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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第一章 前戦

「さぁて……じゃあ一仕事するかね」
 加能 シズルの小型飛空艇を見上げながら、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が、ぼんやりと呟く。
 そして、村の周囲のならず者達に目を向け、小さく溜息をついた。
(今こいつらにイキナリ攻めて来られるわけにはいかんな)
「面倒くせぇが、見知らぬ後輩ってワケでもないしな……」
 ブツブツと呟きながら適当に周囲を見渡していた邦彦は、おもむろにならず者達に向けてハンドガンの引き金を引く。
 一発、二発、三発。着弾した弾丸が止まっていた無人のスパイクバイクを打ち抜き、爆音を響かせながら吹き飛ばした。
「ナイスヒット、だな」
「とか言ってる場合じゃないわよ」
 唇の端を引き上げながら小さく笑う邦彦にネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が半眼で語りかけながら、親指で青筋を立てているモヒカン達を指差した。
 中にはすでに臨戦態勢、と言わんばかりに武器を構えている者もいる。
「これで少しは陽動になったかね」
「その代わりに一身に敵意を背負ったわ」
 そんなやり取りの最中、何発かの弾丸が耳の横を掠めていく。
「シズル嬢ちゃんが無事に出発さえすりゃぁ、長居は無用だ……っと、そうだ」
 適当に撃ち返しながら少しずつ退却をしていた邦彦が、何かを思い出したかのように、敵の足元に標準を定める。
「何してるの? 早く下がらないと、さすがに相手が出来る数じゃ……」
 邦彦は、ネルへの返事の変わりに引き金を引いた。飛び出した弾が地面を打ち抜き――その瞬間に巻き起こった爆発で辺りが土煙に覆われる。
「オ・マ・ケ。退くぞ、ネル」
「爆薬? いつのまに……って言うか、やりすぎよ」
「足りないよりは、多いぐらいの方がいい」
 その返事を聞いて、ネルが眉間に指を当てる。
 空を仰ぎ見ると、土煙の向こう側に小型飛空艇が遠ざかっていくのが見えた。



 ――ツァンダから程なく離れた森の上空。村からわずかに離れた場所を飛行している小型飛空挺ヘリファルテに、男が乗っていた。
 その男の名は、国頭 武尊(くにがみ・たける)。只、唯一パンツを追い求める漢(おとこ)。
 そんな武尊の視界の端に、村から飛び立ったばかりの小型飛空艇が映った。
 正確には小型飛空艇に跨ったシズルのスカートが翻ったのを見逃さなかった、だが。
「ははっ、来たァっ!」
 そう叫ぶや否や、若干テンション振り切れ気味に、シズルの小型飛空艇を追う。
(埋蔵金? そんな有るか無いか解らん物よりも……そう、俺の宝は今そこに!)
 キッチリとスピードを合わせながら、ライフルの標準を小型飛空艇へと向ける。
 引き金に指をかけ、今まさに撃とうとした瞬間に、視界に影が入り込む。
 更にその影は衝撃を伴って武尊のヘリファルテを森へと落とさん勢いで突っ込んでくる。
「何だ!?」
 視界を上げ、見上げた先にはピンクのツインテールが輝いていた。
「シズル様が危ないと思って、付いてきてみれば……邪魔はさせませんよ?」
 そう言って秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が箒に乗って、挑発的な笑みを浮かべる。それを見て武尊も歯を剥き出しにして笑う。
 当然、好戦的な笑みなどではなく、位置関係的にバッチリ見えたつかさのスカートの中に対しての表情だ。
 武尊は笑顔のまま、ヘリファルテを強引に駆り出し、距離を置くと座席の上に立ち上がり革手袋を鳴らす。
「邪魔するからには、それなりの覚悟はあるんだろうなぁ!?」
「……そう焦らないで下さいませ」
 つかさが、器用に箒の上でスカートの中に手を入れ、下着を脱ぐ。日の光に照らされた脚が眩しく輝く。
 そして細い指で脱いだ下着をぶら下げると、そのまま森へ落とした。
「さぁ、たっぷり楽しみましょ……え?」
 箒の上で脚を組み替え、妖艶な目で見た先に、既に武尊の姿は無い。
 さっきまでヘリファルテが居た場所には、直滑降していった小型飛空艇の排煙だけが残されていた。
「間に合えぇえぇ!」
 舞い落ちる下着――いや、宝に向かって、武尊は文字通り『堕ちていった』。
 振動と爆音で鳥達が飛び去り、炎が上がる森を見ながら、しばらくつかさは固まっていたが、やがて興味をなくしたようにシズルの後を追うのだった。



「ねぇ、知ってる?」
 派手な帽子を被った道化の口から、それはまるで史実の様に語られる。モヒカン集団の周りを、踊るようにステップを踏みながら、ゆっくりと。
「御神楽埋蔵金を狙う者は、御神楽の呪いにかかって――ナラカへ堕ちるんだって」
 白い肌に溶け込みそうな、真っ白な瞳に瞼を伏せて、そう嘯きながらナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)はクルクルと回る。
 当然、聞く耳を持たない者もいたが、中には「マジかよ!?」と驚愕の表情を見せる者もいた。恐怖に彩られたモヒカン頭が、辺りを右往左往している。
 ナガンはある程度、噂話を振りまくと一歩退いてその集団を見る。一部ではあるが混乱が起きている様子を見て満足そうな笑みを浮かべる。
「クスクス……とりあえずこんな所でいいか」
 薄ら笑いを浮かべながら不意に村の隅に建てられた物見小屋を見上げると、首を傾けて楽しそうな表情を色濃くする。
 そして、微かに物見小屋から顔を覗かせていた『誰か』を見つめながら、誰ともなしに呟く。
「噂話は、楽しいなぁ、おい。……まぁ、また後でな」
 聞こえるはずの無い相手に語りかけ、ナガンは笑顔のまま森の中へと姿を消した。