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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第六章 休息

 先程まで発砲音や爆音が響いていた村は、ならず者達の一時撤退により静寂を取り戻していた。
「皆様、こちらでお休みになって下さい」
 村の中心部では、本郷 翔(ほんごう・かける)ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が、疲弊した仲間の手当てを施している。
 戦闘前、翔が事前に周知を行っていたこともあって、用意された簡易休憩所には多くの人間が集まっていた。
「さ、どうぞ。お茶になります」
「横になってお休みになられたい方は、あちらに簡素では御座いますが寝られるスペースも確保してありますよ」
「お食事のご用意もありますので、お申し付け下さい」
 と、右へ左へと忙しく駆け回る翔。ソールは、バリケード作成や、襲撃の流れ弾で怪我を負った村人達を診て回っている。
「これぐらいの傷なら薬塗って直したほうがいいぜ」
 魔法での治療は自己治癒力の低下に繋がるのでは、というソールなりの考察の元、的確に傷口を診察して通常の治療を施すか魔法を使うかを判断していく。
「こっちにはカレーもあるぞ」
 いつのまにか休憩所の横で炊き出しをしていた奏戯が、鍋一杯にカレーを作って村人達に振舞っていた。
 時折、食事をしに来ていた村の女性に声を掛けては撃沈する姿も目撃されていたとか何とか。



 ――村で束の間の休息が取られている頃。ならず者達の中で葉月 ショウ(はづき・しょう)は、計画実行の機会を待っていた。
(準備は万端。後は結果がどうなるか、と)
 出来れば襲撃が行われる前に動きたかったが、タイミングを逃してしまって動けなかった。
 だが、一度退いた今なら、もしかしたら上手くいくかもしれない。
(まぁ、多分無理だろうけどな……)
 ショウは、適当にフラフラしていたならず者を捕まえて、肩を持つと――
「埋蔵金が見つかったぞ!」
 精一杯、迫真の演技を放った。その言葉の後に、辺りがシーンと静まり返る。
 風が吹く音さえ聞こえなくなったのかと思う頃に、周りのならず者達が一斉にショウへ掴み掛かってきた。
「マジか!? どこだよ!」
「俺にもよこせやぁ!」
「ちょ、ちょっと待て待て」
 必至の形相のならず者達をどうにかなだめて一歩下がる。想いの外、興味を持たせてしまったが、もうやるしかない。

「実はな――これがそうだ!」
 ドーン! と何処からか銅鑼が聞こえそうな勢いで派手に取り出したのは、一枚の雑巾。
 その端には『御神楽 環菜』と刺繍が施されている。
「……十秒くれてやる」
 口を開いたまま固まっているならず者達の後ろからリーダーが重々しく口を開く。
「埋蔵金……まいぞうきん……まい、ぞうきん……my雑巾! これぞ御神楽環菜のmy雑巾!」
「よし、死ね」
「まぁ、そうなるよなー」
 リーダーが親指を地面に向けて振り下ろし、それを合図にショウは脱兎のごとく駆け出す。
 数人のならず者がそれを追っていったが、双方戻ってくることは無かった。



「面倒くせぇな……あぁ、面倒くせぇ
 お前ら、もういいだろ。十分だ。俺達の前には、もう罠も無ぇ。あるのは薄っぺらい壁と……」

 青筋を立てたリーダーが我慢の限界、と言わんばかりにスパイクバイクのエンジンを吹かせた。
 そして、仰々しく上げた右手を、バリケードへ向けて振り下ろす。

「お待ちかねの、お宝だ! 行くぞ、テメェら!」

 その一言に、ならず者達のテンションはこれまでに無いほどに上がる。
 待機していた全ての暴漢達が、鎖を失った猛獣のように一斉に走り出した。
 土煙と共に数十台のスパイクバイクが塊となってバリケードへ向かって迫る!

「さぁ、行きますよ!」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がバリケード前で大きく両腕を広げて、木材で出来ている防壁の部分を焼き払う。
 炭となったバリケードに無数のならず者達がなだれ込んでいく。
「大人しくしてりゃぁ、悪いようにはしねぇ!」
 スパイクバイクの上から鞭を振るい、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が立ち塞がる防衛陣を撃破していくのを、親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は離れた場所から眺めていた。
 孤児院の資金援助の為に埋蔵金を得る、とはりきる菊の意気込みは理解できるが、自分自身が孤児院に係わり合いが無い為、静観を決め込んでいる。
(ま、捕まったりしたら助けてあげるけどね)
 と、顎に手を当てながら口中で呟いた。

 そんな中、走り出したならず者の最後尾にいた一人を、笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)が押さえ込んでいた。
 地面に組み伏した相手の頭部に跨り、自分のTシャツの中へ顔を押し付ける。
(ホントハ、リーダーデ遊ビタカッタンダケドネー)
 目が合った瞬間に、相手が格上だと理解できた。その上で誘惑を仕掛けるほど馬鹿ではない。
「チョット遊バシテクレナイ?」
 完全に顔をの上に馬乗りになっている状態で、紗昏がならず者に語りかける。
 口を覆われている状態でモゴモゴと口を開くならず者に、
「ンフ、クスグッタイ」
 と、紗昏は怪しげな声を上げる。
 耳元で何かを囁き続けた後に顔を上げたならず者の目は薄暗く濁っていた。
「雑魚ハマカセタヨー」
 紗昏のその一言で、ならず者はバイクにも乗らずに駆け抜けていった。



「わらわの邪魔をする者は、例え誰でも排除するぞ」
 ブロードソードを片手に辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)(てんろういん せつな)が、冷徹な目を村人へ向ける。
 振り上げた剣に、無数の銃弾が撃ち込まれ、足元が地面ごと凍った。
 力任せに突き立てた剣で氷を砕き、振り向いた先に居たのはオフィーリアと夜空。
「聞こえなかったか? 例え誰でも排除する、と言っ」
 口を開いている最中に横から迫り来る黒い塊を、刹那がかわす。
 勢い良く通り過ぎたのは、皐月が振りぬいた漆黒のギターだった。
「どうやら命が惜しくないらしい」
 そう端的に言い放つと、距離を置き、ブロードソードを構えなおした。
 その背後には血煙爪や、アーミーショットガンを構えたならず者達がニヤけた顔で立ち並んでいる。
「そうはさせない!」
 少人数を囲んで一斉に襲い掛かろうとするならず者達へ瑛菜が駆け寄ろうとするが、その前に御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が立ち塞がる。
「熾月 瑛菜! パラ実最強のセーラー服戦士の座をかけて、勝負だ!」
「遊んでる場合じゃないの、どいて」
 正面に居る知恵子に向かって瑛菜が鞭を振るうが、知恵子はこの攻撃をあえて受け、動きが止まった瑛菜に銃弾を放つ。
 かわしきれずに瑛菜の左腕を銃弾がえぐる。
「貰ったぁ!」
 血が流れる左腕をとっさに手で覆う瑛菜の頭部に、知恵子が銃口を向けた時、頭上から突然ギターの音が響いた。

「待てぃ! うちのかわいい部長様に手を出そうたぁ、百万光年早いぜ!」
 見上げれば屋根の上に、姫宮 和希(ひめみや・かずき)が立っている。
 弾いていたギターを肩から外し、その場に置くと飛び降り様に知恵子に拳を振り下ろす。
 知恵子は、回避の為に距離を置いて、舌打ちをした。
「ライブが聞きたいなら、ちゃんと列を作って入場して貰おうか!」
「ライブなんてどうでもいいんだよ! そこをどけ!」
 知恵子の射撃を和希がかわし、反撃する。
 僅かに知恵子が押され始めた頃、和希をハンゲルグ・ツェルヴ(はんげるぐ・つぇるう゛)が背後から奇襲した。
 重い一撃を受けた和希に横合いからフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)も追撃する。
「知恵子様の邪魔をしないでいただけますか?」
「おまえの相手はオレ達がしてやるからさ」
 知恵子を後ろに匿うかのようにハンゲルグとフォルテュナは並んでいた。
 その隙に知恵子が瑛菜に向き直り、機関銃を構えなおした瞬間、視線の端に拳が迫っていた。
 顎を打ち抜かれた衝撃と、鈍い音が頭に響く。気が付けば視界が地面と平行している。
 知恵子は倒れている事に気が付き、慌てて視線を瑛菜に向けたが、目の前で拳を寸止めされて短く息を吐いた。
「駄目か……負けたよ。突然すまなかったね」
 仰向けの姿勢のまま知恵子が両腕を上げる。
 その姿を見て瑛菜が拳を引き、倒れている知恵子を起こそうと右手を差し出す。
「あんた、どうも金目当てって感じじゃないね。ま、時間が有る時にまた相手してあげるよ」
 笑いながら知恵子の手を掴んで起こそうとした時、瑛菜の腹部に衝撃が走る。
「ッ……!?」
「油断大敵、ですよ」
 聞こえてきた声に目を向ければ、黎明がこちらに銃口を向けていた。黎明はそれ以上何も言わずに、ショットガンの引き金を引いていく。
 数発の射撃の後、黎明は両手を広げて仰々しく口を開いた。

「この世の中で、何かを成したいのなら……これぐらいの試練――乗り越えられますよね?」