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気炎万丈! イルミンスール魔法学校編


 爆弾鳥の話はここでも、爆音とともに学校内を駆け回っていた。
(全く、面倒なことになってるよね)
 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)は、騒ぎのさざめきの聞こえる廊下に出てきて溜息をついた。
「爆弾鳥、だって?」
 学校関係者には生徒たちより早く、事情を知らせる報告が回ってきている。校長たちも事態の収束に向けて奔走している。本音を言えば静かに錬金術の研究に没頭していたいアゾートも、一人静観を決め込むわけにもいかないのだ。
 学校に、平穏を取り戻すために。
「卵に氷術系が有効、か」
 復習するように呟いた時、どこかから爆音が聞こえてきた。
 アゾートがハッとそちらに顔を向けた時。

「アゾートさん、これに乗って!」
 その言葉と共に現れたのは、風馬 弾(ふうま・だん)
 ――まさかの、校内を『小型飛空艇』使用でやってきた。
「え」
 さすがにアゾートも驚いて言葉に詰まった様子だった。
「……緊急事態だから、と思って」
 その戸惑いように、弾もやや言い訳じみた口調でそんな風に言った。
 弾は、恋人のアゾートに借りた本を返しにイルミンスールに来たのだ。しかし、例によって校内では混乱の声と爆音とがそこここから響き、何か異変が起きていることはすぐに分かった。たまたま話を知っている生徒を捕まえて、爆弾鳥の話を知ることができた。
「爆弾鳥のこと?」
「そう。イルミンスールを守らなきゃいけないでしょ?」
 アゾートは瞠目して、弾を見た。
 それはまさにアゾートが、これから動かなくてはならない動機なのだが。
「……いいの?」
 弾はイルミンスール生ではない。少なくとも、義務は生じていないはずだ。
 けれど弾は、強い煌めきを宿した目で微笑む。
「そのために来たんだよ。アゾートさん」
 アゾートと一緒にイルミンスールを守る。そしてアゾートは自分が守る。
 そのために。
 飛空艇の上から差し出された手を、アゾートは取った。



「ヒャッハー!」
 マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)が叫ぶと、どこか遠くから爆発の音が応じるように響いてきた。
 完全に偶然なのだが。
「爆弾鳥!? 面白ぇじゃねえか!!
 このイルミンスール武術部部長の俺が解決して見せよう!」
 ヒャッハー! とまた叫んで飛び出していく後ろ姿を見て、マナ・オーバーウェルム(まな・おーばーうぇるむ)はこっそり溜息をつく。
 意気込みは凄いが、何も策はないことは明らかだからだ。
 イコール、面倒な匂いしかしない。
「何か分からないけど……何時もながら元気だなぁ」
 そうは言ってもちゃんとついていくマナだった。マイトは常に高速移動を好むので、ちょっと目を離している間に姿が見えなくなってしまう。【バーストダッシュ】でぴったりと影のようについていくのだった。



 このイルミンスールの一角に特殊施設はあり、そこにはぐれ魔道書達はたむろしている。
 もともとこの特殊施設は、魔道書達にとって大切なとある特殊な存在を収容するために特別に校長が厚意で用意してくれたものである。が、その存在は今はいない。死を経て別世界の存在へと転位したのだ。
 彼が最期を迎えるまでともにいたいと望んでここにやってきた魔道書達だが、それが遂げられた今となっては、ここにいる意味はなくなっている。かつては人間嫌いで人と触れ合うことを望んでいなかった彼らだが、契約者たちとの触れ合いを経て、その感情は今はほぼ消えている。再びどこかへ籠ろう、という思いがあるわけではない。
 ただ、特別に設えられた場所を、もうその必要がないのに自分たちがいつまでも占拠しているのは「些か図々しく」ないか? という疑念が、自然と彼らの間で湧いて出てきているのである。
 それで、今後の身の振り方について考えるような話し合いが、彼らの間で時々出るのだという。

「今更大図書館に入れてもらうっていうのもなんだか空々しい感じがする、って……」 
 などと、その話し合いはなかなか決着がつかぬまま今に至る、という魔道書 パレット(まどうしょ・ぱれっと)の話に耳を傾けているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、そしてパレットのパートナー杠 鷹勢(ゆずりは・たかせ)、それに彼の足元に座った山犬の白颯だ。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もイルミンスールに来ているが、図書館にいるという。後から来ると思うよーとルカルカは言っている。
 彼らがいるのは、その特殊施設内の一室。収容されていた『灰の司書』がいなくなってから、彼のいたガラス張りの部屋だけでなく、その部屋の環境保持のために施していた特別な呪詛に使った部屋も空いていた。呪詛の道具などを取り払った後そこが客間代わりになり、こうしてたまに魔道書に会いに来る来訪客をもてなす場として使われている。
 客間といってもソファやテーブルなど、必要最低限の調度品を入れているだけの部屋だが。
「別にエリーがすぐに出てけって言ってる訳じゃないんだから、急いで転居することなんて考えなくていいんじゃないかな」
 ソファに腰かけて話を聞いていたルカルカが言う。
「そもそも魔道書達がいなくなったからといって、施設をすぐに別の用向きで使うという予定があるわけでもないでしょ?
 住居は人がいなくなる方が却って傷みが進むっていうし」
 彼女の言葉に、パレットは包帯を巻いた両腕を組んで、ごもっともというように頷くが、どうもそれで解決は難しいだろうというように表情は少し渋いままだ。

「実際問題、例え出てけと言われても出ていく場所がないから、すぐに転居っていうのはどのみち無理な話なんだけど……
 あれなんだよね。要するに。
 ……自分たちが『無職でダラダラ人ん家で食べさせてもらってる居候』になってる、みたいな心苦しさ? 肩身の狭さ? っていうのかな。
 そんなものを皆感じ始めている気がする。

 そう考えると、やっぱり、俺らの本質って『本』なんだな――とも思う。
 誰かの役に立つために生まれて……
 皆酷い目に遭ってきたから、今までは『そんなもんクソ喰らえ』って思ってたけど。
 こう落ち着いてきてみると、誰の役にも立ってないってことが後ろめたくなってきたのかも」

 そこで言葉を切ったパレットは、その仲間たちがいるはずの広間に繋がる扉をちらっと振り返った。
「……何だ? 何か騒がしいな……」
 ちょっと様子見てくる、と言って、パレットは部屋を出ていった。
「……。いろいろ考えてるのね」
 扉が閉まるのを見届けてからルカルカが呟く。
「うん、そうみたい……だね」
 苦笑する鷹勢とルカルカの間に白颯がトコトコと入ってきて尾を振る。ルカルカは微笑んで手を伸ばして白颯の背をしばらく撫でたあと、鷹勢に向かって口を開いた。
「そういえば鷹勢は何か」
 が、その言葉の途中で、パレットが戻ってきた。
「? 何か、あったの?」
 パレットの表情が妙に厳しいのを見て、ルカルカが尋ねた。
「何だか……校内で物騒なことが起こってるらしいんだ……」
 パレットは――どうやら鷹勢の話は聞いていないらしい――難しい顔でそう言った。

 そこでルカルカたちは、初めて爆弾鳥の話を聞いたのだった。



 施設内の広間で魔道書達は、爆弾鳥の話を聞いて、何とか騒動を収めるための一助とでもなれないかと作戦会議を立てていた。
「はっきりしているのは、卵を凍結させてしまえば危険はなくなるし、学校で用意されている隔離室にさえ入れればヒナでもなんとかなるってことだろ」
 計画を立てるための前提をはっきりさせよう、というような調子で、姐さん(『山羊髭夫人の茶会』)が言う。
「厄介なのはヒナってことだね」
 ヴァニ(画集『ヴァニタスの世界』)が頷きながら言う。
「誰かに懐いていたら引き離しようがないってことか?」
「無理矢理に隔離して運ぶ方法があるんじゃねえか?」
「たとえば?」
 オッサン(秘儀書『水上の火焔』)と騾馬(らば)(錬金図解書『黄金の騾馬』)の会話に、ネミ(『森の祭祀録 ネミ』)が口を挟んで訊くと、
「――ページに閉じ込めるってことか」
 2人の代わりに、揺籃(ようらん)(匿典『暗黒の揺籃』)がぼそりと呟いた。
「生身の動物をページの中に? 出来るのか?」
「2次元化するわけだから、一時的に時間を止めることも出来るんじゃないかな。そうすれば、落ち着いて隔離室へ運ぶことも出来る」
「長時間は無理だけど、少しの間なら……」
 キカミ(『奇木紙見本 草子(きぼくかみみほん・そうし)』)が恐る恐る手を上げるが、
「キカミには隔離役より、つーたんを使って別の働きをしてもらった方がよくないか?」
 姐さんが、今日もキカミの腰に巻き付いている伸縮自在の蔦「つーたん」を指差して指摘する。
「でも、ページに『空白』があるからそこに一時的に閉じ込めておけると思うんだけど」
「あ、空白のページなら私も……」
 おずおずと申し出たのはお嬢(極意書『太虚論』)だが、
「お嬢はやめとこう。多分閉じ込めるには魔力弱いから」
「万が一途中で爆発したら怖いから、他に任せろ、な?」
 オッサンと騾馬に止められる。幼女の姿のせいで仲間からも過保護にされがちなお嬢だった。
「ベスティのページから動物を出した後に入れるのは?」
 リシ(リシ著「劫の断章」)が、ベスティ(異書『ベスティアリ異見』)に向かってそう尋ねる。
「うーん……1羽くらいなら」
「だったら俺もその論理で1羽は封じられるな」
 揺籃が黒い上着を脱ぎながらそう言った。
「動物! ベスティの動物や揺籃の黒い獣を使えば、ヒヨコを捕獲した後急いで移動して隔離室に届けられる!」
「それだな。しかし1度に2羽だけか……」
「……わしもやれる」
 突然、部屋の隅から声を発したのは、いつも一人で静かに座っているか、居眠りをしているかの、本体の分厚さの割にほとんど存在感のない爺さん(異本『秘蹟大全』)。
「爺さん!? だって、爺さんにはびっしり内容が入っていて空白なんかないだろ!?」
「空白はないが――奇跡がある」
 世界の多くの記録を記した書である爺さんは、その文章から引き出す「奇跡」の力でヒナ鳥を取り込める――らしい。
「何羽くらい?」
 キカミが尋ねると、
「……さぁのう。奇跡は計れるものではない、その時になってみないと」
 全員がスローでつんのめりそうな答えが返ってきた。
 ――取り敢えず、そこから何とか可能そうな作戦を考え上げた頃。

 ドガンッ

「ヒャッハー!!」

 突然、ドアが外側から破られた。
「!」
 爆風と共に、何故かマイトが文字通り転がり込んできた。
「!?」
 突然の風に煽られそうになって何とかしのいだ魔道書達も、思わず唖然となる。
「あ〜ごめんなさいごめんなさいマイトがごめんなさ〜い」
 その後についてマナが入ってきた。

 何でも、すぐ近くに、親を見失ったのかよちよち歩いているヒナがいたので「こいつを捕まえればいいんだな!?」とマイトが飛びかかった瞬間、ちょうど爆発のタイミングだったようで思いっきり巻き込まれて吹き飛ばされたらしい。
「……で、その卵は?」
 魔道書たちを代表する格好でリピカ(リピカ著『アカシャ録』)が尋ねると、
「どっか行ったみたいだぜ!」
 マイトが力強く答えた。その答えにがっかりすると同時に、何で爆発に巻き込まれているのにそんなに元気なのだろうと魔道書達は首を傾げた。
「取り敢えず、それを探そうぜ。で、見つけたらそこから作戦決行ってことで」
 オッサンが言う。リピカが頷き、
「そうしましょう。役割分担はさっきの通りで、どうしても出なきゃいけない人以外は無理して前に出てはいけませんよ」
「よっしゃ俺も行くぜ! ヒャッハー!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
 いきなり「ノリ」と「流れ」で途中参加してこようとしているマイトに全員が吃驚した。当然のことだが。
「あ、え…と、こう見えても力仕事なら結構戦力になる、と思うから……」
 思いつきの行動に呆れているのは魔道書達と同じだが、マナが一応フォローを入れ、さりげなく同行を許可してくれるよう求めたのは、マイトの思い付きだけでこれ以上行動していてはどうなるか分からないと思ったからだった。せめて、きちんと計画を立てている人についていけば、多少ましかもしれない、と。
 マイトが同調したのは、単に「作戦決行」の響きに何となくワクワクするものを感じた、というのが決定打だったのだが。
 魔道書達は少し迷ったが、今までに何度も契約者には助けられていてその実力も理解していたし、何より爆発で吹っ飛ばされてもぴんぴんしているくらいだから確かにつわものなのだろうと考え、結局なし崩しで一緒に行くことになったのだった。