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桜吹雪の狂宴祭!?

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桜吹雪の狂宴祭!?

リアクション

第六章

「……ん……あ、あれ?」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が目を覚ますと、辺りは暗くなっていた。最後の記憶ではまだ明るかったはずだというのに。
「あら、気がつきましたの?」
「ん……ねーさま?」
「はい、貴女の美海ねーさま、ですわ」
 沙幸の目に、藍玉 美海(あいだま・みうみ)の微笑む顔が映った。
 そこで沙雪は自分が膝枕で寝ていることに気づいた。
「沙幸さん、酔って寝てしまったのですよ?」
「酔って?」
「……ふぅ、全く憶えていないようですわね」
 溜息を吐きつつも、美海は今までの経緯をゆっくりと話し出した。

 話は少し前に遡る。
「……ふぅ」
 桜を眺めつつ、橘 恭司(たちばな・きょうじ)はコップに注がれている日本酒を口に流し込んだ。
 今日、彼は一人桜を愛でつつ酒に酔おうと、花見に来ていたのであった。
「うーむ……全く酔えんな」
 横に転がっているのは、彼が持ち込んだ日本酒の酒瓶だ。三本持ち込んだが、全て飲み干し空だ。
「匂いや味は酒なんだがなぁ……」
 僅かにコップに残る酒を見る。
「これ以上追加するのも何だな……」
 これを飲み干したら帰るか。そう思っていた時だった。
「あのぉ……これ、貴方のゴミですか?」
「え?」
 突如声をかけられ、振り返ると沙幸が申し訳無さそうな顔をして立っていた。
 そして彼女に差し出された物を見ると、自分が持ち込んだつまみの空袋であった。置いてあったはずの場所を見るも、無い。どうやらいつの間にか風で飛んでしまっていたようだ。
「悪い、風で飛んでいたようだ」
 持ち込む際、入れてきた袋にゴミを入れる。
「いえ、お邪魔してすみません……所で、何を飲んでいるんですか? お水?」
 沙幸がコップの日本酒を見て首を傾げた。
「沙幸さん、あれはお酒ですよ?」
 美海がくすくすと笑いながら、沙雪に言う。
「ああ、これは日本酒だ。といっても、あまり強い酒じゃないんだがな」
「え? お酒なんですか?」
「ああ、匂いはするだろう?」
 そう言って、恭司はコップを差し出す。
「あ」
 美海が何か言おうとしたが、時既に遅し。
「……きゅう」
 匂いを嗅ぐなり、沙幸は顔を真っ赤にして膝から崩れ落ちてしまった。
「ど、どうしたんだ!?」
「……沙幸さん、お酒弱いんですよ」
「……すまないことをした」
「いえ、今のは沙幸さんも無用心でしたわ」
 そう言って、美海は自分の膝を枕にして、沙幸を寝かせる。
「すみませんが、お借りしますわ」
「ああ……侘びと言っては何だが、そのビニールシート使ってくれ」
「あら、貴方は?」
「もう帰ろうとしていた所だ……ん?」
「はぁはぁ……沙幸さんの寝顔……い、イタズラ……」
「……どうした?」
「はっ!? い、いえ、何でもありませんわ。それでしたらありがたく使わせていただきますわ」
 美海が一瞬見せた顔に首を傾げながら、恭司は荷物をまとめ、帰路へ着いたのであった。

「そのまま眠ってしまったのです」
「……ごめんなさい、ねーさま」
「いいのですよ。それより、ほら」
「……うわぁ、キレイ! キレイだよ、ねーさま!」
 夜桜を見て、沙幸がはしゃぐ。
「ええ、夜桜もまた味がありますわ。ここで一緒に楽しみましょう」
「うん……って、ねーさま、何で胸を揉むんですか?」
 美海に、突如胸を揉まれ沙幸が驚き声を上げる。
「あら、眠っている沙幸さんを襲わなかったのですから、今襲っても罰は当たらないと思うのですわ」
 実は眠っている間、沙幸の胸や尻を弄っていたことを美海は言わない。『襲ってはいない』からだ。
「それに……一緒に楽しむと言って沙幸さんも了承しましたわ」 
「ちょ……そ、それは夜桜じゃ……ひ、人前じゃらめぇぇぇ!」
 沙幸の声が、空しく響き渡った。

――日はすっかり沈み、月が空に姿を現す時刻になっていた。
 だが花見の勢いは衰えを見せない。
 ……むしろ、大人の時間が始まったとばかりに勢いは増すばかりであった。

「……ふぅ」
 漆野 檀(うるしの・まゆみ)が抹茶を啜り、一息吐く。
「夜桜も、風流な物だな……」
「ああ……昼間とは又違った風情があるな」
 檀の呟きに、同じように抹茶を啜りつつ涼司が頷く。
「こうやって花びらを浮かべてお茶を飲むのもいいものですね」
 桜の花びらを浮かべた湯飲みを、泪が傾け啜る。
「……そこの人たち、後ろの現実も見なきゃ駄目なのよ」
 三人に、さくやが呆れたように言った。

「……っかー! あーいい酒だー!」
「おっ、いい飲みっぷりだな! もっと飲め飲めー!」
「はっはっはー! おいおいおっさん酔わせてどうするつもりだー!? 熱くなって脱いじゃうぞー!」
「おいおいラルクよ、まだ夜は始まったばかりだぜー!」

 涼司達の背後には、がぶがぶ酒を飲み大笑いするラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)、その二人に樽で酒を飲ませまくる楮 梓紗(かみたに・あずさ)がいた。
「梓紗殿! そうやって誰彼構わず飲ませるのは止めろと先程言ったばかりではないか!」
「あん? だってあたしが飲むと檀うるさいだろ。折角の酒が飲めないなら、他の奴潰した方が面白いだろ?」
「おいおい、おっさんそんな簡単に潰されないぜー!?」
「はっはっは! 気に入ったぜ貴殿! ほれもっと飲むがいい!」
 大笑いするラルクと梓紗、そんな二人を見て檀が溜息を吐く。

 涼司達は半ば強引に、梓紗とラルクのグループに連れ込まれていた。何でも『退屈だったから』というだけのはた迷惑な理由で。

「ふむ……ジャパニーズの花見はやはり不思議ですね。花見といいつつ、花を全く見ていません」
「ええ、そういう風習なのですわ」
 そんなラルクや涼司達をガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)が、ジュースを飲みながら眺めている。彼女達は花見の見学に来ているらしい。
『おいてめぇ! それ俺のだろうが!』
『いいじゃねーか! さっきてめぇだって俺の食ったろうが!』
『てめぇらそう言いながら俺の食ってるんじゃねぇ!』
 ガートルード達の後ろでは、三体のフライング・ヒューマノイドがつまみを取り合って喧嘩していた。
「……ふぅむ、人間じゃねぇが……いい筋肉してやがるぜ……たまらねぇ」
 そのフライング・ヒューマノイドを見て、『闘神の書』が生唾を飲む。
「……なんていうか、凄いですよね」
 泪が苦笑を浮かべた。
「なかなかカオスな集団なのよ」
 さくやの言葉に涼司が頷く。
「やっほー! 楽しんでるー!?」
 涼司達の目の前に、何処からか現れたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。近くで飲んでいるらしく、ちょくちょく現れる。
「セレン、勝手に人の所入らないの」
 その後ろから、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が嗜める。
「固い事言わない言わない! セレアナは固いんだからー」
 そう言って手に持った飲み物をセレンフィリティが煽る。
「……セレン、それ本当にノンアルコールドリンクよね?」
「え? そうよ」
「いえ、やけにテンションが高いから……」
 セレアナの言う通り、セレンフィリティのテンションは素面とは思えないものだった。
「セレアナ知らないの? アルコールなんて無くても酔えるのよ?」
「またいい加減な事を……」
 セレアナがこめかみを抱える。
「それはそれで凄いのよ……」
「というか、あれで素面なのが凄いな……」
 さくやと涼司が呟く。
「あーなんか気分が良くなってきちゃったなー……よし、それじゃーひとつ踊ってみようか!」
 セレンフィリティが突如、上に羽織っていたロングコートを脱ぎ捨てメタリックブルーのトライアングルビキニのみの格好になる。
「せ、セレンなにやってるのよ!?」
「何って、踊るのよ。こんないい気分なんだから」
 そう言うと、セレンフィリティは舞いだした。
「おお、キレイなのよ!」
「ほんと、キレイ……」
 さくやと泪が感嘆の声を上げる。降り注ぐ花びらの中、ダイナミックに舞うセレンフィリティの姿は美しかった。
「……なんか嫌な予感」
 だが、セレアナはそこはかとない嫌な予感を感じ取り、こっそりその場から逃げようとした。
「せ〜れ〜あ〜な〜?」
 しかしくるくると舞いながら、セレンフィリティがセレアナの前を邪魔する。
「せ、セレン!?」
「何逃げようとしてるのよ。あんたも踊るの♪」
「わ、私も!?」
「ほらほら、そんな邪魔なの脱いじゃえ♪」
 そう言って、セレンフィリティはセレアナのコートを強引に脱がすと、手をとり無理矢理舞い始める。
「ああもう……仕方ないんだから……」
 溜息を吐きつつも、セレアナはセレンフィリティに合わせて踊りだす。
 セレンフィリティの舞が動的とするならば、セレアナは静的な舞であった。
 対照的な二人であるが、徐々に二人の舞が絡み出し、一つの舞となる。
 その舞から、誰もが目を放せずに居た。
「セレアナ、そろそろフィニッシュね!」
「フィニッシュ? 一体何を……」
「そりゃ勿論、これでしょ♪」
 訝しげな表情を浮かべたセレアナの頬に、セレンフィリティが両手を添える。
 そして、
「ん!? んぅー!」
セレンフィリティは自らの唇を、セレアナのそれと重ねる。
 二人の動きが止まり、やがて唇が離れると、二人はそのままゆっくりと地面へと崩れ落ちた。
「ちょ……大丈夫か!?」
 涼司達がセレンフィリティ達に駆け寄ると、
「……恍惚とした顔なのよ」
どうやら大丈夫そうだった。
「もう終わりか……仕方ねーな。檀、そこいらに寝かせておけ」
 梓紗が言うと、檀が二人を抱えてそっと隅へ寝転がせた。
「……」
 そんな梓紗を、さくやがじっと見ていた。
「あん? どうしたちびっ子。あたしに何かついてるのか?」
 その視線に気づいた梓紗がさくやに向かって言った。
「……その柄、苦手なのよ」
「ん? 柄?」
「それ、カシワマイマイなのよ」
 さくやが指差したのは、梓紗が着ている着物の柄である蛾だった。
「おぉ、よく知ってるな。キレイだろ?」
 嬉しそうに梓紗は着物の柄を見せびらかすように腕を広げた。
 しかしさくやは怯えたように後ずさる。
「何だよ、ちびっ子。この柄嫌いなのか?」
「……そうなのよ」
 さくやが頷く。
「あれの幼虫は桜を食べるのよ……昔一度大量につかれた事があったのよ……想像して欲しいのよ……自分の身体をじわじわと貪り食われることを……おお……こわいこわいなのよ……」
 ガクガクと震えるさくや。過去に相当嫌なことがあったようだ。
「んーそうかー……まぁ、嫌なら仕方が無い」
 そういうと梓紗は着物に手を掛け、
「んじゃ脱ぐわ」
一気に脱ぎ捨てた。
「梓紗殿ぉー!?」
「な、な……」
「山葉校長は駄目です!」
 泪の目潰しが涼司の目にダイレクトに突き刺さった。
「ぐあああああ!! 目が! 目がぁ!」
「彼女が居る人は駄目見ちゃです!」
 地面にのた打ち回る涼司に、泪が言った。
「駄目だからと目を潰すとは……恐ろしい人なのよ」
「見られたって別にいいんだけどな、減るもんじゃなし」
「梓紗殿! そういう問題ではないだろう!」
 隠そうともしない梓紗に檀が怒るが、言われた方は『はいはい』と全く聞いちゃいなかった。
「あん? 何だ、脱いでいいのか」
 そういうとラルフも自分の服に手を掛け、
「なら脱がないのは失礼だな!」
一気に破り捨てた。下着諸共。
「いぃやっほぉーう! コイツを待ってたぜぇー!」
 『闘神の書』が、歓喜の声を上げた。

「うぅ……ようやく見えるようになってきた……ん? どうした?」
 視力が回復した涼司の目に映ったのはさくやの顔。目を大きく見開き、ぽかんと口が開きっぱなしになっている。
 簡単に言うと『○△○』←こんな感じの顔だ。
 そのままさくやがぷるぷると震えるながら、指差した。
「何……が……」
 指差した方向を見て、涼司の顔も『○△○』になった。

「はっはっはー! どうだ鍛えてりゃこんなことだって出来るんだぜー!」
「全くたまんねぇな貴様の筋肉はよぉ! 俺も負けてられるかってんだ!」
『お前ら! 人間如きに負けてられねぇ!』
『おうともよ! パラジツ魂見せてやらぁ!』
『俺たちパラジツ舐めんなよ!』

 ラルク、『闘神の書』、そしてフライングヒューマノイドが片手で倒立しているという光景がそこに拡がっていた。しかも皆全裸で。
「い、一体何が……」
 涼司が呟く。
「さ、最初はあのおっちゃんが指一本で倒立してたのよ……そしたらいつの間にか勝負になって……」
「本当に一体何があったんだ……」
「ガードルード様、あれが『隠し芸』というものですわ」
「ほう……これがジャパニーズ花見の醍醐味、『隠し芸』ですか……」
 パトリシアに言われ、ガードルードが感動したように呟く。間違っちゃいないけど色々と間違っていた。
「こ、これ……止めなきゃまずいよな」
 涼司が呟くが、正直行きたくなかった。あの見た目恐ろしいカオス空間に飛び込む勇気が無かった。
「この場合どうするんだ……? 警察、いやそれより悪魔祓い……泪先生?」
 その時、ふらりと泪がカオス空間へと近寄って行った。
「まさか止める気じゃ……! いくら貴女といえどもあの空間は危険です泪先生!」
 だが聞こえていないのか、泪は歩みを止めず、倒立ガチムチ集団の前で漸く足を止めた。そして、大きく息を吸い込む。
「貴様ら! 腕が震えてるぞ! 根性を見せろ根性を!」
「る、泪先生ぇー!?」
 何故か泪は、いきなりどこぞの軍隊の教官のようになっていた。
「声が出てないぞ貴様ら!」
「「『『『いえっさ!』』』」」
「貴様らの脳みそは本能しか無いのか!? 女に対してはその口から糞を吐く前と後に『マム』をつけろと脳に刻め!」
「「『『『マムイエスマム!』』』」」
「それでいいぞ糞ども!」 
「パトリシア、アレは何です?」
「あれは『団体芸』の『コント』と言うものですわ」
「ほう……ジャパニーズ花見は奥が深い」
 ガードルードが、感嘆の息を吐く。
「いやいやいやいや! 色々と違う! というよりも泪先生どうしたんだ!?」
「……また飲んだみたいなのよ」
 何時の間にやら回復していたサクヤが呆れたように呟く。
「飲んだって……泪先生酒持ってなかったぞ?」
「……山葉校長、アレを見てもらいたい」
 溜息を吐きつつ、檀が指差す。
「ひゃっはっはっは! あー愉快愉快! 泪先生、もう一杯どうよ?」
 梓紗が杯を差し出すと、泪は一気に煽った。
「……っかー! ……貴様ら! 腕震えてるぞ腕が! その身体についた肉は飾りか!?」
「……あれか」
「本当にすいません……梓紗殿が飲もうとするのを止めたら……いきなり泪殿に飲ませだして……」
 檀が涼司達に、額を地面をこすり付けるように土下座する。
「ガードルード様、あれが『ジャパニーズ土下座』ですわ」
「アレが噂の……まさか生きているうちに『ジャパニーズ土下座』を観ることが出来るとは……」
 パトリシアの言葉に、ガードルードが感激したように呟く。ある意味、この空間を一番楽しんでいるのはこの二人だった。