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海の魔物を退治せよ!

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海の魔物を退治せよ!

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第9章 これは夏の、ほんの1ページ。


 騒ぎ疲れ、お腹もいっぱいになった頃、そろそろお開きにしようかという雰囲気になった。
 無くなるかと思った食材はやはり余ってしまい、栗は心を痛めていた。
「絶対に無駄にはしません。力の限り持って帰ります!」
「大八車、貸してあげようか?」
 イシュタンが栗の決意にそんな事を申し出、ミルディアと真奈もイルミンスールまでなら一緒に食材を運んであげてもいいと話していた。
「俺も、少し持って帰りたいんだが」
 アステルがそう言うと、お土産に持って帰りたいという者達が続々と名乗りを上げた。恵那とマユもちゃっかりエビと蟹のお土産を貰った。
 皆が少しずつ持って帰る事にしたおかげと、リアトリスが掃除道具を返すついでに地元の皆さんにおすそ分けとして配って回った事、司が漁師への報告ついでに手土産として持って行った為、食材は綺麗になくなった。
「良かったね」
 ミルディアの言葉に、栗が嬉しそうに頷く。
「ええ、これで大八車の空きスペースに、蟹の殻とエビの触角を乗せて帰れます」
 生物部部長の栗は研究熱心だった。

 ノアが、皆と一緒に片づけをしながらアナウンスする。
「日帰りが大変な人の為に、近くの宿を押さえてますよ! よかったら、皆でモノポリーで遊びましょう!」
 周りから嬉しそうな声があがり、後片付けをする皆の手にも元気が戻った。
「モノポリーか。楽しいよね!」
 ミレイユの言葉に、ノアの瞳がキラリと光る。
「『鉄道王ミレイユ』さんには負けませんよ!!」
「ワタシは誰の挑戦でも受けるもん!」
 2人の背に炎が見えた。この伝説の戦いは、朝まで続いたという。
「ちょっと待った!!」
 イルミンスール魔法学校のフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が、浮かれる皆の気を引き締めようと立ち上がった。
「環境保全団体設立の提案者として注意するわ。ま・さ・か、後片付けを適当に切り上げて帰ったりしないわよね? 掃除を完璧にして帰らないとイルミンスールや校長先生や私の評価が下がるじゃない!」
「いや、でも…」
 涼介が言いかけるのを、フレデリカが遮る。
「デモもテロもないわ。掃除は最後まできちんとしないと」
「いや、だから、終わったって」
 涼介が指す方を見ると、主催者のレンがゴミには最初からきちんと気を配っていた為、パーティー終了のすぐ後からゴミは綺麗に分別され、まとめられている。
 フレデリカはそのまま調理場へ目を向けたが、紫翠と明日香がとっくに片付け終えていた。
「そうだわ、ゴミを置いて行くわけには!」
「それなら後で学校で回収するのですぅ。エビや蟹の殻は調合して飼料と肥料として使うのですぅ」
 エリザベートが隙のない答えを返す。残念ながら、フレデリカには他に言うべき事は見つけられなかった。
「そ、そう。良かったわ……」
 皆の環境保護意識が高いのは喜ばしい事なのだが、なんだか役目を奪われた気がして、フレデリカは複雑な心境だった。
「ねー、闇鍋は食べないのー?」
 トゥプシマティが気になっていた物陰の鍋を指す。
「誰だよこんな所に鍋を隠したの!」
 涼介が蓋を開けると、鮮やかな水色に発光する煙がぼわんと発ち上った。衝撃的な匂いに涼介がばたりと倒れる。
「んきゃーっ! 涼介兄ぃが死んじゃった!!」
「大丈夫、死んでませんって」
 パニックに陥るアリアクルスイドを、ノアがなだめる。
 そうしている間にも、鍋はぶくぶくと泡立ち、藍色の液体がこぼれそうになった瞬間、フレデリカの氷術が鍋を凍らせ、その動きを止めた。
「さ、産廃。これはもう産廃レベルだわ! どう撤去したらいいの!? 役所に電話? いえ、いっそジャッパンクリフから捨てるべきっ!?」
「いや、そしたら地球の危機やろ」
 社が己を見失っているフレデリカに冷静にツッコミを入れる。
 この得体のしれない物体をどうしたものかと悩んでいると、鍋の中身は驚異のスピードで溶けて行く。
「こういう時はだな」
 皆が警戒する中、シェイドが無造作に鍋に近寄り、取っ手を両手で掴んで持ち上げた。
「臭いものには蓋。分けのわからんものには、………ファイヤー!!」
 そう叫ぶと、まだ燃え盛る焚火に向かって鍋の中身をぶん投げた。地獄のマーブル色をした鍋の中身は、鍋からスポンと抜け、綺麗な弧を描いて見事焚火の中に投入された。
「あはははっ!」
 笑うシェイドの肩を瑠架が揺すった。
「あなた、まだ酔ってるわね! しっかりなさい!!」
 急にシェイドの身体から力が抜け、その場に倒れこむと寝息を立て始めた。翌朝、この時の記憶はシェイドから消えていたという。

 火にくべられた物体は、ミシリピシリという音を立てながら、灰色の煙を発生させた。
「毒ガスとかだったらどうしましょう」
 怯えるモモの言葉に、毒ならば得意分野と大佐が有事に備えて分析を始めた。
 灰色の煙の中で、小さな金色の火花がいくつも散ったと思った瞬間、

 ヒュー、ドドン!

 花火が打ちあがった。
 上空10メートルも上がらないような花火だったが、この人数で楽しむには十分だった。
 ジュワジュワバチバチと凍った物体が火で炙られる度に、色とりどりの花火が次々に打ち上がる。
「超キレイっス!」
 イグゼーベンが楽しそうに声を上げる。たまに、カレーの匂いがするのはご愛嬌だ。
「大丈夫、毒は出てない」
 大佐が太鼓判を押すと、皆は安心してそのサプライズ風物詩を楽しんだ。
 日本出身者が、「たーまやー」「かーぎやー」とお馴染みの掛け声をかけると、日本以外の出身者も面白がってそれに声を合わせる。
「皆、せっかくだから花火をバックに写真を撮るぞ」
 デジタルカメラで皆の思い出を記録していたレンは、今日の締めくくりとして、その風景を選んだ。
 皆がはしゃぎながら、レンの提案したベストショットの場所へと移動する。
「よーし、撮るぞー!」

 カシャリ。

 という電子音でレンのカメラに収まったのは、花火を背にした皆の笑顔だった。


 夏はまだまだ始まったばかりだ。
 これから沢山の夏の思い出が、皆を待ち構えている事だろう。


 これはその、ほんの1ページ。


END.   



担当マスターより

▼担当マスター

桃野はな

▼マスターコメント

初めましての方もお久しぶりの方もお馴染みの方もこんにちは。
桃野 はなマスターに代わりまして、玉野 晴が執筆させていただきました。

桃野マスターのリアクションを楽しみにされていたのに、ごめんなさい。
今回はプロットから玉野の仕業なので、悪いのはたぶん玉野です。
きちんとした桃野マスターのリアクションは、次回までのお楽しみという事で。
夏の思い出の1つとして楽しんでいただけたら幸いです。

なお、数名の方に称号を贈らせていただいております。
個別コメントでお知らせしていますので、ご確認下さい。

また、名前が違うなど、本文中の誤字脱字は玉野の方で申告修正が可能ですので、
3営業日以内にシナリオ掲示板に書き込んでいただければ、対応いたします。

ご参加ありがとうございました。
また、どこかでお会いできるのを楽しみにしております。