていた。レンジが終わると弥十郎と響は下ごしらえに入る。
「はは、君は相変わらず不器用だねえ……」
 不揃いなカボチャの塊をゴロゴロ転がす響を見て、弥十郎は苦笑いした。
 下ごしらえの次は、ようやく真名美の出番だ。
「私の腕の見せ所だね」
 真名美は弥十郎と響が下ごしらえしたカボチャをペースト状にしたものに卵や牛乳を加えて蒸しカボチャプリン、それからパイ生地とシナモン、ナツメグ、生姜、クローブなどの香辛料と合わせてフィーリングを作り、オーブンで焼いたかぼちゃパイを作る。パイの表面は白百合をイメージしたものだ。
 更に、キッチンを貸してもらったお礼として余ったカボチャで煮物を作り、挽き肉と玉ねぎで作ったそぼろに出汁と片栗粉でとろみをあわせた。
「できたー」
 ずらりと並んだ料理を前に、真名美が拍手する。
「うわあ、おいしそう」
「さすが真名美ですね」
 弥十郎と響も大満足だ。
 家主はジャックを倒してもらった上にごちそうまでしてもらって、三人に大変感謝した。肝心の味の方はというと、普通のカボチャとは比べものにならないほどの絶品だった。