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リアクション
第4章 家庭科室に隠された謎
「ヘルドはどこにも食料がないと言っていたが、絶対どこかに隠してあるよな」
調理室に来た赤月 速人(あかつき・はやと)は、食料を捜し歩いていた。
「もしなかったら、朝までお腹ペコペコになっちゃうじゃないのよ」
頬を膨らませてカミュ・フローライト(かみゅ・ふろーらいと)が眉を吊り上げる。
ゴーストたちから身を隠すために保健室の中で聖水を飲み、食べ物や飲み物がどこかにないかあちこち棚を開けて漁る。
「冷蔵庫の中にも何もないわ」
「困ったな・・・朝まで空腹か・・・」
「向こうに大きな冷凍庫があるわよ」
「マグロが丸ごと3体くらい入りそうな大きさだな」
「でも・・・鍵がかかっているわね」
「よし、開けてみよう」
速人が冷蔵庫の扉に手をかけたその瞬間、禍々しい気配を感じ取った。
自分の傍で何者かがブツブツと聴き取れない声音で語りかけ、頬にいやな汗が流れる。
「どうしたの?」
扉を開こうとした手を止めたまま動かない速人を、カミュは見上げて彼の顔を覗き込む。
「―・・・いや・・・何でもない」
「それじゃあさっさと開けてみようよ」
「待て、それに触るな!」
「何よ・・・開けた瞬間に廊下で遭遇した化け物たちみたいなのが出てくるとでもいうわけ?ちょっとー、どこへ行くのよ」
「すまない・・・少し気分が・・・」
片手で頭を押させながら、速人は調理室から出て行った。
「1階は全部見て回ったな・・・家庭科室は上の階にあるのであろうか?」
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は周囲を警戒しながら錆びた鉄の階段を上がっていく。
カツンッカツンッと階段を上る足音が響いた。
「下から誰か来るようですよ」
足を止めてアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)は階段の方へ振り返る。
2階へ上がってくる人と思しき足音が耳に入ってきた。
「どうやら人の形をしていても、人ではないようですな」
寄ってきたそれを目にしたフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)は、口元をひきつらせて木刀を構える。
顔を鋭利な刃物でスッパリ斬り取られた化け物を前に、3人はどうやってこの場を逃れようか考えていた。
考える間を与えず、包丁を片手にゴーストがイーオンへ襲い掛かる。
そうはさせまいとアルゲオは床を蹴って飛び上がり、カルスノウトを右袈裟斬りに振り下ろす。
頭部から包丁を持つ手にかけて斬り落とし、ドンッと大きな音を立ててゴーストの身体が床へ落ちる。
「こっちに家庭科室がありますな」
フェリークスが指差す後方へイーオンたちが駆けていく。
「誰も来ていないのか・・・?」
彼らは室内に入り周囲を見回すが、そこにはまだ誰も辿り着いていなかった。
「町中を見て回ったが、誰もいなかったな。死者の町・・・か」
ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は呟くように言う。
「そうですね・・・この町の生きている住人ていったら、保健室で会ったヘルドっていう人だけですよね?」
周囲の建物を見回していたアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)は、ロブの方へ顔を向けた。
「―・・・。(明らかに何か出るところにわざわざ来るなんて・・・ロブは本当に馬鹿だ!)」
顔を顰めて心中で文句を言い、物陰からいきなり襲われたりしないかレナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)は警戒しながら歩く。
彼らは保健室で貰った聖水を飲み、ゴーストたちから身を隠しながら町中を探索を続けた。
「ねぇ、あそに人がいますよ」
アリシアが指差す方向を見てみると、路上に座り込んで項垂れている10代前半の少年を見つけた。
「寝ているのか?全然動く気配がしないが」
「仕方ないな、俺が起こしてやろう」
レナードが呼びかけて起こそうとするが、まったく目を覚ます気配がない。
「おい、そこで寝てるとゴーストに襲われるぞ」
なかなか起きない少年の肩をぽんっと叩いた拍子に、その子供の身体は地面に倒れる。
少年の顔を覗き込むと、鋭利な刃物でめちゃくちゃに斬り裂かれた後があった。
寝ているのではなく、すでに息絶えていたのだった。
「―・・・し・・・死んでる!?」
レナードは少年の傍からすぐさま離れた。
「恐らくのっぺらぼうに殺られたんだろうな」
「あぁいやだ・・・早く帰りたいぜ。いっ今・・・何か言ったか?」
突然聞こえてきた顔をくれという不気味な呻き声に、レナードはビクッと身を震わせる。
「俺は特になにも喋ってはいなかったが」
「私も喋ってませんよ」
「この辺・・・俺たちしかしないよな」
「他の生徒たちも見当たらないからたぶんそうだろうな」
「あっ・・・あぁ・・・!」
ロブの背後に現れた顔のない化け物を見て、レナードは顔面を蒼白させた。
「―・・・ロブさん!」
アリシアの声で気づき、ロブは紙一重でゴーストの襲撃をかわす。
「これがのっぺらぼうか・・・」
「倒しましょう!」
ゴーストの刃をかわしながら、アリシアはカルスノウトの刃で標的の脇腹を薙ぐ。
すかさずレナードが鉄パイプでゴーストの頭部を殴りつけた。
さらにロブは何度も手斧で斬りつけ、両腕を切断する。
「念のために頭を撃ち抜いておいてやろうか」
ダァアンッと銃声が響き、ゴーストの脳漿が路上に飛び散る。
アリシアは止めといわんばかりに、剣で微塵に裂いた。
「さて・・・探索も終わったところだし、そろそろ校舎の方へ行ってみよう」
「あぁそうだな・・・」
ピクつく肉片からレナードは視線を逸らす。
校舎内に入った彼らは、食堂や調理室、各教室を見て回ったが目ぼしい収穫はなにもなかった。
「残るはここか・・・」
ロブたちはピアノがあるという家庭科室へ入っていた。
「聖水1瓶しかもらえなかったから、トンネルの所までとっておかなきゃな」
鉄パイプを片手に駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)は家庭科室を目指して進む。
「トンネルの前であれだけの人数がいたのに、誰にも遭遇しないなんて不思議ね」
「人の声が聞こえたようですが・・・そこに誰かいますか?」
ちあきの声を聞きつけた大草 義純(おおくさ・よしずみ)が声を上げて探す。
「いるー、いるよー!こっちよこっち」
人影に向かって声をかけ、近寄ろうとするちあきは足を止めた。
窓に入ってくる薄明かりで廊下に見える影の動きがどうも不自然だったからだ。
「ねっ・・・ねぇ・・・そこにいるの・・・誰?」
恐る恐る声をかけるが、返事は返ってこなかった。
ゆっくり近づいていた人影は突然、俊敏に動き包丁を片手に迫りくる。
顔に突きつけられそうになった刃を、鉄パイプでガードした。
「くっ・・・う・・・」
顔のない化け物に力負けしそうになった瞬間、駆けつけた義純がゴーストを引き離しハンドガンで標的の頭を撃ち抜く。
「伏せてください!」
床に倒れたゴーストの両腕へ、義純はハンドガンの銃弾を撃ち込む。
まったく打撃が利いていない様子で、ゴーストが床の上から立ち上がる。
「らちがあきませんね。他の生徒たちが家庭科室でピアノの謎解きをしていそうですから、そこへ行きましょう」
ちあきは義純の言葉に頷き、2人はピアノのある家庭科室へと急ぎ走っていく。
階段を上ると、速人とカミュに遭遇した。
「ここは俺たちに任せて早く行ってくれ」
「えぇ、分かりました」
速人は階段を上がってくるゴーストに視線を向けながら、ちあきと義純を逃がしてやる。
繰言のように顔をくれと叫びながら振り回す包丁を、速人は鉄パイプでかわしていき、ぶつかり合う金属音が辺りに響く。
「やぁああっ!」
隙をついてカミュがゴーストの右肩を手斧で斬りつけ、標的の腕はゴトンッと床へ落ちる。
続けざまに左腕や両足、頭部とバラバラに切断した。
「はぁ・・・これで追って来れないわよね」
体力を消耗したせいか、カミュは息を荒くする。
「俺たちも家庭科室へ行こう」
速人の言葉にカミュはコクリと頷き、2人は廊下を進んでいった。
家庭科室ではすでに何人かの生徒たちが、ピアノ謎解きを始めていた。
「あっ、さきほどはどうも」
部屋に入ってきた速人たちの見つけ、義純は礼を言い軽く頭を下げる。
「礼を言われるほどのことじゃないぜ。こんな物騒な所だし、互いに助け合うのは当然だろ」
気にするなと、義純へ笑いかけた。
「それよりも何か分かったか?」
「いや・・・それがさっぱり分からないのだよ。ぁあっ、まったく・・・今夜は眠れそうにない・・・」
思いつき限りの曲を弾き終えたイーオンは心中で苛立ちながらも冷静さを保ち、ピアノの前で口元に片手を当てて考え込んでいた。
「とりあえず俺も何か弾いてみるぜ。そうだな・・・死者を弔うという意味でレクイエムにするか。弾ける自信ないけどな」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はピアノの前にある椅子に座った。
「主・・・曲名はどうするんだ?」
「さぁな・・・楽譜が床に落ちていたからそいつを弾いてみるぜ」
オウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)に曲名を聞かれ、ラルクは楽譜を指差して言う。
静かな演奏がしばらくの間、室内に流れるが途中で手を止めてしまった。
「あぁ、紙が古すぎてやっぱ駄目だな。この辺とか掠れてて見えねぇ」
「特に変化したところもないな」
演奏によって室内に変化したところがないか、アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が確認する。
「私はこういった謎解きはよくわからないが、紙に書かれた意味はピアノの弾き方なのか?」
イーオンたちの後に来た春日井 茜(かすがい・あかね)も一緒になって考え込む。
「さっぱり分からないな。ここへ向かっている他の生徒たちもいるだろうから、その者たちを探してこよう。もしかしたらゴーストに襲われているかもしれないからな」
「あぁ、そっちは任せたぜ」
「では行ってくる」
速人たちに軽く片手を振り、茜は部屋から出て行った。
「紙に書かれていた家族で帰った後という言葉ですが、白い鍵盤を親指から小指の順に弾いてみたらどうでしょう」
「それじゃあ弾いてみますね」
2階の廊下でソウガ・エイル(そうが・えいる)とアリア・エイル(ありあ・えいる)の2人に、ばったり出会ったルーシーがアリアの代わりに弾く。
「何も変わった様子はないな・・・続きは分かるか?」
「ちょっと待ってて考えてみるわ。白い土の上に黒い土をという言葉の意味を考えてみたんだけど、白い鍵盤と黒い鍵盤を同時に2回押すという意味じゃないかしら」
アリアはソウガの方を見えて提案する。
「試してみるか?」
「今度は俺が弾こう」
提案通りにイーオンがピアノを弾いてみる。
「うーん・・・それでは白い土の上に、さらに・・・についてですが、白い鍵盤と他の白い鍵盤を一緒に弾くという意味だと思うんですよね」
「分かった、では弾いてみよう」
アリアの説明に頷き、イーオンは再び弾いてみた。
「そうですねー・・・次は家族の皆で2回分という言葉を私なりに考えたんですけど、どこかの鍵盤を5本の指で2回長く押すことじゃないでしょうか」
「なるほど、それも含めて全部試してみるとしよう・・・」
少し考え込んでから、提案にあった全てのパターンを試してみた。
「―・・・何も起こりませんね」
せっかく考えたパターンが全て失敗してしまい、アリアは顔を俯かせてしょんぼりとする。
謎を解けなかった彼女たちが悩んでいたその頃、ピアノの謎を解こうと家庭科室に向かっている生徒たちがいた。
「こっちの方で道はあっているか?」
「そうですね、さっきは間違って反対側に行ってしまいましたから、向こうの方に階段があるかもしれません」
1階の廊下をうろつきながら、葉山 龍壱(はやま・りゅういち)と空菜 雪(そらな・ゆき)は、2階に上がる階段を探している。
「やっぱり出たか・・・ここから先は一切、声を出すなよ」
禁猟区に立ち入ったゴーストの接近を察知した龍壱は、雪に注意するよう促す。
「えぇ分かりました。気をつけて進みましょう龍壱さん・・・」
「1体や2体じゃないな・・・」
「見つかってしまったら厄介ですし、家庭科室まで追ってくる危険性があります。保健室でいただいた聖水を飲んでおきましょう」
「そうだな・・・」
階段付近にいるゴーストの傍を通ろうと、気づかれないように2人は息を止めた。
彼らが移動していく足音に合せて、慎重に進んでいく。
なるべくクツ音を立てずに上り、廊下を進むとやっと目的の場所へ辿り着く。
「あなたたちも謎解きに来たんですか?」
「あぁそうだ」
部屋の入り口付近でゴーストを警戒していたアルゲオに問われ、龍壱はコクリと頷いて言う。
「参加者がまた増えましたな」
もう1つの入り口付近で待機しているフェリークスが、顔を覗かせて彼らの姿を確認する。
「それで・・・何か分かったか?」
悪戦苦闘しているアリアに、謎解きの進む具合を訊く。
「まだぜんぜん分からないんですよ」
アリアは力ない口調で答える。
「―・・・そうか。俺なりに考えたことがあるんだが・・・」
「その考えとは?」
「言葉の単語を英語に置き換えてみたらどうだろう?」
「ふむ・・・そいう考え方もあるのか」
イーオンは龍壱の言葉に、なるほどと頷く。
「例えば・・・家族という言葉は、ファミリーという意味だとおもうんだが」
「あっ、それ僕も考えていました」
「そうなのか」
彼は同じことを考えていたような義純の近くへ行く。
「僕の考えですと、音階のファミレだと思うんですよ」
「なるほどな・・・」
「白い土の上に黒い土という言葉ですけど・・・あれはドのシャープではないでしょうか?」
「土はドという意味になのだな」
横からイーオンが口を挟む。
「おそらくそうだと思います。ちょっと弾いてみましょうか」
義純は椅子に座るとファミレドレミファという順にピアノを弾き、半音上がったドを2回鳴らし、ドレミファソラシドと弾いていく。
最後にレミファの和音を長く2度鳴らす。
「―・・・何も起こりませんね」
どこかに変化がないかピアノの周辺を見るが、特に変わったところは何もなかった。
「ちょっといいか?俺なりに白い土の上に黒い土の意味を考えたんだが・・・同時に白と黒の鍵盤を押さえて2回弾くということじゃないのか?そして白い土をならすという言葉は、白い鍵盤だけを均す様に弾くということだと思うんだが・・・」
ロブは他のパターンの弾き方を提案し、全鍵盤を同時に押してみた後、クレッシェンドとデクレッシェンドを両方試してみるが、何も変化は起きなかった。
「ちょっといいですか?白い土は白い鍵盤、黒い土は黒い鍵盤ということを表しているんじゃないでしょうか」
菅野 葉月(すがの・はづき)の説明に、生徒たちはなるほどと頷く。
「まず1行目についてですけど、白い鍵盤を5本の指全部を使って鳴らすのでは・・・と思いました。次の2行目は黒い鍵盤2回鳴らし、そして3行目は順番に慣らしていき、最後の4行目はこれらを2度繰り返すという意味かと思いました」
「ふむ・・・他の生徒たちの意見を反映させて弾いてみよう」
意見をまとめイーオンが弾いてみたが、何も起きなかった。
「うーん、まったく分かりませんね。また誰か来るまで別のパターンを考えていましょうか・・・」
アリアたちは難解な謎に、再び考え始めた。
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