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リアクション
第六章 納涼大会終了のお知らせ。
「世界がぁ、世界がフワフワぁ♪ 私の頭もフワッフワですぅ♪」
すっかり上機嫌な、アフロ姿のエリザベート。
彼女の一人ドンチャン騒ぎは、もはや数時間近く続いていた。
「それにしてもぉ、ワインって飲むと体がポカポカしちゃいますねぇ……頭は不思議な帽子のおかげでヒンヤリれすけろぉ、だんだん熱くなっれきたいましぁ」
実際、臨時校長室にいた生徒たちは快適なほど涼しかったのだが、酔いの回っているエリザベートは例外のようだ。
だが、そんな彼女のワガママが天に届いたのか――
「ヒャッッッッハァァアアアアアアアアアアアー!! 校長っ!! 納涼してるかぁ!?」
突然、臨時校長室の外から、宵の刻を切り裂く特大のヒャッハー音が響いた。
「な、何事れすかぁ!?」
いきなり外から大声で呼ばれたエリザベートは、フラつく足で臨時校長室を出て行く。
そして――臨時校長室が建てられたイルミンスールの屋上に出たエリザベートは、自分の目を疑った。
彼女が屋上で見たものは――
「ようっ! 校長!! 涼しくなりてぇんだってなぁ!? だったら、俺たちが涼しくしてやるぜっ!!」
異常なまでに暑苦しいテンションでこちらに向かってくるマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)と――威風堂々と参上した【雪だるま王国】の面々だった。
「エリザベート校長、私たちは雪だるま王国です」
困惑するエリザベートの前に、ツカツカと歩み寄ってきたのは――雪だるま王国の女王である赤羽 美央(あかばね・みお)だ。
「私たちはエリザベート校長を涼しくするため、この場に参上しました。どうか今日はよろしくお願い致します」
美央はニコリと微笑んでソレだけを告げると、大きく息を吸い込み――
「それでは皆さん。私たちの晴れ舞台です! エリザベート校長を、スノーマニズムの名の下に思う存分涼しくしてあげましょう!」
鬨の声が屋上に響く。
「よっしゃああああ! まず最初は、俺だ。雪だるま王国切込隊長・マイト・オーバーウェルムが相手だっ!!」
「ちょ、何をする気れすかぁ!?」
「ヒャッハー!!」
困惑するエリザベートを他所に、マイトは猪突猛進の勢いで走ってくる。
そして、急にエリザベートの目の前でとまった。
「校長! 聞いた話によると、兎に角涼しくなりてぇんだろ? だったら、とっておきの方法があるぜ……ヒャッハー!」
マイトの言うとっておきの方法。それは――
「ククク……今より暑くて、熱い環境に慣れれば、後から涼しくなるぜ? ヒャッハー!」
背中に担いできたストーブや両手に持った、遠赤外線ストーブによってエリザベートの周囲を暑くさせることだった。
「暑っ!? な、なにするんですかぁ!? 暑すぎますぅ!!」
マイトの用意した暖房グッズと、彼自身の暑苦しさによって、エリザベートの周囲は一気に気温が上昇する。しかも、あまりの暑さで酔いがさめたようだ。
「うぅ……せっかく涼しかったのに、汗だくですぅ!」
エリザベートは、この場から逃げようと試みるが――
「あ、あれ? あ、足がいうことをきかないですぅ!?」
熱気によって酔いはさめたものの、足のフラフラはまだ残っているようだ。
「よっし! みんな、今がチャンスだっ!」
「ギャアア!? や、やめるですぅ!?」
エリザベートが逃げられないことを知るやいなや、マイトの掛け声によって雪だるま王国の国民たちが一気に突撃してきた。
「それでは、エリザベート校長。まずはファイアプロテクトをかけますね?」
そう言って、エリザベートのもとへやって来た美央はファイアプロテクトを唱えた。
「これで、そこまでは暑くなくなったでしょう?」
「た、確かに一気にストーブの暑さから解放されましたぁ♪」
ストーブで熱せられたせいなのか、普通のファイアプロテクトなのに涼しく感じた。
「それにしても……すごい数の雪だるまですねぇ」
「はい♪ 雪だるま王国ですから」
微笑む美央の傍らには、大小様々な雪だるまが乱立していた。
まさに、雪だるま王国の女王にふさわしい光景だ。
「でも……何だかその雪だるま達、溶けかけてませんか?」
「あら、本当ですね。彼らにもファイアプロテクトをかけましょう」
「ふふふ。何だか、雪だるま王国って面白いですねぇ」
「そう思っていただけたのなら、光栄です。これから、王国の一員がエリザベート校長を涼しくするために尽力しますので、どうかよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくですぅ♪」
笑顔で握手を交わす二人。
この瞬間、雪だるま王国とエリザベートとの間に親睦が生まれたのだった。
「よしっ、これで完成ね!」
雪だるま王国の面々がエリザベートに向かって突撃していく中、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)と、パートナーのエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)は、自作したとある機器の設置に取り掛かっていた。
機器はかなり大型で設置に手間取っていたみたいだが、ようやく設置が完了したようだ。
「それじゃあ、エラノール。起動の方、お願いね!」
「わかりましたです。ケケ、ルル、トト、張り切ってやりますですよ」
エラノールは三体のスケルトンを引き連れて機器へと向かうと――
「それでは、夏の終わりの雪作戦スタートなのです!」
一気に機器を起動させた。
「うん。さすがエラノールが設計しただけあって、スムーズに起動したわね」
唯乃が満足の様子で見つめる視線の先には、エラノール設計・唯乃組み立ての巨大な手動扇風機が設置されている。
この扇風機、実はただの巨大な扇風機ではないうえに、送風するのが目的ではない。
巨大な羽はを地面と水平に取り付けられていて、羽に平行して下に荒いヤスリが4本十文字に取り付けてあり、やすりの上には円盤状の氷が乗せてある。
この奇妙な扇風機、実は――氷を削りだして、その粒を空に舞い上がらせるためのものだった。
「それでは、そろそろ氷術を発動しますですよ」
舞い上がった氷の粒たちに、エラノールがどんどん氷術をかけていく。
すると――
「わぁ! 綺麗だわ♪」
エラノールをサポートするために驚きの歌を唄っていた唯乃も、思わず見とれてしまう。
氷術によって成長した氷の粒は、なんと雪へと姿を変えたのだ。
「やったわね、エラノール! 夏の終わりの雪作戦、成功ね!」
「はい。これは、大成功といっても過言ではありませんですね」
まさに作戦名のとおり、夏の終わりの雪がフワフワとイルミンスールの屋上に降る光景は、とても幻想的だった。
「ゆ、雪ですぅ!?」
突如として舞い降りはじめた雪に、エリザベートは思わず空を見上げてしまった。
その一瞬の隙を突いて――
「私の真心と筋肉は皆の為に! エリザベートさん、今すぐ涼しくしてあげましょう!」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)がエリザベートの目の前に現れた。
「はあああああああああああああああああ!」
これから涼しさを提供しようというのに、ルイは突然気合を入れ始める。あまりの熱気に、振り続ける雪は彼の体へ接触する前に溶けてなくなってしまう。
「ちょっと、何をする気なんですかぁ!?」
「ご心配なく! まずは心から涼んでこその納涼だと思いますので、涼の雰囲気を感じてもらえる、とっておきの物を作るだけです」
怯えるエリザベートを他所に、充分に気合を入れたルイは――
「ほあちゃぁあああああ!」
全力の氷術によって、巨大な氷塊を精製したのだった。
「こ、コレが涼の雰囲気を感じる物ですかぁ?」
「いえいえ、ご心配なく。ただ氷塊を作り出して涼を得るなどという、無粋な真似はいたしません。そんなこと、誰だってできますしね」
「そ、それじゃ……この氷塊で何をする気ですかぁ!?」
「ソレは――これからわかるでしょう!」
不安げな顔をするエリザベートとは真逆の笑みを浮かべ、ルイはいきなり大工道具をとりだした。
「それでは……行きます!」
一気に氷塊へ飛び移ったルイ。
彼はなにやら錐と槌を利用して、氷塊を削り出していく。
「そぉい! ほぁちゃ! でりゃああ!!」
躍動する筋肉の暑苦しさとは対照的に、氷塊はあっという間に削れて行く。
そして、驚異的なスピードとパワーで削りだされた氷塊は、とある形を成して完成した。
「いかかでしょう、エリザベートさん。涼の雰囲気を味わっていただけそうでしょうか?」
「す、すごいですぅ……芸術ですぅ! 氷の芸術ですぅ!」
ルイの筋肉によって削りだされたのは――雪だるま王国の王女でもある、美央だった。
「氷像名は、スノークイーンです」
その筋肉からは想像もつかない、繊細な技術によって削りだされた美央の氷像は、まさにスノークイーンの名にふさわしい。
ルイの芸術は、見事にエリザベートたちの心に涼をあたえることに成功したのだった。
「校長、大バb……アーデルハイト様、雪だるま王国名物の氷菓は如何だ?」
「冷たくて美味しいよー?」
氷像を眺めていたエリザベートたちの所に、コルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)と高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の二人がやってきた。
「ん? 氷菓って……カキ氷のことですかぁ?」
「そうだ。向こうのほうに、食べるスペースを準備してあるから来てみないか?」
「行きます行きますぅ! カキ氷、大好きですぅ♪」
カキ氷と聞いた途端に満面の笑みを浮かべたリザベートは、コルセスカたちの用意した食事スペースへとホイホイ着いていったのだった。
「それじゃーコルセスカさん、お願いねー」
「あぁ、結和さんもよろしく頼む」
エリザベートたちから注文を取った二人は、さっそく調理に取り掛かった。
この二人が作ろうとしているカキ氷は少し特殊で、削った氷にシロップをかけるというスタンダードなものではなく、果汁じたいを氷にして削るという変わったカキ氷だ。
「それじゃー、はい。エリザベート校長の苺味とアーデルハイトさまのぱいなっぽぅ味の氷だよー」
「ありがとう。それにしても……いつの間にか、校長達以外にも人が来ているぞ?」
氷作り担当である結和から果汁氷を受け取ったコルセスカは、チラリと客席を見て呟いた。どうやら、エリザベートたちが生徒を呼んでいるらしい。
「くっ……さすがにあの人数分は、俺一人で削って盛り付けまでしていたら、時間がかかりそうだ。結和さん、盛り付けを少し盛り付けを手伝ってくれないか?」
「うんーわかったー♪ 二人で頑張って涼しくなってもらおうねー」
二人の作るカキ氷は、味も変わっていて話題を呼んだうえに、雪だるま形に盛り付けしてあるところが女子生徒たちにウケて、まさかの大評判となった。
どれくらい大評判だったかと言うと――
「えっとー、盛り付けどうしよう? そうだなー……顔つけちゃえ。棒チョコ刺してー腕にしてー最中で帽子つけてー、そうだ、練乳の一回り大きい雪だるまもつけたらかわいいかな……てっ氷足りませんか、すみませんー今作りますー!」
本当に大評判すぎて、遊ぶ暇もなかったぐらいだった。
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