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約束のクリスマス

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約束のクリスマス
約束のクリスマス 約束のクリスマス

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 コウは大鋸を見つけた。
「いいところであったわ。この孤児院をNPO法人として登録するための書類を整え、空京でも寄付を募ろうと思うの。管理人にはなれないけど、この孤児院の役に立ちたいのよ」
 コウの言葉に頷く大鋸。
「待っててくれ、すべてはあとで発表する」


13.会場準備

「何人集まるのでしょうかぁ?」
 孤児院建設バザーの発起人となった百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、孤児院のホールを見て呆然としている。
 民家の居間は一軒屋にしては広いが、50人も入ればぎゅうぎゅうだ。
「子どもたちを入れて、100人ぐらいじゃないかな」
 ポニーテールを揺らしてセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が答える。
「ですよねぇ」
「わたくしが壁を打ち破りますわ。3部屋ぐらいつなげれば・・・」
 マイペースなイギリス騎士フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は物騒なことを言う。
「それでは、子ども達の寝る部屋がなくなりますぅ」
「家も壊れちゃうよ」
 三人は家の中を見て回るが、100人も入れる場所は無い。
「どうしましょうぅ」

 泉 椿(いずみ・つばき)も同じことを考えていた。
「会場はどこなんだぁ」
 大きな荷物を抱えてうろうろしている。
 椿は数日前に洞窟を訪れている。
 そこで子どもたちと廃材や空き缶を使ったおもちゃを作っている。
「魔法をかけてやるよ」
 椿は、子どもたちが作ったおもちゃを一度持ち帰って、手直ししている。音が出るように直したいり、動くように滑車をつけたり。
 今日は内緒でそのおもちゃを持ってきて、子どもたちを驚かせるつもりだった。
 袋を隠そうと、会場を探しても見当たらない。
「部屋数は多いけどな・・・」
 男勝りだが、まだ14歳の少女だ。だれもいない廊下に不安になったとき、メイベルたちに出くわした。
「よかった、探してるんだ。会場はどこだ?」
「私たちも探しているんですぅ」
 困った顔で、メイベルが答えた。
「とにかく、この家にはないのよ、そんな広い場所は」
 フィリッパが落ち着いて答える。
「じゃどこだ?」
「外?うわっ、寒そうかも」
 セシリアは、窓の外を眺めている。
「他の家を探してみましょうかぁ、確か蟻退治で負傷した人が休んでいる屋敷があるはずですぅ

 4人は賑わう台所や屋外を通って、ほかの民家に訪れる。
 蟻退治を成功させた面々の怪我は既に完治して、畑の手入れや料理の手伝いに向かっている。
 民家は無人だ。
「この家も間取りは一緒ですねぇ」
 メイベルが溜息をついたとき、どこからか笑い声がした。
「椿、ぬるいぞ。場所が無ければ作るのだ」
 ナガンが血煙爪をならして立っている。


  ガガがガガが、ガガがガガが、ガガがガガが、ガガがガガが、
  ガガがガガが、ガガがガガが、ガガがガガが、
  ガガがガガが、ガガがガガが、
  ガガがガガが、

 一瞬のうちに壁という壁が取り払われ、柱と外壁だけが残された。

「すっきりしたわ」
 フィリッパは感心している。
「しかたありませんぅ」
 メイベルとセシリアは、共に持つハウスキーパーの能力を使って、室内を片付ける。
 ナガンがメイベルに近づいてくる。
「管理人はナガンがやる」
「ナガンさんでもよいのですがぁ・・・」
 メイベルは少し考えて、意を決して話し出す。
「私も立候補しようと決意してきましたぁ。生半可な気持ちではありませんっ!」
 普段はおっとり話すメイベルだが、毅然として言い切った。
 セシリアとフィリッパは、出来上がった料理を孤児院から運び入れている。

  七瀬 瑠菜(ななせ・るな)の手作りおにぎり
  ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の手作りパン
  アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)のカモ鍋
  林田 樹(はやしだ・いつき)のお手製サラダ
  ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の手作りブッシュ・ド・ノエル
  緒方 章(おがた・あきら)のお手製唐揚げと蟻卵の揚げ物
  レイ・コンラッド(れい・こんらっど)のお手製グラタンとクリームシチュー
  晃月 蒼(あきつき・あお)の王大鋸型ケーキ
  橘 舞(たちばな・まい)の超デコレートケーキ
  高原瀬蓮(たかはら・せれん)の巨大ケーキ
  小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)(瀬蓮も出資)の七面鳥
  小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の高級オードブル各種
  みんなのお土産の果物や飲み物

 が壁に沿って並べられている。

 椿が進行表を作っている。
「何かが足りないんだよ、ナンだ?」
 首をひねったとき、その何かがわかった。

 大きなもみの木を抱えた大鋸がやって来た。まだ根っこがついている。
「クリスマスツリーが必要なんだろっ!」
 片手に持った血煙爪で、床の真ん中に大きな穴を空ける。土が見えた。
 そこに無理やり穴を掘り、木を植えつける。
「どうだ、これで来年もクリスマスができるぜ!ワハハハハーー」
 満足そうだ。

 セシリアとフィリッパは、どきどき忍び込んでくる子ども達に笑いっぱなしだ。
 そっと窓から手を出す、床を這って忍び寄る・・・なんとかテーブルのご馳走を先に食べようとあの手この手で攻めてくる。
「つまみ食いはだめだよ」
 そういうセシリアの顔は笑っている。


14.パーティが始まった。

 すべての人が参加している。85名以上の有志と12人の子どもたち。

 椿が作った進行表を手に司会をしているのは、神代 正義(かみしろ・まさよし)だ。
「シャンバランダイナミィィィック!!!!」
 ヒーローに変身した正義が現れると、子どもたちから歓声があがる。
 テレビを見たことがない子どもたちにとって正義だけがヒーローなのだ。
「みんな、聖夜のパーティが始まったぞ!まずはこの歌からスタートだ!」

 一瞬、室内の明かりが落ちる。再び明るくなったとき、正義の代わりにマイクを持っていたのは、はるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)だ。
 新人アイドル歌手で、子どもたちは以前にもらいむの歌を聞いている。
 ピアノの音でクリスマスソングか奏でられている。
 引いているのは早川 あゆみだ。
 子どもたちがすくっと立ち上がると、一列に並んで、らいむの前に立った。
 それぞれに手には、鈴とカスタネットが握られている。フィル・アルジェントもこっそり列の住みに立っている。

「子ども達の歌と演奏です。今日までの感謝をこめて練習しました。」
 らいむの挨拶で、レッテが一歩前に出た。
「ありがとう、俺らと話してくれてありがとう、遊んでくれてありがとう」
 あゆみがクリスマスソングのイントロを弾く。
 合わせて、子ども達のカスタネットと鈴がなる。フィルが満足そうに頷く。
 歌が始まった。
 はじめはらいむがリードしている。
 子ども達のなかには、歌うことがはじめての子もいる。
 アキラは顔が真っ赤だ。照れているのだ。

 次の曲が始まるとき、キーボード奏者が交代した。
 キーボードの前に座っているのは、高原瀬蓮だ。
「えへへ」
 瀬蓮も少し照れている。
「大丈夫、瀬連ちゃん。練習したとおりにゆっくりね」
 あゆみが小声で瀬蓮に話しかけている。
 頷く瀬蓮。
 アイリスが見守っている。

「みんな、すごく上手に歌えたね。いい子にはサンタさんとここにいるサンタお姉さんとサンタお兄さんからプレゼントがある!ジャーーーーン!」
 らいむの声を合図に中央に置かれていた布が消えた。
 現れたのは巨大クリスマスツリーと沢山のプレゼントだ。