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氷雪を融かす人の焔(第2回/全3回)

リアクション公開中!

氷雪を融かす人の焔(第2回/全3回)

リアクション

 状況は、一進一退の攻防が続いていた。
 カヤノは変わらず圧倒的な力で冒険者を翻弄するが、初めて出会った時と違い、再び相手をする時にどうすればいいかを作戦立てていた彼らの善戦により、互角といっていい戦況であった。
(今ならカヤノに接触は容易いわよね。で、リンネを手土産代わりに持っていけば、あわよくばリングを手に入れられる……やってみる価値はリングの力を考えれば、十分あるわよね)
 リンネの家を見渡せる位置に立ったメニエス・レイン(めにえす・れいん)が、この混乱に乗じて自らの立てた作戦を実行に移すべく行動を開始する。
 ……だが、混乱は誰にとっても予想し得ない事態をもたらすものである。リンネの家まであと少しというところまで近付いたメニエスの前に、エル・ウィンド(える・うぃんど)が飛び出してきた。
「むっ! キミはリンネちゃんを生贄にしようと企んでいるな!」
「……だったら、どうだというの? そこを退きなさい、消し炭になりたくなかったら、ね」
 会って早々自らの目的を見透かされたことに、内心動揺を覚えつつメニエスが威圧の態度を取る。
「ボクは消し炭になるつもりなどない! ただ……リンネちゃんの代わりに生贄になりたいだけだ!」
「…………は?」
 エルの言葉に、一体何を言っているのと言わんばかりの表情をメニエスが見せる。
「ボクは一度、カヤノから直接話を聞いて事情に詳しい! そして、リンネちゃんや他の女の子を生贄にすることは、ボクの行動理念に反する! ならば、ボクがみんなの代わりに生贄になることは、自然な流れなのだ!」
「…………はぁ」
 一人まくし立てるエルに、メニエスが興味なさげに相槌を返す。
「だから、リンネちゃんを連れていくくらいなら、いっそボクをうわぁ! 熱い、熱いぃぃ!」
「……邪魔よ。あなたがどうするかは勝手にしなさい。あたしはリンネにしか興味ないの」
 エルを火術で退けたメニエスが、再びリンネの家へ向かおうとしたその瞬間、今度はベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)の二人とはち合う。
「もうこれ以上、傷付く人が増えるのを見ていられないわ! 私はカヤノのところに行く! 私が生贄になる代わりに、もうこれ以上魔物の進軍を止めてもらうようにお願いしに行くわ!」
 マナが駆け出そうとするのを、その手を掴んでベアが引き止める。
「待て、待つんだ、マナ! お前だけに行かせるものか! ……俺も、俺も行かせてくれ!」
「ダメよ! ベアまでここを離れたら、誰がイルミンスールを護るというの?」
 振り解こうとするマナを、今度は両肩を掴んでベアが引き止める。
「イルミンスールを護るのは、俺じゃなくてもできる。……だけど、マナ、お前を護ることができるのは、俺だけだろう?」
 ベアの言葉に、マナがはっとした表情を見せ、そして抵抗する力を失っていく。
「ベア……ありがとう。私、ベアとならどこにだって行けるわ!」
「俺だってそうさ。さあ、カヤノのところに行こう! 俺たちを連れて行ってくれと頼もうじゃないか!」
 すっかり二人の空気に浸っていたベアとマナを見遣って、メニエスがどっと疲れたようにため息をつく。
「……あなたたち、三文芝居はそのくらいにしてくれないかしら。もう突っ込むのも面倒だから消し炭になって、魂だけ連れて行かれちゃいなさい!」
「うおおぉぉぉ!? ちょっとばかし調子に乗りすぎたかあぁぁ!?」
「ごめんなさい、ベアの乗り乗りな空気に乗せられただけなんですー!」
 メニエスの呼び出した炎の嵐に巻き込まれて、ベアとマナもその場を退散していく。
「……何なのよ、もう。……時間を取られたわね、急いで向かわないと――」
 メニエスがリンネの家を振り向いた瞬間、そのドアが内側から爆風によって吹き飛ばされる。メニエスも、その場にいたほかの者たちも何事かと視線を向ける中、煙が晴れた先に立っていたのは。

うるさーーーい!! 家の前で騒がしくして、リンネちゃんの気持ちい〜い眠りを妨げちゃってくれた人は、もれなく黒焦げ三回の刑だからねーーー!!」

 パジャマ姿のまま絶叫をあげる少女は、誰もが知るリンネ・アシュリング本人のものであった。

 リンネの姿を認めて、一番に行動を起こしたのはカヤノであった。応戦する冒険者たちを振り切り、一見友好そうな笑顔を振り撒いてリンネに問いかける。
「リンネ・アシュリング。起き抜けのところ悪いんだけど、もう一度洞穴まで来てもらえないかしら? あんたが望むなら、凍らせたりなんかしないし、話くらいなら付き合ってあげてもいいわよ?」
「前にもリンネちゃんにそんなこと言っておいて、凍らせたのは誰だったかな、カヤノちゃん!」
「……それはあんたが、『レライアちゃんを眠りにつかせる』なんて口にするからよ!」
 牙を剥いたカヤノが、暴れる冷気を放出させる。身構えるリンネの髪がなびき、その先端が結露を始める。
「安眠妨害はダメなんだからねー!」
 直後、横合いからファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)の吐いた炎が冷気とぶつかり両者共に相殺される。そしてリンネの傍らには、武器を携えた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が駆け寄る。
「見舞いに来た時は心配したが、今は大丈夫そうだな。事態が落ち着いたら、事情を話してくれるか?」
「……うん、分かったよ。でもそれにはまず、カヤノちゃんを大人しくさせなくちゃ」
「それなら、ボクたちに任せておいてよ! ボクたちだって、やればできるんだよ!」
 リンネに話しかけたファルを、複数の氷柱が襲う。しかしそれらは、ファルの吐いた炎と呼雪の振るったカタールが全て打ち砕く。
「……そう、あんたには必ず誰かがいるのよね。……けど、あたしとレラには誰もいなかった……! その差はどこから生まれたというの?」
 舌打ちしたカヤノが、リンネから奪ったと思しき携帯を見遣って、自問するように呟く。携帯に関して最低限の知識しか有していないカヤノでも、携帯に多数の人の番号が登録されていることは確認できたし、それがリンネの交友の深さを表していることは想像ができていた。
「あら、誰もいない、というのはいささか早計ではないのかしら? あなたに興味を持っている人も、ここには数多くいるようですわよ。……もちろん、わたくしもですわ」
 カヤノの前に躍り出た日堂 真宵(にちどう・まよい)、そしてアーサー・レイス(あーさー・れいす)が、カヤノの味方、リンネの敵となるような佇まいを見せる。
「…………何よ、それ。そんなの、知らないわよ。どうせ上っ面だけで、本当はそんなつもりないんでしょ? 変わってるからって、利用してみたいとか思ってるだけなんでしょ!」
「ならここで、リンネをあなたのところに連れてこられたら、少しはわたくしの言うことを信じていただけるかしら?」
「……勝手にするといいわ!」
 言ってカヤノが、掌から氷の飛礫を見舞う。そして、それに合わせるかのように、真宵も氷術で氷を発生させてリンネたちへぶつける。
「リンネがいなくなれば、イルミンスールは何事も無く済むのでーす!」
 アーサーが煽りつつ、二人の氷術の行使に加わるように氷術を行使する。三人分の魔力を注がれた巨大な氷の塊が、全てを押しつぶすべくリンネたちに迫る。
 
「天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ、今ここに手を取り合い、立ちはだかる敵を塵と化せ! ファイア・イクスプロージョン・ツヴァイ!

 リンネの両手に伸びた、天をも貫くほどに燃え盛る炎が、氷の塊を文字通り一刀両断する。かつてエリザベートに指摘されたことを反映し、新たな形態として会得していたのであった。
「レラを存在させるためにはあんたの魔力が必要なのよ、リンネー!」
「レライアちゃんのことは可哀相だけど……でも、こんなのおかしいよ、カヤノちゃん!」
 飛び立つリンネとカヤノ、その下ではそれぞれについた面々が、戦闘を繰り広げていた。

「凍りつかせるだけじゃ足りないわ! 破片の欠片まで砕き尽くして、あんたという存在をこの世から葬り去ってあげる!」
「待って! リンネちゃんだってレライアちゃんのことは助けたいの!」
 カヤノが巻き起こした冷気の風と、リンネが対抗して起こした炎の風が、ぶつかり合い相殺し合う。二人のもはや壮絶とも呼べる一騎討ちは、意思の差もあってかカヤノに優勢に動いているようであった。
「あああぁぁぁ!!」
 勢いを増す冷気の風を相殺し切れず、リンネが風に巻き込まれて箒の制御を失い、地上に落下していく。
「リンネー!!」
 そこに、開かれた玄関から飛び出してきたモップスが、猛然と駆けリンネを地面ギリギリのところで受け止める。
「た、助かったぁ……モップスおそーい。今まで何してたのー?」
「無茶苦茶言ってくれるんだな。ボクをいきなり黒焦げにしたのはどこの誰なんだな」
「……二人の茶番の続きは、この中で行ってもらおうかしら。……もっとも、一ミリたりとも動かせないでしょうけどね!」
 カヤノが、二人の上空に甚大な質量の氷柱、もはや氷の隕石と呼んでいいであろうそれを召喚し、リンネとモップスへぶつけんと両手を振り下ろす。
「目標、上空の氷石。魔法陣展開、火術発動!」
 瞬間声が響き、次いで地面のあちこちから光が湧き上がり、魔法陣を描いたそれから炎弾がまるで打ち上げ花火のように放たれ、上空から落ちようとしていた氷柱を打ち砕いていく。
「作戦を読み、魔法陣を展開しておいた甲斐があったようだな」
「おお、流石じゃな。んでは僕もちょっとだけ本気を出そうかのう!」
 術を発動したアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)に賞賛の言葉をかけつつ、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が砕かれた氷片へ槍の一撃を見舞い、さらに細かく粉砕していく。無数の塵のように砕かれた氷が、向かい合うリンネとカヤノを交互に映し出していた。
「あんただけはぁぁ!」
「これだけ言っても分からないなら、リンネちゃん怒っちゃうよ!」
 リンネが炎を剣の形にして構えると同時に、カヤノも氷を剣の形にして振りかぶる。青空の下二人が飛び上がり、そして二つの影が空中で交錯する。
「ッ! いたたたた……」
 リンネが苦痛に顔を歪ませ、手にしていた炎の剣が揺らめく。
「…………どうしてよ……どうして、こうなったの……?」
 呟いた言葉と、そして根元から折れた剣と、ぐらりと揺らめいたカヤノが地面に落ちるのは、ほぼ同時のこと。
「ふっ……ついに俺の出番が来たようですね……! たった一人の掛け替えの無い大切な人のため、貴女の信念も、覚悟も俺は理解したつもりです。ですがっ……他にもっとやりようはあったでしょう? 貴女は誰かに相談しましたか? 貴女は誰かを頼ろうとしましたか? 頑なに閉ざした心で、凝り固まった偏見で世界を見るから貴女は孤独なんです。貴女のその考えが、大切な人すら冷たい氷の檻に閉じ込めているとなぜ気づかないんですか! そんなもの何もかもをまとめて俺が溶かしてぶち壊してあげますよ!!」
 カヤノの落下地点に譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が駆け寄り、しっかりとその身体を抱きとめる。
(ああ……ついにカヤノをこの手に……俺は今、幸せの絶頂にいる……!)
「……うん、いいよ、全力でやっちゃって! あ、カヤノちゃんには当てちゃダメだからね! 当てるのはヘンタイ一人だけでいいからね!」
 恍惚とした表情を浮かべたまま、大和はラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)の指示で投げかけられた無数の炎に焼かれたとかそうでないとか。

 リンネの家での騒動は、収束に向かっていた。モップスの手当てを受けたリンネの前には、先程までの威圧を微塵も感じさせない態度で座り込むカヤノの姿があった。
「あの……リンネさん、どうなってしまうのですか? イルミンスールの人たちに迷惑をかけたのは確かなのですけど、カヤノさんだって事情があってのことなのですし、何より……可哀相なのです」
「心配は無用なのではないでしょうか。今ならリンネは、カヤノを消し去ることも可能であるはず。それをせず、捕縛することもせずああしているということは、話し合い、分かり合おうとしていることと僕は見受けられます」
「後のことはリンネに任せればいいんじゃない? ねーねー葉月、無事に済んだらワタシとあそぼーよー!」
 カヤノのことを心配する鷹野 栗(たかの・まろん)に、菅野 葉月(すがの・はづき)が言葉をかける。その横で、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が構ってほしいとばかりに葉月の服を引っ張っていた。
「カヤノちゃん……リンネちゃんはね、レライアちゃんが消えて欲しいなんて思ってないよ。居て欲しいって、今でも思ってるよ?」
 そして、皆が見守る中、リンネがカヤノの傍に歩み寄り、優しげに言葉をかける。
「……嘘よ。じゃあ何であの時……あたいがレラを存在させ続けるために協力を頼んだ時に、断ったのよ。どうして、レラを眠りにつかせようとしたのよ!」
 立ち上がったカヤノがリンネを見上げて――それまではリンネと同じくらいの背丈だったのが、頭一つ分縮み、背中の羽根は二対に減り、さらには口調が変化していた――反論する。
「カヤノちゃん。雪って、綺麗だよね」
「……? あんた、何言ってんの?」
 首を傾げるカヤノに答えず、リンネが言葉を続ける。
「リンネちゃんの住んでたところはね、冬は雪が多く降るの。雪って結構大変なんだよね〜、雪かきとかしなきゃだし、向こうじゃ空飛べないから歩かなくちゃだけど、雪に埋まっちゃって大変だし。……でもね、特に夏とかはね、雪って綺麗だよね〜、降って来ないかな〜って思っちゃってるの。……勝手だよね〜、見れないときは恋焦がれるのに、見れたら見れたで厄介モノ扱いしちゃうんだよ〜」
 未だ話の流れが見えず呆然とするカヤノに、リンネが問いかける。
「ねえ、カヤノちゃん。レライアちゃんのこと、一緒に居る時も、居られない時も、好きだった?」
「あ、当たり前よ! だからあたいはレラとずっと一緒に居ようって、ここまでやってきたんじゃない!」
 カヤノの答えに満足するように頷いて、リンネが口を開く。
「カヤノちゃん。どんなに距離が離れていたって、たとえ会えなくたって、その人をずっと好きでいられることは、とっても幸せなことなんだよ。『冬にしか会えない』じゃなくて、『冬になったら会える』んだよ。……もし一年中会えるようになったら、この気持ちがなくなっちゃうかもしれないんだよ。それでもいいの?」
「……そ、そんなの、分かんないわよ! 一緒に居られなかったら悲しいんじゃないの!? 居られたら嬉しいんじゃないの!? あたいはレラに居て欲しいって思ってる! ……あたいだって精霊よ、それがおかしいことだってくらい、あたいにだって分かるもん! でもでも、やっぱり一緒に居て欲しいって、思っちゃうんだもん!」
 子供が駄々をこねるような、それでいて氷のように真っ直ぐで透き通った気持ちが、放たれていく。

「……わたしもよ、カヤノ。カヤノがわたしと一緒にいたいのと同じくらいに、わたしもカヤノと一緒にいたいわ」

 聞こえてきた声に、その場に居た者たちが振り返る。
「レラ……? どうして、レラがここに?」
 カヤノが呟く、そしてレラと呼ばれた少女、『雪の精霊』レライアが儚げに微笑む。
(……私の役目はここまでのようね。後は任せたわよ、リンネ。カヤノとレライアが一緒に暮らせる方法が、きっとあるはずだから……にしても、流石に私一人で連れてくるのは、きつかったわね……)
 レライアの背後で、彼女をここまで案内してきた十六夜 泡(いざよい・うたかた)が、木陰に身を預けるようにして倒れこむ。疲労に瞳を閉じる泡へ、そして皆へ、レライアの声が聞こえてくる。
「皆様……この度はカヤノが迷惑をおかけいたしました。カヤノに代わってわたしが皆様にお詫びいたします」
 そう言って、レライアが俯く。まるでこれから何か、とても言い辛そうなことがあるとでもいうかのように。
「……このようなこと、皆様にお願いできるような立場ではないことは、承知しているのですが……皆様になら、そしてリンネ様になら託すことができると思いますので――」
 言葉が、途切れる。そして、次に届いた言葉は――。

「わたしを、その『アイシクルリング』と一緒に、封じてください」

「あうぅ、え、えっと、状況がよく分からないんですけどぉ。ギルさん、分かりますかぁ?」
 リンネとカヤノの会話だけでもいっぱいいっぱいのところに、レライアまでが現れたことで東雲 いちる(しののめ・いちる)を始めとした冒険者の混乱はより深まっていた。
「任せておけ、俺が説明――」
「ふむ、これまでの話から察するに、強大な力を持つアイシクルリングとやらの本来の持ち主たる雪の精霊が、氷の精霊を助けんがために自らとリングを封じるよう願った、そんなところではないでしょうか、我が君よ」
 状況を説明しようとしたギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)に代わって、クー・フーリン(くー・ふーりん)がかいつまんで説明を行う。
「――貴様、俺が言おうとしていたことを抜け抜けと……!」
「私は我が君の悩みを解消しようとしただけのこと。他意はございません」
 とは言いつつもどこか意識しているかのようなクーの態度と言動に、ギルベルトは歯痒い思いで睨み付ける。
「マスター。リンネ様はどうなされるおつもりでしょうか?」
 ソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)の問いに、いちるがうーんと唸る。
「うーん……私は、リンネちゃんは、もうここまで来たら最後まで、頑張っちゃうと思うんですよぉ。だから、私はそのお手伝いができたらいいなって、思うんです」
「……そうですか。マスターがそうおっしゃるのでしたら、ワタシに異論はございません」
「私も、我が君の申されるままにいたします」
「……もちろん、俺もいちるに協力してやろう。……その後でたっぷりと遊んでやるからな」
 いちるとギルベルト、クーにソプラノが改めて絆を確認し合う中、沈黙を貫いていたリンネの出した答えは。

「分かりました。私が、執り行いましょう」

「……ありがとうございます。では、あの場所にて、お待ちしています」
 リンネの言葉にレライアが微笑んで、そしてカヤノの傍へ歩み寄る。
「さあ、カヤノ。そのリングをわたしに返してちょうだい」
「い、いやよ! レラがこれを付けたら、もう――」
「カヤノ、あなたはリンネ様と、そしてこのイルミンスールと共に行きなさい。皆様はきっと、あなたによくしてくれるわ。……さあ、リングを外して、渡しなさい。あなたに力を使いたくはないのよ?」
 あくまで微笑を崩さないレライアから、ほんのわずかではあるが冷気が放たれる。それに触れただけでカヤノの身が震え、そしてゆっくりと、自らの指にはめられたリングを外し、レライアへ渡す。
 それを受け取り、レライアが自らの指にはめる。光を失っていたリングが、再び輝きを取り戻す。
「……レラ! 行かないで、レラ!」
 引き止めようとするカヤノを自ら制し、微笑んでレライアが告げた。

「わたしのために、ありがとう。……さようなら、カヤノ」

「レラーーー!!」

 カヤノの呼び声は、発生した膨大な冷気に掻き消えていった――。

●終章 決意、胸に秘めて

 イルミンスールを巡る攻防は、一応の決着を迎えた。
 
 カイン率いる防衛線は、魔物の侵攻を食い止め、イルミンスールを護り抜いた。
 また、冒険者の活躍により、魔物の生産拠点となっているイナテミスを解放するための橋頭堡が築かれた。
 
 しかし、『アイシクルリング』をその手に戻したレライアが最後に放った冷気は、『イルミンスールの森』の一部を今も永久凍土に包んでいた。
 『氷雪の洞穴』付近に降っていた雪はその勢いを増し、今や豪雪地帯と化しているという報告が入っていた。

「……お話は分かりましたぁ。それで、あなたはこれからどうするつもりなのですかぁ?」
 イルミンスール魔法学校校長室にて、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)がまとめた報告書に目を通したエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が、向かいに立つリンネに問いかける。
「はい、エリザベート様。恐れながら私は、『アインスト』の皆さんを率いて洞穴に向かい、レライアを私自身の手で封じたいと思います」
 いつものどこかおちゃらけた雰囲気を一切排した様子のリンネが、真っ直ぐな瞳をエリザベートへ向ける。
「……いいでしょう。この件、あなたに一任しますぅ。思うままに、やってみるといいですぅ」
「ありがとうございます。……カイン先生、私に協力してくださいますか?」
「もちろんだよ。私でよければ、君の力になろう。……イナテミスには、苦い思い出もあるしね」
 リンネの言葉に頷くカインに頷き返して、リンネが振り向き、校長室の扉に手をかける。
(待っててね、レライアちゃん……リンネちゃんがきっと、助けてあげるからね!)
 強い決意を、焔のように滾らせてリンネが、部屋を後にする――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 『氷雪を融かす人の焔 第2回』リアクション公開しました。
 
 えー……まずは、一言この場を借りまして、何やらヒドイ扱いをしてしまったような気がする幾名かのキャラクターとそのPL様には、『ノリで書いてゴメンナサイ』と頭を下げたいと思います。
 
 自分のマスタリングはひとえに、皆様の『面白くしてやろう』という気持ちの溢れたアクションによって成り立っていると思います。
 その気持ちはできる限り汲みたいところですが、しばしばあさっての方向に勘違いして解釈することがあるようですので、その辺は生暖かく見守っていただけると幸いです。
 
 あ、ここで一つ、個人的な解釈に基づくのですが、LCの行動につきまして。
 
 LCは単独で行動を選べません。あくまでMCの行動に準拠します。
 どこまでが準拠した行動か、独立した行動とはそもそも何か、という線引きについては、各マスター様によって解釈が異なる点がありますが、自分の場合はこう考えています。
 
 ・MCが『戦闘に参加する』と言った場合の、LCが『前衛を担当する・後衛を担当する・戦闘に役立つための情報を手に入れてくる』はOK
 ・MCが『○○のところに行く』と言った場合の、LCが『××のところに行く』は厳しい(内容次第でNGかそうでないかが決まりますが、判定は厳しくなります)
 
 思い当たる節の方、申し訳ございません。
 
 もし読まれた時に「あれ? アクションと違うな?」ということがありましたら(……自分の場合はそういうことが多々あるのかもしれませんが)、これを参考にしてみてはいかがでしょうか。
 
 
 ……さ〜て、次回『氷雪を融かす人の焔 第3回(終)』は?
 
 ・氷に閉ざされたイナテミスを解放せよ!
 ・アイシクルリングの力に狂うレライアを助けよ!
 ・そして、リンネはこれから何を想う……?
 ・カヤノとレライアとリンネでキャッキャウフフ
 
 以上の4本でお届けいたしま〜す。
 
 ……済みません重い空気を払拭するために軽くしたかっただけなんですお願いですから物を投げないで(やたら硬い何かが頭に当たって昏倒
 
 カヤノ「べーだ! レラと遊んでいいのはあたいだけなんだからね!」
 レライア「カヤノ、だからといって氷入りの雪を投げるのは……」
 リンネ「え、え〜と……次回もよろしくね〜!」