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リアクション
第10章 帰還、居残り、そして歪み
夜となり――。
「はぁ……散々な目に合ったわ」
雅羅は疲れきった様子でゲートまで戻ってきていた。
「皆のおかげで何とかなったとはいえ、迷惑ばっかりもかけてられないし――やっぱり、私は一足先にハイ・ブラゼルに戻っておくわね」
見送ってくれた面々に礼と「それじゃあ、気をつけてね」という言葉を残し、雅羅はこの世界を後にした。
一方、街のとある暗がり。
「成る程な」
ヒゲ男は、諜報係りからの報告を訊いて頷いた。
「まさかそのような大々的な場所に例の物が隠されているとは――くっくっくっく、くぁーーーーーっはっはっは!!」
そして、ひとしきり哄笑を続けたヒゲ男はローブを翻し、命じた。
「刻は満ちた。これより我輩は予言する! 愚かなる魔法協会が煉獄の炎に塗れ、我が闇黒饗団は漆黒の使命を全うすることとなろう!」
「『これから予告状を書くので、それを持って魔法協会を軽く襲撃してこい。そしたら、我々は予告状の通り動く準備を始める』と申されています」
それから暫くの後、魔法協会本部には激しい爆発音が響き渡っていた。
「た、大変です! 会長!!」
「何事ですかッ!? 今の音は一体……」
「しゅ、襲撃されました! 被害は軽微で、犯人はすぐに逃亡したようでしたが……こんなものが」
魔法協会の会長は、職員から渡された“予告状”を広げた。
『親愛なる魔法協会会長殿――
よもやまさか、封印されし古の大魔法を復活させるための鍵が協会本部の地下墓地に存在していたとは(よりによって、申請すれば誰でも入れるあんな場所にだ!)、さすがの我輩も驚愕であった。
我が結社の優秀なる構成員の手によって、その真実が露呈した今、
吾輩は更なる魔法の栄華と発展と吾輩の世界征服の野望を叶えるため、その鍵を手に入れることに改めて心を決めた。
ついては、下記の日程で我が魔術結社【闇黒饗団】は鍵を手に入れるべく地下墓地に参上する。
首を洗って待っているが良い。
闇黒の魔導師イブリスより
(翻訳:闇黒饗団幹部ネイラ)』
そして、予告状には数日後の日付が記されていた。
「か、会長……これは……? 微妙に頭の悪さを垣間見せる予告状のような気がしますが、わざとでしょうか? いや、それよりも、この魔法の鍵というのはッ?」
職員の問いかけに答えぬまま、会長は顎に手を掛けながら、考えを巡らせた。
(地下墓地に保管されている鍵は『大いなるもの』の封印を解く鍵でもある。
大いなるものは、世界を破滅させる邪悪な存在……。
まさか、大いなるものを解き放つつもりでは無いと思いますが……もしや、これが『異変』……?
いえ、どうであれ――鍵を渡すわけにはいきませんね)
それから、会長は職員の方を見やり、やや厳しい口調で言った。
「手の空いている者を総動員して、この街に残っている『異世界の者』たちに協力を求めなさい。
こんなにも早く彼らを頼ることになるとは思いませんでしたが……戸惑っている暇はありません。これは、世界の危機なのです」
そうして。
第二世界を訪れていた契約者たちに魔法協会から、封印の鍵防衛の依頼がなされたのだった。