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リアクション
第7章 送り込まれた作られし存在
-PM23:00-
「ここにもいないようですね」
幸は体育館の中に入り、保健室から姿を消したヘルドを探していた。
「校舎の外に逃げた・・・ということはないと思いますが」
一緒に捜索しているガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が倉庫の中にいないか確認しながら言う。
「すでにベックォンに連れていかれたりして?」
「悪い冗談はやめてください・・・」
冗談混じりに言うアスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)に、ガートナは疲れたようにため息をつく。
「ただのパラミタジョークじゃないかっ」
口を尖らせフンッという態度をとる。
「あ・・・そうだ幸。入れ込むのはいいけどよぉ、あいつはお前じゃないだからな、判ってるか?」
深刻そうな顔をし口数の少ない幸に向かって言う。
「―・・・分かっていますよ」
無理やり作り笑顔をする彼女に、パートナーの彼はムッとした表情をする。
「なんでしょうか・・・屋内なのに雨ってことはないですよね?」
ガートナは顔に垂れてきた雫を手で拭う。
「古っちぃから雨漏りでもしてんじゃないのか」
「雨なんて降ってないよ?」
柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が窓を覗き込み、アスクレピオスの方を振り向いて言う。
「それじゃあいったい何が・・・」
天井を見上げると長い舌の女が明かりの点いていない照明を両手で掴み、ギョロリと白く濁った不気味な目で彼らを見下ろしていた。
ぶらさがっていた照明から手を離し、ベタンッと床へ落ちてくると蛇のように身体をくねらせながら標的へ迫りくる。
「ここは俺たちに任せてさっちゃんたちは先に行ってくれ!」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)はパワーブレスで強化した拳で蛇女へ殴りかかった。
心配そうに見つめる幸にカガチは振り返らず、片手をヒラヒラさせて大丈夫だと仕草をする。
「憑かれやすいのが2人もいるんだ、集まらないわけないだろう。でも今回は思い通りにはさせない」
幸たちを襲わせまいと椎名 真(しいな・まこと)が立ちはだかり、クロスボウの形状をした光条兵器を向け、ゴーストに矢を放つ。
「今までの出来事・・・それを越えてより強くなった絆、魅せてあげようよカガチ!」
「さぁさ寄っておいで化物共!今宵楽しいダンスパーティの始まりだぜえ!!」
亡者の舌を掴みダァンッと床に叩きつける。
「他のも現れたようですね」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は体育館に潜んでいたゴーストを見据え氷術を放つ。
「実験について秘密を知ろうとした者を、こうやって片っ端から始末するというわけですか・・・」
床から現れたナラカへ引きずり込もうとする死者の手、ベックォンが遙遠を捕らえようとする。
「なるほど・・・証拠隠滅よりも恐怖心を与えてここへ近づけさえない、もしくは探ろうとした者そのものを消す。なるほど・・・物的証拠を消し去るより良い手段ですね」
掴みかかろうとする亡者の手を氷術で凍てつかせ、不快そうな顔をし吐き捨てるように言う。
「―・・・うぁっ、何だ・・・この匂い・・・・・・!」
体育館の入り口から白い煙が流れ、硫黄のような酷い匂いが館内に充満し、真は両手で鼻と口を塞ぐ。
ペタ・・・ペタン・・・と素足で床を歩く音が近づいてくる。
「ゴーストか・・・?」
「―・・・!」
目を細めて確認しようとすると、危機を察知したカガチが真を抱きかかえ床へ倒れ込んだ。
シュァアアッと強酸のような煙が身体スレスレに通過し、避けていなかったら身体を溶かされてしまっているところだった。
「あぁ・・・こりゃちとヤバイな」
ゴーストの群れを見据えカガチは苦笑いをする。
「どれだけ寄せる体質なんですか・・・」
「あと5・6時間くらいですから頑張りましょう」
かなりの長時間の耐久戦にも関わらず、なぎこは笑顔で言う。
「軽く言いますね・・・まぁ再生する際に増殖しないからまだいいですけど」
遙遠はターゲットに向かってサンダーブラストを放ち、死者の身体が砕け散り割れた骨や内臓が床へ飛び散り、ピシュァアアッと血を噴出す。
「殺すために作られた存在・・・なるほど凄まじい再生力のようですね・・・」
細胞がグネグネと動きビシャビチッと汚らしくゴーストの破片がひっきつき合い身体を再生し始める。
「さぁ遠慮はいらねぇ、どんどんきやがれぇえっ!」
亡者に向かってバスケットボールの入れ物を蹴飛ばし、箱を踏み台にして踏みつけ、ベキンッと骨を砕いた鈍い音が響く。
「―・・・ぅくっ、ぁあぁあ・・・!」
グネリと折れたはずの首を回しカガチの方へ顔を向け鋭い牙で噛みつき、皮膚から肉へと貫通し骨を砕こうとする。
みっともない叫び声を上げまいと必死に耐え、ゴーストの頭をひっつかみ床へ叩きつけた。
「さすがに・・・3匹も同時に相手するのはキツかったようだな・・・・・・」
猛毒の牙に噛まれてしまい、立っているのがやっとの状態だった。
「ちと油断すると即しかけてきやがる。こいつの姿に相応しい執念深さだ」
牙で穴を空けられた腕からドクドクと血が流れ、木造の床に染み込む。
「まったくだらしないですねー!」
キュアポイズンでカガチの身体の毒を消してやる。
「治療の邪魔をしないでくださいっ」
ウォーハンマーを握り締め、力いっぱい振り下ろし死者の手を叩き潰す。
「カガチが治療してる間、俺たちで止めないと・・・!」
ゴーストが割れた心臓の裂け目から発生させる酸の煙に向かって真が爆炎波を放ち吹き飛ばし、すかさず遙遠が氷術で白い霧を凍らせた。
生者を殺そうとする痛覚のない死者と生きようとするものたち、どちらが倒れるのが先か長い持久戦が始まった。
-AM0:00-
「さすが大量の人が死んでいるだけのことはあるね・・・。成仏しきれない悪霊が沢山徘徊しているよ」
ヘルドを探しゴーストについての知識を得るため、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)はパートナーのユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)と共に校舎内を探し歩いていた。
「とり憑き殺そうとしてくるのもいるでしょうから気をつけないと・・・」
死者は生きてる者たちと思考がまったく違い、ナラカへの道連れにしたり身体にとり憑き奪うことになんの躊躇いもないからだ。
「生徒たちを避けているなら、謎解きしている人たちが集まっている場所に現れないよね」
「1階か2階あたりにいるかもしれないということでしょうか」
ニコとユーノは2階へ行ってみることにした。
家庭科室のドアをそっと開け、悪霊やゴーストがいないのを確認すると慎重に入っていく。
「(見つけたよ・・・!)」
逃げるように出て行こうとする人影を見つけ、入ってきたドアの前にはニコが立ちふさがり、もう方のドアをユーノの閉めさせた。
「さて、病院の方の報告書を読んであらかた予想はついてたけど。やっぱり死者を生き返らせようとしてたんだね」
ゆっくり歩み寄りながら話しかける。
「ねぇねぇ恋人はいつ戻ってくるの?僕にも教えてよ、キミが得た知識のすべて。キミの今のクライアントより有効活用してあげるからさ」
好奇心旺盛に緑色の双眸を輝かせ、生物兵器の作り方を聞こうとする。
「それでさ、死者を甦らせるって可能なのかな」
「不可能を実現させるための実験さ・・・」
重い口を開きヘルドはようやく問いかけに答えた。
「だからそんなに検体が必要なんだね。ねぇっ、その実験成功しそうかい?もしそうなら教えてほしいなー」
「苦しみを味わった死者の魂、眠りを妨げるようなことはせず、せめてナラカで安らかにと・・・・・・」
知りたがるニコを止めようとユーノは彼の肩を掴み首を振る。
「だから駄目ですよニコさん、その技術は知ってはならないことです。元僧侶としても・・・貴方のパートナーとしても、今回ばかりは是が非でも止めさせていただきますよ」
眉を吊り上げ叱りつける彼に気圧されたニコは口をつぐんでしまう。
「―・・・そんな実験、1人で行えるような計画や実行できるものと到底思えませんが」
ヘルドの方へ顔を向け、首謀者が誰なのか聞こうとする。
「では・・・首謀者はこの町の方ですか?」
「いいや・・・違う」
「邪悪な化け物を病棟で蘇らせようとしていたようだけど・・・それってなんだい?」
ニコが会話に割り込み、その化け物がなんなのか問う。
「化け物・・・?何のことだそれは・・・」
「―・・・え?」
まったく知らないという様子のヘルドに、ニコはきょとんとした顔をする。
「(もしかして・・・知らないうちに加担させられていたのでしょうか。それともまったく関わっていない、おぞましい実験が病棟で行われていることに気づいていないのかもしれませんね)」
ユーノが考え込んでいると、数人の生徒たちが家庭科室に入ってきた。
「島村姐さん、見つけたぞ!」
巽は無線で連絡をして幸たちを呼ぶ。
「姐ぇが話したいことがあるっていうからここにいてもらおうか?」
無遠慮にズカズカと中に入ると縁はヘルドが逃げ出さないよう見張ろうとする。
「こんなところにいたんですか・・・」
校舎内を探し回っていた樹月 刀真(きづき・とうま)も家庭科室に入ってきた。
「この町の病棟で貴方の恋人さんらしき霊にお会いしましたよ」
彼に話しかけてきた幸の表情にはいつもの穏やかさはなく、怒っているようだった。
「私のことはいいから研究をやめてほしい、貴方は利用されているだけだと言っていました」
「もう少しで・・・あともう少しで成功しそうなんだ・・・」
「彼女を蘇らせるのは本人の意思ですか?それとも貴方の願望ですか?別に止めるつもりはありませんが、死者蘇生を行う者の末路は悲劇しかありませんよ」
「貴方は勝手な自己満足で彼女を苦しめる気なのですか・・・。こんな研究で本当に彼女が蘇るとでも思っているのですか!」
言葉を返さないヘルドを刀真が殴ろうとする前に、幸がパァンッと医者の頬を叩き怒鳴り散らす。
「君がすべきことは彼女の安らぎを祈ることではないのですか」
「こんな風に他人を犠牲にしてまで蘇りたいってあんたの愛した彼女は思ってると本気で思うのか?自分のせいだーって彼女泣いてたっていうぜ。それよりさぁ、墓の1つは立ててやんなよ」
彼女の傍らで聞いていたパートナーの2人も、馬鹿げた実験をやめさせようと説得しようと声をかける。
「貴方のやっている事は彼女が死んだという事実から逃げる為の足掻きにしか見えなくて滑稽なんですよね。彼女を失った痛みは貴方が彼女を想っているが故にくるものでしょう?俺からすれば羨ましい限りですけどね、俺も両親が殺されてますがそれをあったことという過去の事実として認識しているだけで何も感じませんから」
一息つき刀真はさらに言葉を続ける。
「過去に囚われていては、何時まで経っても前に進めませんからね」
刀真は未練に囚われた医者を睨みながら言う。
「貴方に協力して実験を行っている者がいるんですか。もしいるとしたらそれは・・・廃校舎にいる3人の生徒、それとケレス。彼らは貴方の共犯者ですか?」
「違う・・・ケレスとかいうやつには会ったことともない」
幸の問いかけにヘルドは関わりないと言う。
「質問を変えます・・・実験の共犯者はいるんですか」
「ぁあ・・・・・・」
「それは男ですか、それとも女?」
「何かで声を変えていたようだから分からないな」
「ボイスチェンジャーかとかで声を変えていたのかもな」
眉を潜めてアスクレピオスが横から口を挟む。
「もしもその中に犯人がいたとしてもだ、声を変えていたら分からないんじゃないのか?」
「なるほど・・・」
幸は彼の説明に納得したように頷く。
「実は此処と同じような廃病棟を探索した時に人の手で出来たムカデの様な物の写真を見つけたのですが、あれは何ですか?」
「ムカデ・・・?なんだそれは。そういう化け物が数千年前にいたと聞いたことはあるが」
「(どうやら知らないようですね。ということは犯人がその化け物を蘇らそうとしていうのでしょうか)」
写真に写されていた化け物の姿を思い出し、共犯者がなんのために利用しようとしていたのか考え込む。
「あのさ・・・その共犯者ってこんな服を着ていなかった?」
イルミン制服の下にこっそり着込んだ鏖殺寺院の制服を見せ、ニコは“見覚えはないか”とヘルドに聞いた。
「フードで顔は見えなかったが・・・そんな服だったな」
「ズボンとスカートどっちだった」
「―・・・暗くてよく見えなかったが、丈が短かったからズボンじゃないな」
「(へぇ・・・そいうのが絡んでいたのか・・・)」
やはりとんでもない裏があったのだとニコが確認する。
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