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リアクション
第1章 いざ遺跡へ
「探索日和ですねーー♪」
すっきりと晴れ渡った空を見上げ、サルヴィン川流域までやって来た星槍の巫女、エメネアが声を上げた。
地図と照らし合わせて漸く見つけ出した遺跡が目の前にある。
探索するのは天井のある遺跡なのだから、天気は晴れようが、雨が降ろうが、あまり関係ないのだが。
「エメネアまたお前か。お前実は女王候補だったり十二星華だったり、剣の花嫁だったとかいう落ちじゃあるまいな」
上機嫌のエメネアに、やや呆れたような口調でダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が訊ねた。
「ふぇ? えーと、そのまさかですよ?」
彼の問いに答えたエメネアへと皆の視線が集まる。
「改めまして、十二星華の1人、魚座のエメネア、と申します。もちろん、女王器を探し出すのは、シリウスさんのためですよーー!!」
告げて、ダリル含む集まった学生たちへと頭を下げる。
「では、先日現れたと聞くティセラとかいう十二星華とは関係ないのだな?」
「……ええ」
同じ十二星華だという点では関係しているだろう。
けれど、エメネア自身はティセラのために女王器を取りに行こうとしているのではなく、シリウスのために行こうとしているのだ。
こくりと頷き、見上げてくるエメネアの視線に、ダリルは一拍置いて口を開く。
「あからさまな罠だ。手紙の差出人が、自分で行かないのは、楽したいとか戦力不足とか封印解除のリスクを回避したいとか理由は想定されるが、わざわざそれに乗ってやる事はあるまい?」
彼自身、朱雀の封印解除を行った者たちの1人である。
だからこそ言えるのだ。
「女王器を守りたいなら、『遺跡に入らないのが正解』だ」
敵がすぐ近くに潜んでいるかもしれないのに、道を開く理由はない、と。
「そうです! エメネアさん、『玄武の遺跡』に入らないのが一番だと思うであります!」
そこへ声をかけてきたのはトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)だ。
「え?」
突然のことに、彼女のほうを向いたエメネアは首を傾げる。
「入ったらきっときっと後悔するであります。手伝ってくれた皆に申し訳ないってことになってしまうかもしれないであります。だから、ここはもう遺跡なんて入らないで、みんなでピクニックでもしようであります!」
エメネアに口を挟む暇すらも与えずに、トゥルペが言う。
彼女の言葉が切れたところで、エメネアが漸く口を開いた。
「後悔に、申し訳ないこと……」
言われたことに、エメネアは途端に不安な気持ちに駆られる。
「今まで『玄武の遺跡』にある女王器は、誰も手にすることはなかった。それならば、これからも遺跡を開かなければ、ずっと女王器は安全なのではないですか?」
トゥルペの後ろから、エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が前へと出てきながら、トゥルペの言葉を補う。
「遺跡に入らないのが一番良いのではないでしょうか? だから、遺跡に入るのはやめましょう」
「でも……」
続く言葉に、エメネアが口を開いた。
「放っておけば、誰かが……それこそ、シャンバラ建国を阻止しようとしている鏖殺寺院の方たちが、この遺跡を開きに来て、女王器を奪ってしまうかもしれません!!!」
眉を寄せ、エメネアは語る。
「鏖殺寺院が狙うといっても寺院って何千年も前からあるのでしょう? それが何千年も手を出してないってことは、その遺跡には手が出せないってことです。それこそ彼らが女王器に触れられないことの証明。だから遺跡に入ってはいけません」
それでも遺跡に入ることを止めようと、エレーナが告げると、
「それは、ただ、この遺跡を見つけられなかっただけかもしれません。ここに辿り着くまで、少し時間がかかりましたし……。きっと気付いていないだけなのだと思います!!」
必死になって、エメネアが言葉を返した。
「きっと、この手紙を送った方も、私のように、戦う術を持たなくて……でも、鏖殺寺院の方の手には渡したくない……そんな方なのかもしれません! だからこそ、手紙に答えて、女王器を見つけ出し、シリウスさんに届けるべきなのではないでしょうか!?」
手紙を持つ手に思わず力が入り、くしゃりと皺になる。
それでもエメネアは遺跡に入ることを分かって欲しくて、彼女らをじっと見つめた。
「……」
暫し訪れる沈黙。
「遺跡に入るのを止める気はないのですね」
「しょうがないのであります」
沈黙を破ったのは、トゥルペとエレーナの2人の方だ。
「分かっていただけて、嬉しいです!!」
途端、エメネアの表情は笑顔でいっぱいになる。
「美羽は女王候補親衛隊クイーン・ヴァンガードの一員として、女王候補宣言の式典を襲った十二星華に激しい怒りを感じています。それと同時に、『クイーン・ヴァンガードが女王候補ミルザムのために五獣の女王器を確保する』という任務に強い責任を感じています」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がエメネアへと告げる。
「もちろん、手に入れた女王器はシリウスさん……いえ、ミルザムさんにお渡ししますーー!!」
エメネアは美羽の言葉にこくりと頷く。
「その言葉、しかと聞かせていただきました」
協力します、と美羽も頷き返しながら言う。
それを確認してからエメネアはすぅっと息を吸い込んだ。
「それでは、早速、入りましょーー!!」
共に来た学生たちを見回す。
彼ら彼女らが同意するよう頷くのを見届けて、いざ遺跡へと踏み込んだ。
*
遺跡まで着いてきたけれど、中へと入っていくエメネアたちに着いていくことなく、入り口の傍に残る学生たちも居た。
椿 薫(つばき・かおる)、ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)、大和 ミコ(やまと・みこ)の3人だ。
全員が遺跡の中に入ったとして、退路を塞がれてしまってはいけない。
「保険をかけておくでござる」
薫はそう言って、テープレコーダを用意する。録音開始のボタンを押すと、まずは恐れの歌を奏で始めた。
1曲奏で終えると、中のテープを換えて次は悲しみの歌を奏で、録音する。
それぞれ録音し終えれば、入り口付近の壁と天井に、それぞれのテープを入れた再生機を忍ばせた。
録音した歌で、スキルの効果が見られるかは試していないが、曲が流れるだけでも誰かの注意をひきつけることは出来よう。
(手紙一枚で釣ってどうこう、とは。……正直、腹に収めかねますな)
エメネアが遺跡の中に入ったところで、背中から刺すのが敵の計略だとしたら、彼女が遺跡に入るのを外で見ておいて、後から入ってくるかもしれない。
そう思い、ルイスは遺跡の外へと警戒を向ける。
傍らでミコは中へ外へと忙しなく首をそれぞれに向け、警戒をしている。
(エメネアを直接守ることだけが護衛とは限らないよね)
中から誰か逃げ出してくるかもしれない、外から誰か侵入してくるかもしれない。
どちらにせよ、入り口で食い止めることが出来れば、それもまたエメネアを護ったことになるだろう。
三者三様。それぞれの思いを抱いて、入り口の警戒へと当たっていた。
*
遺跡に入って少し経った頃。
「……前の戦いで何を学んだのよ、アンタは」
エメネアに近付くなり九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は告げる。今日は制服の上着部分だけをチュニック風に着こなし、タイツとブーツ、それにローブを合わせている。
「何を……何をでしょうーー」
言われ、エメネアはふと考え込んだ。
九弓が思うに彼女が学んだのは『仲間を信じる』こと。そして、彼女自身が知らない『星霊力の可能性』のはずなのだが。
考え込んでも出て来る様子はないようだ、エメネアは首を傾げたままで居る。
「まあ、いいわ。今日はとことん、アンタにくっついて行くんだから」
告げる九弓にエメネアは「よろしくお願いしますー」と無邪気な顔で微笑む。
「今回の冒険はさしずめ『エメネア獣王記』、ですわ☆」
いつも着ている白いドレスに、白のファーコートを合わせたマネット・エェル( ・ )が言った。
『五獣の女王器』を略したものが『獣王器』、そして冒険譚なのだから『獣王記』だという。
「冒険譚ですか。何だかわくわくしますねーー!!」
マネットの言葉に、エメネアは頷いた。
「なんかこうキラッ☆ とした感じでパーティクル飛ばしたりできない?」
いつも着ている夜色のゴシック調スカートスーツにタイトな同色のコートを合わせた服装の九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が訊ねる。
「ぱーてぃくる、ですか?」
訊ねられた意味が分からず、エメネアは首を傾げた。
「飛ばせないのね、残念」
その様子に九鳥は肩を落とす。
パートナーたちがエメネアと話している間にも九弓は彼女から何としてでも星霊力の操り方を学べないものかと、彼女を観察する。
けれども星槍を失っている彼女からは、星霊力を学べそうになかった。
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