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楽しい休日の奇妙な一時

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楽しい休日の奇妙な一時

リアクション

「そう言えば、そろそろ1年ですよね〜。イグナが機械が苦手なのは、判っていますけれど……そろそろ携帯電話を持って貰えると良いですよね〜」
「む……いや、我には……」

 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)の提案にイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が困惑する。

「アルティアも、イグナさんに携帯電話を持って貰えると……連絡しやすくて良いと思うのでございます」
「なら、ケータイを買いに行けば良いと思いますわ」
「貴公ら……我の意見は、無視なのだよ?」

 さらにはアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の援護が加わり、半ば説得される形で携帯電話を買うことになった。

「でも……ここ、空京ですよ? 今から、ツァンダまで行くのは……遠過ぎると思いますけれど?」
「シャンバラのケータイのメッカがツァンダなのは知ってますわ。でも、空京にだって、売ってますわよ?」

 空京にある広大なショッピングモールの一角。
 無事に登録も終わり、紙袋を携えて携帯ショップから出てきたイグナを迎えたのは、無気力な感じで近遠によりかかる男の子だった。
 状況が飲み込めないイグナに、ユーリカが説明をする。

「あたしたちがお店の外でイグナちゃんを待っていたら、急にふらふら〜とやってきて、近遠ちゃんに張り付いてしまったのですわ」

 ユーリカの言葉に近遠が横に移動すると、ぼーっとした表情の男の子もそれに合わせて動く。
 そして服の裾をきゅっと握る。

「迷子になって心細いのでございましょう。近遠さん、アルティアたちで保護者の方を探すのはだめでございましょうか?」
「そうですね、ほってはおけません。イグナ、電話帳登録は後になりますけどよろしいですか?」

 近遠の言葉にイグナは男の子の頭をそっと撫でた。

「弱き者は護らねばならぬ、それが我の本懐なのだよ」

 ◇


「どうしたの?」

 妙にそわそわした常闇 夜月(とこやみ・よづき)の様子に、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)が尋ねた。
 鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)が視線の先をたどると、アミューズメントセンターの入り口に設置してあるポップが目に入る。
 そこには、あの話題作の続編○○がテスト稼働中、と書いてあった。
 見れば夜月がこくこくと頷き、気付いた白羽が苦笑いをしている。
 納得した黒羽は、まだ元気の無い笑みを浮かべる鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の腕を取ると、店の中へと引っ張った。
 とある件で落ち込んだままの貴仁は、流されるままに力なくついていく。

「ね、貴仁。新作のテスト期間中だってさ。面白そうだから遊んでみようよ!」

 目当てのゲームはすぐに見つかった。
 まだ早い時間で店内には人が少なく、いくつか並んでいる台の一つを占有する余裕がある。
 黒羽が椅子に座ると、対戦席の向かい側には夜月が座った。

「うわあ、全然勝てないよ」

 何度も夜月に挑む黒羽だったが、その度に圧倒的な技量の差を見せつけられて負けていた。
 諦めて席から立とうとした黒羽の肩を、柔らかいものが押さえつける。
 振り向いた黒羽が見たものは。

「し、師匠!?」
「あきらめたらそこで試合終了にゃ! 勝つまで席を立つことは許さにゃい、修行にゃ!」

 無性に可愛い猫の師匠が立っていた。
 手にした竹刀をバシンと鳴らす。
 悲鳴を上げながらも修行を頑張る黒羽の姿に、貴仁は俺も少しは頑張ってみるかなと思うのだった。

 ◇

「えーと……」

 コスプレのねこ耳やら衣装やらを買うつもりでショッピングモールに訪れた白露 ネユン(はくろ・ねゆん)の前には、三匹の猫が立ちふさがっていた。
 しかも無性に可愛いふさふさのペルシャ猫である。
 戸惑うネユンがじっと見ていると、三匹がじわじわと距離を詰めてきた。
 そしておもむろに肉球をぽふんぽふんと当ててくる。

「か、可愛い……。あれ、ひょっとしてワタシ、襲われてるのかな?」

 三匹から次々に肉球を受けるが痛くは無い。
 それどころかもふもふとした毛に囲まれて、少しくすぐったい感じがする。
 まるで別の世界にいるような気分だった。

「衣装を買わないと……ああでも、この状況は捨てがたいわ……」

 全力で意思を買い物へと向かわせるが、肉球がくる度に溶かされていく。
 てしてし。
 うっとりとした表情のまま、ネユンの時間が過ぎていくのであった。