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楽しい休日の奇妙な一時

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楽しい休日の奇妙な一時

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「それじゃあこれもお願いね」

 ご機嫌な様子で壬 ハル(みずのえ・はる)村雲 庚(むらくも・かのえ)に買ったばかりの荷物を預けた。
 買い物は何件もの店をまたぎ、最終的にオープンカフェで一休みをする。

「随分と買ったが……帽子はいいのかよ」
「うん、この帽子は特別だからね!」

 荷物を確かめていた庚の問いへ、ハルが嬉しそうに答える。

(今被ってるキャスケットはカノエくんがくれたものだもん。……だからいいの……新しいのはいらないよ)

 そう心の中で付け足したハルは笑みを浮かべた。
 ドリンクを飲みながら雑談をしていると、ふと周りが騒がしいことに気付く。

「何かあったのかな……ってカノエくん、足元になにか……」

 ハルの言葉に庚が下を見ると、無性にかわいい猫がこちらを見ていた。
 じっと庚を見た後に、にゃーんと一声鳴くと、足にてしてしと猫パンチをしてくる。
 まったく痛さは感じず、むしろくすぐったい攻撃だ。

「これは……襲われているのか?」
「かわいーかわいー……ね、カノエくん! この猫さん迷子かな? だったら飼い主さん探す?」

 ハルは、庚のジーンズで爪を研ぎ始めた猫にベーグルサンドのハムをあげると、おもむろに立ち上がった。

「とりあえず店内アナウンスしてもらおっか。迷子の猫さんがいるよーって」

 ◇


「念願の限定盤某喫水線シリーズを手に入れたぞー!! はっ! いけない、誰かこれを狙ってくるかもしれない……」

 すれ違う通行人がぎょっとした顔で後ずさる。
 大げさなほど周囲を警戒しながら、物陰から物陰へと伝って移動する葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)に驚いたのだ。
 以前より切望してやまなかったプラモデルを手に入れた吹雪が、誰にも取られまいと神経をとがらせているのである。

「まったくこのアホは……」

 一緒に買い物にきたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、頭を抱えながら吹雪の後を追っていく。

「誰がそんな物狙うのよ!!」

 コルセアの叱咤も今の吹雪には届かない様だった。
 吹雪がときおり振り向いては、声を出さずに手で合図をしてくるが、コルセアは付き合わない。
 だが、事件は現場で起きてしまった。
 ちょうど吹雪がこちらに合図をしていた瞬間である。
 大きな帽子を目深に被った初老の男性が、突如として吹雪の前に現れた。

「八八艦隊計画艦(全16隻)は貰ったっ!」

 叫びながらも素早い動きでプラモデルを奪い、逃走したのである。
 口を大きく開けて愕然とする吹雪を置いて、反射的にコルセアが駆け出した。

「吹雪が変な行動を起こす前に捕まえないと!!」

 そうごちるコルセアの思いはすぐに砕かれてしまう。
 泥棒を追いかけるコルセアの背後から、怒りに満ちた銃声が鳴り響くのだった。

 ◇


「このワンピース可愛いですわ〜。ルーナちょっと試着してみてくださいな」

 ルーナ・リェーナ(るーな・りぇーな)と買い物にきたディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)は、様々なデザインの衣装に目移りしていた。

「あれもこれも、それもとっても似合いますね」

 自分の服を探すよりも、ルーナに着せることに夢中のようだ。
 やがて満足したのか帽子や靴と一緒にまとめて購入する。

「今度これを着て、どこかに行きましょうね」
「わあい、ありがとー♪」

 休憩しようと喜ぶルーナの手を取ってオープンカフェに行くと、無性にかわいい男の子を連れた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がソフトクリームを買っていた。
 ソフトクリームを受け取った男の子は嬉しそうにくるくる回りながらはしゃいでいる。
 しかし、回りすぎたのか勢い余って落としてしまった。

「うわあああん」
「まあ大変。私、ルーナの分と一緒に新しいのを買ってきますね」

 見かねたディアーナがルーナを席に座らせてソフトクリームを買いに行くと、恭也が男の子の頭を撫でているのが見えた。
 その様子をじっと見ていたルーナがつぶやく。

「恭也さん、男の子好きなの?」
「断じて違うぜ!」

 即座に否定する恭也。だが……。

「あ、猫さんだー」
「俺の話をきけぇぇ」

 目の前を横切る半透明な猫を見つけたルーナが、後をついていく。
 その先に砂煙をあげて走る雅羅とアルセーネ、そして大量の猫を見てしまった恭也が慌てて飛び出す。
 とっさにルーナを抱きかかえて回避すると、はあ、とため息をついた。

「不幸って油断ならねぇ」