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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

リアクション

「はあ……はあ」
 ミュゼットが苦しげな息をしている。呼吸困難になったらしい。
「ミュゼットさん! ミュゼットさん! 大丈夫ですか?」
 嵯峨 詩音(さがの・しおん)がミュゼットの手を握りしめて叫んだ。
「だ……大丈夫……」
 ミュセットは力なく答えるが、とても大丈夫なようには見えない。
「奏音、奏音!」
 詩音はパートナーを呼んだ。
「どうした?」
 隣室で仮眠をとっていた嵯峨 奏音(さがの・かのん)が入ってくる。
「ミュゼットさんが、とても苦しそう……」
「体を起こした方がいい」
 奏音はそういうと、ミュゼットの体をかかえて上半身を起き上がらせた。詩音が背中をさすってやる。すると、
「ありがとう……少し、楽になりました……」
 ミュゼットが弱々しい声で言った。


「大丈夫?」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が駆けつけてくる。
「なんとか、収まったみたいだ……」
 奏音が答える。
「そうか。よかった」
 ジェライザ・ローズは胸を撫で下ろした。
「今、何か特効薬でも作れないかと思って台所でいろいろ調合していたところなんだ……でも、ツァンダの地方病なんて、今まで診た事もないし、何が効くのかが分からなくって…」
「そうか……」
 奏音はうなずく。
「実は、さっき彼女を診察した医者にカルテを見せてもらたんだが……この病気は地球でいうところの肺水腫に似ているみたいだ」
「肺水腫?」
「ああ。呼吸困難に、喘鳴、ピンク色の痰。確かに肺水腫の症状に似ている」
「……それだけ分かれば十分だよ。肺水腫に必要な薬は強心薬と利尿薬と血管拡張薬だ」
「地球人ならな。それに、肺水腫に似ている……というだけで、肺水腫そのものじゃないんだ。医者も地球の薬は効かないと言っていただろう?」
「でも、何もしないよりはマシだ。早速『薬学』の知識で作ってみる」


 ジェライザ・ローズは台所に戻ると、再び薬の調合をはじめた。
 その側では和泉 猛(いずみ・たける)が粥をつくっている。
「何か分かったのか?」
 猛はジェライザ・ローズの手元を見ながら尋ねた。
「ああ。ミュゼットの病気は地球でいうところの肺水腫に似てらしいよ」
「肺水腫?」
「だから、とりあえず強心薬と利尿薬を調合しようかと思ってる」
「しかし、地球の薬は効かないのでは?」
「もちろん、ただの強心薬と利尿薬じゃない。私なりに今まで得た知識で出来る限りの工夫を加えようと思ってる」
「しかし、はたしてそれが効くかな? 本職の医者でも治せなかったものを……」
「それは、分からないさ。でも、このままスタイン達が戻らなければミュゼットは死んでしまうんだよ。未熟者の私に何ができるかはわからない。けど、だからって諦めるなんてできないよね。私に誰かを救うことができるのか? 彼女を看病することで何か答えを見つけられるといいと思ってる」
「そうか……そこまで言うなら俺にあれこれいう権利はないであろう……出来る限りの力をつくせ」
「言われなくてもやるさ」
 うなずくと、ジェライザは一心に薬の調合をはじめる。猛は出来上がった粥を持ってミュゼットの部屋へと向かった。

「粥が出来たぞ」
 猛はミュゼットのベッドの脇のテーブルの上に粥を置く。
「あ……りがとう」
 ミュゼットが無理に微笑む。
 詩音がスプーンで粥をすくいあげてミュゼットの口元に持っていく。ミュゼットはそれを数口だけ食べて、それから首をふった。
「もう、いい……」
「食欲がでないのは分かるけど、食べなきゃ駄目よ」
 詩音が言った。
「ありがとう……でも、本当にもういいの」
 そういうと、ミュゼットはその姿勢のまま目を閉じた。

 隣室で、詩音は奏音にたずねた。
「本当に、大丈夫かしら? ミュゼットさん……」
「分からない」
 奏音は首をふった。
「私たちも出来る限りの事はするが」
「ミュゼットさん、かわいそう……」
 詩音が泣きそうな顔をする。その詩音を心配そうに見つめて奏音が言う。
「詩音。お前こそ、あんまり思いつめるなよ。このままじゃ、お前の方が倒れてしまう……」
「大丈夫……私は大丈夫よ」
 そういうと、詩音はミュゼットの胸の前で手を組んで祈る。
「どうか、ミュゼットさん、頑張って……!」

 しかし、詩音の祈りも虚しく、ミュゼットの容態はどんどん悪くなっていった。

「酸素吸入をした方が良いのではないか?」
 苦しそうなミュゼットを見て猛が言う。
「ああ」
 奏音はベッド脇の酸素吸入器をミュゼットの口に当てようとして顔にふれ、……そして「あっ」と叫んだ。
「どうした?」
 猛がいぶかしげな顔をする。
「熱が……」
 奏音は唇をふるわせた。
「え?」
「熱が下がっている……」
 
 カシャーン。

 薬の調合を終えて部屋に入って来たばかりのジェライザが手に持っていたコップを取り落とした。
「熱が……下がってるだって?」
 その言葉の意味する事を思い、皆一様に青ざめた。
「いや……」
 詩音が涙をこぼす。
「ミュゼットさん、いやよ」
「落ち着け」
 奏音は、詩音の肩を抱いた。
「熱が下がったからといってすぐに死ぬというわけじゃないんだ」
「でも、お医者様は熱が急に下がったら数日と保たないと言ってたわ」
「それまでにスタインが帰ってこればいいだけの話だ」
「ああ。戻ってこれさえすればな」
 ジェライザ・ローズがつぶやく。
 だが、果たして戻って来れるのだろうか? あの危険な山で、スタイン達がマリアローズにたどり着ける保証すらないのに……。
「いいや、まだ、希望が全て無くなったわけではない」
 猛が言った。
「どういう意味さ?」
 ジェライザが猛に尋ねる。
「実は、俺の仲間がスタインについていっているのだ。ついさっき、その者から精神感応で連絡が入ったんだが……スタイン達はどうやらマリアローズの生息地に無事にたどり着くことができたようだ」
「本当に?」
 詩音が目を輝かせた。
「ああ。マリアローズさえあればミュゼットは助かるのだ。スタイン達に一刻も早く花を持って返ってくるよう、仲間を通じて伝えさせよう」
 猛はうなずいた。