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リアクション
その6 続・めちゃもて妹を作ろう!
「ニフレディさん?」
朝野 未沙が心配になって更衣室をのぞきこむと、目をこすっているニフレディの姿があった。「どうかしたの?」と問いかけると「なんだか今さっきの記憶がないんです……」と困ったようにうつむいてしまった。
「うーん……今のは、おぼえてなくってもいいかなぁ」
苦笑を漏らしている朝野 未沙に手を引かれ、今さっき着替えた服を披露する。それは一式 隼が持ってきた青い縞模様のジャケットに、茶色いスカートだった。三月 かなたは一緒に使ってほしい、と刺繍入りのハンカチをプレゼントした。その横で、一式 隼はわずかに口元をほころばせた。
「母親代わりの人から教わったのですわ。あまりうまくないかもしれませんが……」
「いいえ、素敵な贈り物です。二人で大事に使いますね」
「わぁ〜これも着回しができるね。女の子には大事だよね」
「はい、ありがとうございます」
「それではぁ〜次は私のでもよろしいですかぁ〜?」
朝野 未那がにっこりと微笑みながら、ルーノ・アレエにも若草色の衣服を手渡す。更衣室に入っていた二人が出てきたときには、またもや歓声が上がっていた。
若草色の魔法使い用のローブを纏ったルーノ・アレエと、同じデザインで紺色を纏うニフレディの二人は仲良く手をつないで現れた。刺繍も施されており、ルーノ・アレエには金色の、ニフレディには銀色の糸で百合園女学院の校章と、魔法文字が書かれていた。
「お二人の幸福をお祈りすると、そう書いてありますぅ」
「それじゃ、次は私なの〜!」
蒼空学園の女子制服を渡した朝野 未羅はお手伝いには入らず例のごとくカーテンの前に立った。にっこりと笑ってレールガンとミサイルを構える。すぐに着替えを終えたルーノ・アレエは、少し照れくさそうに出てきた。それもそのはず、彼女があまりはくことのないミニスカートだったのだ。
「ルーノさんもニフレディさんも似合ってるの〜!」
「み、短すぎませんか?」
「姉さん照れてます?」
「あまり、似合わないと思って……」
「そんなことないよ! すっごくかわいい!」
朝野 未沙の言葉に、ルーノ・アレエは頬を染めながらお礼を言った。そして、今度は二着の羽根突きのメイド服を差し出された。着替えて出てきた姿に、また拍手が送られる。
ルーノ・アレエには濃い緑色で、暖色系の羽がついたかわいらしいメイド服。ニフレディにはスカイブルーで、青みがかった羽がついていた。どちらも、少しばかりピコピコと動く仕様になっていた。
「えへへ。私とおそろいなんだよ」
といって、自分の背中に取り付けた白い羽の装置を見せる。自身も今はメイド服を着ているからか、三人でおそろいの格好をしているようだった。
「凄くうれしいです。こんな素敵なもの私まで戴いていいのでしょうか?」
「二人だから受け取ってほしいんだよ」
赤毛の少女がうれしそうに微笑むと、ルーノ・アレエは涙を堪えながら微笑んだ。沢山のフラッシュを浴びた後は、赤嶺 霜月とクコ・赤嶺がそれぞれドレスと貴族服を持って現れた。クコ・赤嶺は貴族服を広げてニフレディに当ててみせる。まるで中世の男性貴族のような風貌になるのをみて、隻眼の狐獣人は満面の笑みを浮かべた。
「これは、ニフレディに。あとこのドレスはおそろいで作ってもらったんだよ」
「アイリスの案で作りました。色は、鷹野さんに染めてもらって……お二人の髪の色に、それぞれ染めてあります」
ぱ、っと観衆の中に友達といっしょにこちらを見ているアイリス・零式の姿があった。手を目いっぱい伸ばして、こちらに向かって手を振っている。ニフレディはうれしそうに振り替えすと、先にクコ・赤嶺の服を着ることに↓。
出てきたニフレディは、短い髪を無理やり後ろで結んででてきた。まだ未発達な体つきだからか、中東の王子のようにもみえ拍手が巻き起こる。ララ ザーズデイのまねをして、クコ・赤嶺の前に膝を付いて、その手の甲を取って口付けを落とす。
「ふふ、様になってるわね」
「ありがとうございます」
笑みを返すと、今度はアイリス・零式が考えてくれたというドレスに着替える。お互いがお互いの髪の色のドレスを纏い、少し照れくさそうにお披露目をする。ルーノ・アレエは肩を出し、スリットも入った大胆なデザインだが、ニフレディは短めのスカートにフリルを使ったデザインとなっていた。髪の毛も少し結ってもらい、パーティに出るにはもってこいの格好だった。
「凄く似合ってるであります!」
「あと、これ」
赤嶺 霜月が髪を結い上げた二人に、菜の花を模した髪飾りをそこに飾る。「今日の記念に」と伝えるとニフレディはうれしくてそのままくるくると回って衆目に見せびらかす。ケイラ・ジェシータが持ってきた服は、ニフレディのためのものだったのでルーノ・アレエは着替えの手伝いを行っていた。
「うーん。自分も二人分持ってくればよかったな」
「でもルーノ様、着替えの手伝い……楽しそう」
「そっかぁ。やっぱり、妹っていいもんだもんな」
遠い目をしながら言うパートナーを見ながら、「世話の焼ける兄はそれで大変だ」と心の中で呟いていた。服を着たニフレディが出てくると、なにやら照れくさい気持ちに駆られて苦笑してしまった。
「これ、おそろいなんですけどスカートのすそに刺繍があるんですよ。金糸と銀糸で」
キュロットスカートに、空色のスモック、カチューシャと、いつもより女の子らしくおめかししたラグナ アインが取り出したのは、白いワンピースに、赤いタータンチェックのオーバースカートだった。早速着替えると、まったく同じデザインの洋服は初めてだったからなおうれしかったのか、ニフレディは飛び跳ねて喜んでいた。
それを遠巻きに眺めていたメイド服姿の緑の髪の機晶姫はふぅ、とため息をつく。
「ボクも姉上とペアルックがしたいです」
「体育祭のときしたじゃないか」
小さく突っ込んだ如月 佑也の言葉に、ラグナ ツヴァイは鼻で笑い飛ばして、姉のところへと向かってしまう。入れ違いに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が浅葱 翡翠から貰ったコーヒーを片手にミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)と共に歩いてきた。コーヒーを如月 佑也に差し出すと、自分はロイヤルミルクティーに口をつける。
「目の下のクマがひどいな」
「ゲームで徹夜したせいだ」
「ふ、そうか」
「どうかしたのか?」
わざわざ声をかけてきたところを察して、如月 佑也は言葉を投げかける。しばらくの沈黙の後、ため息をついてエヴァルト・マルトリッツは語りだした。
「……今は、ああして楽しげに話している。しかし俺がしたことは正しかったのだろうか、と思ってな」
「ニフレディをつれてきたことか?」
「俺が手を差し伸べなくても、誰かがしたかもしれない。だが、あそこに隠れていれば、この後に起こるであろう戦いには、巻き込まれずにすんだんじゃないだろうか、とな」
「お兄ちゃんは悪いことしてないです」
肌を顔と手首から裂き意外を衣服に包んだアリスのミュリエル・クロンティリスは、悲しげな表情で兄に訴えかけた。苦笑しながらその黒髪を撫でてやるが、表情はまだ晴れやかにならなかった。
「でも、ニフレディは笑ってる。いいんじゃないか? 姉と一緒にいて、友達ができて。一人で冷たい遺跡にいるよりは、ずっといいだろうさ」
如月 佑也があくびをかみ殺しながらそう呟くと、エヴァルト・マルトリッツはもう一度ニフレディたちに視線を送った。着替えを終えた二人が、ラグナ アインと楽しげに語らっていた。
「重ねて着るので、着まわしにむかないかもしれませんが……」
「素敵な洋服です。ありがとうアイン」
「あ、後……ニフレディさん。お願いがあるんです」
「はい?」
「私の妹と、ツヴァイとも仲良くしてあげてくださいね。あの子、友達って呼べる子があんまりいなくって……」
「姉上?」
丁度良くその場に現れたメイド服姿の妹の頭に手を置いて、「この子が、妹のツヴァイです」と改めて紹介する。
「同じ髪の色ですね。仲良くしてください」
と、ニフレディが手を差し伸べると、ラグナ ツヴァイはしばらく唇を尖らせる。そのうち、大きな包みをニフレディに差し出す。
「お前にはコレがお似合いだ」
そういわれて、包みを開くとそこには「でんどろびぃむ」と白いペンキで書かれたコタツが入っていた。ニフレディは笑顔を向けて、ラグナ ツヴァイに熱烈なハグを送る。なにやら悪い気分ではないらしいラグナ ツヴァイは、「先輩として、妹キャラの何たるかを教えてやるです!」とニフレディになにやら語り始めていた。
「よかった。仲良くなってくれそう」
「アイン、如月 佑也は?」
「え? あ、ええと……佑也さん、昨日徹夜で……ええっと、ゲームして眠いことになってるので、脇で寝てるって」
「このお洋服の、お礼を言わせてください」
「どうしてわかっちゃったの!?」
「アインの顔に書いてありました。彼が作ったものだから、とても自慢げに差し出してくれていたのも、わかった」
青い髪の少女は、苦笑しながらパートナーが寝ている場所を指差した。その視線の先に、大皿のチラシ寿司やパスタを飲む勢いで食している機晶姫が目に入った。ラグナ アインはルーノ・アレエの背中を見送ると同時に、見慣れた機晶姫に駆け寄っていった。
ルーノ・アレエが自分の造った服の格好のまま歩いてきたのを見て、如月 佑也は一瞬目が覚めてしまった。
「如月 佑也、素敵な洋服、ありがとうございます」
「……あいつ、ばらしたのか?」
「いえ、顔を見ていたら、わかりました。アインは、とても如月 佑也のことを信頼していますから、あなたが作った服を自慢げに差し出しているのだとわかった」
「お見通しか。よく似合っている」
二人の掛け合いに、エヴァルト・マルトリッツが笑いかける。その姿を認めて、ルーノ・アレエが頭を下げた。
「ど、どうしたんだ?」
「ニフレディから、エヴァルト・マルトリッツがわたしのところへ連れてきてくれたのだと聞きました。ありがとう」
「……いや、俺は」
「私、妹がいることも知らないままでいるところでした。今までは護られるばかりでしたが、これからは……ニフレディを護るために皆と戦いたい。そう思えました」
まっすぐな赤い瞳を見つめ返し、同じ色をした瞳が細められた。先ほどとは違う、軽いため息がエヴァルト・マルトリッツの口から洩れる。その後ろから、ルーノ・アレエと同じ服を着たニフレディが駆け込んでくる。エヴァルト・マルトリッツの顔を見るなり、満面の笑みを浮かべると「あの時は、ありがとうございました!」と元気な声をかける。それに対し、銀髪の青年は深々と頭を下げた。
「すまなかった」
「え、何故ですか?」
「これから先、どうしても苦しくなったら俺のせいにしてくれて構わない。俺が、君をそそのかして連れ出してきたせいだってな」
「はい。絶対に忘れません。エヴァルトさんが、私を救ってくれたってことは、絶対に!」
聞く気がない返答に、今は心地よささえ覚えてエヴァルト・マルトリッツは微笑んだ。ミュリエル・クロンティヌスはその後ろからこそ、っと姿を現すと、手を差し出した。
「あ、あの……私、ミュリエルっていいます。お友達になってくれませんか?」
「ニフレディです! よろしくお願いします」
にっこりと笑ったニフレディは、ミュリエル・クロンティヌスに抱きついた。既に彼女の挨拶ともなっているようで、二人は笑いあいながら、飲み物のお代わりをもらいに以降という話になり、ルーノ・アレエも連れていってしまった。
「……心配して損した、というのはこのことか」
小さな呟きは、春風に乗って空へと舞い上がっていった。
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