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■第4章

「こわくないよ〜。はい、おしまい!」
 物陰で怯える虎に鬼龍 愛(きりゅう・あい)浄化の札使うと、こちらを威嚇していた虎は途端に落ち着き、大人しくなった。
 だが、怯える様子はまだあるようだ。
「おや、この子は元々人が怖いんですかね?」
 愛の様子を後ろから見ていた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)はおびえ続ける虎を見てそう思った。
「いや、逃げないところを見ると何か嫌なことがあったのかな……?」
 どうやら虎は愛を見て怯えてるようで、子供に悪戯でもされたのではないかと推測してみる。
「とらちゃん、あいちゃんはいじめたりしないよ!」
 愛は虎に怯える様子はなく、ゆっくり近づくとその頭を撫でる。
 軽く唸り声を上げた虎だったが、愛に敵意がないことに気付くと撫でられるうちに気持ちよくなったのか喉を鳴らしだす。
「……流石愛ちゃんですね」
 元々獰猛ではないと聞いていたが、本来猛獣である虎と仲良くできている愛の姿を見て貴仁はほほえましくも思っていた。
「おとうさん、とらちゃんごろごろいってるー!」
「はは、虎さんが仲良くしてくれてありがとうって言ってるんだよ」
「ほんと! わぁい!」
 元々動物園に遊びに来ていたのだが、今回の事件でそれもできなくなってしまうかと心配していたが、目の前の愛が楽しそうにしているのを見るとそうでもないかなと思ってしまう。
「あ、おとうさん、あそこにうさぎさん!」
 愛の指さした先には草陰から突き出た兎の耳。
 自分もいいところを見せねばと、ゆっくりと伸ばせば手の届く距離まで近づく。
「よし……うわっ!?」
 貴仁が手を伸ばした瞬間、兎は飛び上がり貴仁の横をすり抜ける。
 しかし、貴仁は飛び出した兎が兎ではないことに気が付く。
「あれは、ティーさんの……!?」
 兎の耳が生えたティー・ティー(てぃー・てぃー)に似た通称ミニうさティーと呼ばれているちびキャラだ。
「愛ちゃん捕まえて!」
 ミニうさティーは貴仁の横をすり抜け、愛の横もすり抜けて逃げようとする。が、反射的に動いた虎に抑えつけられた。
「とらちゃんすごい!」
 虎の前足に抑えつけられるミニうさティーを見て愛は大喜びだ。
「何でこんなところに……。そうだ、ティーさんなら動物と話せますね、案内してもらいましょう」
 大人しくなった虎ならきっと事情を話してくれるだろうと考えた貴仁は目の前のミニうさティーに案内を頼んだ。
 しばらく嫌そうな顔をしていたミニうさティーだったが、愛のお願いする顔を見て頷いた

「全ての動物達が一斉に脱走……って。まぁ、何ともバイタリティ溢れる動物園だな」
 夜も遅い動物園を歩きながら源 鉄心(みなもと・てっしん)は一人楽しそうな顔をしている。
「でも、もうすぐ終わりそうですね」
 ミニうさティーとミニいこにゃのミニミニ軍団を引き連れながらティーも同じように楽しそうな顔をした。
 しかし、楽しくない顔をしているのは遅れて歩くイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「勝手に動物達にミニミニ軍団を参加させてるのはどういう事ですの。高級いちご、食べたかったですのに……」
 ティーが動物達の軍団に紛れ込ませたミニミニ軍団により、犯人の居場所はわかり動物達の捕獲も効率的に進められた。
 しかし、それを聞かされていなかったイコナは邪魔され、最終的には楽しみにとっておいた高級イチゴを餌に大人しくさせたのだ。
「まったく、いやしいアホうさぎですね……」
 そんなイコナの様子は気にせず、気が付くと3人は管理室の前までやってきていた。
「ここに犯人達がいるのか?」
「はい、ミニミニ軍団に寄ればここ園内全てを監視しているようです」
 園内に仕掛けられた監視カメラから全て見ており、適時指示を出していたのだろう。
 ティーの言う通り、管理室からは明かりが漏れ、人の気配がしている。
「もっとも、囲まれたみたいだけどな」
 管理室の辺りから様々な動物が現れる。
 肉食動物、草食動物問わず、まだ捕獲されていない動物達がこちらを睨んでいる。
「ふふふ、引っ掛かったな!」
 ばあん、と勢いよく管理室のドアが開けられるとそこから3人の男達がミニミニ軍団の一部と現れた。
「なんでうさぎがそっちについてるんですの!?」
「ふふふ、彼らは我らの同志となってくれたのだよ!」
 ビシッ、とポーズを決めるミニミニ軍団。
「ああん、もう……」
 頭が痛いと言わんばかりにイコナは頭を抱える。
「お前達がこの事件の原因か? 動物達を傷つけたくはないし話を聞かせて欲しいんだが」
「ほう、それは我らの要求を飲むという事だな!」
「それは話を聞いてからですの!」
 鉄心の話を聞くなり気を良くしたのか、リーダーらしき男はイコナの言葉を一切無視して話を始める。
「我らの目的は動物達の解放だ!」
 大きく出たな、と鉄心は1人思う。
「彼らは元より自然の中で過ごし、自由と共に生きてきた! だが、この施設は彼らを檻に閉じ込め、見世物にして懐を温めているのだ!」
 わかるか!と男は強く言い放つ。
「このような暴挙は許しておけぬ、現に彼らは我らと共に戦っている。それは反抗の意思があったからではないのかね!」
 それは『適者生存』のせいだろうと誰もが思った。
「彼らは我らと共に新天地を目指すのだ!」
「そうはさせないよ」
 突然辺りに声が響き、空を見上げると急降下してくるルカルカ・ルー(るかるか・るー)夏侯 淵(かこう・えん)の姿あった。
 2人は男達の前に着地すると戦闘の構えを取る。
「淵、動物達を!」
「任せとけ!」
 淵がホワイトアウトを発動させると、あたりに吹雪が発生して動物達の視界が完全に遮られ、その場には男達と契約者達が残された。
「加減はしてる、悪いな」
 威力を抑えた吹雪は多少の寒気を感じるものの、ダメージとしては殆ど無い。
「はぁーっ!」
 ルカルカは神速と言わんばかりのスピードで男達に接近する。
「貴方達は動物を解放してないの!」
 弱気そうな男に接近し、左から流れるように右の拳を叩き付ける。
「それは利用してるだけ!」
 更にミニミニ軍団に囲まれていた男に回し蹴りをかまし、その勢いでリーダーの男に正拳を放つ。
 ルカルカの攻撃にたまらず倒れこむ男達。
「動物を利用する奴は動物に倒されるの!」
 そう叫び、もう一度力を溜めて呼び寄せた忍犬と共に倒れこんだ男達に突撃しようとする。
「ちょっと待て、やり過ぎだ」
 だが、鉄心がルカルカの肩を掴み、動きを抑える。
 ルカルカが動きを止め、しばらくすると吹雪が晴れ、動物達の姿が見えるようになった。
 しかし、動物達は未だにこちらを睨み付けていた。
「どうにも、仲間がやられてご立腹みたいだぞ」
「仲間? 彼らは操られてたんじゃ?」
 魔獣使いと思われる男は完全に意識を失っている。であれば術は解け、動物達も正気に戻っているはずなのにまだ彼らはこちらに敵意を向けている。
「どうにも違うみたいですよ」
 いつの間にかミニミニ軍団は男達から離れ、ティーの元に集まっていた。
「今、この子達から聞きました。彼らはこの人達の『お願い』を聞いてともに遊んでいたようです」
「……え?」
 その場にいる全員が素っ頓狂な声を上げる。
「おや、決着がついたみたいですね」
 沈黙を破るように現れたのは貴仁と虎の背に乗る愛だ。
「話は聞かせてもらいましたけど、随分おかしな話見たいですね」
「とらちゃんとおはなししてあげて!」
 周りにいる動物達と違って、愛の乗っている虎は敵意を感じない。
 これなら大丈夫だろうとティーは『インファイトプレイヤー』による対話を試みた。
「……えっ。この人達は悪い人じゃない? むしろ、友達?」
 ティーは虎の話す内容を皆に伝わるように話し始める。
「この人達が必死に外に出ようと話をしていたからそれに応えただけ?」
 事件の真相を聞いた彼らは驚きを隠せなかった。
「何か変な感じはあったけど今回の散歩は楽しかったし、いっぱい遊んでもらって嬉しかった?」
 動物達にとっては何のことはない、ただの散歩だったのだ。
「そろそろ寝なきゃだけどまた遊ぼうね! とのことです」
 そして、彼らは誰も男達を恨んでなどいなかった。
「……くっ! すまん……!」
 ティーの話を聞き終えたリーダーの男は堪えられなくなったのか涙を流し、その場で俯いた。
 不安がっていた男も同じように俯いている。
「檻に入っている彼らが自由であって幸せである場所にして守りたいの。貴方達にも手伝ってもらえる?」
「もちろんだ……っ!」
 ルカルカが伸ばした手を男は握り、そして立ち上がる。
「そうだな。契約者の力は、何かを守るためにこそ使いたいな」
 そう言って淵はきょろきょろと辺りを見回し、あたりが荒れてしまっていることに気が付いた。
「修繕の手伝いを募ろうか」
「それはいいな、俺達も手伝おう。ティー、こいつらも使っていいよな?」
 鉄心はミニミニ軍団を見てそう言った。
「……ごめんね、みんな」
 魔獣使いの男はそばに寄ってきた兎を抱き上げ、軽く撫でる。
 そして、それを見つめているのは愛。
「兎さん、だっこする?」
「うん!」
 愛は兎を受け取ると笑顔になり、それに釣られてその場にいた全員が微笑んだ。