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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

リアクション



第三章


「状況を説明してもらえない?」
 縁と百は出会いがしらにそう尋ねた。場所は昇降口の一角である。セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は眉間にしわを寄せながらどこから話していいかを迷っていた。見かねたエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が説明役を買って出る。
「私たち三人は山賊を名乗る幽霊たちをまず見つけました。そして当初の予定通りそれらを捕獲することにしたのですが……」
 そこで一旦沈黙する。曇り空だった天気は時間が進むにつれて悪化を進み、先ほどからはしとしととした雨が降り続いていた。話を聞いていた百は首をかしげる。
「三人?今は二人しかいないよ」
「そうなのです。ですが三人いたのです。あぁ別に怖い話じゃないですから。今はここにいない一人はきちんと生きていますよ。だからそこのお嬢ちゃんも怖い顔しないで。しかし、生きているのですが……」
「なんと山賊の頭に取りつかれちゃったの」
 エリザベータのたどたどしい言葉に重ねるようにセフィーがそう説明した。その矢先に、廊下の向こうから下品な笑い声が聞こえてくる。皆は柱の陰に隠れて様子を見るとそれは説明に出てきた山賊たちの幽霊だった。
 それはむき身の幽霊だけではなく、マネキンや気絶した生徒に取り付いているものもある。その数は想像以上で、話を聞いていた縁の予想のはるか先を行っていた。そしてその先陣を切っているのはオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)であった。
「あれが今は遠い三人目です」
 エリザベータは気恥ずかしいのかだんだんと語気が弱くなっていく。隣のセフィーも頬を赤らめている。二人の戸惑いに追い打ちをかけるようにオルフィナのげらげらとした笑い声が続いていた。
おい!! 野郎ども首尾は上々だな!!
「へい!! 頭!!」
 頭と呼ばれたオルフィナはさらに声量を増やす。それにつられて、幽霊に取りつかれた生徒たちは何かを掲げていた。柱に隠れながらそれを観察する縁はそれに気づいて、いくらか硬直してしまった。
「どうやら山賊として周りのプレイヤーに対して略奪行為を繰り返しているみたいです。金品を強奪しているときもありますが、一番の目当ては他人の下着のようで……」
 エリザベータは顔に手を当ててそう呟くと、それに気恥ずかしさに追い打ちを加えるようにオルフィナの揚々とした声が廊下に響く。
「おいっ、野郎共!! 金に食い物に女……。好きなだけ、奪って、食って、犯してやれ!」
「へい!! 頭!!」
 オルフィナはそのまま生徒たちを先導すると、エリザベータとセフィーたちとは遠い場所へと消えて行った。しかし縁はあの方向に女子更衣室があるのを知っていた。
「しかし面白そうな……いえ大変な幽霊に取りつかれていましたね」
「お願いします。私たちだけでは役不足のようなので、力を貸してもらえませんか?」
「分かったわ。なら作戦を考えましょう?」
 快諾する縁を前に、エリザベータとセフィーたちはほっと息をつくのだった。





 椎名 真(しいな・まこと)は学園の中で寒気のようなものを感じていた。その先に何があるのかも彼には分かっている。だからこそ進んでいるのである。鳥肌が目立ちつつある自分の手の甲が目に入り、そして窓ガラスに映る自分と目があった。
 自分の顔から右腕にかけてやけどのような痣が浮かんでいるのが分かる。その証を見て、真はなんとなく今の自分の状態を実感した。
「諒、確認するが本当にナラカに送るのか?」
 真は自分に対してそう呟いた。しかしその言葉を向けたのは彼ではなく、彼に取り付いている椎葉 諒(しいば・りょう)である。今の体の所有権を持っているのは真ではなく諒であった。
「幽霊を見つけたら未練を聞いてナラカに送る。俺から言い出したことを忘れる分けねえだろ?」
「あぁ分かった。このまま前にいるはずだ。でも気をつけろよ。悪霊かどうかまでは分からないからな?」
「まぁ、後れを取るつもりはねえ。そろそろ姿が見えてくる頃合いか?」
「そうだが……何か聞こえてこないか?」
 真の言葉を肯定するように廊下の向こうから何かが聞こえてくる。それは空しさと悲しみの両方を感じさせるような泣き声であった。思わず諒は足を止めてしまったが、悪霊でないことが分かり声のする方向へ歩き出す。
 しばらく歩いて、諒はその場所を突き止めた。そこは女子トイレの前で泣き声はここから聞こえてくることが一目でわかった。泣き声だけではなく、女子トイレから水が漏れているからである。
 泣き声は渦を巻き、激しさを増やし、こぼれ出た水面に波紋を作っている。そしてその女子トイレの前では、エースとエオリアが顔を見合わせて苦笑いを作っていた。
「そこの貴様ら。何か事情を知っているのか?」
「知っているというほど知っているわけではないぜ。君と同じで泣き声に誘われてここまで来た次第だ」
 エースはそこで扉の前に顔を向ける。
「そこで泣いている御嬢さん。そんな小さな場所にとどまっていないで
俺と一緒に広い場所にいかないかい?俺ならあなたの涙を乾かす自信があるぜ」
 エースのセリフにちょっと寒気を覚えた諒であったが、泣き声がやまないことに顔をしかめて返す。エースははにかみつつ目を閉じると、お手上げと言わんばかりに手を振った。トイレから流れる水の量は広がりを見せその冷たさから幽霊の悲しみが伝わってきそうだった。
「困ったね。俺たちの言葉が届かないらしい。だからといって近くまで行こうにも場所が場所だからね」
「あぁ……女子トイレ……」
 諒が頷くとエオリアも同時に頷く。できることはやはり女子トイレの前で言葉を飛ばすだけなのか?諒はいざとなったら自分がトイレの中に入ろうと思っていた。非常時であるから大丈夫だろうし、何よりこの体は真のものであるし。
「ちょっと、諒。何を考えている」
「なら行くか……」
 真の苦言を無視して、そして女子トイレの扉に手をかけた時だった。
「ちょっと待ちなさい」
 別の誰かの声が聞こえ、諒とエース、エオリアの三人はその声の主を見て、三人同じ顔をした。それはこの雨が降る中だというのに、青のビキニというとんでもない格好をしているからである。申し訳程度にロングコートを羽織っているそれは誰がどう見ても場違いな格好をしていた。
「なぁに?あたしの顔に何かついている?」
「いや。綺麗な人が訪れたので見とれていただけさ。すまなかったな」
 エースが歯の浮くようなセリフを言ったのに対し、その順応性に諒は感心していた。諒はまだ開いた口を閉じることができないでいる。そのビキニの少女の隣にはレオタードを来た女性が立っているのに気付いたからだ。
 隣にビキニの女性が立っているから、レオタードといういでたちでも相対的に場違いさは感じさせていない。しかし薄暗いこの中で二人が来ている水着は鈍い光を輝かせていた。
「あたしはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)、そして隣の彼女はセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)よろしくね」
「あぁ……よろしく」
「それでどうして男のあなたが女子トイレに入ろうなんてしているの?」
「何って分からないのか?」
 諒は親指でトイレの扉を指した。中からは相変わらず幽霊の泣き声が続いており、セレンフィリティは両手を合わせて理解を示した。
「ならあたしたちに任せなさい?事情を聴いてきてあげる」
 そういうやいなや、諒のわきを通り女子トイレの中に入っていく二人。諒とエースは状況が進むことを胸の中で安心したが、服装から破天荒であると分かる彼女たちに託すことにちょっとだけ不安も覚えていたのだった。