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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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●2章  脅威の回避を迅速にせよ!




 マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)は戦況をちらりと確認した後、他の魔物や逃げる住民には目もくれず、真っ先に元凶である吉岡一門の英霊達に突っ込んでいく。
「先手必勝で攻撃すれば勝機もあるだろう。それに軍の部隊が到着するまでにもたなければ、元も子もないのだよ!」
 一気に勝負を決める為にライトブリンガーを放つ。だが、その光輝の一撃は通用せず、相手の刀によってかき消された。
「我が名は植田 良平、どこにいる、許すまじ、武蔵はどこだ……」
(不発か……っ。この技で倒せぬのならば、無理は禁物、退くか)
 マグナが一旦退こうとしても、相手は生ある者を全て喰い尽そうとする狂った英霊。その凶刃が逃げる間もなくマグナを襲うとする。
 その闇の刃を、なんとか退けマグナを助けた者がいた。


「恨みの念を強く抱いた英霊はこうなってしまうものなのか……」
「すまん、少年」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)の援護で間一髪、危機を逃れたマグナは体勢を整える。
「村から離れた場所に誘導しようと思ったが、そう簡単にはいきそうにもないな……信長!」
「大きな声で叫ばんでも分かっておるわ!」


 織田 信長(おだ・のぶなが)は辺りに不滅兵団を三部隊も召還する。
「お前ら、盾や槍で敵を広い場所に追い込め! そのまま敵を囲み、一気に勝負を決めるのじゃ!」
 質より量。その作戦は上手くいったかに見えたが、英霊達を足止めするには足りても、とても追い払ったり討伐できる程ではない。やがて進行は遅くとも、じわりじわりと村の方へと近寄り、亡霊達も集まってくる為に3人は苦戦を強いられる。
「ただでさえ英霊一体の力が強いのに、これでは多勢に無勢だぞ!」
 再びライトブリンガーを放ちながら、マグナは叫ぶ。


「ああ、元凶を倒しさえすれば解決するはずなのに他の応援にきている奴は何しているんだ!」
 一人で戦えば不安だが、仲間と一緒に戦えば心強い。
 そう思い、数ある選択肢の中から直接英霊を狙うことを選んだ忍だったが、その英霊討伐の仲間が少なすぎて話にならない。


(いや、これでいいのか……?)
 吉岡の英霊達を追いやることは不可能そうだが、少なくとも村の住民達はこの機会に逃げようとしている。
「信長、マグナ! 建物や住民に被害が出ないように、できるだけ踏ん張るぞ!」
「くく、私を誰だと思っておる。第六天魔王信長ぞ? 亡霊達の怨念、すべて受け止めてやろうぞ!」
 信長の体に赤い刻印が生まれ、炎のような覇気がその周りに現れる。
「倒さず時間稼ぎをする目的ならば、やりようがあるな。任せておくのだ!」


 マグナもエンデュアとオートガードで身を固める。
 たった3人。彼らは3人だけで、事件の根源である英霊達に立ち向かう。
 無論、本来は討伐してしまいたいところだが、現状までの被害で食い止めたい彼らに残された選択肢はこれしかなかった。
「いいか、死ぬなよ! 時間稼ぎが目的だからな!」





 マグナや忍達が魔物の群れを止めた僅かな時間は、住民達の避難を誘導するのにうってつけの間だった。
「みんな、俺についてきてくれ、安全な場所に連れて行くから!」
 大岡 永谷(おおおか・とと)の必死の避難誘導に、混乱した住民達は中々聞いてくれない。四方八方に逃げ惑うばかりだ。
(目に見えるものが全て敵に見えるんだろうな。よし)
 永谷は用意していた巫女装束に着替えると、口調を変えて叫ぶ。


「私はあなた方を助けにきた巫女です。ここは私に任せてください!」
 その姿と優しく言い聞かせるような口調に、何か安心するものでも感じたか、逃げ惑う人は落ち着き耳を傾ける。
「向こうに安全な場所があります。私の指示に従い、慌てずに逃げてください」
 永谷は魔物の群れが見えない方向を示す。とりあえず敵から遠ざければ、本格的な援軍が来るまでの時間稼ぎになると考えたからだ。


(後は浄化の札をみんなに持たせ、相手にとって脅威に思わせるだけだな。俺が倒れてしまったら他に守る奴はいないかもしれない。とにかく無理はしないようにしないとな)
 ここは小島である為に、この悪戦況が続けばいずれは魔物に取り囲まれるだろう。
 それまでにはきっと援軍が到着しすべてが終わる事を信じ、永谷は出来るだけを尽くそうと心に強く誓った。




 明倫館の生徒、そしてその後に辿り着き英霊達に立ち向かった生徒達のお陰で、戦況は悪化しつつも人命への脅威は回避できた。
 ハイナはその機会を見逃さず、後続として集まった者達を集めて作戦会議を開いた。


「今までは場当たり的な対応をしてきたが、ここからは綿密に行動するでありんすよ」
 ハイナとの交流のある佐野 和輝(さの・かずき)
 そのパートナーである松永 久秀(まつなが・ひさひで)は、現場で指揮を取らなければいけないハイナになり代わり、集まったメンバーでの人員の割り振りを行なっていた。
「あら? 聞き覚えのある者等の名前があるのね。さてさて、面白くなってきたじゃない。とりあえず、相手の進行に合わせて進行を阻止する役、囮役、誘導した住民を船に届ける役に分かれましょ」
「ハイナによると、かなり多くの人員が鎮守の社の調査に向かったらしい。ハイナ自身もかなり怪しいと睨んでいるみたいだ。俺とアニス・パラス(あにす・ぱらす)もそっちに向かっていいかな?」
 和輝の言葉に久秀は頷く。
「それじゃ和輝達はこちらの状況を伝えることも含め、よろしく。他の役割も強制はしないわよ、立候補で配置を割り振ることにしましょう」
(こういうの、久しぶりだからわくわくしてきたわ……ふふ)
 扇子で口元を隠しながら、久秀は指揮をすることを楽しんでいた。



 すでに前線で戦っていた明倫館の生徒達の応援として、進行ルートの阻止を買ってでたのはグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)の3人だ。
「真正面から多数の敵を相手にする事はない。破壊された建物や地形を利用しよう。キースは上空、俺とゴルガイスで地上と空中だな」
 グラキエスの言葉で三点に散っていく。


「グラキエス、あまり離れるでないぞ。万が一の時守りにくくなる。消耗はなるべく抑え、変調が出たらすぐに後退するのだ」
 ゴルガイスはブレイドガード、スルーを使い、敵の前に立つ。
「ここから先は行かせぬぞ! 煉獄斬っ!」
 その力強い一撃は、先頭の魔物の首を狩るには充分だった。
「さあ、今度は貴公の腕の見せ所だ、ロア!」
 彼の咆哮にも近い大声は、遥か上空で小型飛空艇アルバトロスに乗っているロアに届く。


「言われなくても解かっています、今周辺の情報を集めているところですよ」
 ロアはコンピューターの技能を活かし、銃型HC弐式に情報をインプットする。
「上空からのナビと攻撃は任せてください。でも無理は駄目ですよ、エンド。疲れてきたら私の所で休んでください。アラバンディット、エンドが怪我しないように守ってあげて下さいね」
 的確な指示を地上の2人に転送する。


「なるほど、この先の瓦礫と袋小路を利用すれば、魔物の一斉攻撃を防げるな!」
 ゴルガイスの盾に守られているグラキエスは、周辺の情報と自身の行動予測に基づき、トラッパーで罠を張っていく。
「さあ、罠を潜り抜けてきてみろ、魔物共。例えここに辿り着いても、『我は射す光の閃刃』や『歴戦の魔術』で一網打尽にしてやるぜ」
 鉄壁の防御で後方のグラキエスを自由に行動させ、更に上空からの援護射撃。
 そして敵が固まったところへのグラキエスとロイの一斉攻撃。
 すでに瓦礫と化した住宅街を利用することで手放しでは喜べない戦法だが、それでも思い切りのいい戦い方は確実に奏を成していく。
「まあ、これも力の強い英霊共の本隊にはあまり通用しない戦法だけどな。それでも直接攻撃で魔物の群れ全体を足止めする俺達の役割は全うしたぜ? 後は頼むぜ、みんな!」
 


(やられる……っ!)
 たった一人で囮を続けていた朱鷺。引寄せられた英霊の一撃が彼女を襲おうとしたとき、その攻撃を防いだ影があった。
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)だ。


「英霊なんてまともに相手なんぞしていられない。少しでも被害を減らす方向に動くべきだろうに、なんで囮役を一人で放ったらかしにしてるのですかな」
 アルクラントの言葉に、シルフィアが答える。
「人数が絶対的に少ないからね。仕方ないわ。どっちにしても英霊さんを相手にするのは私とアル君だけじゃ厳しそうだし、作戦どおりに敵をひきつけた方がいいと思うわ」
 アルクラントは朱鷺に手を伸ばす。
「私達しか囮役を買って出た者はいない。もう少し頑張れますかな?」
「大丈夫……助けてくれてありがとう」
 その手を握り、朱鷺は頷く。


 実際に1人が3人となったからと言って、囮を続けるのは危険なことには変わりがない。
 だが直接戦闘している者も、避難誘導している者も少ない人数で被害を最小限にとどめようとしている、自分達が諦めるわけにはいかない。
「アル君、ここは私が盾役になるわ! 敵をぎりぎりまでひきつけるから、その間に時間稼ぎ用のトラップを張って!」
 シルフィア禁猟区のスキルを発動させ、自身にも防御の魔法を施す。
「英霊か、武蔵辺りの英霊を引っ張ってきて謝らせれば止まるのでは……うおっ!」
 武蔵の名を聞いた瞬間に、凄まじい速さで襲ってくる吉岡。
 すんでのところで、アルクラントはその攻撃をかわす。
「……ふふ、冗談だよ。ムキにならないでくれ」
 罠を張り終えたアルクラントは、冷や汗をかきながらも笑いながら呟く。
「兎に角何とか皆無事で帰りたいものだ。英霊たちも早々に黄泉の国へと、お帰り願いたいね……」




 空飛ぶ箒スパロウに乗り、永谷が連れて来た島民達の避難誘導に当たっているのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だ。


「みなさん、この先に私達が乗ってきた船があります! 今、この島は大変危険な状況にありますから、とりあえずは他の場所に避難する為に、船へと向かってください!」
 リースの前には桐条 隆元(きりじょう・たかもと)の扱う吉兆の鷹。
 小糸と名付けられたその鷹は、上空で旋回し安全な道を見つけ、リース達を先導する。
「すまぬが、今から大量の避難民がそちらに向かう。安全を確保し、とにかく速やかに脱出できるように手配を頼むぞ!」
 船の停留所にいる仲間に向けて、携帯電話で予め連絡を行なう隆元。
 口では喋りながらも、その目はより安全なルートを探している。


「小糸ちゃん、私は体力がないから、とにかく魔物のいない道をおねがいね! 他に避難誘導にあたってくれている人はいないし、あなただけが頼りなんです」
「ぴぴ〜っ!」
(もう〜っ、被害を抑えるのが最重要って聞いていたのに。社に向かうのはもうちょっと少ない人数でも良かったんじゃないでしょうか? 先に人命救助や建造物の保護をしないと本格的な魔物討伐が出来ませんよね?)
 それでも多くの仲間達が囮役や魔物達の足止めを行なってくれている。被害を抑えようとしているのは、みな同じ。それなのに愚痴を言っても始まらないと、リースは頭を振った。
「リース、お主が自ら住民達の先導を買って出たのであろうが! 今は余計なことを考えず、とにかく一刻も早く皆をここから脱出させることに専念するのだ!」
「はい! わかっています!」
 隆元の声で気合を入れるリース。
 誘導しているのは永谷と3人だけだが、これ以上の人的被害を出さない為に一刻を争う。
「せめて社にある水晶を調べることで、この事件が解決することを願います!」


 元々が突然の通達だった為に、どうしても人員配置のバランスが悪いし絶対的に人数が足らない。劣勢を打破する為に先に社に飛び立ったベルク、和輝、アニスはようやく現場に辿り着こうとしていた。