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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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ジャック・オ・ランタン襲撃!

リアクション

 皆がジャックからお菓子を守ろうとするのに対して、ジャックからお菓子を取り戻してやろうと考える者もいた。

「ジャックはお菓子を奪っていくらしいが、ジャックにお菓子を『食べられた』という話は聞いていない。多分どっかに集めてるんだろう。敵の本丸に乗り込んでお菓子を全部取り返せば万事解決だ。……それはそうとして、なんだこの格好は」
 なんとヴェッセルだけでなく、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)も巨大ケーキの格好をしていた。これはパートナーであるラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)の作戦に付き合わされたものだ。
 ラグナの作戦はこうだ。佑也が家の前でお菓子に扮し、ジャックにわざとさらわれる。ジャックの仮装をしているラグナは仲間の振りをしてその後についていき、敵の本丸に到着したら佑也と共にお菓子を取り返すのだ。
「そんな作戦、うまくいくのかよ」
「案ずるな兄者。ちゃんと準備してある。胸に赤いボタンがあるだろう。押すと生クリームが出る。有効に使いたまえ」
「はあ、誕生日に何やってんだろ俺……」
 ところが佑也がケーキに扮すると、彼の予想に反してすぐにジャックが反応してきた。
(うわ、本当に来たよ)
 ジャックは佑也を持ち上げようとするが、重くてビクともしない。
(そりゃそうだよな)
 するとジャックは仲間を呼び、数匹がかりで佑也を運び始めた。
(うわ、なんかいっぱいきた。って浮いてる浮いてる! 落とさないだろうな……)
 ジャックにさらわれてゆく佑也を、ラグナはしたり顔で追いかけた。

 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)がとった作戦は、ラグナが考えたものとほとんど同じだった。
「多くの人がジャック対策に知恵を絞っているようですが、それでもお菓子を奪われてしまう可能性は捨てきれません。ならばお茶の間のヒーローとして、お菓子を奪われてションボリなチビッコのために一肌脱ごうではありませんか!」
 クロセルがはりきって言う。
「うむ、やつらがどこかにお菓子を集めているなら、その場所を探しだし、あわよくばお菓子を私のものに……もとい奪還することだってできるはずだ」
 マナが答えた。
「問題は方法ですが」
「私は体が小さい。空き箱にでも入ってたくさん用意したお菓子の中に紛れ込めば、ジャックが持ち去ってくれるのではなかろうか」
「なるほど。それでいきましょう」
 ただし、いくらマナが小さいとは言え、お菓子にしては大きすぎる。そこでクロセルがマナの入った箱をこれでもかというほどデコレーションし、持っていって光線を出しまくることでカバーすることにした。
 作戦を結構すると、ジャックは重そうにしながらもマナの入った箱をお菓子と一緒に持っていってくれる。
「マナさん、頑張ってください!」
 その様子を、クロセルは陰から見守っていた。あとはマナが携帯のGPS機能を使って連絡してくるのを待つだけだ。

 ジャックは家庭からお菓子を奪っていくらしいが、どこに、そしてなぜ奪っていくのだろうか。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はそのことが気になっていた。
 そこで、彼女は担当する家にジャックがやってくると、わざとお菓子を奪われた。そして今、隠れ身を使ってジャックの後をつけているというわけである。
(全然お菓子を食べようとしない。巣でもあるのかな。それとも他に黒幕が……)
 ジャックはどんどん町の外れへと進んでいく。
(怪しい)
 しばらくするとジャックは一軒の古い洋館の脇にある道を通り、複雑な裏路地へと入り込んでいった。

 緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)も、美羽と同様お菓子を餌にしてジャックの後をつけている。
「なあカナタ、ジャックって別に悪いやつじゃないんだろ?」
「うむ。ジャックは本来、善とも言えぬが悪とも言えぬ哀れな怪異のはず。ハロウィンに用意されるカボチャのロウソク立ても魔除の効果を持つし、どちらかといえば人に善をなすモノであろう」
 ケイの問いかけに、カナタはすらすらと答える。
「それがお菓子を奪っていくってのは……」
「なんとも奇妙な話よ。悪戯で済む話ならまだよいのだが、火術まで使ってくるとなると捨て置けぬ。その正体を見極めねばなるまい」
「だな。今のところお菓子を奪っていくっていう悪戯以外、被害らしい被害はないみたいだし。会話が通じるようなら説得したいもんだぜ。……それにしても、さびれた方に向かっていくな」
 やがて、二人の前に古びた洋館が見えてきた。
「うわ、いかにも怪しいのが出てきた」
「何かあるであろうな」

 九条 晋(くじょう・しん)はジャックを倒すのではなくて、なんとか説得できないものかと考えていた。吸血鬼の仮装をして目を光らせながら町を回る晋は、裏路地の角を曲がろうとするジャックを発見する。
 晋がジャックの後を追って一軒の家に入ると、今まさにジャックがお菓子を奪い去ろうとしているところだった。晋は騒がずジャックに歩み寄り、話しかける。
「ジャックさん、お菓子が欲しいのならちゃんと分けて差し上げます。ですから、子供たちの分まで根こそぎもっていくのはやめてもらえませんか?」
 ジャックは聞こえていないかのようにお菓子集めを続ける。
「聞く耳なし、ですか。それとも言葉が通じないんですかね。それなら……」
 晋はジャックの前に立ちはだかる。すると今度は、あからさまにジャックが敵意を見せた。
「やはりダメですか。こうなったら、捕まえるしかありませんね」
 捕まえるといっても、いい作戦があるわけではない。晋はとりあえずカルスノウトで牽制する。ジャックはこれを避けようともせずに顔で受け止めると、火術で反撃する。咄嗟にカルスノウトを構え、これを防ぐ晋。
「うわ、熱っ!」
 だが剣で火術は凌ぎきれない。晋が服に燃え移った炎を消している間に、ジャックは残りのお菓子を奪って逃げ去ってしまった。
「説得できなかっただけでなく、捕らえることもできないとは……」
 やっとの思いで火を消した晋は、無念の思いで虚空を見つめた。

「きっとジャックさんたちはお腹がすいていて、お菓子が欲しいだけなんですよ」
 エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)もジャックと仲良くなりたいと思っていた。水色のエプロンドレスに金髪のウィッグをつけて、彼女の仮装は『不思議の国のアリス』のアリスだ。
「怪我だけはなさらぬよう、ご十分注意くださいね」
 パートナーのルミ・クッカ(るみ・くっか)はエルシーの楽天的な考えが不安で、自分は常に警戒しようと心に決めている。ルミの仮装はチェシャ猫のぬいぐるみ。強面の顔で子どもを驚かせないようにとの配慮と、エルシーに合わせた衣装選択だが、ルミは気恥ずかしい。また動きづらく、ちょっと失敗したかもしれないと思っていた。
 もう一人のパートナーラビ・ラビ(らび・らび)は楽しげなイベントに無邪気にはしゃいでいる。外套を着て懐中時計を持ち、仮装は白ウサギ。元からウサギの姿をしているので、バッチリ決まっている。
「ねえねえ、ラビにもお菓子ちょうだーい」
 ラビは、エルシーの持ったお菓子を物欲しそうに見つめる。それはジャックにあげるため、エルシーが用意したものだ。どれも材料にカボチャは使われていない。
「ごめんなさい、ラビ。これはジャックさんにあげなくちゃいけないのよ。後できっとラビにもお菓子をあげますから」
「ぷー、つまんない」
 エルシーに言われてラビはふくれっ面をする。しかし、町ゆく子供たちの仮装を見て、すぐに顔を明るくした。
「わー、妖精さんだ。きゃー、あっちはお化けー。あはは、空飛ぶカボチャもいるー」
「仮装もとりどりでございますね。空飛ぶカボチャとは珍し……え?」
 ルミが目を見開く。その目に映ったのは紛れもなくジャックだった。お菓子をもった子供たちが裏路地に追い詰められておびえている。
「大変でございます!」
 三人はジャックの元へと急いだ。
「みなさんを困らせるような事をしたら駄目ですよ」
 エルシーがジャックにお菓子を渡す。ジャックは無造作にそれを奪い取った。ルミは何かあればいつでも動けるよう身構える。
 再び子供たちに向き直るジャック。
「ですから、お菓子なら差し上げますので……」
 ジャックが子供からお菓子を奪おうとすれば、エルシーがジャックにお菓子を渡す。これを何度も繰り返してとうとうお菓子が持ちきれなくなると、ジャックはどこへともなく飛び去っていった。
「仲良く分け合って食べた方が絶対おいしいはずですのに……」
「戦闘にならなかっただけよかったではございませんか。幸い子供たちにも被害はなかったようですし」
 残念そうな顔をするエルシーに、ルミはほっと胸をなで下ろして言う。ラビはちゃっかり子供たちからお菓子を分けてもらっていた。

「真面目に働く前に、ちょっとだけ悪戯を……」
 そんなことを考える不届き者が一人。ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)その人である。銀狼の狼男に仮装したウィルネストは、近くの家のドアを勢いよく開け放つ。
「悪い子はいねがー!!! 狼男がとって食うぞーーー!!!」
 ドアの向こうにいたのは、ちょうどお菓子をもらいにきていた小さな子供たち。彼らはウィルネストの姿を見て泣き出してしまう。
「え、あ、えっと、その……」
「ちょっとあんた! なに子供を泣かせてるんだい!」
 当然家の人にも怒られる。
「ハロウィンといえばイタズラかなって思って……うわー! ごめんなさいごめんなさい! 殴らないで! ごめんなさいぃー!!」
 本気で謝り倒すウィルネスト。
 ウィルネストだって、子供たちを泣かせたかったわけではない。誰か生徒がいるだろうと思っていたのだ。他の生徒たちにボコボコにされるのは覚悟していた。それでも殺伐とした空気に少しでも安らぎを与えられれば……そう考えていたかは知らないが、ちょっと遊んだら真面目にジャック退治をするつもりだった。
 そこに運良く(?)ジャックが現れる。
「み、見ててください! ちゃんと約束どおりご家庭をお守りします。あんなやつ一発でやっつけてやりますから!」
 子供も大人も疑いたっぷりの目でウィルネストを見つめる。
「信じてませんね……いいでしょう、おりゃあ!」
 ウィルネストの氷術がジャックを撃ち落とす。
「ほーら、見ましたか」
 得意満面のウィルネストに、子供の一人が言う。
「お兄ちゃん、後ろ」
「うん? 後ろがどうしたって……うわあ、もう氷溶けてるし! えい! えい!」
 ウィルネストは必死で氷術を連発する。
 頑張れウィルネスト! これで負けたら多分ただじゃ済まないぞ!