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リアクション
ゴーストイコン被害地での救助活動
シャンバラ教導団。
リリ マル(りり・まる)は、ゴーストイコンの被害に遭っている地域民の救助のため、輸送機の利用許可を上官に求めていた。
「避難民を救助するという目的は、医療協定に反しないと思われるであります! そして、今、迅速に東西の空を行き来できるのは医療協定用の輸送機なのであります!」
アタッシュケースを前に、上官はなんとなく若干扱いにくそうな表情をしながらコメカミの辺りを掻いていた。
「分かってはいるが……医療協定用の輸送機は当然ながら非武装だ。ほぼ丸腰なんだぞ? 弱いモンスターを追っ払う程度のカンシャク玉しかないんだ。かといって、武装した輸送機を東の空に飛ばすのは非常にマズい」
「その点については、私から」
一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)がリリのメモリープロジェクターを操作し、パラミタの地図を展開させる。
「まだ憶測の域ではありますけど……ゴーストイコンと遭遇する可能性が高いのは古戦場付近ではないか、と。そこで、歴史資料、考古資料から古戦場である可能性が高いポイントを幾つか割り出しました」
地図に幾つかのポイントと、そこを避けて各被害地域へ向かう航路と避難候補地へ抜ける航路が表示される。
「これらのポイントは明確に古戦場であると判明しているものではないとはいえ、迂回することにより危険度は下げられると考えれます」
「現地での活動の際は?」
「天御柱のイコンが一機が協力してくれる手筈になってるでありますし、各地で協力してくれる契約者の中には生身でゴーストイコンに打ち勝てる者もいるであります。多少のゴーストイコンに襲われても安心でありますよ!」
「……ふむ」
「避難民の受け入れ先についても現在各地で交渉中でありますが、テントや食料なども必要になるであります。時間は無いでありますよ! 一刻も早いご決断をー!」
そして、要請は受け入れられ、ヒラニプラから輸送機が出発することとなる。
■
数時間後――
「輸送機、来ました!」
ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の声。
「よし、重傷者と老人、子供から優先して搭乗させろ!」
林田 樹(はやしだ・いつき)は、負傷者にヒールを行いながら返した。
彼女たちは、一時避難所にいた。
この地域周辺でゴーストイコンに襲われた人々が、【避難誘導】のメンバーに導かれ、次々と集まって来ている。
避難者の受け入れ先の方も交渉を終え、準備が出来ていた。
空京、ヒラニプラ、ツァンダへと交渉へ赴いた者たちから良い返事が返って来ている。
キマクも避難先候補に上がったのだが、まず避難民から不安の声が上がったことと、蛮族からの略奪の可能性があることなどから避難地には向かないとされた。
輸送機の降下に伴った風が、辺りを吹き飛ばしていく。
その景色の向こうでは、ゴーストイコンと契約者が戦っているのが見えた。
輸送機に搭乗させる避難者たちの整理に奔走していた樹は、視界に、ゴーストイコンの方を見やる子供の姿を掠めた。
進む列の中で、彼は、戦いの繰り広げられる彼方の空を見やりながら立ち止まっていた。
樹は、小さく息をついてから、彼に近づき、その頭を、くしゃりと撫で混ぜた。
見上げてきた少年の目を見下ろしてやり、
「チビ助、大丈夫だ」
「…………」
「私達が全力を尽くしてこの世界を守る」
「……守る」
「そうだ。だから安心して向かうがよい。……いいな」
言われて、背を軽く叩かれた少年が輸送機の方へと向かっていく。
樹はその背を薄く見送ってから、また搭乗の整理のために視線を滑らせた。
空の向こうでは、ゴーストイコンとの戦いが続いていた。
■
「だからな、ばーさん。ゴーストイコンっつーのが来るから避難をだなぁ……」
「ほぉほぉ……よーわからんがデートのお誘いとは、このババもまだまだ捨てたものじゃないのぉ」
「いや、だから、そういうんじゃなくてだな……」
ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)は、がっくりと項垂れながら呻いた。
彼らはゴーストイコンに襲われそうな村を巡り、その存在を伝え、避難を促していた。
「ジェイコブさん。ゆっくりしている暇はありません、急ぎましょう」
ゴーストイコンの動向を伺っていたリーズ・マックイーン(りーず・まっくいーん)がうながす。
他の村人の避難は既に終えられている。
「仕方ないか」
ジェイコブは口元を曲げて零してから、目の前の老婆をひょいと担ぎ上げた。
「ほっほぉ、強引なお人じゃて。罪なババじゃよ、わしゃあ」
「いや、だから違……あー、まあいいか。それじゃあ、ばーさん、しばらくデートに付き合ってもらうぜ!」
そうして、ジェイコブとリーズは駆け出した。
軍用バイクの排気音が耳を劈き続けていた。
大地のおうとつにタイヤが跳ね、身体が思いっきり揺らされる。
レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は自身も咳き込みつつ、「だ、大丈夫ですか?」
声を掛けながら、自分にしがみついている女性の方を軽く見やった。
ゴーストイコン被害からの避難民だ。
足を怪我して逃げ遅れていたところを保護したのだ。
彼女は、レジーヌの問いかけには答えず、後方から迫るゴーストイコンの方を凝視していた。
「しつこいねー」
側方を同じく軍用バイクに乗ったエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が駆ける。
「どうするレジーヌ?」
「え、ええと……」
問われて迷う。
ゴーストイコンに追われたまま、一時避難所に向かうわけにはいかない。
と――
上空から放たれたビームライフルが、レジーヌたちを追っていたゴーストイコンを撃ち叩いた。
「お、助けが来た?」
エリーズの視線を追った先、上空を旋回するイコン・イーグリットの姿。
「カッコイイー!」
エリーズが歓声を上げる……が。
「……何か、動きがぎこちない?」
と、レジーヌが呟いた次の瞬間、そのイーグリットはゴーストイコンに組み付かれていた。
「っひゃあ!?」
イーグリットのコクピット内で芝姫 椿(しばひめ・つばき)は悲鳴を上げた。
「しっかりしろ! ここじゃ助けてくれる教官も、『待った』を聞いてくれる相手も居ないんだぞ!」
ロウ・ニキータ(ろう・にきーた)の叱咤が飛ぶ。
「わわわ分かってますけどーっ」
椿は必死にイコンをコントロールしてゴーストイコンの手を逃れた。
新米ゆえに動きに余裕が無い。
更に随伴歩兵にも気を回さなければいけないのが鬱陶しい。
「移動と回避は己に任せろ。貴様は攻撃を当てる事だけを考えていれば良い。とにかく、逃がすだけの時間を稼ぐぞ」
「こ、攻撃は最大の防御といいますしねっ」
「いいか、己と貴様が膝をつけば、死ぬだろう民がいる。自覚しろ」
「そういうのってプレッシャーなんですよーっ!」
「ジェミニ! 皆をお願い!」
避難誘導にあたっていた飛鳥 桜(あすか・さくら)はジェミニ・レナード(じぇみに・れなーど)に言い捨てて、危うい戦闘を行っているイーグリットの方へと駆け出した。
「分かった! あんたも無茶だけはしないでよ!」
ジェミニの声を後ろに、ドライゼ銃型の光条兵器を構え、バーストダッシュで空に身を馳せる。
そして、彼女は随伴歩兵たちへと光の弾丸を叩き込んでいった。
一方で、イーグリットを追いつめていくゴーストイコンへと――
「いいポイントへ誘い込んでくれました!」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)が光る箒に乗りながら、一直線に向かって行く。
「行け、ルイ。避難民が見ているぞ!」
リア・リム(りあ・りむ)の機晶ロケットランチャーに援護されながら、
「はははは、避難民の皆さま! とくとご覧あれ!」
ルイは、まばゆいばかりのスマイルを浮かべながら、両の拳を一打ちして、光る箒から飛び降りた。
そのまま、彼の体はゴーストイコンへと狙いを定めて勢い良く降下していく。
「人はゴーストイコンに負けません!! だから、めいっぱいのご安心をッッ!!」
全力の拳がゴーストイコンへと叩き込まれる。
彼らに加え、各地では、他にも多くの契約者がゴーストイコンの被害に遭った者たちを助け、避難させているようだった。
そうして助けだされた者たちは、輸送機などで空京やヒラニプラ、ツァンダなどに運ばれて行った。
■
シャンバラ大荒野。
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)は、パラ実生徒らを率いてゴーストイコンが現れたという場所を目指していた。
戦うつもりの無い者や、戦えない者たちは、他の契約者が分校を回って避難を呼びかけ一所に避難させているという話だった。
むしろゴーストイコンと喧嘩しようなんて血の沸いた輩も多い。そっちの方が多い。多かった。その大半が力及ばず、返り討ちにあってしまっていたが。
ともあれ、優梨子たちも、ゴーストイコンを『狩ってやろう』という方だった。
優梨子は首狩族に「ゴーストイコンはドージェさんがナラカから遣わしてくださった獲物かもしれない」と吹き込み、それを狩る宗教的な文化を根付かせようとしていた。
前方に、ゴーストイコンと随伴歩兵アンデッドが姿を現す。
首狩族のどよめきの中、優梨子は、黒檀の砂時計を返しながら、凛と声を上げた。
「皆さん、あれが獲物です!」
そして、優梨子は地を蹴った。
地獄の天使による翼を広げ、飛行する。
「私がゴーストイコンを狩りますので、皆さんは歩兵さんの方をお願いします!」
首狩族たちが歓声と共にアンデッドたちに襲い掛かって行く。
その中で亡霊が軽やかに身を翻しながら、歩兵と交戦する姿が見えた。
そして――優梨子がゴーストイコンを討ち倒すまでに、それほどの時間は掛からなかった。
しかし、ゴーストイコン数体が相手ともなると事情は変わってくる。
その内に、優梨子の手が回らないところで首狩族がゴーストイコンに蹴散らされるようになり、彼女たちは撤退することなった。
首狩族の中にはアンデッド歩兵の頭部を持ち帰るのに成功してものもおり、それは勇を示す証となったようだった。
■
空京、ろくりんピックスタジアム。
そこにはゴーストイコン被害に遭った地域から避難してきた人々が集められていた。
その中で、東條 カガチ(とうじょう・かがち)と柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)らは、豆のスープを作り、避難民に振舞っていた。
ニンニクやしょうがを用い、お腹に優しいスパイスを使った身体の温まるスープに、避難民たちの緊張が和らいでいるのが分かる。
材料の調達は友人にお願いしていた。
彼らが各校を巡り集めてくるという話だったが……
さすがにそれは時間が掛かってしまうようで、届けられるとしても、かなり後のことになりそうだった。
しかし、避難受け入れの説得を受けていた空京市長の計らいで、スタジアムに食材が準備されていたため、こうやって腹を空かせた人たちにスープを食べさせることが出来ていた。
「カガチ、もうすぐ無くなりそうだよー?」
配給係のなぎこの声。
「あー、大丈夫。もうちっとで出来るから」
カガチは売店用の調理器具を使って追加のスープを作っていた。
「腹が減ってはなんとやらー、ってなぁ」
出来上がったスープの入った大きな寸胴を持ち上げ、なぎこたちの方へと運んでいく。
「これ喰って全員ぽっかぽかになりやがれってんだ」
空京市長を説得し、ろくりんピックスタジアムの利用を提案したのは風森 巽(かぜもり・たつみ)だった。
巨大な敷地に加え、トイレなどの設備も使えるため、ここは他の避難候補地に比べ、より多くの受け入れが可能となっていた。
「……なんとかなりそうですね」
スタジアムの端っこ。
ここを使用するために各所の説得と調整に駆け回っていた巽は、ようやく一息つきながら、ベンチに腰掛けた。
「お疲れ様」
自販機のジュースが差し出され、顔を上げればティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が笑っていた。
「ティアも」
「えへへ、こういうのもヒーローの仕事?」
巽はジュースを受け取りながら、笑んだ。
「そう、こんな風に裏で地味に頭を下げて回ったり……数字や資料とにらめっこしたり、音楽を奏でたり、温かい食事をつくったり、そういう戦い方もあります」
「うん。それで誰かの涙を拭えるなら――」
「そして、誰かの笑顔を護れるなら。ヒーローは何だってやってみせましょう」
言って、スタジアムの隅っこの二人はジュースで小さく乾杯した。
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